inti-solのブログ

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2018.02.23
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テーマ: ニュース(95880)
条件異なる調査結果を比較 厚労省

安倍首相は先日、裁量労働制で働く人の労働時間について、「一般労働者より、短いというデータもある」としていた、過去の答弁の不備を認め、撤回・陳謝した。
厚労省は19日、この答弁の基となった、5年前の調査のデータに関する調査結果を公表した。
それによると、一般労働者の労働時間は、1カ月のうち、最も残業の長い日のデータを使う一方、裁量労働制で働く人については、単に1日の労働時間について聞いた結果を用いており、裁量労働制の労働時間の方が、短くなりやすい不適切な比較がなされていた。
加藤厚生労働相は、「一般労働者と裁量労働制で、異なる仕方で選んだ数値を比較していたことは、不適切でありました。深くおわび申し上げます」と述べた。
19日の衆議院予算委員会では、加藤厚生労働相がデータの不備について撤回する1週間前に把握していたことを明らかにしたのに対し、野党側は抗議して、委員会を退席するなど徹底抗戦の構え。
野党6党は19日、国対委員長会談を開き、政府に対し、働き方改革法案の提出見送りを求める方針で一致した。

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恣意的なデータを用いて「裁量労働制の方が労働時間が短い」という結論を出そうとして、それがバレちゃった、というお話です。
だいたい、裁量労働制の拡大は、経済界(経営者)が要求していることです。企業経営者がどういう意図でそのような要求を掲げるのか、と考えてみればよいのです。社員の労働時間を減らしたいとか、給料をできるだけ増やしたいとか、そんな意図で彼らが裁量労働制の拡大を主張するわけがないのです。人件費を少しでも減らしたいと考えるのが大方の企業経営者です(もちろん、それを非常識な手法で強行したいとまで考える経営者はわずかであるにしても)。だから、企業はなかなか賃上げをしようとしないのです。裁量労働制の拡大も、当然そのほうが人件費が削減できると考えるから要求しているに決まっているじゃないですか。
独立行政法人労働政策研究・研修機構の調査 では、1ヵ月の実労働時間の平均は、専門業務型裁量労働制で206.5時間、企画業務型裁量労働制で197.2時間、通常の労働時間制で185.0時間であり、裁量労働制の方が労働時間が長という結果が出ています。

裁量労働制の問題点は、過去にも記事を書いたことがあります。日本でも、すでに限定された職種で裁量労働性が導入されています。その建前は、時間管理をされず労働者自身が自由に時間管理を行う働き方ですが、実際にはたいていの場合、「名ばかり裁量労働制」で、時間管理の裁量権が労働者にはないのが実態です。
以前の記事でも紹介しました が、前述の同じ調査結果によると、裁量労働制にも関わらず、専門業務型裁量制の42.5%、企画業務型裁量制の49.0%の人が「一律の出退勤時刻がある」と回答しています。要するに、半分近くは「裁量労働制」と言いつつ時間管理されているのです。

現状は、裁量労働制が認められるのは、専門性、特殊性が高い、限られた職種のみです。それでもこんな実態だというのに、裁量労働の対象を広げれば、実態はまったく裁量労働ではないのに、残業手当を払わないだけの、名ばかり裁量労働がさらに増殖していくことは必至です。

仕事とは他者に何かを与えて、対価をもらうのが本質です。程度の差はあっても、他者との交渉のない仕事などありえません。また、雇用-被雇用の関係においては、期日までに成果を出せば、過程は問いません、などという仕事は、世の中にはほとんど存在しません。そもそも、「成果」自体が時間と不可分である仕事が多いし、そうでなくとも、雇い主、あるいは顧客との連絡、報告、協議は絶対に必要です。となれば、裁量労働などというお題目を掲げたところで、給与所得者である限り、勤務先や顧客、同僚や上司が稼動している日時に拘束されることは、避けようがありません。

成果主義、と言えば聞こえが良いものの、成果を図る共通の物差しなどありません。同じ企業の中でも、部門により担当により、成果の物差しは異なります。まして、いわゆる管理部門など、何をもって成果とするのか。

そういう意味では、労働の対価を金銭で支払う、ということ自体、報酬の支払い方として万能とは限りません。物々交換、バーター取引の方が優れている場面も皆無ではありません。それでも、現代社会において金銭より優れた支払い方法はないので、給与の支払いは金銭によってすることが定められているのです。
時間による労働量の測定もそれと同じです。万能ではないのは確かです。が、それよりマシな測定方法は存在しない以上、時間によって労働の成果を測定することが基本原則となるのは当然のことです。そうである以上は超過勤務に残業手当を出すのも当然のことなのです。
裁量労働制の拡大は、そのような雇用の基本原則を破壊するものであり、人件費を安くしたい企業経営者にとってはメリットがあっても、働く人にとって、概ねデメリットの方が遥かに大きいものと言うしかありません。





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最終更新日  2018.02.23 19:21:04
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Re:時間よりマシなものさしは存在しない(02/23)  
maki5417  さん
裁量労働なんてしなくとも、フレックスタイムを導入するとか、時間外は自己申告制にすれば、かなり労務費は減らせます。
歩合制というのもいいと思います。

私の勤務していた会社では、営業部門の一部について販売員手当という制度でした。
標準的な残業代、交際費、交通費を労使で取り決めて、定額を支払うものです。
自家用車を営業に使うので、会社が車を買ってくれるようなもので、みんな2000CC以上の高級車に乗っていました。
ガソリンが卸値で買えるカードも支給され、プライベートの使用も容認でした。

有休消化は、組合が監視して100%取得するよう組合員に指導していました。


ブラック企業をホワイトにするような、今回の制度はやめたほうがよいでしょうが、要は労働組合がちゃんとしていることも大切ですね。

時間に縛られず良い仕事をするよう、労使で知恵を絞るのが理想でしょう。

通勤ロスを省くために、埼玉にサテライトオフィスを作ったこともありました。

ネットの今なら在宅勤務ですね。 (2018.02.23 19:58:27)

Re[1]:時間よりマシなものさしは存在しない(02/23)  
inti-sol  さん
maki5417さん

昔、フレックスタイムの職場で働いている知人がいましたが、労働時間はかなり長そうでした。残業代が出ているかどうかまでは聞きませんでしたけど。必要に応じて遅刻、早退は自由であるものの、当然ながら頻繁にやるわけには行かないようでした。

定額で払う、というのが実際の残業時間の平均値と乖離していなければよいのですが、実際には、どうしても乖離が生じがちです。そして、実残業時間より定額の残業手当の方が多い、などということは、まずありません。もちろん、働く側がおおむね満足できるのであれば、多少の問題点はやむを得ないですが、どんな企業でもそう上手くいくとは限りません。

>有休消化は、組合が監視して100%取得するよう組合員に指導していました。

うらやましいです。わたしは有給休暇を結構取っている部類だと思いますけど、残念ながら100%取ったことはありません。 (2018.02.24 07:37:51)

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