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2018年12月24日、アレクサンドラはルドルフとヘレーネに見守られながら、元気な女児を出産した。「よく頑張ったわね、アレクサンドラ。お疲れ様。」「有難うございます、お母様。」 出産を終えたアレクサンドラは疲労困憊(ひろうこんぱい)した表情を浮かべ、実母の手を握った。「ガブリエルは何処?」「あの子は、さっき貴方を待ちくたびれて眠ってしまったわ。」「そう・・」「皇太子様、そろそろ授乳の時間ですから、アレクサンドラと赤ちゃんを二人きりにさせてあげましょう。」「そうだな。」ルドルフとヘレーネが病室から出て行くと、タイミング良く看護師がアレクサンドラの娘を抱いて病室に入って来た。「おっぱいの時間ですよ。」「はい・・」 アレクサンドラは娘の口に乳首を含ませると、彼女は勢いよくそれを吸い始めた。「おかぁたま、ガブリエルもおっぱい飲む!」 病室のドアが勢いよく開き、ガブリエルが授乳中のアレクサンドラに抱きついて来た。「こらガブリエル、お部屋に入るときはドアをノックしろといつも言っているだろう?」「ガブリエルもおっぱい飲みたい~!」「静かにしなさい、ガブリエル。」ルドルフが愚図るガブリエルを必死にあやしたが、ガブリエルは甲高い声で泣き始めた。「仕方がないわね。ガブリエル、お母様の傍にいらっしゃい。」「うん!」泣くガブリエルに根負けしたアレクサンドラがそう言うと、ガブリエルは彼女の膝の上に飛び乗った。「全く、この様子じゃぁ先が思いやられるな。」「この子はまだ二歳ですから、赤ちゃんに焼きもちを焼くのは当然です。」自分の乳首に吸い付くガブリエルの頭を撫でながら、アレクサンドラはそう言って微笑んだ。「この子の名前はどうする?」「そうですね、クリスティーナというのはどうですか?」「可愛いこの子にぴったりの名前だ。」 エリザベートと同じ誕生日に産まれた女児は、クリスティーナと名付けられた。「アレクサンドラ、出産祝いにこれを。」「まぁ、素敵なペンダント。有難うございます、お父様。」 クリスティーナの誕生を祝うパーティーで、ルドルフはアレクサンドラに蝶を象ったサファイアのペンダントを贈った。「これは昔、わたしが皇太子様から贈られた物なのよ。」「まぁ、そうなのですか。」「蝶のモチーフは、“美”を意味するの。貴方がこれから美しく輝くように願っているわ。」「有難う、お母様。」アレクサンドラ達が和気藹々とした雰囲気で話していると、シュティファニーが恨めしそうな顔をして彼らを会場の隅から睨みつけていた。(気に入らないわ、あの女・・次期皇后であるわたくしを差し置いて、宮廷で大きな顔をして!) ヘレーネと話しているルドルフは、時折柔らかな笑みを口元に浮かべていた。自分と話している時は、終始不機嫌そうな表情を浮かべていることを思い出し、シュティファニーはますますヘレーネへの憎しみが募った。「ガブリエル、このお話の続きは明日ね。」「ねぇおかぁたま、おかぁたまもおねんねするの?」「ええ、ガブリエルが良い子にしてくれたらね。」パーティーが終わり、アレクサンドラがガブリエルを寝かしつけていると、突然廊下から悲鳴が聞こえて来た。「ガブリエル、静かにしていなさい。」「おかぁたま?」 ガブリエルの部屋から出たアレクサンドラが廊下を歩いていると、向こうから微かに血の臭いがした。「誰か居るの?」ランプで暗闇を照らしながらそう叫んだアレクサンドラは、自分の足元に女官の遺体が転がっていることに気づいて悲鳴を上げた。「アレクサンドラ、どうした?」「お父様・・人が、人が死んで・・」「落ち着け。」恐怖で震えるアレクサンドラを宥めたルドルフは、彼女の足元に転がっている女官の顔をランプで照らした。 彼女は一週間前、宮廷に上がったばかりの少女だった。「アレクサンドラ、ガブリエルとクリスティーナは何処に居る?」「二人は自分の部屋に・・」「大変です、皇太子様、アレクサンドラ様!クリスティーナ様が何者かに攫(さら)われました!」「何だと!?」 アレクサンドラとルドルフがクリスティーナの部屋に入ると、そこにはベビーベッドに寝かされている筈のクリスティーナの姿がなかった。「警察には通報したのか?」「はい。」 ルドルフは、空になったベビーベッドの中に一枚のメモが置かれている事に気づいた。にほんブログ村
2016年04月30日
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柔らかい食感で美味しかったです。
2016年04月30日
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「貴方、女官の癖に随分とわたくしに対して生意気な口を利くのね?」「我が子を守る為ならば、そんな事に構ってなどいられませんわ。」ヘレーネがそう言ってシュティファニーを睨みつけると、彼女は怒りで顔を歪めるとそのままヘレーネに背を向けて立ち去った。「皇太子妃様、アレクサンドラ様にお会いになるのではなかったのですか?」「お黙りなさい!」シュティファニーは女官を怒鳴りつけると、彼女を乱暴に押し退けて病院の正面玄関前に停めていたリムジンに乗り込んだ。「義姉上様は、一体どういうつもりなのかしら?お兄様とは離婚せずに、ここに居座るなんて・・」「自分を嫌っていた姑が居なくなったから、次期皇后として采配を振るいたいのではないの?そんな事、わたし達が認める訳がないのにね。」「そうよ。あんな方が皇后になるなんて、想像するだけでぞっとするわ!」ホーフブルクでヴァレリーとジゼルがそんな事を話していると、二人の前にシュティファニーが現れた。「あら、お二人ともお元気そうで何よりですわ。」「シュティファニー、貴方一体何を考えているの?ルドルフとさっさと離婚して、あの子を解放して!」「わたくしはハプスブルク家の次期皇后となる為にベルギーから嫁いで来たのです。皇后になるその日まで、ここから出て行きませんわ。」 シュティファニーはそう言って義姉と義妹を睨みつけると、部屋から出て行った。「何よあの態度!」「落ち着きなさい、ヴァレリー。」「でも、お姉様・・」「今あの人に何を言っても無駄よ。あの人が実家に戻るまで、そっとしておいた方がいいわ。」「そうね。それよりも、お兄様は何処にいらっしゃるの?」「さぁね。まぁ、あの子が寄るところは大体想像がつくけれど。」ジゼルはそう言うと、深い溜息を吐いた。 ウィーン市内にある自宅の寝室で、ルドルフは愛人である高級娼婦・ミッツィ=カスパルとの情事に耽っていた。「娘さんが入院中ですのに、皇太子様はわたくしとこのような事をなさって大丈夫なのですか?」「大丈夫さ。もしアレクサンドラがわたしと君の関係を知っても、妬く子ではないよ。」「まぁ、そうですの。それよりも皇太子様、皇太子妃様とは離婚なさらないという噂は本当ですの?」「そんな噂がもうウィーンに広まっているのか。全く、シュティファニーには困ったものだな。」ルドルフがそう言ってミッツィの胸に顔を埋めていると、控えめなノックの音が外から聞こえた。「入れ。」「あの、ヘレーネ様が皇太子様にお会いしたいと・・」「そうか。では彼女を客間に待たせておけ。」「かしこまりました。」 若い従僕は決まりが悪そうな顔をして、寝室から出て行った。「皇太子様、部下をからかってはいけませんわ。」「あいつはまだ青いな。まぁ、その青さがいいから傍に置いているんだが。」ルドルフはミッツィの胸から離れると、ガウンを着て寝室から出て行った。「待たせたね、ヘレーネ。」「いいえ、こちらこそお楽しみの所を邪魔してしまって申し訳ありません。」 客間にルドルフが入って来るのを見たヘレーネは、そう言うと彼に微笑んだ。「君は本当に賢いね。アレクサンドラはどうしている?」「あの子なら、少し落ち着きましたわ。ですが、先程病院で皇太子妃様とお会いしました。」「シュティファニーが?」「ええ。彼女がアレクサンドラに危害を加えそうなので、わたくしが彼女を牽制しておきました。」「そうか。ヘレーネ、君に迷惑を掛けてしまって済まない。」「いいえ、わたくしは母親として当然の事をしたまでですわ。それよりも皇太子様、貴方にお見せしたいものがありますの。」「わたしに見せたいもの?」ヘレーネはハンドバッグを開け、一枚の写真をルドルフに見せた。写真には、赤子のアレクサンドラを抱いたヘレーネと、ユリウス、そしてグレタの姿が写っていた。「この写真は、アレクサンドラが産まれた後に撮ったものです。」「この写真が、どうかしたのかい?」「この写真の中に、アレクサンドラを誘拐した犯人が写っています。」ヘレーネの言葉に衝撃を受けたルドルフは、穴が開くほど写真を見つけた。「その犯人は、何処に写っているんだ?」「グレタの後ろ・・わたし達を睨みつけている若いメイドです。」ヘレーネはそう言うと、グレタの背後に立っている若いメイドを指した。「彼女は今、何処に居る?」「今、探偵に彼女の消息を調べて貰っている所ですわ。それと、こんな物が昨日わたくしの元に届きましたの。」ヘレーネはバッグの中から一枚の封筒を取り出し、その中身をルドルフに見せた。それは、昔ルドルフがヘレーネと交際していた時、彼女に贈ったサファイアのペンダントだった。「一体誰が、このペンダントを君に送ってきたんだ?」「さぁ、見当もつきませんわ。ですが、十八年前の誘拐事件の犯人と関わりがある人物がペンダントをわたくしに送って来たのかもしれません。」「ヘレーネ、アレクサンドラと彼女の子供達は、わたし達で守ろう。」「はい、皇太子様。では、わたくしはこれで失礼いたします。」 ヘレーネが客間から出て行った後、ルドルフはテーブルの上に置かれたサファイアのペンダントを握り締めた。ルドルフがこのペンダントをヘレーネに贈ったのは、彼女と初めて結ばれた日の夜の事だった。 もしヘレーネが一介の女官ではなく、シュティファニーと同じような身分であり、彼女を妻として迎えていたのなら、不幸な結婚生活に苦しむことはなかっただろう―ルドルフはそう思いながら溜息を吐いた。にほんブログ村
2016年04月28日
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「シュティファニー、お前ラーケン宮に帰った筈ではなかったのか?」「どうしてわたくしが実家に帰るのです?わたくしの居場所はここ、ホーフブルク宮ですわ。あの忌々しい皇后陛下がお亡くなりになった今、わたくしが皇后となるのです。」シュティファニーはそう言って笑ったが、その両目は狂気に満ちていた。「お前との離婚は成立した。さっさと実家に帰れ。」「嫌ですわ。ハプスブルク家の皇后となる為に、わたくしは今まで貴方からの仕打ちに耐えて来たのです。わたくしは貴方と離婚など致しません。」「シュティファニー・・」彼女は狂っている―ルドルフはそう確信した。「アレクサンドラ、わたくしが居ない間に貴方がわたくしを差し置いて皇后になろうとしているのではなくて?」「皇太子妃様、わたくしはそのような事は一度も考えた事はありません・・」「嘘おっしゃい!貴方はあの黒髪の魔女の娘、わたくしの敵ですわ!いいこと、これからこのハプスブルク家を統べる事になるのはこのわたくし!貴方のような小娘、いつでもこの王宮から追い出して・・」「シュティファニー、止めないか、見苦しい!」 アレクサンドラを罵倒し、彼女を殴りかかろうとしたシュティファニーをルドルフが押さえつけると、彼女は甲高い声で悲鳴を上げて彼の顔を引っ掻き、そのまま部屋から出て行った。「皇太子妃様、お待ちください!」 今まで部屋の隅に控えていた皇太子妃付きの女官達が慌ただしい足音を立てながら廊下を走り出した主の後を追いかけて彼女達が出て行った後、部屋は再び静寂に包まれた。「義姉上様は狂っているわ。こんな時にあんな事をおっしゃるなんて・・」「不謹慎過ぎるわ。ルドルフ、彼女との離婚は本当に成立したのでしょう?」「はい、姉上。」ルドルフが姉からアレクサンドラへと視線を移すと、彼女は蒼褪めた顔をしてソファに座り、下腹を押さえていた。「どうした、アレクサンドラ?」「下腹が急に張ってしまって・・部屋で休んできます。」「わたしと一緒に行きましょう、アレクサンドラ。」ジゼルに支えられながら、アレクサンドラがソファから立ち上がろうとした時、彼女は急に目の前が真っ暗になってその場に倒れてしまった。「アレクサンドラ、しっかりしろ!」「お父様、わたしに万が一の事があったら、赤ちゃんを・・」 病院に搬送されたアレクサンドラは、切迫早産で暫く入院することになった。「張り止めの薬を処方致しますので、それを数ヶ月間、毎日お飲みになってください。トイレとシャワー以外は、ベッドで安静になさってください。」「解りました。」 主治医から病室で説明を受けたアレクサンドラは、彼が出て行った後ベッドに横になって溜息を吐いた。 ガブリエルを妊娠した時も切迫早産で入院したことがあったので、今回はお腹の子を産むまでストレスのかからない生活をしようとアレクサンドラは心掛けていた。それなのに、今回も出産まで入院することになってしまった。(どうして、わたしは普通に産むことが出来ないの?)ベッドの中で少し迫り出してきた下腹を擦りながら、アレクサンドラは己の身体を呪った。 男でも女でもない、中途半端な身体―どうして自分だけがこんな身体に産まれてしまったのか。自分が産まれて来た意味はあるのか―そんな事をアレクサンドラが思っていると、病室のドアを誰かがノックする音が聞こえた。「アレクサンドラ、起きている?」 ドアの外から聞こえて来たのは、優しい母の声だった。「貴方が入院したと、皇太子様が聞いて驚いたわ。今まで経過が順調だったのに、どうして入院することになったの?」「シュティファニー様が・・皇太子妃様がわたしを罵倒して部屋から出て行った後、急に下腹が張って来て・・気が付いたら病室のベッドに居たの。」「皇太子妃様の事は聞いたわ。彼女、皇太子様との離婚を頑なに拒んでいるのですってね?」「ええ・・あの方、皇妃様の代わりに自分が皇后となるとおっしゃられて・・ジゼル様やヴァレリー様は、あの人は不謹慎だ、気が狂っていると・・」「心底嫌っていた姑が居なくなって、皇太子妃様はこれからご自分の天下が来たと勘違いなさっているのね。」ヘレーネはそう呟いて溜息を吐くと、アレクサンドラの手を握った。「お母様、シャルロッテは大丈夫なの?この前、大きな発作を起こしたと聞いたけれど・・」「シャルロッテなら、乳母が面倒を見てくれているから大丈夫よ。まだ貴方には話していなかったけれど、わたし、女官に復帰しようと思っているの。」「まぁ、それは本当なの、お母様?」「ええ。ユリウスも、“君がそうしたいのなら、僕は反対しない”と言ってくれたから、女官として宮廷でまた働こうと思ったの。それに、貴方の事が心配だからね。」「お母様・・」「何か悩みがあったら、わたしに言いなさい。一人で抱え込んでいても、解決しないわ。誰かに愚痴を吐くことも、気晴らしになるからね。」「はい、お母様・・」 ヘレーネがアレクサンドラの病室から出て廊下を歩いていると、向こうからシュティファニーがやって来た。彼女は目敏くヘレーネの姿を見つけると、制止する女官の手を振り払ってヘレーネの前を塞いだ。「皇太子妃様、そこを退いて頂けませんか?」「貴方、女官に復帰したのですって?一体何を企んでいるの?」「何も企んでなどおりませんわ、皇太子妃様。それよりも、ここには何をしに来たのですか?」「そんな事、貴方には関係のない事でしょう?」「いいえ、関係ありますわ。わたしは、アレクサンドラの母親ですから。」 そう言ってシュティファニーと対峙したヘレーネの瞳は、怒りに満ちていた。にほんブログ村
2016年04月28日
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一時期ハマって食べていた、直火炒めビビンバチャーハン。母が買ってきてくれたので、早速お昼に食べました。ピリ辛で美味しかったし、シーチキンを混ぜて食べるともっと美味しかったです。
2016年04月26日
