ミステリの部屋

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2005年08月20日

消えた山高帽子：翔田寛

(4)

テーマ：ミステリはお好き？(1498)

カテゴリ：日本ミステリ

東京創元社のページで、次世代を担う新鋭たちのレーベル《ミステリ・フロンティア》【四六判仮フランス装】と紹介されているミステリ・フロンティアの一冊。

これまで米澤穂信「さよなら妖精」、森谷明子「れんげ野原のまんなかで」を読んでいて、どちらもミステリー色はうすいけれど結構好きな作品だったので、この作品も読んでみようと思いました。

サブタイトルは「チャールズ・ワーグマンの事件簿」とあるように
明治6年の横浜居留地で起きた事件を、イギリス人新聞記者チャールズ・ワーグマンが鮮やかに解き明かす連作短編集です。
ワトスン役は医者で友人のジョナサン・ウィリス。

・収録作品

「坂の上のゴースト」…西洋人の幽霊と日本に古くから伝わる逆さまの幽霊が目撃された怪異

「ジェントルマン・ハラキリ事件」…白装束を纏って剣を腹に突き立てていた強欲な英国人の事件

「消えた山高帽子」…歌舞伎役者を巻き込んだ山高帽子盗難の謎

「ウェンズデーの悪魔」…教会で起きた密室状況下の怪死事件

謎解きはすべて二段構えの構成となっています。
ある事件が起こり、その事件が解決すると、主人公が本国へしたためた電文記事が紹介される。
実はそれは表立っての真相であって、本当のところは後に内輪で語られます。（最後の話では、真相は誰にも語られることなくワーグマン氏の胸のうちにしまいこまれます。）

そこにはワーグマン氏が、事件に関わる人のことを考えたあげくの介入があります。
そのため私は、親分が弱き町民のことを考えてうまくとりはからう、時代劇の捕り物帳にも似たイメージを持ちました。

山下居留地、山手居留地、ともに今でもその名残の感じられる横浜に住むものとして
明治初期の日本と西洋の文化が交錯しているその舞台が身近に感じられます。

主人公たちの描き方が割合淡々としているため、初めは読みにくいように思われましたが、
明治の横浜に入り込むことが出来た後には、独特の風情が感じられ面白く読むことが出来ました。
古きよき時代の日本人の良さも印象に残ります。

本書で探偵役を務めるチャールズ・ワーグマンは、前口上にある通りの実在の人物です。

「イラストレーテッド・ロンドン・ニュース」特派員として活躍。
幕末から明治の日本の姿を数多くの絵画として残し、数々の水彩画は芸術的な価値だけでなく歴史的資料としても重要になっています。
また、日本初の漫画雑誌『ジャパン・パンチ』を創刊。漫画のことを「ポンチ絵」と言ったのは、「ジャパン・パンチ」からきているそうです。

横浜美術館にもいくつか作品が収蔵されていることがわかりました。

機会があったらもう一度行って見て来たいと思いました。

それと、順番は逆になってしまいましたが、デビュー作の「影踏み鬼」も読まなければという気になりました。