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2021年09月22日
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「ふところ手帖」子母澤寛 中公文庫

1961年9月発行。その一年後に不朽の名作「座頭市物語」(三隅研次監督)が公開される。本書は、その原作となったと聞き紐解いた。申し訳ないが、本書のたった10頁の短編「座頭市物語」の感想のみを書く。

天保の頃、下総飯岡の石渡助五郎のところに座頭市という盲目(めくら)の子分がいた。何処からか流れ込んで来て盃をもらった男だが、もういい年配で、でっぷりとした大きな男、それが頭を剃って、柄の長い長脇差をさして歩いているところは、どう見ても盲目などとは思えなかった。(120p)

‥‥書き出しである。
映画を観たばかりだから、びっくりした。こんな掌編だったこともそうだけど、切り口としては「史実」として書いていること、物語のエッセンスは映画のストーリーそのままになっていて、主な登場人物はそのまま名前が援用されていた。性格も姿かたちも原作のままである。その一方で、映画と大きく違う部分は、(1)座頭市は助五郎一家にたまたま流れ着いたのではなく、最初から子分になっている(2)おたねは座頭市を好きになるのではなく、最初から妻だった(3)座頭市と平手造酒との友情は一切無く、原作では平田深喜となっていた。(4)あくまでも、助五郎の自伝から採った史実として描いている。反対に言えば、それぐらいしか違う所がない。

この原作を読み、あの座頭市第1作目を観て、やがて26作も作られるシリーズものになることを知っていて、座頭市を演じた勝新太郎が座頭市そのままに太く短く生きたことを知っている身としては、私は「ある感慨」を抱かざるを得ない。

‥‥あゝこうやって伝説は出来ていくんだな。

元は居合抜きが凄い盲目のヤクザの話だった(それさえも事実かどうかはわからない)。安政年間の助五郎の自伝から約100年後に、子母澤寛という語り部が小さな悪役ヒーローとして作り替える。それを読んだ監督がかっこいい流れ者の悪役伝説をつくる。それを体現する圧倒的な役者が出現し、ありとあらゆる物語が増幅する。そうして、長いこと語り継がれる物語が出来上がる。

もしかしたら、スサノオ伝説は、このように出来上がったのかもしれない。

‥‥それっきり、市とおたねは元より、おやじの滝蔵も、飯岡から姿を消してしまった。
その後の消息は確(しか)と知る由もないが、一説に足利在に住み百姓として静かな天寿を全うしたとも言うし、何でも遠く岩代の安積山麓猪苗代湖の近くの小高い丘の辺りに住んだともいう。おたねは、湖に映る明月の夜を、座頭の妻として悲しんだかどうか。(129p)

‥‥最終頁、最終行の描写である。おたねは若い身体を座頭の妻として過ごしても後悔することはないと、明月の夜に宣言したことを受けての最終行になっている。伝説の男の終わり方としては、一つの典型ではある。もう一つの(座頭市として暴れ回る)可能性はワザと書かれていないが、子母澤寛自身がそこまで化けるエピソードとは期待していなかったせいだろう。映画で万里昌代演じたおたねが、しあわせになって欲しいと、60年後の今になっては思う。





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最終更新日  2021年09月22日 16時27分12秒
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