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2018年9月10日、オーストリア=ハプスブルク帝国皇后・エリザベートは、旅行先のスイス・ジュネーブで暗殺された。 エリザベートの死因は、イタリア人無政府主義者・ルイジ=ルキーニによってナイフで肺を刺されたことによる失血死だった。 彼女の死を知ったウィーン市民は、愛妻家であるフランツ=ヨーゼフ帝に同情したが、自分達の血税を使い贅沢な暮らしをしていた皇妃の死を悼むことはしなかった。 9月17日、エリザベートの葬儀はウィーン・カプツィーナ納骨堂で行われ、参列した皇帝と皇太子ルドルフ、皇女マリア=ヴァレリーとジゼル、そして彼女達の夫は、彼女と永遠の別れをした。 妊娠六ヶ月のアレクサンドラは、体調不良のため葬儀を欠席した。「お母様がお亡くなりになられて、アレクサンドラはさぞやショックを受けたことでしょうね。」「そうね。お母様はアレクサンドラの事を可愛がっていらっしゃったもの。」 葬儀の後、ヴァレリーとジゼルが紅茶を飲みながら葬儀を欠席したアレクサンドラの事を話していると、そこへルドルフがやって来た。「お兄様、葬儀に参列されて大丈夫なの?」「ああ。あの人は、本当に死んでしまったんだな・・」ルドルフはそう言うと、力なくソファに座り込んだ。その横顔は病的に蒼褪めていた。「アレクサンドラは大丈夫なのかしら?一番大事な時期に、お母様がこんなことになってしまって・・」「さっきあいつの部屋に行ったが、ショックを受けて体調を崩してしまって、暫く公務を休むとわたしに言って来た。無理もないだろうな。」「お父様は?」「父上は平静に振舞っておられるが、葬儀の後に父上の元へ行ったら、父上はあの人の肖像画を見て、“わたしがシシィをどれほど愛したのかは、誰にも解らないだろう”と言われたよ。」「そう・・」「あの人は・・母上は、最期まで自由だったのか・・それは、誰にも解らないな。」 ルドルフがそう言って窓の外を見ると、そこには一羽の鴎が飛んでいた。「アレクサンドラ様、お薬をお持ちいたしました。」「有難う、そこに置いておいて・・」 エリザベートの女官だったハンナがアレクサンドラの部屋を訪れると、部屋の主は寝台から気怠そうに起き上がった。 最大の庇護者であった祖母を亡くし、自室に引き籠って泣いていた彼女の眼の下には、黒い隈が縁取っており、櫛が通されていないブロンドの長い髪は縺れて乱れていた。「御髪を整えますわ。」「そんな事をしなくてもいいわ。今は誰とも会いたくないの。」「そのような事をおっしゃってはなりません。アレクサンドラ様、すぐにお召し替えを。」「解ったわ・・」夜着から喪服に着替えたアレクサンドラは、ハンナに髪を梳いて貰いながら鏡の前に座って溜息を吐いた。「どうして、皇妃様はわたくしを置いていなくなってしまったのかしら?まだ皇妃様に教えて頂きたいことが沢山あったのに・・」「わたくしも寂しいですわ、アレクサンドラ様。ですが、こんな時でこそ、皆様にアレクサンドラ様のお元気なお姿をお見せすることが大事なのです。」「そうね、貴方の言う通りだわ、ハンナ。ガブリエルは何処なの?」「ガブリエル様なら、エルジィ様と一緒にお部屋で遊んでおりますよ。」「そう。」 ハンナに髪をセットして貰ったアレクサンドラは、彼女と共に自室を出て、叔母達が居る部屋へと向かった。「まぁアレクサンドラ、貴方もう大丈夫なの?」「はい。部屋に引き籠って暫く泣いたら、少し元気になりました。ご心配をおかけしてしまって申し訳ありません、ヴァレリー様。」「アレクサンドラ、こちらへお掛けなさい。その様子だと何も食べていないようだから、サンドイッチでも如何?」「ええ、頂きますわ。」 アレクサンドラがヴァレリーとジゼルと共に軽い昼食を食べていると、フランツが部屋に入って来た。「アレクサンドラ、もう大丈夫なのか?」「はい、お祖父様。お父様はどちらにいらっしゃいますか?」「ルドルフなら自分の部屋に戻った。シシィと最後の別れをするために、あいつは無理をして病院から来たらしい。」「そうですか。今からお父様の様子を見に行って参ります。」「今はそっとしておいてやれ、アレクサンドラ。あいつが一番シシィの死にショックを受けている筈だ。」「はい・・」 スイス宮にある自室で、ルドルフは執務机の前に座って煙草を吸っていた。紫煙を吐き出す度に肺が悲鳴を上げているのを感じるが、母を失った心の痛みに比べればマシだった。「皇太子様、いらっしゃいますか?」「入れ。」「失礼いたします。」執務室に入って来た侍従の顔が何処か引き攣(つ)っていることに気づいたルドルフは、何か良くない事が起きたのだと勘で解った。「何かあったのか?」「はい。実は・・皇太子妃様が先程、入院されていた病院から退院されました。」「何だと?一体誰が彼女の退院を許可した?」「レオポルド国王陛下です。」「それで、彼女は今何処に居る?」「先ほど、ヴァレリー様にご挨拶を・・」彼の言葉を最後まで聞かずに、ルドルフは自室から飛び出した。 姉と妹達が居る部屋へと彼が向かうと、その中からシュティファニーのヒステリックな笑い声が聞こえて来た。「あら貴方、お久しぶりですわね。」 そう言ってゆっくりと自分の方へと振り向いたシュティファニーの両目は、爛々と輝いていた。にほんブログ村
2016年04月25日
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「居眠り磐音」シリーズ1巻目。ぐいぐいと引き込まれるような面白さがあり、たちまち夢中になりました。続きが読みたくなるシリーズです。シリーズ2巻目。磐音様が、格好良すぎて惚れてしまいます。藩政を巡る陰謀、何だかきな臭そうな気配がしますね。シリーズ3巻目。一巻目で起きた事件の真相が、漸く明らかになってきます。いつの時代も、陰謀を巡らせる悪人が居るのですね。シリーズ4巻目。奈緒の消息を追う磐音。藩政に絡む陰謀に巻き込まれ、奈緒とあと少しのところで入れ違いになってしまうのは切ないし、遊女達の悲しい現実を知りました。奈緒と磐音は、再会できるのかどうかが気になります。シリーズ5巻目。色々と陰謀に巻き込まれる磐音様。相変わらず磐音様の剣は冴えています。シリーズ6巻目。豊前関前藩絡みの陰謀は、まだありそうですね。お艶さん、おこんさんの気持ちに気づいていそうでしたね。シリーズ7巻目。おこんと磐音との距離が少しずつ近づいてきたように感じられます。お狐様に絡む不思議な物語、とても面白かったシリーズ8巻目。年明け早々、色々と事件に巻き込まれながらもそれを見事に解決する磐音様が格好いい。故郷から届いた妹の文に、少し胸が熱くなりました。シリーズ9巻目。磐音様の元許嫁・奈緒こと白鶴太夫の艶姿を想像しました。吉原の花魁として生きる奈緒を、磐音様はどのような思いを抱いているのか。それと、秩父から吉原へ来た娘達の事も気になりますね。シリーズ10巻目。藩絡みの陰謀は、ますます続きそうですね。戦闘シーンは毎回躍動感があって、まるで映画を観ているように映像が浮かびます。シリーズ11巻目。ひょんなことで知り合ったお姫様との間に良からぬ噂を立てられ、おこんに誤解される磐音様。おこんが磐音様に片思いをしているのがわかるし、磐音様が吉原の太夫となった奈緒の事を想っていることに気づいているから、色々と複雑な思いを抱えているのですね。今回も、様々なドラマがあって面白かったです。シリーズ12巻目。磐音様の藩でも内紛がありますが、桜子様の藩でも内紛があったのですね。いつの時代にも、派閥や内紛というものが存在するのですね。奈緒が磐音様に打ち掛けを贈り、奈緒の匂いを遺した打ち掛けを磐音様が抱き締めるシーンを読んで切なくなりました。シリーズ13巻目。おそめやおこんの女性陣の活躍が目立った回でした。磐音様は、おこんには頭が上がらないようですね。オランダ人船長達も魅了した磐音様の剣技、想像するだけでも格好いいです。シリーズ14巻目。日光へ向かう事になった磐音様。うどんを啜ったりして喜ぶ家基様が可愛らしかったです。シリーズ15巻目。おこんと磐音様の関係が少し進展しましたが、今回はおそめと幸吉の仲も進展しました。磐音様の故郷・豊前には未だに内紛の火種がくすぶっているのですね。シリーズ16巻目。白鶴太夫の身請けに纏わる騒動を探る磐音様。彼女を想いながら、身請けされた奈緒と再会を果たす磐音様。切ない二人の想いを感じました。シリーズ17巻目。磐音様とおこんが遂に結ばれました。おこんの片思いが実を結び、二人の未来に幸あれと思いました。シリーズ18巻目。今回は、おそめちゃんの今津屋奉公が決まったり、鐘四郎の婿入りが決まったりとめでたいお話ばかりで、心が少し温かくなりました。シリーズ19巻目。佐々木道場の改築祝いの大試合で、怪我を押して臨み、見事勝利した磐音様が相変わらず格好良かったです。シリーズ20巻目。おこんと磐音様の船旅、旅の情景を浮かべながら、二人の絆の深さを感じました。シリーズ21巻目。磐音様の両親に認められたおこんさん。晴れて磐音様の妻となったおこんさんの美しい花嫁姿が目に浮かびます。シリーズ22巻目。おこんさんと磐音様が夫婦となり、柳次郎にも恋の話が。読み終わった後、何だか幸せな気分になりました。シリーズ23巻目。今回は南町奉行所の与力・笹塚孫一が主役。相変わらず戦闘シーンが読み応えがありましたし、今津屋の跡継ぎ誕生、磐音様の佐々木道場跡目相続と、めでたい事が続きましたね。シリーズ24巻目。おこんと磐音様の、桜に彩られた祝言の席はさぞや美しい光景でしょうね。二人の未来に幸あれと願います。シリーズ25巻目。今回は将軍就任に関する騒動に巻き込まれる磐音様。霧子さんと桜子さんの凛々しい姿が、目に浮かぶような稽古の場面が好きです。田沼意次と関連する陰謀も、次第に明らかになっていきそうですね。シリーズ26巻目。山形で奈緒と再会する磐音様。幸せを掴んだと思ったのに、藩の陰謀に巻き込まれた彼女が不憫でなりませんでした。シリーズ27巻目。お家騒動に巻き込まれた磐音様と、尚武館の門下生達。磐音様はいつも凛としていて格好いいですね。女忍・霧子も強くて格好いいです。まだ田沼絡みの陰謀の根は深そうです。シリーズ28巻目。今回は母と子の切ない話でした。磐音様の剣が舞う戦闘場面は、いつ読んでも頭の中に映像が浮かびます。シリーズ29巻目。家基の命を付け狙う刺客と戦う磐音様。夢の中にまで現れるって、怖いですね。土佐藩の内紛に巻き込まれた利次郎。何処の藩でも、上層部の権力争いはあるのですね。
2016年04月25日
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パリ行きの飛行機が山中で墜落、炎上。 唯一生き残った生後三ヶ月の女児は、「奇跡の子」と呼ばれるがー DNA鑑定がなかった時代、二組の家族が赤ん坊を巡って争うのですが、18年後にその真実が明らかになります。 事件の真相か明らかになるにつれ、飛行機事故で死んだ二人の赤ん坊が誰なのかが解りました。 主人公・マルクと、リリーの間に愛の結晶が生まれた希望に満ちたラストを読み終わり、これから三人の未来が明るいものである事を願いながら本を閉じました。
2016年04月24日
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ピクニックでの一件以来、アレクサンドラは些細な事でガブリエルに対してヒステリックに怒鳴ってばかりいた。 ガブリエルはそんな母親の姿を見て怯えるようになり、毎晩エルジィの寝室で彼女と一緒に寝るようになった。「アレクサンドラ、話がある。」「またガブリエルの事ですの?」 アレクサンドラが不機嫌そうな顔をしてルドルフの方を見ると、彼は眉間に皺を寄せていた。「お前最近、ガブリエルに厳し過ぎる。まだあの子は二歳だ、あんなに怒鳴らなくてもいいだろう?」「お父様は何もご存知ないから、そんな暢気な事が言えるのですわ!あの子ったら、いつもわたしを困らせるような事ばかりして!わたしが叱っても言う事を聞かないのに、お父様の言う事ばかり聞いて憎らしいったらありゃしないわ!」そう言ったアレクサンドラの顔は、怒りで赤くなっていた。「ガブリエルは、もうすぐきょうだいが出来ることに戸惑っているんだろう。だから、わざとお前を困らせるような事をするんだ。」「わたし、あの子をいつか殺してしまうかもしれませんわ。」アレクサンドラはそう言うと、深い溜息を吐いてソファに座った。「自分ではいけないと解っているのに、どうしてもあの子を怒鳴らずにはいられないのです、お父様。」「一人で悩むことはない。」ルドルフは両手で顔を覆って泣いているアレクサンドラの肩を優しく抱いた。「お父様に悩みを打ち明けたら、少し気が楽になりましたわ。」「それは良かった。それよりも明日の準備は出来たか?」「はい。何だかアリス様達とお別れするのが寂しいですわ。」「わたしもだ。」 ルドルフ達が英国を出発し、帰国の途に着くと、皇帝付の侍従達が彼らを空港で出迎えた。「皇太子様、アレクサンドラ様、お帰りなさいませ。」「どうした、父上の身に何かあったのか?」「いいえ。詳しい話は王宮で話すと陛下から伝言を賜りましたので、至急王宮へお戻りください。」「わかった。」 皇帝付の侍従達と共に空港を後にしたルドルフ達は、用意されたリムジンで王宮へと戻った。「お兄様、アレクサンドラ、お帰りなさい。」「ただいまヴァレリー。」「ルドルフ様、アレクサンドラ様、陛下がお呼びです。どうぞこちらへ。」「アレクサンドラ、ガブリエルはわたしが見ているから、お兄様と一緒に行って来て。」「有難うございます、ヴァレリー様。」ガブリエルをヴァレリーに預け、アレクサンドラがルドルフと共に皇帝の私室に入ると、そこには妻の肖像画を眺めているフランツの姿があった。「陛下、皇太子様とアレクサンドラ様が帰国されました。」「二人とも、長旅で疲れているのにわざわざ呼び出してしまって済まなかったな。」「いいえ。お祖父様、お話とは何でしょうか?」「シシィが、スイスで無政府主義者に暗殺された。」 フランツの言葉を聞いたアレクサンドラは、一瞬時が止まったように思えた。「今、何とおっしゃいました、父上?」「シシィがジュネーブで暗殺された。彼女はレマン湖で遊覧船に乗ろうとした時、擦れ違いざまに男とぶつかった。その時は誰もその男の事を気に留めていなかったが、船の中に入ろうとした時に突然胸を押さえて倒れたと・・すぐに病院に運ばれたが、息を引き取ったそうだ。シシィを殺した男は地元警察に逮捕され、現在警察署で取り調べを受けている。」「そんな・・皇妃様が・・どうして?」 フランツの口からエリザベートの訃報を知らされ、アレクサンドラの脳裏にエリザベートの優しい笑顔が浮かんだ。「嘘だ、あの人が死ぬ筈がない!」 ルドルフは突然そう叫ぶとソファから立ち上がり、部屋から飛び出して何処かへ行こうとしていた。「ルドルフ、何処へ行く!」「あの人の所に決まっているでしょう!」ルドルフは半狂乱になりながら、自分を母親の元へと行かせまいとするフランツの腕を乱暴に振り払った。「何故、わたしを止めるのですか、父上!」「落ち着け、ルドルフ!今お前が行ったところで、シシィが死んだ事には変わりはない!」フランツはそう言って必死にルドルフを宥めたが、彼は母親の元へ行くと言って聞かなかった。そのうち、ルドルフは喘息の発作を起こして倒れてしまった。「誰か、侍医を呼べ!」「お父様、しっかりなさってください!」 ヴァレリーがガブリエルと遊んでいると、皇帝の部屋からストレッチャーに乗せられたルドルフが出て来た。「アレクサンドラ、お兄様に一体何があったの?」「皇妃様がスイスで暗殺され、その事を知ったお父様が酷く取り乱してしまって、喘息の発作を起こして倒れてしまったのです。」「まぁ、何という事かしら。アレクサンドラ、お兄様のお傍に居てあげて。」「解りました、ヴァレリー様。」アレクサンドラはヴァレリーに頭を下げると、フランツと共にルドルフが搬送された病院へと向かった。「脈拍、呼吸ともに安定しています。皇太子様は暫くこちらで安静なさった方が宜しいでしょう。」ルドルフの主治医はそう言うと、フランツを見た。「喘息の発作を皇太子様が起こされたのは、皇妃様の訃報をお聞きになられてパニックになってしまったからでしょうね。」「わたしが、ルドルフを苦しませてしまった・・」フランツは溜息を吐き、病室のベッドで眠っているルドルフの手を握った。にほんブログ村
2016年04月22日
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大学時代のアメフト部のマネージャー・美月が男の姿となって主人公・哲郎の前に現れた。美月は、哲郎とアメフト部の仲間達の前で、ある秘密を話す―ある殺人事件の真相を追ううちに、この作品ではジェンダー(性意識)をテーマに、半陰陽(両性具有)や性同一性障害といったデリケートな問題を取り扱っています。半陰陽は、男でも女でもない存在―その身体を持つある少女・睦美の姿と、肉体は女でありながら精神は男である美月の姿を通して、「男と女の違いは何か?」を深く考えさせられる作品でした。近年、性同一性障害や同性愛者(LGBT)への理解が深まりつつありますが、未だに彼らは戸籍上での問題や、社会的な偏見や差別の目に晒されています。わたしが中学・高校時代に夢中になって読んで好きになった漫画『火宵の月』では、半陰陽の主人公・火月(かげつ)が登場します。伴侶によってどちらの性別を選べるという彼女が属する民族の『ルール』は、現実世界では全く通用しないものですが、「片想い」に登場する睦美と何処か似ているものがありました。睦美や美月のような、性的少数者が抱える苦悩や葛藤といったものは、当事者でしか解りません。この作品を読み終わって印象に残ったのは、美月の秘密をかつての仲間達が偏見の目で見ず、彼女の苦悩を深く理解していたことでした。人は自分達とは違う者を排除しようとしますが、哲郎達はそういった事はしませんでした。性別の垣根というもの、境界線というものがなくなりつつある中、LGBTの方への社会に対する理解が深まることを願ってやみません。
2016年04月20日
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8年くらい前に一度読んだのですが、この前ブックオフで見かけたので購入して再読しました。亡き祖父の足跡を辿り、彼のかつての戦友達から話を聞いて主人公が知るのは、戦争の残酷で愚かな真実―家族の元に帰りたい―ただそれだけを願って、懸命に戦った男の悲しい最期。軍の上層部は戦後も生き延びて、犠牲となるのは下っ端の―戦地の兵士だけ。戦時中は戦死すれば名誉だと言われ、戦後になると彼らは「戦犯」扱いされるという理不尽な社会。一体あの戦争はなんだったのだろうと、読み進めながら思いました、主人公・健太郎がインタビューした祖父の戦友の言葉が、胸に響きました。民主主義の繁栄と豊かさと引き換えに、道徳心を失いつつある日本人―その言葉はまるで、殺人事件が絶えず報道される現代の日本の姿を指摘しているかのようでした。戦争というものは、いつの時代も残酷で愚かで、何も残らないものです。戦争の意味を、百田さんはこの作品を通して読者に問い掛けたかったのではないのでしょうか。
2016年04月20日
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オレオレ詐欺の名簿屋と、それを追う刑事達の追跡劇。展開が二転三転し、面白くて一気に読了しました。黒川さんの作品は「疫病神」を一度読んだことがありますが、この人の作品は読者を飽きさせないストーリーが良いですね。
