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2025.10.01
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カテゴリ: 鈴木藤三郎
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「鈴木藤三郎伝」鈴木五郎著146~147ページ

日本こそ精糖国
 日本精製糖会社の新設工場は、藤三郎が欧米へ出発の前に残していった設計図によって、吉川の指揮のもとに、彼が帰朝する数か月前には落成していた。小名木川の南河岸に堂々とそびえた4階建の工場は、当時としては人の眼をそばたたせるに十分であった。
欧米からの最新式の機械類は、便船ごとに続々と到着した。それらは到着するに従って、前に来ている藤三郎からの詳しいすえつけ指図書によって、それぞれの場所に据え付けられた。プレーヤー・カンプペル会社から送って来た砂糖結晶缶は、高さ15尺、直径12尺もある大きなものだが、「工場の入口のアーチのところから入れよ」という指定だったので、入れてみると、わずか1寸のゆとりを持ってはいったので、一同は舌を巻いた。
 また発電機のすえつけ場所は設計の中にはなかったが、「一階の階段下へ」という指定なので、その通りにしてみたら、切ってはめたように収まった。すべての機械類は、用だんすに引出しをはめるようにピタピタとあらかたすえつけられ、作業を始めるばかりになって、藤三郎の帰りを待っていた。
 ブカナン会社から骨灰キルン(再燃焼缶)のすえつけに、技師を派遣しようかという申し出があったが、藤三郎は、買い入れた機械類はすべての図面と実物によって、その構造を自分の頭の中に入れてしまったばかりでなく、中には各国の長所を採って、新たに設計して造らせたものも随分あるから、すえつけはすべて自分の手でやる覚悟をきめていたので、その申し出を断った。それで、複雑な部分は、自分を手を下してすえつけた。新工場の試運転の結果も良好であった。
 鈴木製糖所時代の明治28年(1895年)には、職工は男25名、女5名の計30名で、機関もわずか50馬力であったのに、この31年には、男50名、女55名の計105名となり、機関も600馬力となった。このように多年の経験の上に、今や欧米各国の粋を集めた最新式の機械という機関が備わり、最新知識という帆が上げられ、それに豊富な資金と厚い信用という順風が吹いて、おまけに日清戦後の日本産業革命時代という潮流に乗ったのであるから、日本精製糖会社の発展は目覚ましいものがあった。したがって、41歳の藤三郎の名は、日本の新進実業家の一人として、内外に知られるようになった。


 ※この年、鈴木藤三郎は「糖業政策談」を発表している。これは、明治31年11月30日に砂糖業全国同盟会の幹事として、明治政府の重鎮、大隈、板垣に欧米各国を視察して調査した世界諸国の糖業政策を研究して、その当時日本で議論されていた砂糖課税した場合の国家の利害得失を論究したもので、藤三郎の欧米視察旅行が存分に論及されている貴重なものである。糖業協会の図書目録にはあるが
、現物はなかったが、森の元気屋さんが地元森町で発見されたものである。詳細は、「鈴木藤三郎氏顕彰第3集」に登載したのでそれを参照されたい。ここでは欧米視察の結果が伺われるその一部を紹介する。

「糖業政策談」

 この糖業政策談は当会幹事鈴木藤三郎君が這回(しゃかい)
     大隈伯爵閣下
     板垣伯爵閣下
両伯に拝謁し欧米各国を巡視して取り調べたる諸国糖業政策の妙味を斟酌して当時我が国に囂(かしがま)したる砂糖課税の結果国家の利害得失を論究せられたるものなれば御参考の為めここに印刷に付し諸君の御閲覧を請う
  明治31年11月30日
                砂糖業全国同盟会

 私は砂糖業全国同盟会の幹事でありまして、常職は日本精製糖株式会社の専任取締役でござります。今日閣下に拝顔を得まして一言申し上げたきは余の義でござりません、この砂糖事業の方今世界の大勢はいかなるものなるや、また我が国家の経済にいかなる関係をしておるや、将(は)た一国政策のいかんによりましては将来莫大なる我が国の財源ともなり、又税源ともなることでござります。然るにこの頃世間に風説ある如き砂糖に課税をすることになりますと、かくの如き有望の財源となるべき事業を自然全滅してその結果年々外国に莫大の出資をするという国家の大害となります。その理由をいささか申し上げたき主意でござります。それには先ず第一に当会社の略歴より申し上げます。元来私は遠州人で有りまして、若年の頃よりこの製糖業の有望なることを感じてこの技を独習し、去る明治21年に当府下小名木川に移転し、小なる製糖場を設け是より一層泰西(たいせい)の学説を応用して実地の経験を重ね、幾多の辛苦を凌ぎまして漸く小規模ながら一己の営業と致しました。然るに去る28年の頃、我が政府は日英ロ独の条約改正ができまして、その附則税目に輸入精糖に1割の関税を付することになりました。ここに我が国の精製糖需用は年一年に増加する大勢がありますから、この時に当り大いに精製糖事業を興すの必要を感じましてこれを今の重役その他に謀りまして一会社を創立いたしました。またこれと同時に大阪にも一会社ができましたが、ちょうどその年6月私は精糖機械購入を兼ねて欧米各国の砂糖事業視察と彼の国の糖業政策を取り調べるため海外に派遣せられました。

