適度に酒をたしなむ人は、循環器系の疾患や癌などの発症リスクや死亡リスクが低いことが様々な研究で明らかになっている。フィンランドにおける人口ベース研究の結果、高齢になってからの軽いボケである軽度認知障害についても、中年期の軽い飲酒が予防的に作用していることが判明した。軽度飲酒者を1とした軽度認知障害の発症リスクは、非飲酒者、頻繁飲酒者とも2倍を超えたという。スウェーデンKarolinska研究所加齢研究センターのTiia Anttila氏らが報告したもので、英国医師会誌British Medical Journalで印刷に先行して公開される電子版「Online First」に8月10日付けで掲載された。
Anttila氏らは、1972~1982年に開始した人口ベース研究「循環器リスク要因と加齢、痴呆に関する研究」(CAIDE:cardiovascular risk factor, aging and dementia)の参加者のうち、1997年時点で研究対象地域に在住していた存命者のうち、1972年と1977年に参加した65~79歳の1,018人を対象とした。 その結果、軽度(原文ではinfrequent)飲酒者の軽度認知障害発症リスクを1とした場合、性、年齢、教育程度で調整した相対リスクは非飲酒者が2.08、頻繁(原文ではfrequent)飲酒者が2.34でいずれも有意に高く、「Uカーブ」の関連が見られた。これに対して痴呆については飲酒の程度との有意な関連性は見られなかった。 一方、家族性アルツハイマー症の原因遺伝子のひとつとされる機能たんぱく質「アポリポプロテインE4型」(Apo-E4)産生遺伝子保有と飲酒、痴呆発症の関連性を調べたところ、Apo-E4遺伝子を持たない非飲酒者を1としたとき、Apo-E4遺伝子保持者の痴呆発症リスクは、軽度飲酒者で2.3倍、頻繁飲酒者では3.6倍と有意に高く、強い関連性があることが分かった。Apo-E4遺伝子を持つ人は積極的に飲酒を控えた方がよさそうだ。Apo-E4遺伝子を持たない人では、飲酒量と痴呆発症に関連性は見られなかった。 もっとも、Apo-E4遺伝子を持たない人でも「適度な飲酒量」については注意する必要がある。Anttila氏らの定義では、軽度飲酒は「月に1回未満」、頻繁飲酒は「月数回程度」。一般的な日本の飲酒習慣から見ると、Anttila氏の定義する軽度飲酒者は「ほとんど飲まない」部類に入ってしまうからだ。この点についてAnttila氏は、「興味深いことに、異なる飲酒レベルの切り分けを行っている他の研究でも同様のUカーブ現象が指摘されている。おそらく、適切な飲酒が好ましい社会的要因や生活習慣を示す指標になっているためではないか」としている。