2016年04月20日
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この作品は、『日記』がひとつの鍵となっています。セイジは事故に遭った母から日記を読むようにと言われ、少女時代を過ごした実家へと向かい、母の日記を読み始めます。そこで見た母の姿は、2人の男性を愛し、苦悩する女性の姿でした。さらにセイジは、衝撃の事実を知ることとなります・・。最後のドンデン返しにはビックリしました・・。全体的にはストーリーも登場人物もすごいまとまっていて、それでいて突然ダニエルやフェイの過去が書かれていたりと、感情移入が難なく出来ました。リズの夫・エドワードの少し狂った愛は、リズのことを愛しているが故にそうなったんでしょうね・・可哀想でしたが。セイジとダニエルが結ばれてよかったです。人には何かしら秘密があるけれど、そこから真実が生まれるものなんですね・・。結構上下巻ともに400ページ弱あったんですが、一気に読んでしまいました。こんなに夢中になった本は久しぶりです。これを機会にペニー・ジョーダンの作品を読もうかな~と思ってます。
2016年04月20日
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ヒロイン(アナベル)とヒーロー(クイン)にはあまり共感できず(特にヒーローの方)、ジム・ノートン警部補や探偵のグリフィン・パウエルなど、わき役達の活躍を呼んでいて面白かったです。殺されたヒロインのいとことどら息子の兄との関係とか、あんまり興味なかった。まぁ、連続殺人犯の正体がわかってビックリしましたが。ストーリー展開としてはよかったんだけど、主人公2人の描写がいまいちだったような気が。脇役でもチャド・ジョージ巡査部長がウザイの一言に尽きましたね。面白いといえば面白かったですが、主人公2人が・・(以下略)。
2016年04月20日
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浅田次郎による、新選組第二弾。男性の視点で描いた『壬生義士伝』とは違い、この作品では芹沢鴨の妾・お梅や、前川家のお勝、八木家のおまさ、桔梗屋の天神・吉栄、そして輪違屋の天神・糸里と、女性達の視点による新選組が描かれていました。はじめの音羽太夫が無礼討ちされるシーンは痛々しくて、糸里の哀しみが伝わってきました。糸里と土方の関係も穏やかなものから、芹沢暗殺が絡むと一気に自然消滅・・というか糸里の方が振ったんですよね。16にしては立派です、糸里。まああの時代の年頃の女の子って、家の事情で売られたりしてたからね・・。ラストの桜木太夫(糸里)の太夫道中は美しいの一言に尽きました。ドラマよりも原作の方がよかったです。特に芹沢暗殺のシーンが。読んで損しませんね、浅田次郎の作品は。
2016年04月20日
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全米で500万部のベストセラーとなった小説だというので読んでみました。1964年の大雪の夜、男女の双子が生まれ、娘の方がダウン症であったため、双子の父・デイヴィッドは娘を看護師・キャロラインに預け、妻には死んだと嘘を吐く。その嘘によって25年間もの家族の苦しみが生まれることなど知らずに・・。デイヴィッドは娘・フィービを自分の手元で育てるという選択ができなかったんだろうか?障害があってもなくても、大切な我が子でしょ?しかも初めての子。まぁ彼の場合、ダウン症の妹がいて、母親の苦労を知っているから・・でも許せなかったなぁ・・。それと、デイヴィッドは仕事もできるし、写真家で成功したけれど、家族運には恵まれませんでしたね・・妻は他の男と不倫するし、息子は息子で父親に反発するし・・なんか、淋しい人だな。25年の歳月を経て、双子の兄と実母と対面するフィービですが、この子だけに唯一好感をもてました。あと、デイヴィッドに密かに恋焦がれていたキャロラインも。全く血が繋がっていない娘を25年間も深い愛情で包み込んで育てた彼女に拍手を送りたいです。ラストがいかにもご都合主義というか、とってつけたようなハッピーエンドになっていたのが不満でしたが、それ以外は海外の昼ドラ観るようで面白かった・・と読み終わった後ふと検索してみたら、アメリカで映像化されていたようです。
2016年04月20日
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埋立地のタワーマンション暮らしで、若くておしゃれなママ達のグループに入った有沙は、そこでママ達の様々な秘密を知ることになる。中盤からその有沙の秘密が明らかになって「!?工エエェ(゚〇゚ ;)ェエエ工!?」と一瞬固まってしまった。ママ友という特殊な世界を垣間見たような気がしました。今話題になっている「スクールカースト」の延長線で、ママ達は「夫の職業・年収」、「子どもの習い事にいくら掛けられるか」、「お受験するかしないか」で互いの腹を探り合っているんですね。ママグループのリーダー、いぶママこと裕美に流されずに、自分を見つめなおそうとする有沙の姿が印象深かったです。
2016年04月20日
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被害者の夫は、酷い男だなぁと思ってしまいましたよ。いくら家庭運に恵まれなかったからって、「子どもが産めない女には価値がない」って、酷くない?奥さんと愛人が良好的な関係だったことに驚いた。ラストの内海さんの言葉にもビックリ。
2016年04月20日
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戦後まもなく、石油業界にその名を轟かせた出光興産の社長・出光佐三をモデルにした小説です。話題の本だというので手にとって読みましたが、主人公・鉄造の先見の明や、苦難を前にしてそれを乗り越える力を持つ彼の逞しさに感動しました。とくに、イランの石油をタンカーに積んで帰国するくだりは、胸が熱くなるほどの感動に震えました。読み終わった後、感動と興奮の余りなかなか眠れませんでした。いつか映画化するだろうなぁと思いましたが、今年12月に映画化するのですね。今から楽しみです。
2016年04月20日
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映画化されるというので図書館から借りて読んでみました。ヒロイン・香恵は普通の女の子って感じで、好感もてました。伊吹先生みたいな先生に教えて貰いたかったなと思いました。女性としても、教師としても彼女は素晴らしい人だったなと思いました。香恵の友人・葉菜ちゃんの彼氏は正直言ってウザイの一言に尽きたよ・・彼女いるのに香恵に手ぇ出して、ふられたら別の女と付き合う?こんな男は早く捨てた方がいいぞ、葉菜!と思いましたよ。まぁ、香恵がビンタ喰らわしたからスカッとしましたが。伊吹先生のノートに書かれていた「隆」の正体も判ったし、香恵と彼がうまくいくといいな~。『火の粉』と違い、純愛物だったので読み易かったし、読み終わった後胸がきゅんとなりました。
2016年04月20日
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最近話題になっていた本だったので、図書館で予約待ちして漸く読みました。 クラスの人気者・桜良、クラスで目立たない生徒・春樹との交流を描いた物語ですが、タイトルに秘められた意味が最後に解って、ああなるほど〜と思いました。 結構読みやすいし、面白かった作品でした。
2016年04月20日
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「アンダルス様、漸くお目覚めになられたのですね。」「ミランダさん・・俺、どうして?」「森の中にある洞窟で、あなたが倒れているのを見つけたのよ。腰の怪我はどう?」「少し痛むけど、大丈夫です。」アンダルスがそう言ってミランダを見ると、彼女は安堵の表情を浮かべて彼の部屋から出て行った。「どう、あの子の様子は?」「腰に少し痛みが残っていると言っていましたが、あの様子だと大丈夫そうですわ。」「そう、よかった。ねぇミランダ、例の噂の事で、何か聞いていない?」「いいえ。ですが、その噂を流した者が誰なのかをアンダルス様が社交界デビューなさる前に突き止めなければなりませんわね。」「そうね。」ビュリュリー伯爵夫人とミランダがそんな話をしていると、二人の元へ女中がやって来た。「奥様、お客様がいらっしゃっています。」「わたくしにお客様ですって、どなたかしら?」「ガブリエル=ローゼンフェルト様とおっしゃる方です。アンダルス様のお見舞いに来たと・・」「客間にお通しして頂戴。」「はい、かしこまりました。」女中は二人に背を向け、玄関ホールで待っているガブリエルの元へと戻った。「奥様がお会いになられるそうです。客間へご案内いたします。」「解った。」 ガブリエルが女中と共に客間へと向かう途中、彼は中庭でアンダルスの父・ユーリスが一人の女性と話している姿を見た。 その女性に、ガブリエルは何処か見覚えがあった。(あの女、何処かで会ったような・・)「どうぞ、こちらです。」 我に返ったガブリエルが女中と共に客間に入る前、ユーリスが件の女性と抱き合っていた。「暫くこちらでお待ちくださいませ。何かお飲み物はいかがですか?」「コーヒーを頼む。」「かしこまりました。」女中はそう言ってガブリエルに向かって頭を下げると、客間から出た。 数分後、ビュリュリー伯爵夫人が客間に入って来た。「ガブリエルさん、わざわざアンダルスのお見舞いに来てくださって有難う。あの子は今、自分の部屋で休んでいるの。」「そうですか。では、これを彼に渡してください。彼の怪我が早く治る事を祈っています。」ガブリエルはビュリュリー伯爵夫人に、アンダルスが気に入っているチョコレート専門店の紙袋を手渡した。「まぁ、有難う。必ずアンダルスに渡しますわ。ねぇガブリエルさん、ひとつお願いしたいことがあるのだけれど・・」「何でしょうか、奥様?」「アンダルスの出生について、最近おかしな噂が広まっている事をご存知?」「ええ、存じておりますよ。根も葉もない悪意ある噂をばら撒く人間は、厄介なものですね。その噂とは、どのようなものなのですか?」「何でも、アンダルスは呪われた一族の末裔だとか。アンダルスの耳に入る前に、その噂を流した者が誰なのかを突き止めてくださらないこと?」「奥様の頼みならば、快く引き受けましょう。この事は、アンダルスには・・」「あの子には話さないで。ガブリエル、わたしはアンダルスを何としてでも守りたいの。あの子は、わたしの大事な宝だもの。」「それは、わたしも同じです、奥様。」 ガブリエルはそう言うと、ビュリュリー伯爵夫人の手を握った。「では、これで失礼いたします。」「わざわざ来てくださって有難う。」 玄関ホールでビュリュリー伯爵夫人に見送られたガブリエルが伯爵邸を後にしようとした時、彼は突然背後から誰かに腕を掴まれた。にほんブログ村
2016年04月18日
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27歳のエリート広告マン・マックス、41歳のハン バーガー店の売り子・ノーラ。 一見住む世界が違うような2人の物語のようですが、マックスは貧しく強迫神経症の母によって育てられ、愛妻・ジェイニーの事故死から立ち直れない。 ノーラは、若くして結婚するも夫の暴力に悩み、何度も流産を繰り返した後に漸く授かった一人息子は非行に走り、不慮の事故死を遂げてしまい、深い喪失感の中にいる。 同じ痛みを持った2人の恋が周囲から歓迎されるものではなく、ある出来事を機に2人の恋は終わるのですが、マックスがノーラを諦め切れずに彼女が住むNYまで追いかけてくるというのが素敵ですね。 ノーラとマックスが結ばれるような展開で物語は終わりますが、何だかしんみりとした、大人の恋愛小説でした。 最近流行りの純愛ものとは一線を画した作品でした。
2016年04月18日
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カラムーチョのふりかけ、母がスーパーで買って来たのでどんなものかと試しに掛けて食べましたが、あんまり辛くなかったです。食べ応えがあって、いいです。
2016年04月17日
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アンダルスは自分を喰らおうとしている豹を睨みつけながら、唯一の武器となる木の枝を握り締めた。(こんな所で、死んで堪るか!) アンダルスが豹の眉間を木の枝で打つと、豹は情けない声で鳴いてそのまま草叢の中へと消えていった。命の危機から脱したものの、落馬した際に強く腰を打ってしまった所為で、アンダルスは起き上がることもままならなかった。ドレスが泥で汚れるのも構わず、アンダルスは雨宿りが出来る洞窟を見つけ、そこまで這って行った。(ふぅ、これで何とか雨が凌げたぜ。後は、助けが来るのを待つだけだな。) 泥で汚れたドレスを脱ぎ、下着姿となったアンダルスがハンカチで濡れた髪や肌を拭いていると、遥か遠くから角笛の音が聞こえた。(何だ?) 徐々に角笛の音が近づいて来くる事に気づいたアンダルスが、洞窟の入り口から顔を覗かせて外の様子を見ると、森の中を鮮やかな刺繍を施した民族衣装を纏った集団が歩いてくるのが見えた。彼らはそれぞれリュートやヴァイオリンを携え、森を進みながらそれらを奏で、その音色にあわせて舞い踊っていた。 そんな彼らの姿を見たアンダルスは、踊り子時代の事を思い出して、彼らの仲間に加わりたいと思うようになった。だが、今自分は下着姿で、腰に怪我をしていて満足に踊れない。アンダルスが彼らの仲間に加わるのを諦めて助けを待っていると、いつの間にか彼らは森を抜け、霧の中へと消えていった。「アンダルス様、どちらにおられますか~!」「アンダルス様~!」赤々と燃える松明が見え、アンダルスは突然睡魔に襲われ、洞窟の中で眠ってしまった。「アンダルス様はまだ見つからないのか!?」「はい、手分けして探しましたが、何処にも見当たりません。」「もっと良く探しなさい!」ミランダはそう言って使用人を怒鳴りつけると、森の奥へと進んだ。男性用の乗馬服を着ていて良かった―彼女がそんな事を思いながらアンダルスを探していると、遠くにある洞窟の中で、何かが光ったような気がした。気の所為かと思ったミランダだったが、また洞窟の中で何かが光った。ミランダが洞窟の前に立ち、奥を松明で照らすと、そこには下着姿で眠っているアンダルスが居た。彼の首に提げているネックレスが、松明の光を受けてキラキラと輝いていた。「アンダルス様を見つけたわ。」 ミランダがアンダルスを抱きながら使用人達の前に現れると、彼らは安堵の表情を浮かべた。「雨が酷くなる前に、お屋敷に戻りましょう。」「はい!」ミランダが愛馬に跨り、森を後にしようとした時、森の奥から角笛の音が聞こえたような気がした。「ミランダ様?」「いいえ、何でもないわ、行きましょう。」(きっと空耳ね。)ミランダ達が森から去った後、茂みの中から鮮やかな刺繍を施した民族衣装を纏った青年が現れた。にほんブログ村
2016年04月17日