 これより欧米各国における砂糖需用の情況より砂糖における政策の大略を申し上げます。
 さて欧米各国人民の砂糖需用と申すものは莫大なものでござります。しかしてこの需用する品質はいかなるものかと調べるため、私は米英独に至りては、ことさらに極く辺鄙を旅行しまして下等人民の日常に用いるところの砂糖を調査して見まするに、何れも皆精製糖ばかりでござります。たまたま砂糖運搬中路傍に洩出(えいしゅつ)せられたる粗糖ありといえども、乞食に至りてもこれを拾いて食するものは更にござりません。然し彼の粗糖と称するものは我が国で中糖と申すものと同様な品質にして、決して台湾沖縄に産出する黒色糖の比ではありません。これは彼の国の衛生普及の結果と存じます。凡そ砂糖と申すものは粗糖のまま食料とするときは幾分か有害物質を含有するを以て必ず精製の上食料とせなければなりません。然るに我が国にては今において黒赤粗糖を直接食料とするもの沢山ありますのは実に当世紀の一奇観で御座ります。
 また彼の列国は砂糖を以て人生に必要欠くべからざる食料品としてその功能も一般に了知しております。然るに我が国においては今以て立派な教育ある人士間にもこの砂糖を以て奢侈品なりと公然僻説を他人に語りはばかるところ無きものあるは、実に驚き入ったる次第でござります。然れども、文化の進歩する大勢は自然事実に顕れまして最近十年間の統計をして見ますると精製糖の需要が著しく増加しております。
 前陳の如く欧米各国において砂糖を必要品として多額の需用あるを以て、各国政府は競うてこの砂糖を自国に産出するの方針と、或いは又原料粗糖は他国より取ると雖も精製の工場は自国の産業となさんことを謀り各国砂糖業における政策に力を尽くすこと実に非常なものでございます。第一に他国精糖の輸入するものは関税を以て5割ないし10割以上の重関税を課しております。その国情により大同小異はありますが、要するに外国より輸入を防ぎて内国の糖業発達を保護するの方針は同一なものであります。今その国別を致しますれば、
 米国は土地広きも産糖地は殆んど稀なる故に輸入精糖に百斤4円以上の関税を課すと雖も内地に精製する原料粗糖は無税なるを以て米国の精糖事業の盛大にして内地の需用を満たすことになっております。未だ当国には消費税はござりません。
 ドイツ及びフランス国の如きは数十年前より政府にて産糖政策に力を尽くせし結果近年に至りては過度の発達進歩をなせしも、これまた外国輸入精糖には非常の重関税を課して内地の糖業を保護し、しかして消費税を課すと雖も、その大部分は砂糖輸出に対する莫大の奨励金を付与する費用に充てます。これ近年遠く我が国へもドイツ精糖の輸入するゆえんでござります。その他ヨーロッパ大陸における各国の政策大同小異でござります。
 英国は更に国情異なるより、以上のごとき保護奨励は一切なさず。これ英国の地たる内地に産糖地なく、地形上よりフランス・ドイツその他ヨーロッパ大陸諸国に劣れるを以て曲げてこれを興すの不利益を悟り、かえって外国の奨励ある安値の砂糖を一般人民に需用させる方、結局国家経済上一年およそ5千万円の利益あるが故でござります。
 ここにオランダはヨーロッパ大陸中の最小国なりと雖も、砂糖政策において著しきものがござります。則ち南洋ジャワ国における同国政府の糖政を語らんに1826年の頃まではジャワ島を産糖地として見るべきものなきに、オランダ政府はこの地に産糖の必要を決するや、更に方法を設け、甘蔗を扶植し完全なる製糖機械を据え付けたる工場数十ヶ所を設置し、しかして本国より事業者を募り無資本にしてこの事業を為すの便利を与え、しかして機械工場の代価は数十年賦消却の方法を以てし、製したる砂糖は政府これを相当代価を以て一手に買収して確実なる糖分試験法を定めて、しかしてこれを欧州市場に売却すること、およそ40年間でござります。これ今においてオランダ国砂糖標本として世界各国の市場に信用あるゆえんでござります。






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最終更新日  2025.10.01 00:00:17


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