「だいじょうぶですか。ドアを開けてください」
「えっ、あっ、ちょっと待って、まだジャージで、顔も洗ってなくて、歯も磨かなきゃ、髪整えなきゃ。いてて、あちこち打ってしまって」
「そのままで構いません。ドアを開けてください」
「えっ、でも」と言いながら、ドアノブに手をかけて、鍵、鍵はどこだっけ。
何をどう言えばいいんだっけ、ここはどこ?は思い出したけれど、今度は、俺、誰なんだっけ。頭の中は目まぐるしく、いや、思考は虚しく、ぐるぐる空回り。肩が痛い、足首痛い。腰も痛い。なんとかやっと解錠してドアを開くと、目の前には制服警官が二人。周囲にたぶん警察官でない人が3、4人、その後ろにパトカーが2台。パトカー横にも制服警官の姿。
あああああっ、え~と、え~と。
警察官が、バッジみたいなのを開いて見せてくる。これが警察手帳なのか。S県警K警察署の巡査部長某と巡査某だと名乗ってきた。名前? そんなの頭に入ってこない。ともかく、やはり警察官らしい。本物らしい。パトカーもいるし。
隣人らしい人たちが、ヒソヒソ。「知ってる?」「ご兄弟の友人でしょうか」などと。
あっ、その手もあったか、などとまだ寝ぼけた頭でふと思うものの、いや、ダメダメ、ここは本名でないとこの先まずい。
「お名前教えてください」
「冬木です。何かあったのですか」
「緑川さん、ではないのですね」と言われ、営業モードが目覚めた。パジャマ替わりのジャージ姿で、足首痛めてまっすぐ立てず、我ながらみっともないことこの上ない。
「いえ、緑川様から委託されて、こちらの管理と販売に当たっております、ケロケロ社K駅前支店の第二販売課長をしております、冬木と申します」
「え~と、冬木さんは、昨晩こちらにお泊まりだったのでしょうか」
「あっ、はい、営業時間前8時過ぎにこのお宅をご覧になりたいお客様がいらして、私、自宅がやや離れておりますので、明日、いや、今日のご案内の準備のためにいっそのこと前日からこちらに泊めていただこうと」
「なるほど」
皆の視線が俺一点に集中している。
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