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「さぁ、どうぞ。みんな遠慮なく食べてね。」 アリスがそう言ってサンドイッチを勧めると、子供達は嬉しそうに目を輝かせながらそれを頬張った。「どう、美味しい?」「美味しい!」「ガブリエルちゃんは、食べないの?」 湖でアレクサンドラから怒鳴られたガブリエルを気遣ってアリスがそう声を掛けると、ガブリエルはゆっくりとサンドイッチの方へ手を伸ばした。「ガブリエル、手を洗ってから頂きなさい。」「はい・・」「それと、貴方はみんなに迷惑を掛けたのだからサンドイッチは一個だけね。残りは全部、エルンスト君たちにあげるのよ、いいわね?」「はい・・」「アレクサンドラ、そんなに怒らなくてもいいだろう?ガブリエルは昨夜からピクニックを楽しみにしていたのだから・・」「そのピクニックを台無しにしたのはこの子でしょう!」ガブリエルを庇うルドルフの言葉に、アレクサンドラがそうヒステリックに叫ぶと、二人の間に険悪な空気が漂った。「ガブリエルちゃん、こちらへいらっしゃい。」「でも・・」「ガブリエル、わたしはアレクサンドラと話があるから、アリス様の所へ行きなさい。」「はい。」「ちょっと、勝手に決めないでください!」「アレクサンドラ、向こうで少し話したいことがある。わたしと一緒に来い。」ルドルフは有無を言わさずアレクサンドラの手を掴み、彼女を無理矢理立ち上がらせると湖へと向かった。「痛い、手を離してください!」「アレクサンドラ、さっきのは一体何だ?あんな風にガブリエルに怒鳴った姿を初めて見たぞ?」「わたしはガブリエルを叱っただけです。それのどこがいけないのですか?」「ガブリエルを叱った事は間違っていないが、お前は感情を爆発させてあいつを怒鳴っていただけだろう?ガブリエルはお前を怖がって震えていたじゃないか?」「だって、あの子は最近わたしの言う事を聞かないのですもの!怒鳴りたくもなりますわ!」「だからといって、あんな事をガブリエルに言う必要はないだろう?少し頭を冷やしたらどうだ?」 ルドルフはそう冷たく突き放すかのような口調でアレクサンドラに言うと、そのまま彼女に背を向けてアリス達の元へと戻っていった。 ガブリエルはアリスの膝の上に乗り、デザートのアイスクリームを美味しそうに舐めていた。「すっかり機嫌が直ったようだね、ガブリエル?」「おとぅたま、これアリスたまからもらったの?」「アリス様に有難うは言ったかい、ガブリエル?」「うん、いったよ。」「この度は御迷惑をお掛けしてしまって、申し訳ありませんでした。」「いいえ、こういう事はよくあることですから、もう慣れていますわ。それよりも、アレクサンドラさんはどちらに?」「彼女には、少し頭を冷やせと言って湖に置いていきました。」ルドルフがそう言った時、アレクサンドラが彼らの元へ戻って来た。「まぁガブリエル、お洋服を汚して!」 アイスクリームの染みがワンピースに広がっているのを目敏く見つけたアレクサンドラは、そう言って眦をつり上げた。「ごめんなさい・・」「アレクサンドラさん、ガブリエルちゃんを余り叱らないで。」「でも・・」「アレクサンドラさんもアイスクリームをどうぞ。」「まぁ、有難う。ではお言葉に甘えて頂きますわ。」アレクサンドラはそう言うと、ドライアイスが入ったケースからアイスクリームの容器をひとつ取り出した。「美味しい。悪阻が酷かった時、大好きなアイスクリームを食べることが出来なくて、ずっと我慢していたの。」「まぁ、そうだったの。ねぇアレクサンドラさん、今度機会があったら、わたし達がウィーンへ遊びに行くわ。」「是非いらして。その時は子供達をプラターへ連れて行くわ。」ピクニックの後、アレクサンドラはルドルフ達と共に滞在先の宮殿へと戻った。「アレクサンドラお姉様、お休みなさい。」「お休みなさい、エルジィ。」「お父様、お休みなさい。」「お休みエルジィ、良い夢を。」 エルジィがアレクサンドラとルドルフの頬にお休みのキスをした後、世話係の女官と共に自分の寝室に入った。 そこには、アレクサンドラの寝室に居る筈のガブリエルが、エルジィより先に寝台の中に潜り込んでいた。「まぁガブリエル様、お母様の所にお戻りになりませんと。」女官が慌ててガブリエルを寝台の中から引きずり出そうとすると、ガブリエルは激しく抵抗して泣き出した。「いや、おかあさまこわいから、いっしょにねるのいやっ!」「じゃぁ、エルジィと一緒に寝る?」エルジィがそうガブリエルに尋ねると、ガブリエルは静かに頷いた。「皇太子様、失礼いたします。」「どうした、何かあったのか?」「実は、ガブリエル様がエルジィ様とご一緒に寝ると聞かなくて・・どういたしましょう?」「あの子の好きにさせてやれ。それと、この事はアレクサンドラには言わないように。」「解りました。」 世話係の女官が部屋から出て行った後、ルドルフは煙草を一本箱から取り出し、それに火をつけて吸った後、深い溜息を吐いて天を仰いだ。にほんブログ村
2016年04月17日
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(c)Abundant Shine「アレクサンドラ、顔色が悪いぞ、どうしたんだ?」「いえ・・昨夜は色々と考え事をしていて、一睡も出来なくて・・」「余り考え過ぎるのもどうかと思うぞ。」 翌朝、ルドルフは顔色が悪いアレクサンドラにそう話しかけると、彼女はルドルフの言葉に弱々しく頷いた。「おかぁたま、きょうはピクニックにいくんだよね?」「そうよ。ガブリエル、お行儀よくしたら後でお菓子をあげるからね。」「わぁい、やったぁ~!」嬉しそうにそう言ってガッツポーズをするガブリエルの姿に、アレクサンドラの不安が少し和らいだ。 この日は晴天で、絶好のピクニック日和だった。「みんな、遠くに行っては駄目よ!」「はぁ~い!」「ガブリエル、大丈夫かしら?」「大丈夫よ、うちの子達が居るから。」「でも・・」 アリス達と共にピクニックの準備をしていたアレクサンドラは、背後から強い視線を感じて振り向くと、そこには誰も居なかった。「どうしたの?」「さっき、誰かがわたしを見ていたような気が・・」「気のせいよ。それよりもアレクサンドラ、今日の為に特別にサンドイッチを作ったのよ、後で感想を聞かせてね?」「まぁ、美味しそう。」 バスケットに入ったサンドイッチを見たアレクサンドラは、妊娠中なので神経過敏になっているから、幻覚を見ているのだと勝手に思い込んでいた。「ねぇ、お腹の赤ちゃんの性別は判ったの?」「ええ。女の子ですって。」「そう。ガブリエルちゃんが一番大変な時期だから、ルドルフ様やヴァレリー様に色々と助けて貰わないといけないわね。」「ええ。」 二歳のガブリエルは第一次反抗期、所謂“イヤイヤ期”を迎え、アレクサンドラの妊娠が判ってからというもの、些細な事を嫌がり、夜にいくらアレクサンドラが寝かしつけても中々眠らない時期が続いた。 その所為か、アレクサンドラは知らず知らずのうちに精神的・肉体的な疲労とストレスが蓄積されつつあった。「子供って敏感なのね。ガブリエルは下の子が産まれることを余り喜んでいないようで・・」「今までママの愛情を独り占めしてきたから、ママの関心が赤ちゃんに向いてしまうことを薄々と気づいてしまっているのよ。」「わたし、このままだとあの子に手を上げてしまいそうで怖いの。いくら言い聞かせても言う事を聞かないんだもの。」アレクサンドラがそう言ってアリスの方を見た時、子供達が居る湖の方から甲高い悲鳴が聞こえた。「あら、何かしら?」 アリスと共にアレクサンドラが湖へと向かうと、そこにはアリスの長男・エルンスト=ルートヴィヒが気絶したガブリエルを抱いていた。「エルンスト、一体何があったの?」「ガブリエルが木に登ろうとして、途中で足を滑らせて落ちたんだ。でも、僕が寸でのところで受け止めたから怪我はなかったよ。」「有難う、エルンスト。」アレクサンドラがエルンストに礼を言った時、彼の腕に抱かれていたガブリエルが目を覚ました。「おかぁたま・・」「ガブリエル、どうして木に登ったりしたの!」「ごめんなさい・・」「どうして貴方はいつも危ない事ばかりするの!今日は楽しいピクニックになる筈だったのに、貴方の所為で全部台無しじゃない!」 もうやめろと、自分の中の理性が呼び掛けてくるのを感じながらも、アレクサンドラは長く蓄積された末に爆発したストレスを我が子にぶつけずにはいられなかった。「謝りなさい、ガブリエル!迷惑を掛けてごめんなさいって、みんなに謝りなさい!」「ご、ごめんなさい・・」「声が小さい!」「ごめんなさい・・」「アレクサンドラ、もう止めてあげて。ガブリエルちゃんだって充分反省しているじゃないの。」「ガブリエル、もう二度と危ない事をしないって約束して!」アレクサンドラはガブリエルの小さな肩を揺さ振りながらそう言うと、ガブリエルは首を横に振った。「どうしてお母様の言う事を聞かないの!」アレクサンドラはガブリエルの腕を何度も平手で叩き始めた。異様な空気に包まれた二人の姿を見たアリスの子供達は、ガブリエルにつられて泣き始めた。「どうした?」「ルドルフ様、丁度いい所に来てくださいました。さっきガブリエルが木に登って落ちそうになったところを、エルンストが助けてくれたんです。でも、アレクサンドラさんが・・」 ルドルフが湖へやって来た時、アリスはそう言葉を濁してガブリエルに怒鳴り続けているアレクサンドラの方を見た。「やめろ、アレクサンドラ!」「お父様・・」 ルドルフに背後から呼び掛けられ、アレクサンドラはガブリエルを怒鳴るのを止めてゆっくりと彼の方を振り向いた。「一体何があった、わたしにも解るように説明しろ。」「ガブリエルが危ない事をしたから、叱っただけですわ。」「叱った?感情を爆発させて我が子を怒鳴るのが、お前の叱り方なのか?」そう言ったルドルフは、冷たい視線をアレクサンドラへと向けた後、彼女の背後で嗚咽しているガブリエルの前に屈んだ。「ガブリエル、もう危ない事をしてはいけないよ。お母様がお前を怒ったのは、お前の事を愛しているからだよ。」「ごめんなさい・・」 自分には謝らず、ルドルフには素直に謝るのか―アレクサンドラの中で、ガブリエルに対する憎しみの感情が芽生えた。にほんブログ村
2016年04月17日
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訳ありの3人の男達が逃げ込んだ古い家。そのシャッターの郵便口から落ちて来たのは、30年前に投函された悩み相談の手紙で―というのが、大まかなストーリーで、その手紙と、彼らが迷い込んだ「ナヤミ雑貨店」こと「ナミヤ雑貨店」の店主父子や、その相談者のその後の人生について二転三転と物語が展開していきます。はじめは短編集だと思いながら読み進めていたのですが、第五章「空の上から祈りを」で、全てに話が繋がっている事が解り、見事な描き方だなぁと思いました。東野圭吾さんの作品が好きで、これまでに『白夜行』や『幻夜』、『真夏の方程式』など、幾つかの作品を読んだことがありますが、彼の作品に登場する人物に纏わる些細なエピソードを丁寧に紹介しており、それがすべてに繋がっているという伏線の張り方、そしてその回収のしかたが上手いです。久しぶりに面白い本を読みました。
2016年04月14日
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<これから購入を考えている本>(未定)棘の街 堂島瞬一イレーナの帰還 マリア・V・スナイダー繚乱 黒川博行星籠の海 島田荘司<図書館で借りることに決めた本>精霊の守り人シリーズ 5~10巻 上橋菜穂子吉原裏同心シリーズ 佐伯泰英生きるための選択 パク・ヨンミヘッドゲーム 富樫倫太郎バタフライ 富樫倫太郎スローダンサー 富樫倫太郎シリーズ物やハードカバーは全部揃えると高いので、図書館を有効活用することに決めました。
2016年04月14日
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久しぶりに濃密なサスペンス小説を読みました。無実の罪を着せられ、無罪判決を勝ち取った男・武内が、裁判官であった主人公・梶間勲の隣に引っ越してきて、何かと甲斐甲斐しく梶間家の世話を焼く。傍からは善人のように見える武内ですが、読み進めるうちに彼の異質な本性が垣間見えてくる。そして武内が勲の母・曜子の介護を手伝うようになり、彼女が不慮の事故死を遂げた後、異変が次々と起きるようになり・・というストーリーです。ここから先はネタバレありなので、未読の方はご注意ください。事件の真相は終盤近くで明らかになりますが、武内の異常な性格や、自傷癖がある事などを勲に話した彼の知人の話を聞く限り、誰が的場一家を殺したのかが解りますし、武内の弁護士であった関の事件の犯人もおのずと解ります。誰もが武内の事を「善人」だと思い込んでいる中、雪見だけは彼を警戒し、その所為で武内の策略により梶間家を追い出されてしまいます。彼女は義父である勲と共に、被害者遺族である池本夫妻からもう一度事件当夜の話を聞き、真相に辿り着きましたが、時既に遅しで、武内が所有する別荘に招かれた彼らの家族は、本性を現した武内の餌食に・・結末はざっくりいうと、勲の家族は無事でした。勲が俊郎を殺そうとしていた武内を大理石の灰皿で撲殺し、罪を裁く側から裁かれる側となり、懲役一年六ヶ月の実刑判決を受けます。武内の異常な性格に読み進めていくうちに鳥肌が立ちましたが、勲が母の介護を妻・尋恵に押し付けていたり、彼の息子・俊郎が無職で娘のまどかの育児を雪見に押し付けていたりして、一見幸せで恵まれている梶間家の日常が露わになり、実母を看取れなかった尋恵の深い孤独に武内が寄り添ったりして梶間家の者達を味方につけたりするところが怖いです。武内のような、「善人の仮面を被った」悪人(サイコパス)は、職場・家庭・学校にも居るのではないかと読み終えた後思いましたし、彼らは巧みに嘘を吐き、人を騙す天才なので、雪見や勲、池本夫妻のように武内の本性を知る人間がそれを訴えても、悪人の敵とみなされ頭がおかしいと言われるのが関の山です。隣人サスペンスといえば、前川裕氏の「クリーピー」もそうでしたが、あちらは最初から悪人です。サイコパスは、一見善人のような悪人なので、その本性に気づいた時にはもう遅く、梶間家のように犯罪者の餌食になってしまうことが多いのでは・・的場一家のように命は奪われずに済んだものの、破壊されてしまった梶間家の平穏な日常は戻らないでしょう。こういった悪人の餌食にならない為には、悪人と親しく付き合わないことーたとえそれが隣人であっても、です。人間関係というのは複雑で、ふとした些細な事でも誤解を招くことがありますが、武内のような悪人だと、そんな些細な事でも感情を爆発させる人間が居るということを、雫井さんはこの作品を通して読者に伝えたかったのではないでしょうか。最後に―解説文を書いた藤田香織女史の「隣人」エピソードも必読です。
2016年04月14日
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映画では息子を殺された男が復讐の為に仲間を追うというストーリーですが、原作では瀕死の状態の自分を見捨てた仲間の復讐に燃える主人公・グラスのサバイバルストーリーになっています。ビーバーの毛皮を求めて大自然の中を移動するグラス達の姿が、ラストまで生き生きと伝わってくるようでした。自分を捨てた仲間への復讐を無事果たしたグラスは、かなり逞しい男でした。彼を捨てた仲間の一人・ブリッジャーは根っからの悪人ではなさそうなので、安心しました。先住民たちと白人との争いが全編を通して描かれていますが、その開拓時代を経て大国・アメリカが出来たのでしょうか・・。自然の偉大さには人間は敵わないというメッセージを、この作品を読み終わった後に感じました。
2016年04月14日
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ヴィクトリア女王と共にルドルフ達がダイニングルームへと向かうと、そこには彼女の子供と孫達が彼らを温かく歓迎した。「まぁ、貴方がアレクサンドラね?お会いしたかったわ!」そう言ってアレクサンドラに抱きついて来たのは、ヴィクトリア女王の次女・アリス王女だった。「お初にお目に掛かります、アリス様。」「幼い子供達を連れての長旅は大変だったでしょう?」「ええ。ですがお父様が二人の世話をしてくださって大変助かっておりますわ。」「まぁ、親子仲が良くて羨ましいわ。」「アリス、お客様をいつまで立たせておくつもりなの?」ヴィクトリア女王からそう言われたアリスは、慌ててアレクサンドラ達を席に案内した。「さてと、みんな揃ったところだから、食事にしましょうか?」「はい、お母様。」 食前の祈りを捧げた後、ヴィクトリア達は夕食を取った。「ルドルフ様、今度良い猟場を見つけたのですが、一緒に行きませんか?」「いいですね。」長テーブルを挟み、ルドルフとエドワードは狐狩りについて話しをしていた。以前ルドルフは母・エリザベートと共に渡英した時、狩りや乗馬を通してエドワードと親しくなったのだった。「本当に、殿方は狩りの事しか頭にないのね。」「いいじゃないの、わたし達はわたし達で楽しくお喋りしましょう。」男性陣が狩りの事で盛り上がっている中、女性陣は育児やファッションの話で盛り上がった。「ガブリエルちゃんは幾つになったの?」「二歳よ。今は何かにつけて“嫌!”とばっかり言うから、困ってしまいます。」「まぁ、仕方ないわよ。自我が芽生えた証拠なのだから、優しい目で見守ってやらないと。」「それはそうですが・・でも、わたしが心配なのは、来年幼稚園に入るガブリエルが、自分が女の子だと思っているようなのです。」アレクサンドラはそう言葉を切ると、紅茶を一口飲んだ。「その事で他の子供達からからかわれたりしないのかと、不安で堪らないのです。」「ガブリエルちゃんの為に、母親の貴方がガブリエルちゃんの良い所を見つけてあげることが一番よ。どんな小さな事でもいいから、ね?」 アリスの妹・ヘレナからそう言われたアレクサンドラは、安堵の表情を浮かべた。「それにしても、シュティファニー様の事はお気の毒だったわね。彼女は今、どうなさっているの?」「わたしにも、解りません。ただ、お父様があの方との離婚手続きを進めている事だけは知っています。」「そう・・夫婦の問題に、他人が介入するべきではないわよね。ごめんなさいね、無神経な事を聞いてしまって。」「いいえ。」「そういえば、最近美味しいチョコレートのお店が出来たのよ。今度お忍びで行ってみないこと?」「いいですね。」「あらお姉様、貴方今ダイエット中だって言っていなかったかしら?」「たまには息抜きも必要ですわ、お姉様。」「まったく、お姉様ったら子は甘い物に目がないんだから!」ヘレナは大きな溜息を吐くと、アレクサンドラの方を見た。「ねぇアレクサンドラ、これからはお互い仲良くしましょう?」「はい、ヘレナ様。」アレクサンドラがヘレナに微笑んだ時、ダイニングルームにガブリエルとエルジィが入って来た。「ガブリエル、エルジィ、ご挨拶なさい。」アレクサンドラがそう言って二人に声を掛けると、二人は礼儀正しく女王達に挨拶した。「まぁ、お行儀が良い子達だこと。」そう言って二人を見つめるヴィクトリア女王の顔は、威厳に満ち溢れた君主のものではなく、孫を可愛がる祖母の顔そのものだった。「下の子が産まれたら、色々と大変ね。」「ええ。でもガブリエルにはジゼル様やヴァレリー様が居ますから、大丈夫だと思います。」「そう。皇妃様は貴方達とはご一緒ではないの?」「はい。皇妃様はスイスに滞在されております。」「あの方のハンガリー贔屓(びいき)は有名だけれど、最近ではスイスがあの人のお気に入りのようね。まぁ、わたしにとってはどうでもいい事だけれど。」ヴィクトリア女王は、そう言うとカップに残っていた紅茶を飲んだ。「ねぇお母様、明日はわたし達とピクニックに行かない?この頃いいお天気だし、屋内に引き籠ってばかりいるのもつまらないわ。」「そうね。」 その日の夜、アレクサンドラが自分の寝室で休んでいると、ドア越しにルドルフの声が聞こえて来た。「アレクサンドラ、起きているか?」「お父様、どうなさったのです、こんな遅い時間に?」「この前、ガブリエルとエルジィの所に“怖いひげのおじさん”が来た話をしただろう?」「ええ。それがどうかなさったのですか?」「その“怖いひげのおじさん”の正体が判った。」「誰なのですか、その“おじさん”は?」「わたしとお前を憎んでいる人物―シュティファニーの父親だ。」「レオポルド国王陛下が、何故ガブリエルとエルジィに危害を加えようとしていたのですか?」「彼は家庭を顧みない男だが、彼なりに娘への愛情があったのだろう。その娘を壊したわたしとお前が憎くて堪らなかったのだろうよ。」「直接わたし達に罵倒をすればいいのに、何故子供達に・・」「復讐を下すのは本人ではなく、愛する家族を標的にする方が相手へのダメージが大きいという話を前に心理学の本で読んだことがある。」「明日のピクニック、お断りした方が宜しいでしょうか?」「大丈夫だ。明日は朝が早いのだから、もう休め。」「はい、お父様。」 ルドルフが部屋から出て行った後、アレクサンドラは寝室に入って眠ろうとしたが、その夜は一睡も出来ずに朝を迎えた。にほんブログ村
2016年04月13日
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PASCOのリンゴケーキデニッシュ。カスタードクリームと、りんごのプレザーブがしっとりとしていて美味しかったです。アップルパイも好きですが、こちらの方も好きです。
2016年04月13日
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かっぱえびせんの期間限定味・エビチリ味です。ほんのりとスパイシーで美味しかったです。
2016年04月13日
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ルドルフが黒い車に近づこうとすると、運転手は彼にクラクションを鳴らした後猛スピードでその場から去っていった。「お父様、どうされましたか?」「さっき、わたし達を何者かが待ち伏せていた。黒い車が学校の近くに停まっていた。」「その車に誰か乗っていたのですか?」「それを確かめる前に、相手が逃げていった。」「そうですか。何だか気味が悪いですね。」「まぁ、わたし達を待ち伏せているのは誰なのか、見当はつくがな。」ルドルフはそう小声で呟くと、待たせてあった車にアレクサンドラと共に乗り込んだ。「お兄様、アレクサンドラ、お帰りなさい。」「ヴァレリー様、わざわざ来てくださったのですか?」「ええ。アレクサンドラ、卒業おめでとう。色々とあったけれど、良く頑張ったわね。」そう言ってアレクサンドラを抱き締めたマリア=ヴァレリーの左手薬指には、真新しい結婚指輪が光っていた。 彼女は一ヶ月前、夫であるフランツ=サルヴァトールとバート・イシュルの教会で結婚式を挙げたばかりだった。「ヴァレリー、フランを放っておいてウィーンに来ていいのか?」「あら、あの人にはわたしが留守にしている間に浮気をしたら、痛い目に遭わせるってちゃんと釘を刺しておいたから、大丈夫よ。それよりもお兄様、エルジィは何処に居るの?」「あぁ、あいつなら・・」「いや~!」 廊下でルドルフ達が話をしていると、突然子供部屋の方からエルジィとガブリエルの泣き声が聞こえた。「どうしたの、二人とも?」 子供部屋に彼らが入ると、そこには部屋の隅に固まって泣いているエルジィとガブリエルの姿があった。「二人とも、どうして泣いているの?」「こわい人が来たの。」「怖い人?」ヴァレリーの問いに、二人は静かに頷いた。「どんな人なのか、わたし達に解るように説明してくれる?」「おひげのおじさんが急にここへやって来て、ガブリエルを何処かへ連れて行こうとしたの。そのおじさんは、ガブリエルの事をやくびょうがみだって・・」「エルジィ、ガブリエル、そのおじさんはもうここへは来ないから、安心しなさい。」ルドルフがそう言って二人を見ると、彼らはルドルフにしがみついて大声で泣きじゃくった。「あの二人の所にやって来た、ひげのおじさんは一体誰なのでしょう?」「さぁ・・もしかして、お父様かしら?」「それはない。父上はガブリエルを可愛がっているし、わたし達に黙ってあの子を何処かへ連れて行こうとはしないだろう。」 泣き疲れて仲良くソファで眠るエルジィとガブリエルの髪を交互に撫でながら、ルドルフはそう言うと二人の元へやって来た“ひげのおじさん”の正体を密かに探るようロシェクに命じた。「アレクサンドラ、さっき女官から貴方宛ての手紙を預かったわ。」「有難うございます、ヴァレリー様。」ヴァレリーから手紙を受け取ったアレクサンドラが封筒の封をペーパーナイフで切ると、中には大人の拳程の大きさがあるサファイアのペンダントが入っていた。「まぁ、素敵なペンダントね。一体誰からの贈り物かしら?」「さぁ・・」アレクサンドラはそう言いながらペンダントの裏を見ると、そこには“愛するAより”というイニシャルが彫られていた。 それを見た時、舞踏会の夜に自分に言い寄って来たアラム王子の顔がアレクサンドラの脳裏に浮かんだ。「アレクサンドラ、どうした?」「お父様、アラム王子が今何処に居るのか解りますか?」「アラム王子がどうした?」「このペンダント、アラム王子からの贈り物ではないかと思うのです。裏にイニシャルとメッセージが彫ってありました。」 アレクサンドラがそう言ってルドルフにペンダントの裏を見せると、彼の顔が怒りで強張った。 アラム王子と、彼の弟・ハマーン王子の滞在先であるウィーン市内のホテルへとルドルフが向かうと、丁度二人はホテルから出て何処かへ向かう途中だった。「アラム王子、丁度良い所で会いましたね。少しお話ししたいことがあるのですが、宜しいでしょうか?」「おや、皇太子様がわざわざこちらへおいでになられるなんて珍しいですね。わたしに何かご用ですか?」飄々とした口調でそう言いながら自分を見るアラム王子の胸倉を掴みたい衝動に駆られたが、ルドルフはそれを必死で堪えた。「これを、娘から預かりましてね。」ルドルフはサファイアのペンダントが入った封筒をアラム王子に手渡すと、彼に背を向けてホテルから出て行った。「まったく、過保護な父親だ。」「兄上は強引に事を進め過ぎです。相手の気持ちを考えずに、贈り物をしてはならないと母上から散々言われていたでしょうに。」「お前の口煩いところは母上に似たのだな、ハマーン。」自分に小言を言う弟に向かって渋面を浮かべたアラムは、封筒を乱暴にジャケットのポケットにしまった。 夏季休暇を迎え、アレクサンドラとルドルフは公務の一環としてガブリエルとエルジィを連れて渡英した。 マスコミは彼らの渡英を大々的に報じ、女性ファッション誌は専らアレクサンドラのファッションに注目した。「会えて嬉しいわ、ルドルフ皇太子様にアレクサンドラ。わたしは気に入った人間しかここには招待しないのよ、ご存知?」「ええ、存じ上げておりますとも、陛下。わたしも再び貴方とお会いできて嬉しい限りです。」 ルドルフがそう言ってヴィクトリア女王の手に唇を落とすと、彼女は嬉しそうにはにかんだ。「貴方がアレクサンドラね?」「はい。お初にお目に掛かります、女王陛下。お会いできて光栄ですわ。」「噂通りの美人だこと。二人目はいつ産まれる予定なの?」「恐らくクリスマス前には産まれる予定です。」にほんブログ村
2016年04月13日
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2016年1月にドラマ化された「生活安全課0係」シリーズ第一作。科警研勤務で、空気が読めないキャリア警察官・小早川冬彦。ある事情で所轄勤務となった彼は、訳ありの人物が揃う「生活安全課0係」に配属される。彼は些細な人間の仕草からその人の人間性を分析したりして事件を次々と解決するのですが、その過程がとても面白いです。認知症の疑いがある老婆と孫との間のふれあいや、両親が不仲であることに心を痛めて家出を繰り返す幼女のエピソードを、連続放火事件と同時進行させながら展開する物語に夢中となり、一気に読了しました。
2016年04月11日
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「何を為さいます!」「そんなに怒るな。挨拶代わりのキスだ。」アラム王子はそう言って笑うと、アレクサンドラの手を掴んで踊りの輪の中へと加わった。「わたしはまだ、結婚など考えておりません。」「お前のような美しい女は今まで一度も見たことがない。わたしの妻となれば、全ての富と権力をお前に与えよう。お前の子供達にも、何不自由ない生活を送らせてやる。」「わたしは貴方の富と権力には興味はありません。ですから、わたしの事は潔く諦めてくださいませ。」アレクサンドラはそう言ってアラム王子の手を振り払おうとしたが、彼はワルツが終わっても彼女の腰を掴んで離そうとしなかった。「アラム王子、娘が嫌がっているのでその手を離してくれないだろうか?」ルドルフはアラム王子とアレクサンドラの間に割って入ると、アレクサンドラの手を掴んで人気のないバルコニーへと彼女を連れ出した。「あいつに何か言われたのか?」「いいえ。突然妻にすると彼から言われましたが、断りました。」「そうか。アレクサンドラ、アラム王子は漁色家で有名だ。お前の結婚相手には相応しくない。」「お父様、わたしは結婚なんて今は考えておりません。」「それを聞いて安心したよ。」「ガブリエルは何処に?」「ああ、あの子なら世話係の女官に部屋まで連れて行って貰ったよ。あの子は最近言う事を聞かなくて困るな。」「皇妃様にその事を相談してみたら、誰もが通る道で、成長の証だから、心配する事ないって言われました。」「そうか。まぁ、下の子が産まれたら変わるだろうさ。ここは寒いから、中に戻ろう。」「はい。」 バルコニーから大広間へと戻ったアレクサンドラとルドルフの姿を、アラム王子は何処か気に喰わなさそうな表情を浮かべて見ていた。「兄上、一体何を思っていらっしゃるのですか?」「ハマーン、アレクサンドラ皇女の父親・・ルドルフ皇太子様は、少し娘に過保護過ぎないか?」「そうですか?わたしには、普通に仲の良い父娘に見えますが。」「お前は鈍いな、二人の関係は、親子ではなく男女のそれだ。恐らく、ルドルフ皇太子様はアレクサンドラ皇女と肉体関係を持っている。」兄の鋭い言葉に、ハマーンは思わず飲んでいたワインで噎(む)せそうになった。「兄上、だから彼女を妻に迎え入れようとなさっておられるのですか?」「わたしは彼女の美しさに惹かれた。彼女からは振られたが、一度振られたからといって諦めるわたしではないさ。」 そう言ってシャンパンを飲むアラム王子の瞳が輝いているのを見たハマーンは、兄の悪い虫が騒ぎ出したと勘で解った。「アレクサンドラ様、ガブリエル様はお部屋でお休みになっております。」「そう。」 アレクサンドラがガブリエルの寝室に入ると、彼は寝台の中で眠っていた。アレクサンドラはそっと、彼のブロンドの髪を撫でると、彼は僅かに身じろぎした。「おやすみ、良い夢を。」 ガブリエルの寝室を出て自分の寝室に入ったアレクサンドラは、ドレッサーの前で化粧を落とした後肌の手入れをしてそのまま寝台に入って眠った。翌朝、アレクサンドラが起きると、ベッドの傍に置いていた時計は九時を指していた。「おはよう、アレクサンドラ。昨夜は良く眠れたようだね?」「申し訳ありません、お父様。寝坊してしまって・・」「妊娠初期にはよくあることだから、気にするな。それよりも、悪阻は大丈夫か?」「ええ。少し寝たら良くなりました。」アレクサンドラはそう言ってコーヒーを一口飲もうとしたが、再び吐き気に襲われ、慌てて口元をナプキンで覆った。「おかぁたま、どこかわるいの?」「ガブリエル、お母様のお腹には赤ちゃんが居るんだよ。」「じゃぁガブリエル、おねえちゃんになるの?」「そうだよ。ガブリエルはこれからお兄ちゃんになるんだから、良い子にしていないとね。」ルドルフがそう言ってガブリエルの顔を見ると、彼は嬉しそうに笑った。 それからアレクサンドラは第二子出産まで、公務と学業、そして育児の両立をルドルフ達に助けられながらこなした。 復学したアレクサンドラを、友人達は温かく出迎えた。「アレクサンドラ、ガブリエルちゃんは元気?」「ええ、元気よ。それよりももうすぐみんなと会えなくなるわね。」「そうね。でも大丈夫よ、きっとどこかでまた会えるわよ。」 親友の言葉を聞いたアレクサンドラは、笑顔を浮かべた。6月、アレクサンドラは一年の休学期間を経て、聖マリアアカデミーを首席で卒業した。「卒業おめでとう、アレクサンドラ。」「有難うございます、わたしが無事に卒業できたのは、お父様が支えてくださったお蔭です。」「大学には、勿論進学するつもりだろう?」「ええ。ガブリエル達の育児が一段落したら、進学するつもりです。」アレクサンドラがそう言ってルドルフの方を見た時、彼女の鞄の中に入っていたスマートフォンがけたたましく着信を知らせた。「誰からだ?」「知らない番号です。」「わたしが出よう。」 ルドルフはアレクサンドラからスマートフォンを受け取ると、通話ボタンを押した。「もしもし?」ルドルフがそう言ってスマホに耳を押し付けると、相手は何も言わずに切った。「お父様?」「さぁ、帰ろうか。」「はい・・」 ルドルフはアレクサンドラと共に聖マリアアカデミーを後にしようとした時、学校の近くに見慣れない黒い車が一台停まっている事に気づいた。「アレクサンドラ、少しここで待っていろ。」「解りました。」にほんブログ村
2016年04月11日
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ルドルフと手を繋いでバルコニーへと向かったアレクサンドラは、自分を見つめ、歓声を上げる国民達に向かって手を振った。「アレクサンドラ、十八歳の誕生日おめでとう。」「有難うございます、皇妃様。」「これは今日の為に特別に作らせたものよ。貴方が気に入るといいのだけれど。」 エリザベートはそう言うと、女官長から長方形の箱を受け取り、それをアレクサンドラに手渡した。「これは、何ですか?」「開けて御覧なさい。」アレクサンドラが箱の蓋を開けると、そこには一流の職人の手によって作られた女神を象った守り刀が入っていた。「この女神は、ギリシャ神話に出て来る愛と美を司る神・アフロディーテよ。貴方もアフロディーテのような美しい女性になるように願っているわ。」「有難うございます、皇妃様。」「わたしがつけてあげよう、アレクサンドラ。」ルドルフはそう言うと、守り刀を箱から取り出し、アレクサンドラの首にそれを提げた。「良く似合っているわ、アレクサンドラ。」エリザベートに微笑もうとしたアレクサンドラは、再び吐き気が襲ってくるのを感じて思わず顔を顰(しか)めた。「どうしたの、アレクサンドラ?」「すいません、先程から吐き気が襲って来て・・」「まぁ、それは悪阻ではなくて?」「皇妃様、そんな事は・・」「いいえ、きっと悪阻に違いないわ。今すぐお医者様に診て貰いなさい。」「はい・・」エリザベートから医師の診察を受けるように言われ、アレクサンドラが侍医の診察を受けると、彼女は妊娠三ヶ月に入っていた。「まぁ、やっぱりね。」アレクサンドラから妊娠を告げられたエリザベートは、朗らかな声で笑いながらルドルフの方を見た。「アレクサンドラ、余り無理をするなよ。」「はい、お父様。でも、ガブリエルの育児を一段落していないというのに、二人目を妊娠したと周囲に知られたら、どう思われてしまうかどうか心配で・・」「言いたい奴には言わせておけばいい。お前は元気な子を産む事だけを考えろ。」ルドルフはそう言うと、アレクサンドラの肩を優しく叩いた。 その日の夜、アレクサンドラの誕生日と成人を祝う舞踏会には、アレクサンドラの友人達の姿があった。「アレクサンドラ、久しぶりね。元気にしていた?」「ええ。貴方達も、元気にしていた?」「ねぇアレクサンドラ、貴方もうすっかりママの顔ね。」親友のヘレンからそう言われたアレクサンドラが羞恥で顔を赤く染めていると、そこへガブリエルを抱いたルドルフがやって来た。「皇太子様、今晩は。」「みんな、よく来たね。紹介するよ、この子がわたしの孫の、ガブリエルだ。ガブリエル、皆さんにご挨拶なさい。」「こんにちは。」「まぁ、可愛いわね。天使みたい。何処か皇太子様に似ているわ。」「あら、そうかしら?よく皇妃様やヴァレリー様から言われるのよ。」アレクサンドラはそう言うと、ルドルフの腕の中で暴れているガブリエルの方を見た。「どうしたのです、お父様?」「この子を寝かしつけようとしても、お前に会いたいと言って愚図ってばかりいてね。根負けしたわたしがこうしてガブリエルを連れてお前に会いに来たわけだ。」「まぁ、そうだったんですか。」ルドルフからガブリエルを受け取ろうとしたアレクサンドラだったが、ガブリエルは二人の間をすり抜け、大広間を駆けていった。「ガブリエル、走っては駄目よ!」アレクサンドラは慌ててガブリエルを追いかけたが、ハイヒールを履いている所為か中々ガブリエルを捕まえることが出来ない。 そんな母親の姿を見たガブリエルは、益々嬉しそうな顔をして大広間の中を走っていた。やがて彼は一人の青年にぶつかり、大理石の床に尻餅をついてしまった。「ガブリエル、大丈夫?」「うん。」「息子が大変失礼な事をして、申し訳ありません。」「いいえ、息子さんにお怪我がなくてよかった。」ガブリエルを抱き上げたアレクサンドラがそう言ってガブリエルとぶつかった青年に謝ると、彼はそう言ってアレクサンドラに微笑んだ。「ガブリエル、もう寝る時間よ。」「やだ、まだねたくない。」「駄目よ。」「いや~!」癇癪(かんしゃく)を起すガブリエルにアレクサンドラが手を焼いていると、そこへルドルフがやって来た。「ガブリエル、早く寝ないと大きくなれないぞ。」「ひとりでねむれないもん。」「そうか。じゃぁわたしと一緒に寝よう。」ルドルフはそう言ってガブリエルをあやしながら大広間から出て行った。「では、わたしはこれで。」「あの、出来ればお名前を・・」「ハマーン、こんな所にいたのか?」 流暢なドイツ語が突然背後から聞こえ、ガブリエルと青年が振り向くと、そこには美しい刺繍が施された民族衣装を纏った三十代前半と思しき男が立っていた。「兄上、貴方もこちらにいらしていたのですか。」「ハマーン、そちらの女性は誰だ?」「まだ貴方の名前をお聞きしていなかった。わたしはハマーン、シェリム王国第二王子です。こちらは兄の第一王子の、アラムです。貴方は?」「わたしはアレクサンドラ=エリザベート=ヘレーネ=フォン=ハプスブルク、ハプスブルク帝国皇女です。お初にお目に掛かります、ハマーン様、アラム様。」「美しい。決めた、お前を俺の妻にする。」 シェリム王国第一王子・アラムは、そう言うとアレクサンドラの唇を塞いだ。にほんブログ村
2016年04月11日
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奇妙な隣人の正体が次第に明らかになるにつれ、殺人事件の真相が明らかに。 なんというか、「火の粉」もそうだけれど、奇妙な隣人が実際居たら怖いですね。 身近に居そうな、善人の仮面を被った「悪人」ー読み終わった後、背筋に悪寒が走りました。
2016年04月10日
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後半に少し性描写有りです。苦手な方はご注意ください。 2018年1月、ウィーン。 この日、アレクサンドラの長男・ガブリエルは二歳の誕生日を迎えた。「ガブリエル様、お誕生日おめでとうございます。」「おめでとうございます。」 朝から廊下で擦れ違う女官や兵士達にそう言われても、幼いガブリエルはどうしてそんな言葉を彼らから掛けられるのかが解らず、小さな首を傾げていた。「おかぁたま、どうしてみんなおめでとうっていうの?」「それはねガブリエル、今日は貴方が産まれた日だからよ。」アレクサンドラは息子の小さな手を繋ぎ、エリザベート達が待つ部屋へと向かった。「おとぅたま!」部屋に入るなり、ガブリエルはアレクサンドラの手を振り解き、ルドルフの胸元へと飛び込んでいった。「ガブリエル、“お父様”ではなく、“お祖父様”と呼ばなくてはいけないでしょう?」「いいじゃないか。」アレクサンドラがすかさずガブリエルをそう窘(たしな)めると、ルドルフはそう言ってガブリエルの頭を撫でた。「随分と見ない間に大きくなったわね。そのお洋服は、誰に買って貰ったの、アレクサンドラ?」「おとぅたまから!」「“お祖父様から買って頂きました”でしょう?皇妃様、申し訳ありません、礼儀知らずな子で・・」「まだガブリエルは二歳なのだから、大目に見ておあげなさいな、アレクサンドラ。ガブリエル、貴方にお菓子を買って来たの。一緒に食べましょう。」「ありがとう。」「まぁ、可愛らしいこと。」エリザベートはガブリエルに頬擦りすると、彼のブロンドの髪を優しく梳いた。「ガブリエル、プレゼントは何が欲しいの?」「あかちゃん!」「まぁ、そうなの。」「ガブリエル、皇妃様を困らせてはいけません。」アレクサンドラは慌ててガブリエルをエリザベートから引き離すと、エリザベートに頭を下げた。「ガブリエル、どうして赤ちゃんが欲しいの?」「だってヤンネやマリーのところには、あかちゃんがいるもん。おかぁたま、ガブリエルもあかちゃんほしい。」「貴方が良い子にしていたら、赤ちゃんが貴方の元に来ると思うわ。」我が子にそう言われ、アレクサンドラはその場でそう言葉を濁すしかなかった。 その日の夜、アレクサンドラが寝室のドレッサーの前で肌の手入れをしていると、そこへルドルフがやって来た。「お父様、どうなさったのです、こんな時間に?」「夜這いに来たんだ。」ルドルフはアレクサンドラを背後から抱き締めると、彼女の乳房を夜着の上から揉んだ。「いけません、そんな・・」アレクサンドラがルドルフの愛撫を拒むと、彼は何処か拗ねたような表情を浮かべた。「お前は、わたしに抱かれるのが嫌なのか?」「いいえ、そういう訳ではありません。」「お前の気が乗らないのに、無理強いするのは良くないな。まぁ、今夜お前を抱かなくても、韓国に行けばチャンスは何度でもある。」「韓国、ですか?」「来月開催される平昌五輪に招待された。出発までにまだ時間はあるが、お前を韓国へ連れて行くことにした。」「そんな急にお決めにならなくても宜しいのに・・」「今までガブリエルの育児に掛かりきりになって、休む暇がなかっただろう?今回の公務は、その息抜きだと思ってくれればいい。」ルドルフはそう言うと、アレクサンドラを抱き締めた。「ガブリエルはどうなさいますか?」「あの子なら、母上が面倒を見てくれるそうだ。ガブリエルは母上によく懐いているし、心配ないだろう。」「そうですね。」アレクサンドラがそう言ってルドルフの方を見ると、彼はアレクサンドラの唇を塞いだ。 2月3日、アレクサンドラとルドルフはウィーンを発ち、韓国へと向かった。平昌市内のホテルで彼らを歓迎するパーティーが開かれ、二人が漸くパーティーから解放されたのは、その日の深夜だった。「これでは息抜きもあったものではないな。」「ええ。」 ホテルのスイートルームに入ったルドルフは、溜息を吐きながらネクタイを緩めた。アレクサンドラは、昼間大統領から贈られた韓国の伝統衣装チマ=チョゴリを着ていた。淡いクリーム色の上着と赤いスカートの組み合わせは、アレクサンドラの美しさを引き立てていた。「あの、お父様、おかしくはありませんか?」「いいや。良く似合っている。」ルドルフはそう言うと、アレクサンドラをベッドの上に押し倒し、上着の胸紐を解いた。「お父様・・」「やっと二人きりになれたんだ、いいだろう?」スカートの中にルドルフの手が潜り込み、自分の陰部を指先で愛撫するのを感じたアレクサンドラは、いつの間にか甘い声で喘いでいた。「もう濡れているじゃないか。」「そんな事、言わないでください・・」アレクサンドラはルドルフのネクタイを解き、彼が着ているシャツを脱がした。「そろそろ、頃合いか・・」ルドルフはそう呟くと、ズボンの前を寛がせ、自分の陽物をアレクサンドラの蜜壺に挿入した。「お前を抱くのは、二年振りだな・・」「お父様・・」 アレクサンドラは熱で潤んだ瞳でルドルフを見ると、彼はアレクサンドラの唇を激しく貪った。ルドルフが腰を揺らす度に、アレクサンドラが着ているスカートが衣擦れの音を立てた。「お父様、もう・・」「どうした、止めて欲しいのか?」アレクサンドラは首を横に振り、ルドルフの背中にしがみついた。「もっと、ください・・」「今夜は寝かせないからな。」ルドルフはそう言ってアレクサンドラに微笑むと、再び腰を揺らし始めた。 その夜、二人は何度も絶頂に達した。アレクサンドラが目を開けると、隣で寝ていた筈のルドルフの姿がなかった。彼は素肌にガウンを纏った姿のまま、窓から外の景色を見ていた。「お父様?」「見ろ、アレクサンドラ。昨夜降った雪が積もったようだ。」アレクサンドラがルドルフの隣に立って外を見ると、スキー場は雪で白く染まっていた。「まぁ、綺麗・・」「お前の方が綺麗だよ、アレクサンドラ。」ルドルフはそう言うと、アレクサンドラの唇を塞いだ。 平昌五輪が閉幕し、ルドルフ達が韓国からウィーンに戻ると、空港までエリザベートと共に迎えに来ていたガブリエルが二人に駆け寄って来た。「ガブリエル、ただいま。良い子にしていた?」「おとぅたま!」「甘えん坊だな、ガブリエルは。母上、わざわざ出迎えに来てくださって有難うございます。」「いいのよ。」 二人が韓国から戻って来て数ヶ月後、アレクサンドラは十八歳の誕生日を迎えた。「成人おめでとう、アレクサンドラ。」「有難うございます、お父様。」華やかなドレスに身を包んだアレクサンドラがルドルフと共にバルコニーへと向かおうとした時、彼女は突然激しい吐き気に襲われ、その場に蹲(うずくま)った。「アレクサンドラ、どうした?」「いいえ、何でもありません。」にほんブログ村
2016年04月10日
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海辺の田舎町で起きた不審死事件と、東京で起きたホステス殺人事件ー接点がなかった二つの事件が繋がった時、家族の秘密が明らかになるまでの過程が、見事に描かれていました。 それよりも、子供嫌いの湯川が恭平とロケットを飛ばしたり、夏休みの宿題を手伝ってあげたりする姿を想像すると何だか頬がゆるみました。 物語は中盤から急展開し、二つの事件の真相と、成美の出生の秘密が明らかになり、その結末に驚愕しました。 恭平はこの作品ではキーパーソンですが、彼の呟きがズシンと胸にきました。
2016年04月10日
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「エルジィ様、どちらにいらっしゃいますか~!」「エルジィ様~!」 廊下から聞こえる女官達の慌てふためいた声を聞いたアレクサンドラが部屋から出ると、そこには廊下を右往左往する彼女達の姿があった。「貴方達、どうしたの?」「アレクサンドラ様、エルジィ様のお姿が見えないのです。」「いつから?」「皇太子様をお見送りした時からです。」「アレクサンドラ様、どちらへ?」「バート・イシュルに向かいます。支度をして頂戴。」「かしこまりました。」 一方、バート・イシュルの城館に到着したルドルフが車のトランクに積んでいたスーツケースを下ろした時、それがとてつもなく重い事に気づいた。 まるで、人が入っているかのような重さだ―ルドルフがそう思いながらスーツケースを開けると、そこにはじっとこちらを見つめている愛娘の姿があった。「エルジィ、どうしてお前がここに居るんだ?」「ごめんなさいお父様。だってお父様がバート・イシュルへ行かれたら、暫く会えないと思って、寂しくて・・」「お前の気持ちは解るが、危ないことをしてはいけないよ、エルジィ。今回はわたしが気づいたからいいものの、スーツケースの中に入るのは危ない事なんだ。だから、こんな危ない事を二度としてはいけないよ、解ったね?」「解りました、お父様。もう二度とこんな危ない事はしません。」エルジィがそう言ってルドルフを見ると、彼はエルジィに優しく微笑み、彼女を抱き上げた。「エルジィ、この事はアレクサンドラお姉様達には言ったのか?」ルドルフの問いに、エルジィは首を横に振った。「エルジィ、暫くここで待っていなさい。」「解ったわ、お父様。」 ルドルフが溜息を吐きながらエルジィを自室で待たせ、ロシェクの姿を探していると、廊下の向こうからアレクサンドラの声が聞こえて来た。「ロシェクさん、エルジィは何処なの?」「申し訳ございません、わたくしにはわかりかねます・・」「アレクサンドラ、お前どうしてここに居る?」「お父様、エルジィがこちらに来ていませんか?今朝女官達がエルジィの姿を探していたので、もしやと思って・・」「エルジィなら、わたしの部屋に居る。どうやら車が発車する前に、スーツケースの中に隠れてウィーンからここまでついてきたようだ。」「あの子ったら、そんな危険な事をして・・」そう言って眦を上げて溜息を吐くアレクサンドラの姿を見ながら、ルドルフはおかしくなってつい笑ってしまった。「お父様?」「済まない、お前がそう言った時の顔が、姉の顔ではなく母親の顔のようだったから、つい・・」「お父様ったら、ふざけないでください。」ルドルフの肩を軽く小突いたアレクサンドラは、彼と共にエルジィの元へと向かった。「アレクサンドラお姉様、心配を掛けてしまってごめんなさい・・」「エルジィ、無事で良かったわ。ねぇ、どうしてスーツケースの中に入ったりしたの?」「だって、お父様と一緒に行きたいって言ったら、お父様とお姉様を困らせてしまうからと思って・・」「だから、黙ってスーツケースの中に隠れたの?」アレクサンドラは腰を屈め、エルジィにそう尋ねると、彼女は静かに頷いた。「エルジィは寂しかったのよね?だから、お父様と一緒にイシュルへ行きたかったのね?」アレクサンドラがそう言うと、エルジィは彼女に抱きついて大声で泣いた。「エルジィ、これからはわたしが貴方のお母様の代わりをするからね。貴方に寂しい思いはさせないわ。」 アレクサンドラは自分の胸に顔を埋めて泣きじゃくっているエルジィの頭を優しく撫でた。 その日の夜、エルジィが寝室のベッドで熟睡していることを確かめたアレクサンドラは、彼女の寝室から出てルドルフの部屋へ向かった。「お父様、まだ起きていらっしゃいますか?」「ああ、入れ。」「失礼いたします。」 アレクサンドラが部屋に入ると、ルドルフは執務机の前に座ってノートパソコンのキーボードを叩いていた。「こんな時間までお仕事を?静養に来たのではなかったのですか?」「そうしたいのは山々だが、いざ休もうとすると落ち着かなくてね。仕事中毒(ワーカホリック)なのかな?」ルドルフはそう言って苦笑すると、アレクサンドラの方を見て彼女の唇を塞いだ。「エルジィは、もう寝たか?」「ええ。お気に入りの絵本を読んであげたら、五分で眠ってくれました。」「エルジィの寝かしつけが終わったから、今度はわたしの番か?」「まぁ、そういうことです。」「そうか。」ルドルフはアレクサンドラの乳房を服の上から揉むと、彼女は甘い声で喘いだ。「お父様、こんな所では・・」「わかっている。」 アレクサンドラを抱き上げ、ルドルフは寝室に入ると、アレクサンドラを寝台の上に押し倒した。 出産してから数週間しか経っていないが、アレクサンドラの体型は妊娠前と少しも変わらなかった。「そんなに見ないでください、恥ずかしいです。」「別にいいだろう、減るものでもないし。」ルドルフがそう言ってアレクサンドラの胸に顔を埋めようとした時、ガブリエルの泣き声が廊下から聞こえて来た。「甘い時間は当分お預けだな。」「申し訳ありません。」「謝ることはない。ガブリエルのおむつ替えや風呂を入れたりは出来るが、こればかりはお前にしか出来ない事だ。」「では、これで失礼します。」 アレクサンドラが寝室から出て行った後、ルドルフは溜息を吐いて寝台に横になり、欲望の炎で熱くなっている下半身へと手を伸ばした。素材提供サイト様にほんブログ村
2016年04月10日
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「それで、君はこれからどうするつもりだ?」「シュティファニーとは離婚するつもりです。あんな事があった以上、彼女はわたしとはもう一緒に暮らしたくないでしょうから。」「馬鹿な事を言うな!君の所にシュティファニーを嫁がせたのは、同盟を結ぶためだ!」「貴方、落ち着いてくださいませ。シュティファニーにとって、皇太子様との離婚が一番の最善策の筈・・」「黙れ!国家の事を何も解っていない女が偉そうにわたしに意見するな!」「申し訳ありません・・」 夫からそう怒鳴られたマリー=アンリエットは、そう言って俯いた。「皇帝陛下、貴方も皇太子様と同じ思いなのですか?」「それは・・」「陛下、皇太子妃様の意識が戻りました。至急病院へおいでください。」「解った。ルドルフ、離婚の事はお前の口からシュティファニーに伝えろ。」「はい、陛下。」「待て、わたしは離婚など認めんぞ!」レオポルド二世はそうルドルフに怒鳴って部屋から出て行こうとする彼の肩を掴もうとした時、突然視界が歪んでその場に蹲った。「貴方、しっかりなさって!」「誰か、医者を呼べ!」 怒りの余り、レオポルド二世は血圧が上がって失神してしまったのだった。「陛下、申し訳ありません。」「謝るのはこちらの方です。」ルドルフを先に病院に行かせたフランツは、そう言ってマリー=アンリエットに向かって頭を下げた。「皇太子様はもう病院に?」「ええ、向かわせました。今頃、離婚についてシュティファニーに彼が話しているところでしょう。」「一体どうして、こんな事になってしまったのでしょう?わたしはあの子の結婚には反対していました。ですが主人が強引に縁談を進めてしまって、あの子はわたしと同様、不幸な結婚生活を送ってしまうことになるなんて・・」そう言ってさめざめと泣くマリー=アンリエットに、フランツは掛ける言葉がなかった。 同じ頃、ルドルフはシュティファニーが入院している病院へと向かった。「皇太子様、こちらです。」侍従に案内され、ルドルフが、シュティファニーの病室の中に入ろうとした時、中から何かが割れる音が聞こえた。「落ち着いてください!」「嫌よ、死なせて~!」「誰か、先生を呼んで来て!」 ドアの扉の隙間越しに見えたシュティファニーは暴れ狂い、数人の看護師達によってベッドの上に押さえつけられていた。「わたしは生きていたくなんてないの、わたしを死なせて~!」 やがてシュティファニーの主治医がルドルフの脇を通り抜けて病室の中に入ると、興奮して暴れているシュティファニーに鎮静剤を打った。「先生、妻は一体どうなっているのですか?」「皇太子様、大変申し上げにくいことですが、皇太子妃様は精神のバランスを大きく崩されて、大変不安定な状態になっております。このままだと、退院は見送らなければなりません。」「いつ妻は良くなりますか?」「それは、わたしにも解りかねます。」彼はそう言ってルドルフに頭を下げると、その場から去っていった。「ルドルフ、シュティファニーには会えたか?」「いいえ。主治医の話だと彼女は精神のバランスを大きく崩して、退院をするのは当分無理だろうと・・」「そうか。離婚の手続きはわたしがする。お前は養生しろ、いいな?」「はい、父上。」 【皇太子夫妻、離婚秒読みか!?】 一週間前、王宮内の自室で自殺を図ったシュティファニー皇太子妃は昨日入院先の病院で意識を取り戻したものの、精神のバランスを大きく崩してしまっているため、退院の目処が立っていない状態だという。 その現場に居合わせた看護師が、我々の取材に応じてくれた。「彼女が目を覚ますと、意味不明な言葉を叫びながら手辺り次第に物を破壊し、近くに居た同僚に暴力を振るいました。」 シュティファニー皇太子妃の精神状態が心配される中、ルドルフ皇太子は彼女との離婚手続きを進めているという噂が王宮内で流れている。シュティファニー皇太子妃が何故自殺を図ったのか、その原因は未だに明らかになっていない。しかし、皇太子妃付きの女官は、主の自殺未遂の原因について我々にこう語った。「皇太子様との愛のない結婚生活に疲れ果てて絶望してしまったのではないかと思います。皇太子様は女性とのお噂が絶えない方ですし、女性の噂を聞くたびに皇太子妃様がヒステリーを起こしていましたから。」 離婚騒動について、皇太子側は一切コメントを発表していない。もし皇太子夫妻の離婚が成立すれば、彼らの一人娘であるエリザベート皇女の親権はどちらが取るのか―今後の動きに注目したい。(週刊パレス 2016年2月10日号) 皇太子夫妻の離婚騒動が報道されてから、ルドルフはマスコミを避けてウィーンを離れ、バート・イシュルで静養に入った。「お父様、お気をつけて。」「アレクサンドラ、わたしが留守の間、エルジィの事を頼む。」「はい、解りました。」 ルドルフがバート・イシュルへと向かう日の朝、アレクサンドラはエルジィと共に彼を見送った。「アレクサンドラ姉様、お父様はきっとわたし達の所に帰って来る?」「ええ、帰って来るわよ。」にほんブログ村
2016年04月06日
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「わたしに客だと?それは誰だ?」「皇太子様にお会いしたいとだけおっしゃって・・どうなさいますか?」「体調が悪いと言って嘘を吐き、客を帰せ。」「かしこまりました。」 忠実な侍従・ロシェクはそう言うとルドルフの私室から出た。仕事の邪魔をされない為に執務室のドアに内側から鍵を掛け、執務机の前に座ったルドルフが報告書に目を通していると、突然彼は息苦しさを感じた。過労とストレスの所為か最近発作が度々起きることがあった。ルドルフは呻きながら引き出しから吸入器を取り出そうとしたが、何故かいつも置いてある場所にそれはなかった。呼吸が出来ず、助けを呼ぶこともままならない中、ルドルフの執務室のドアを誰かが叩く音が聞こえた。「お兄様、いらっしゃる?」外から聞こえて来たのは、ヴァレリーの声だった。「ロシェク、本当にお兄様はこちらにいらっしゃるの?」「はい、間違いございません。」「鍵が掛かっているわ。ロシェク、鍵を。」ドアの鍵穴がカチャリと回る音とともに、ロシェクとヴァレリーが慌てた様子で部屋から入ってくる姿をルドルフは蒼褪めた顔で見た。「お兄様、しっかりなさって!」「誰か、侍医を呼べ!」「お兄様、わたしが誰だか解る?」ヴァレリーの問いに、ルドルフは静かに頷き、意識を失った。「ストレスの所為で発作が酷くなったのでしょう。暫く安静にしていてください。」 侍医のヴィーダーホーファー博士からそう告げられたルドルフは、気怠そうな様子で枕に頭を預けた。「お父様、アレクサンドラです。」「入れ。」 寝室にガブリエルを抱いたアレクサンドラが入って来ると、ルドルフは寝台から上体を起こして二人を見た。「喘息の発作を起こされたとヴァレリー様から聞きました。もう大丈夫なのですか?」「ああ。だが暫く安静にしていろと侍医から言われた。わたしが過労で倒れたという事をマスコミが知ったら、彼らは益々活気づくだろうな。」「お父様、今は何も考えずに、ゆっくりと休んでくださいませ。」「ガブリエルはもう寝ているのか?」ルドルフがアレクサンドラからガブリエルへと視線を移すと、彼は母親の腕の中で寝息を立てていた。「ええ。ヴァレリー様とエルジィにさっき沢山遊んでもらったので、疲れてしまったのでしょうね。」「そうか。なぁアレクサンドラ、この子は将来どんな風に育つんだろうな?」「さぁ、それはわたし達にも解りません。」ルドルフが眠っているガブリエルの手を握ると、小さな彼の指はルドルフの中指を力強く掴んだ。「赤ん坊は、いつ見ても飽きないな。アレクサンドラ、今すぐとは言わないが、暫くしたら二人目を・・」「まぁ、お父様ったら。そのような事をおっしゃっているのでしたら、もう元気そうですね。」アレクサンドラがクスクス笑いながらルドルフの方を見ると、彼も笑顔を浮かべていた。「皇太子様、失礼致します。」「素性が判らぬ客は追い返せと言った筈だ。何度も同じ事を言わせるな。」侍従から来客を告げられたルドルフが不機嫌そうな口調でそう言うと、彼はどこか気まずそうな表情を浮かべていた。「どうした、何かあったのか?」「実は、ベルギーから国王夫妻がいらしており、今回の事で皇太子様から詳細を伺いたいとおっしゃって・・」「解った。国王夫妻にはわたしが会おう。」「お父様、大丈夫なのですか?さっき倒れたばかりだというのに・・」「大丈夫だ。」 ルドルフが侍従と共に部屋から出て行くと、アレクサンドラは彼の事が心配になり彼の後を慌てて追った。「ルドルフ、来たのか。」「父上、国王夫妻はどちらに?」「国王夫妻なら、隣の部屋にいらっしゃる。ルドルフ、顔色が悪いぞ。発作で倒れたばかりだというのに、国王夫妻に会うのは止めておいた方がいいのではないか?」 フランツはそう言うと、息子を慮(おもんばか)った。 シュティファニーの両親であるベルギー国王・レオポルド二世とその妻・マリー=アンリエットはルドルフの義理の両親に当たるが、ルドルフは一度も彼らと会うことはしなかった。 アフリカの小国を己の私有地にし、そこから大量のダイヤモンドを輸入しているレオポルド二世がかの国で犯した悪行の数々をルドルフは知っているだけに、舅に対して彼は嫌悪感しか抱かず、レオポルド二世もまた自由主義や民主主義にかぶれ、ハンガリー独立運動を支援している義理の息子を心底嫌っていた。 その憎い義理の息子の所為で娘が自殺未遂を図った事を知り、レオポルド二世は妻を伴って遠路遥々ベルギーからやって来たのである。「国王夫妻が遥々ベルギーからやって来たのは、直接わたしに文句を言わなければ気が済まないからでしょう。どんな誹りもわたしは受けとめるつもりです。」「そうか。だがルドルフ、わたしはお前が心配だ。わたしも国王夫妻と会うことにしよう。」 フランツとルドルフが国王夫妻の待つ隣室に入ると、ルドルフの姿を見たレオポルド二世は勢いよくソファから立ち上がり、拳でルドルフを殴った。「貴様、よくもシュティファニーを殺そうとしたな!」「落ち着いてくださいませ、陛下!」「うるさい、お前は黙っていろ!」 怒りで興奮している夫を宥めようとした妻を邪険に振り払ったレオポルド二世は、ルドルフに向かってありとあらゆる汚い言葉で彼を罵倒した。 だがルドルフは一切舅に対して反論しなかった。「どうか陛下、気をお鎮めになってください。ルドルフも今回の事については深く反省しております。」フランツはそう言うと、舅に殴られ床に倒れているルドルフを助け起こした。にほんブログ村
2016年04月06日
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その日の午後、退院したアレクサンドラがガブリエルを抱きながらルドルフと共に病院から出て来ると、カメラの眩いフラッシュが二人を襲った。「アレクサンドラ様、出産おめでとうございます!」「未婚の母となったお気持ちをお聞かせください!」「赤ちゃんのお父さんは誰ですか?」 矢継ぎ早に無遠慮な質問を投げつけて来る記者達に対して、アレクサンドラとルドルフは無視して正面玄関に待たせてあった車に乗り込んだ。「お帰りなさい、アレクサンドラ。」「皇妃様、大変ご無沙汰しております。」 王宮へと戻ったアレクサンドラは、ハンガリーから帰って来たエリザベートにそう挨拶すると、彼女は朗らかな声で笑った。「まぁ、可愛らしいこと。本当に天使のような可愛い赤ちゃんね。」「ええ、本当に。」「皇太子様が赤ちゃんだった頃にそっくりですわ。」「将来は聡明な御子に育つことでしょうね。」エリザベートがそう言ってガブリエルを抱くと、彼女の周囲に控えていた女官達も目を細めながらガブリエルを見た。その時、ガブリエルが大きな声で泣き始めた。「まぁ、どうしたのかしら?」「きっとおむつが濡れて気持ちが悪いのでしょう。母上、ガブリエルをわたしに。」「ええ、解ったわ。」エリザベートからガブリエルを渡されたルドルフは、慣れた手つきで彼をベビーベッドに寝かせ、濡れたおむつから新しいおむつに替えた。「まぁルドルフ、かなり慣れているのね?」「皇太子様は、ガブリエル様がお生まれになってから、病院で開催されている育児教室に参加されておられたのですよ。」「ガブリエル様は皇太子様にとって初孫ですから、ご自分でガブリエル様のお世話を為さりたいのでしょうね。」 女官達の話を聞いたエリザベートは、嬉しそうに笑いながらルドルフの方を見ると、彼は羞恥で顔を赤くしていた。「ルドルフ、これからはアレクサンドラの事を助けてやって。」「解りました、母上。」「皆様、昼食の準備が整いました。」「アレクサンドラは何処かしら?さっきから姿が見えないけれど。」「きっとエルジィの所でしょう。わたしが呼んで来ます。」ルドルフがそう言って家族が集まっている部屋から出て、静まり返った廊下を歩き出した。 愛娘が居る部屋へとルドルフが向かい、ドアを開けようとした時、ヒステリックな妻の声が中から聞こえて来た。「何て汚らわしい!夫をその若い肉体で誘惑しただけではなく、彼の子を孕んで産むなんて、恥を知りなさい!」「皇太子妃様、わたくしは・・」「言い訳なんて聞きたくないわ!貴方はわたくしが持っている全ての物を奪い取ろうとしているのでしょう!」 アレクサンドラの悲鳴が聞こえたので、ルドルフは堪らずドアを開けて部屋の中に入った。 すると、そこにはアレクサンドラに馬乗りになってナイフを彼女の頭上に振り翳そうとしているシュティファニーの姿があった。「やめろ、シュティファニー!」「何をするのよ、離して!」ルドルフはシュティファニーがナイフを握っている方の腕を掴んで素早くナイフを叩き落とした。「アレクサンドラ、怪我はないか?」「はい・・」「貴方、邪魔をしないでよ!この女は・・」「目を覚ませ、シュティファニー!」ルドルフがシュティファニーの頬を平手打ちすると、彼女は意味不明な叫び声を発しながら部屋から出て行った。「エルジィは何処に居る?」「エルジィなら、さっき世話係の女官と一緒に皇妃様達が待つお部屋に行きました。」「そうか。」 ルドルフがアレクサンドラと共にエリザベート達が待つ部屋へと戻ると、マリア=ヴァレリーが二人の元に駆け寄って来た。「アレクサンドラ、義姉上様と一体何があったの?」「エルジィを呼びに行こうとした時、突然皇太子妃様が訳の分からない事を叫んで、わたしを罵倒したんです。わたしは彼女を落ち着かせようとしたのですが・・」「お義姉上様は今、どちらにいらっしゃるの?」「わからない。だがあいつが精神を病んでいる事は確かだ。」 ルドルフがそう言って溜息を吐いた時、女官の悲鳴がシュティファニーの部屋から聞こえて来た。「どうした?」「皇太子様、皇太子妃様が・・」ルドルフがそう女官に尋ねると、彼女は震える手で浴室の方を指した。 ルドルフが浴室のドアを開けると、シャワーフックから首を吊ったシュティファニーの姿がそこにあった。「誰か、救急車を呼べ!」「お母様、お母様!」「エルジィ、見ては駄目よ!」 ヴァレリーは母親の元に駆け寄ろうとするエルジィを自分の方へと抱き寄せた。「何ということでしょう、皇太子妃様が自殺されるなんて・・」「まだ彼女が死ぬと決まった訳ではない。この事は口外するな、解ったな?」ルドルフがそう言って女官を睨むと、彼女は慌てて部屋から出て行った。 王宮に救急車が到着し、シュティファニーは病院に搬送され一命を取り留めた。彼女が自殺未遂をした事は厳しい箝口令(かんこうれい)が敷かれ外部に漏洩する事はなかった。 しかし、マスコミはシュティファニーが入院している病院を突き止め、彼女が自殺未遂をした原因を探ろうとしていた。「全く、何処までも鬱陶(うっとう)しい連中なんだ!」 ルドルフはそう叫ぶと、腹立ち紛れに執務机を拳で叩いた。「皇太子様、お客様がお見えです。」にほんブログ村
2016年04月06日
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アレクサンドラが出産したという知らせを受けたルドルフは、翌朝早く視察先のプラハから彼女が入院している病院へと駆けつけた。「皇太子様。」「アレクサンドラと赤ん坊は無事か?」「ええ、母子ともに健康ですわ。今は授乳の時間で病室に・・」「有難う、ヘレーネ。」ルドルフはヘレーネに礼を言うと、アレクサンドラが居る病室へと向かった。「アレクサンドラ、入るぞ。」「お父様、どうぞ。」 ルドルフが病室に入ると、アレクサンドラは産まれたばかりの息子に母乳を与えていた。「大事な時に、わたしが傍に居てやれなくて済まなかった。」「いいえ。それよりもこんな朝早くにいらっしゃらなくても宜しかったのに。」アレクサンドラがそう言ってルドルフの方を見ると、彼は彼女に背を向けて立っていた。「どうかなさいましたか?」「いや、来るタイミングが悪かったと思って・・」「もう授乳は済みましたから、こちらを向いてください。」ルドルフがアレクサンドラの方を見ると、彼女は母乳を飲み終えた赤ん坊の背を叩いてゲップをさせていた。「その子を抱かせてくれないか?」「ええ、どうぞ。」ルドルフがそっと赤ん坊を抱くと、そこからは生命と母乳の匂いがした。「可愛いな、まるで天使のようだ。」「出産に対して色々と悩んでいましたが、もうそんなものはこの子を産んだ後に全てなくなりました。」「そうか。それよりもアレクサンドラ、この子の名前は決めたのか?」「いいえ、まだ決めておりません。お父様は?」「ガブリエルというのはどうだ?天使のように可愛らしいこの子に相応しい名前だとは思わないか?」「良い名ですね。」【アレクサンドラ皇女、男児出産する】 今月30日未明、切迫早産で入院していたアレクサンドラ皇女が3700グラムの元気な男児を出産した。母子ともに健康で、アレクサンドラ皇女は退院後、実家で育児に専念する予定だという。 産まれた赤ちゃんは、ガブリエルと名付けられた。(週刊宮廷2016年2月3日号) アレクサンドラがガブリエルを出産してから一週間が経った。「まぁ、可愛らしい事。」「目元なんてルドルフそっくりね。」「本当。将来、あの子みたいに女泣かせのプレイボーイに育つのかしら?」「それはありませんわ、ジゼル様。わたしがちゃんとこの子を育てますから。」 見舞いにやって来たジゼルとそんな話をアレクサンドラがしていると、彼女の腕の中で眠っていたガブリエルが目を覚まし、大声で泣き始めた。「あら、どうしたのかしら?おっぱいはさっきあげたし、おむつも替えたのに・・」「きっと自分の悪口を言われたことに気づいて怒っているのよ。」「何やら騒がしいと思えば、姉上がいらしていたのですか。」病室のドアが開き、少し不機嫌そうな顔をしたルドルフがそう言ってジゼルを見た。「あらルドルフ、わたしが居ると嫌なの?」「いいえ。そのような事は・・」「さっきガブリエルから聞いたけれど、貴方最近インターネットでおむつの替え方や赤ちゃんの抱き方とかを調べているのですって?エルジィの時は乳母達に任せっきりだったのに、初孫となると全然違うのねぇ。」「何をおっしゃいます、姉上。それよりもこんな所に居て大丈夫なのですか?」「ああ、子供達ならレオポルトが見ているから大丈夫よ。たまには実家に帰ってのんびりして来いって言われたから、来たのよ。」バイエルン王家に嫁いだジゼルは、夫・レオポルトとの間に四人の子供を儲けており、二人の夫婦仲の良さはウィーンの宮廷でも知られていた。 ルドルフは、子供の頃から気が強く豪胆な性格の姉に対して頭が上がらなかった。「ねぇルドルフ、アレクサンドラは退院したらアッヘンバッハ家に滞在するのでしょう?暫くガブリエルと会えないから、寂しくない?」「いいえ、ちっとも。」「ガブリエルは貴方に似た男の子だから、将来は女泣かせのプレイボーイに育ってしまうのかしらねぇ。」「姉上、ご冗談を・・」「まぁ、アレクサンドラがしっかりとガブリエルを育てるって言っていたから、貴方のようにはならないと思うわ。」ジゼルからそう言われたルドルフは、ぐうの音も出なかった。「すっかりジゼル様にやり込められてしまいましたね、お父様。」「うるさいぞ、アレクサンドラ。」「さてと、わたしはもう行くわね。この後、ヴァレリーと久しぶりにランチをするのよ。」 ジゼルはそう言うと、嵐のように二人の前から去っていった。「ジゼル様は何だか慌ただしい方ですね。」「姉上の事は余り気にするな。あの人は、いつもあんな感じだ。アレクサンドラ、それは何だ?」「あぁ、これはジゼル様から頂きました。」アレクサンドラはそう言うと、ジゼルから贈られたマカロンを箱ごとルドルフに手渡した。「姉上がお前の病室に長く居座っていたのは、これを食べる為だったんだな・・」箱に入っているマカロンが半分以上無くなっている事に気づいたルドルフがそう言って溜息を吐くと、アレクサンドラはクスクス笑いながら彼を見た。「何が可笑しい?」「いいえ。お父様とジゼル様は、仲が良いのだなぁと思って・・」「何処がだ。」にほんブログ村
2016年04月06日
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毎週土曜夜に放送開始された「夜ドラ」。原作小説は数回読んだので、ストーリーはある程度把握していましたので、どんなドラマになるのか録画して翌日に1話を観ました。もう、ユースケ・サンタマリアの演技が怖い。これに尽きます。ある事件で無罪判決を受けた男を演じているのですが、何となく彼の笑顔に裏がありそうな陰のある演技がいい。現実に起こりそうな事件、現実に居そうな「善良な人間」の皮を被った悪魔(サイコパス)。何だかドラマを観た後、バウムクーヘンを食べたくなったのはわたしだけでしょうか?
2016年04月04日
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「いいえ、貴方がこのようにわたしの事を気に掛けてくれるのは大変珍しいなと思っているところです。」そう言ってエリザベートを見つめたルドルフの瞳は、冷たい光を湛えていた。「母上、わたしはアレクサンドラに自分の子を産ませます。ハプスブルク家の優秀な遺伝子を継いだ子を、彼女にはどうしても産んで貰わないといけません。」「狂っているわ、ルドルフ。アレクサンドラを傷つけるような事はやめて。」「わたしを狂わせたのは母上、貴方でしょう?」ルドルフはそう言うと、蒼褪めているエリザベートを睨んだ。「今までわたしを蔑ろにしてきた癖に、実の孫娘の事となると我が身のように心配為さるのですね?」「そ、それは・・」「これはわたしとアレクサンドラが決めた事です。ですから母上、わたし達の関係は誰にも口外なさらないでください。」ルドルフはエリザベートに背を向け、病室から出て行った。「皇太子様、もう皇妃様とのお話は終わられたのですか?」「ヘレーネ、君は何処まで知っているんだい?」「皇太子様?」「君はアレクサンドラが腹に宿している子の父親が誰なのか、知っているんだろう?知っていて、あの人をここへ呼んだのか?」「いいえ、わたしは何も知りません。誤解です、皇太子様。」「そう・・手荒な真似をして済まなかったね。」ルドルフはそうヘレーネに詫びると、彼女の首から両手を放した。「皇妃様、入りますよ?」「ヘレーネ、わたしはもう間に合わないかもしれないわ。」 ヘレーネが病室に入ると、エリザベートが蒼褪めた顔を彼女に向けてそう言った後、床に崩れ落ちた。「一体皇太子様と何があったのですか、皇太子様?」「ヘレーネ、今からわたしが話す事を、落ち着いて聞いて頂戴ね・・」エリザベートは、ヘレーネの耳元でアレクサンドラのお腹の子の父親が誰なのかを告げた。「お母様、皇妃様は?」「アレクサンドラ、起きたのね?」アレクサンドラが目を開けると、ヘレーネが自分の手を握っていた。「皇妃様なら、先程お帰りになられたわ。それよりもアレクサンドラ、貴方は皇太子様とどういった関係なの?」「何故、そんな事を聞くの、お母様?」「ちょっと気になってしまっただけよ、ごめんなさい・・」「もしかして、わたしが皇太子様の子を妊娠している事を知ってしまったの?」ヘレーネの態度に不審を抱いたアレクサンドラが、彼女にそんな事を尋ねると、彼女は手に持っていた水差しを床に落としてしまった。「アレクサンドラ、貴方は無理矢理皇太子様に抱かれたの?もしそうだとしたら・・」「いいえ、お母様。わたしは、自ら望んであの方に抱かれたの。決して許されない事だと解っているけれど、わたしはこの子をどうしても産みたいの。」「そう・・貴方はもう、覚悟を決めているのね。」ヘレーネはそう言うと、アレクサンドラを優しく抱き締めた。「わたしは、母親として全力で貴方を支えるわ。だからアレクサンドラ、今はお腹の赤ちゃんの事だけを考えて。」「有難う、お母様。」 十四週間後、臨月を迎えたアレクサンドラは、徐々に近づいて来る出産に対する不安と恐怖を抱きながら入院生活を過ごしていた。「アレクサンドラ、いよいよね。」「ええ、皇妃様。でも、わたし良い母親になれるでしょうか?」「大丈夫、みんな最初から良い母親にはなれないし、わたしだって良い母親だとは言えないわ。大切なのは、子供を愛する心よ。」「有難うございます、皇妃様。」エリザベートからそう励まされ、アレクサンドラは大きく迫り出した下腹を擦った。「皇妃様、そろそろ出発為さいませんと。」「ええ、解っているわ。」「皇妃様、また旅へ出掛けられるのですか?」「ゲデレーよ。アレクサンドラ、子供が産まれたらまたウィーンに戻って来るわ。」「お気をつけて。」エリザベートはアレクサンドラの髪を優しく梳き、彼女の頬にキスすると病室を後にした。 その日の深夜、アレクサンドラは急に下腹の張りが強くなるのを感じてナースコールを押した。「どうされましたか?」「お腹の張りがいつもよりも強くて・・先生を呼んで来てください。」「解りました。」 数分後、看護師を連れた医師がアレクサンドラの病室に入ると、彼女はベッドの上で苦しそうに呻いていた。「子宮口が少し開いていますね。このまま陣痛室まで移動しますよ。」「はい・・」看護師に連れられ、病室から出て陣痛室へと移動したアレクサンドラだったが、その途中で下腹に強い痛みを感じて思わず蹲ってしまった。「先生、破水しました!」「大丈夫よ、リラックスして。」看護師達に優しく励まされながらアレクサンドラが呼吸を整えていると、病院から連絡を受けたヘレーネが分娩室に入って来た。「アレクサンドラ、わたしがついているわよ。」「お母様・・」「あと少しですよ、頑張って~!」 2016年1月30日未明、アレクサンドラはウィーン市内の病院で元気な男児を出産した。「やっと会えた・・」 元気な産声を上げる我が子の姿を見たアレクサンドラは、産みの苦しみを忘れて涙を流した。にほんブログ村
2016年04月04日
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「今日は、貴方達二人に話したいことがあって来たのよ。」「まぁ、何のお話でございますか、皇妃様?」ヘレーネがエリザベートに尋ねると、彼女はアレクサンドラの方を見てこう言った。「貴方の赤ちゃんの為に買った大量のベビー用品を、慈善団体に寄付しようと思っているの。」「まぁ、それは素晴らしいですわ。」アレクサンドラがそう言ってエリザベートに同意すると、彼女はアレクサンドラの下腹を優しく撫でた。「それに、十代の母親達を支援する団体を立ち上げようと今考えているのよ。そのお手伝いを、貴方達にやって貰いたくて来たの。」「まぁ、素晴らしいですわ。是非ともお手伝いさせて頂きます。」「有難う、ヘレーネ。貴方が傍に居れば、アレクサンドラも安心して出産できるでしょう。王宮は、何かとストレスが溜まるところだから、実家で出産して育児に専念した方がいいわ。」 かつて末娘であるマリア=ヴァレリー以外の、三人の子達を姑から取り上げられた経験を持つエリザベートは、そう言ってコーヒーを一口飲んだ。「皇妃様、最近よくウィーンに戻られていらっしゃるとお聞きしましたが?」「アレクサンドラの事がどうしても心配で、旅行どころじゃないの。旅先でも、貴方の赤ちゃんへのお土産をつい大量に買ってしまって、いつもリヒテンシュタイン伯爵夫人に怒られてしまうのよ。それに、ルドルフが貴方の事をいつも心配していて、貴方の様子を見に行ってくれと煩く言うものだから、無視できなくて・・」そう言って朗らかな笑みを浮かべているエリザベートの美しい横顔を見ながら、ヘレーネは静かに彼女の話を聞いていた。「皇太子様が、そのような事を皇妃様におっしゃったのですか?」「ええ。あの子にとっては初孫だから、気になって仕方がないのは解るわ。これを機に、あの子との関係が良くなればいいのだけれど。」「まぁ、皇妃様・・」 宮廷で働いていた頃、エリザベートとルドルフの冷めた親子関係を知っているヘレーネは、アレクサンドラの妊娠を機に二人の関係が改善される事を密かに願っていた。 だが、血を分けた親子という複雑怪奇で濃密な人間関係は、一度拗らせてしまうと中々元には戻らないものであった。 アレクサンドラの妊娠を知り、エリザベートは彼女の様子を見に、以前より頻繁にウィーンへと戻り王宮に滞在するようになっていたが、相変わらず公務を欠席するエリザベートに対し、ルドルフは余り良い感情を抱いていなかった。それに加えて、勤勉で公務に励んでいる嫁であるシュティファニー皇太子妃との軋轢(あつれき)があるエリザベートは、初孫であるエルジィには会いには来るが、皇太子夫妻の元を一度も訪ねることはしなかった。「貴方が羨ましいわ、ヘレーネ。十五年間も生き別れて離れ離れになっていたとはいえ、母と娘がこんなにも仲良く暮らしているのだもの。わたしは一体何処でどうルドルフとの関係を間違えてしまったのかしら・・」そう言って遠い目で何処かを見つめて溜息を吐くエリザベートの肩に、そっとヘレーネは自分の手を置いた。「皇妃様、今からでも間に合いますわ。だからそう悲観なさらないでください。」「そうね。ヘレーネ、後で貴方と二人きりで話がしたいのだけれど、いいかしら?」「ええ。」「お母様、少し部屋で休んでも宜しいでしょうか?少しお腹が張って苦しくて・・」「まぁ、それは大変だわ。今すぐ病院に行きましょう!」「そんな、お腹が少し張っただけですから・・」「駄目よ、アレクサンドラ。少しでもおかしいと思ったら病院に行って診て貰わなくちゃ。」「皇妃様、わたしも参ります。」 ヘレーネとエリザベートに連れられ、アレクサンドラが病院へと行くと、担当医は彼女を診察した後こう言った。「切迫早産になりかかっていますね。暫く入院して安静にしていてください。」「先生、どうか宜しくお願いいたします。」その日、アレクサンドラはそのまま出産まで入院することになった。「ヘレーネ、アレクサンドラは大丈夫なのか?」「ええ、安静にしていれば大丈夫だそうですよ、皇太子様。」 ヘレーネから連絡を受け、病院に駆け付けたルドルフは、病室で心配そうにアレクサンドラの手を握っている母の姿を見た。「母上、どうしてここに?」「皇妃様はアレクサンドラの事を心配為さって、アレクサンドラを病院まで連れて行ってくださったのですよ。わたくし、何か飲み物を買って参ります。」ヘレーネはそう言ってルドルフとエリザベートに軽く会釈すると、アレクサンドラを起こさぬように病室から出た。「ルドルフ、貴方に聞きたいことがあるの。」「何でしょうか、母上?」「アレクサンドラのお腹の子の父親は、ルドルフ、貴方ではなくて?」エリザベートの言葉を聞いたルドルフは、激しく狼狽した。「母上、何故そのことをご存知なのですか?」「やはり、そうなのね・・」 エリザベートはそう言ってドアの近くに立っているルドルフの方を見ると、彼の形の良い唇が微かに震えていた。「アレクサンドラを貴方が引き取った時、貴方達の親子仲が良い事に最初は何の疑問も感じていなかったわ。けれどアレクサンドラが妊娠をして、貴方が何かとあの子の事を気に掛けている姿を見ていると、貴方が初孫の誕生を待ち望んでいる父親の姿のようには思えないのよ・・それよりも、我が子の誕生を待ち望んでいる父親の姿そのものに見えたの。」「母上・・」鋭い母の観察眼に、ルドルフは内心舌を巻いた。「貴方がヘレーネの事を今でも想っていることを、わたしは知っていたわ。でも、知らぬ振りをしていたの。まだ貴方もヘレーネも若かったし、いつか二人の関係は冷めるものだとわたしは勝手に思い込んでいたのよ。でも、ヘレーネが宮廷を去った時、貴方が自殺未遂をしたと知って、わたしは母親失格だと落ち込んだわ。」「母上・・」エリザベートは、ルドルフの右手を自分の方へと引き寄せ、その掌に残っている火傷痕を見て溜息を吐いた。「ルドルフ、貴方はこうなることを望んでいたの?」「実の娘を抱き、彼女に自分の子を産ませることを、ですか?」ルドルフはそう言った後、口端を上げて笑った。「何が可笑しいの?」素材提供サイト様にほんブログ村
2016年04月04日
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「お母様、さっきは助けてくださって有難うございます。」「お礼なんか言わなくてもいいのよ。噂好きな人達は、何処にでも居るわ。」ヘレーネはそう言うと、娘の手を優しく握った。「イレーヌ、お久しぶりね。」「あら、誰かと思ったらヘレーネじゃないの!元気そうで何よりだわ!」慈善バザーの主催者・イレーヌはヘレーネの姿を見つけてそう叫ぶと、彼女と抱擁を交わした。「イレーヌ、紹介するわ。こちらはわたしの娘のアレクサンドラよ。アレクサンドラ、この方はこのバザーの主催者でいらっしゃるイレーヌ様よ、ご挨拶なさい。」「初めまして、イレーヌ様。アレクサンドラと申します。」「まぁ、貴方がヘレーネのお嬢さんね?噂通りの美人さんじゃないの!」イレーヌはそう言ってアレクサンドラに微笑むと、彼女の下腹を見た。「赤ちゃんはお元気なの?」「はい。最近胎動が激しくて、なかなか眠れなくて困っています。」「あら、いい事じゃないの。性別はどちらなの?」「男の子です。イレーヌ様、こんな見苦しいお姿をお見せしてしまって、申し訳ありません。」「見苦しいなんて、とんでもないわ!ここには貴方について色々と口さがない噂をする人達が居るけれど、あんな人達には言わせておけばいいのよ。貴方は、元気な赤ちゃんを産む事だけを考えて。」「有難うございます、イレーヌ様。」「ここで立ち話をするよりも、あちらに座って色々とお喋りしましょうよ。」「はい。」 アレクサンドラ達が会場の隅に置かれているテーブルの前へ移動すると、ホテルのスタッフがティーポットを片手に彼女達の方へとやって来た。「コーヒーは如何です?」「ええ、頂くわ。この子は妊婦だから、ハーブティーをお願いね。」「かしこまりました。」スタッフが足早にテーブルから去っていくと、イレーヌはバッグの中から袋に入ったクッキーを取り出した。「あら貴方、ダイエット中じゃなかったの?」「ええ。でも一週間で挫折しちゃったわ。暇さえあればクッキーを作ってはこうして袋に入れているのよ。アレクサンドラ、おひとつ如何?」「ええ、喜んで頂きます。」「どう、美味しい?」「とても美味しいです。わたしも最近、暇さえあればチョコチップクッキーばかり食べてしまって・・産後太りが気になって仕方がないんです。」「大丈夫よ、しっかり栄養管理していれば体型は元に戻るわよ。」「お母様は、どうしてイレーヌ様とお知り合いなのですか?」「ヘレーネとわたしは、聖マリアアカデミーの同窓生なの。しかも三年間同じクラスで、席が隣同士だったから、今でも大の仲良しなのよ。」「まぁ、お二人とも聖マリアアカデミーのご出身だったのですか?わたしも、聖マリアアカデミーに通っているんです。」「あら、そうなの!」「でも、今は休学中です。育児が一段落したら復学したいと思っているのですけれど、周りからどう思われるのかが不安で堪らなくて。」 アレクサンドラの脳裏に、バザー会場で自分に無遠慮な視線を投げつけて来た女性達の姿が蘇った。 彼女達のように、自分の妊娠について面白おかしく噂している者達が学校に居るのではないか―そんな事を考え出すと、アレクサンドラは嫌な事ばかりどうしても想像してしまうのだった。「あら、そんな事を気にしては駄目よ、アレクサンドラ。わたしが知る限り、妊娠して休学や退学した生徒は沢山居るわよ。」「まぁイレーヌ、母校の名誉を傷つけるような事を言ってもいいの?」「いいじゃないの、本当の事なんだから。」イレーヌはそう言って大声で笑うと、コーヒーを一口飲んだ。「今は婚前交渉が当たり前の時代だし、女が学校を卒業して即結婚して家庭に入るっていう固定観念は古臭いし、もうカビが生えているのよ。」「まぁ、貴方は未婚の母として三人の子供を育て上げたから言えるのよね。」「あれは若気の至りよ。もし今のわたしがあの時の自分に会ったとしたら、“目を覚ましなさい!”って頬にビンタをするわね。」 イレーヌと母と三人で会話を楽しんだ後、アレクサンドラとヘレーネはイレーヌとホテルの前で別れた。「今日は久しぶりに会えて凄く楽しかったわ、また三人でお茶しましょうね!」「ええ、また会いましょう。」イレーヌはヘレーネと抱擁を交わした後、アレクサンドラを抱き締めた。「アレクサンドラ、悩みがあったらいつでもわたしの所にいらっしゃい。先輩ママとして色々と相談に乗るからね!」「イレーヌさん、良い方ですね。」「あの子は昔からポジティブの塊よ。あの子と会うとパワーを貰えるの。」「だから、わたしを慈善バザーに誘ったんですね、お母様?」「そうよ。貴方、この頃元気がなさそうだったから、気晴らしに誘ってみたの。貴方が元気になって良かったわ。」ヘレーネはそう言うと、アレクサンドラの手を取って歩き出した。「お母様、何処に行くのですか?」「まだ日没まで時間があるから、買い物しましょう。」「ええ。」 アレクサンドラはヘレーネと初めて二人きりで買い物を楽しみ、溜まっていたストレスを発散した。「ただいま。」「お帰り。二人とも、凄い荷物だね!」「アレクサンドラとデパートの中を見て回ったら、色々と欲しい物が沢山あって、つい衝動買いしてしまったの。」「そうか。アレクサンドラ、少し歩き回って疲れただろう?」「いいえ、大丈夫です。」自分に優しく気遣ってくれるユリウスにアレクサンドラが微笑んでいると、客間からエリザベートが出て来た。「アレクサンドラ、元気そうで何よりだわ。」「皇妃様、何故こちらにいらしたのですか?」「ルドルフから、貴方が実家に居ると聞いてね。心配して様子を見に来たのよ。」「まぁ、そのようなお気遣いを為さらなくてもよろしいのに。」「皇妃様、どうぞこちらへ。」 ユリウスはそう言ってヘレーネとアレクサンドラの荷物を持つと、彼女達を居間までエスコートした。にほんブログ村
2016年04月02日
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