土井中照の日々これ好物(子規・漱石と食べものとモノ)

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金田あわ@ Re:甘酒の句に悩んだ子規(04/21) とても好いお話でした。

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2017.12.03
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カテゴリ: 夏目漱石


 季節が寂しくなると、温かい甘酒が恋しくなりますが、俳句の季語では夏になります。暑い時に熱い甘酒を飲むと、かえって暑さを忘れさせるので、夏に愛用されるとあります。白酒は雛祭りの祝い酒とされる白濁した甘味の多い酒で、清酒・焼酎・みりんなどに蒸した糯米と麹を加えて、発酵させ、もろみとなったところですりつぶしたものです。甘酒は、精米の粥に米の麹を混ぜて発酵させた甘い飲み物で、また酒粕からつくられるものも「甘酒」といいます。
 歌舞伎十八番の一つ『助六所縁江戸桜』には、曽我十郎が白酒売り新兵衛に扮し(曽我五郎は助六)、手に「山川」と書いた団扇を持ち、「 そもそも富士の白酒 」にはじまり、「 まず正月は屠蘇の酒、弥生は雛の白酒……端午の節句は菖蒲ざけ、七タは一夜酒、重陽はきくの酒 」と、節供の酒をおりこんだ白酒の言い立てを披露します。

 実は、甘酒は江戸時代から明治時代にかけて、夏に甘酒売りが荷を掲げて売り歩いたもので、江戸自体の百科事典『和漢三才図会』には「 祭酒に多く醴を用いる。毎六月朔日、天子へ醴酒を献づる 」とあり、小川顕道が編した『塵塚談(ちりづかばなし)』には「 あま酒は冬のものなりと思いけるに、近頃は四季ともに商うことになれり、我ら三十歳頃までは、寒冬に夜のみ売廻りけり、今は暑中往来を売ありき、帰りて夜はうるもの少なし。浅草本願寺門前の甘酒店は、古きものにて四季に売りける、そのほかに四季に商うところ、江戸中に四、五件もありしならん 」と記されています。僕のブログには『守貞謾稿』の記述がありますのでそちらもご覧ください。
※甘酒の句に悩んだ子規は​ こちら
 明治時代に入っても、夏のあいだには、街のあちこちで「あまーい、あまーい」という売り子の声が響いていたのでした。
 しかし、市井の甘酒売りは、衛生管理に乏しく、食あたりも頻発したようで、いつしか甘酒売りの姿も消えてしまいました。
 漱石の小説『虞美人草』には、藤尾と小野君の関係を「 我を立てて恋をするのは、火事頭巾を被って、甘酒を飲むようなものである 」と、警句的なたとえに甘酒が出てきます。下戸の漱石らしく、甘さの背後に控えるアルコールの恐ろしさを例えたのでしょうか。
愛の対象は玩具である。神聖なる玩具である。普通の玩具は弄ばるるだけが能である。愛の玩具は互に弄ぶをもって原則とする。藤尾は男を弄ぶ。一毫も男から弄ばるることを許さぬ。藤尾は愛の女王である。成立つものは原則を外れた恋でなければならぬ。愛せらるる事を専門にするものと、愛する事のみを念頭に置くものとが、春風の吹き回しで、旨い潮の満干で、はたりと天地の前に行き逢った時、この変則の愛は成就する。
 我を立てて恋をするのは、火事頭巾を被って、甘酒を飲むようなものである。調子がわるい。恋はすべてを溶かす。角張った絵紙鳶も飴細工であるからは必ず流れ出す。我は愛の水に浸して、三日三晩の長きに渉わたってもふやける気色を見せぬ。どこまでも堅く控えている。我を立てて恋をするものは氷砂糖である。
 沙翁(シェクスピア)は女を評して脆きは汝が名なりと云った。脆きが中に我を通す昂れる恋は、炊ぎたる飯の柔らかきに御影の砂を振り敷いて、心を許す奥歯をがりがりと寒からしむ。噛かみ締めるものに護謨(ゴム)の弾力がなくては無事には行かぬ。我の強い藤尾は恋をするために我のない小野さんを択んだ。蜘蛛の囲にかかる油蝉はかかっても暴れて行かぬ。時によると網を破って逃げることがある。宗近君を捕るは容易である。宗近君を馴ならすは藤尾といえども困難である。我の女は顋(あご)で相図をすれば、すぐ来るものを喜ぶ。小野さんはすぐ来るのみならず、来る時は必ず詩歌の璧(たま)を懐に抱いて来る。夢にだもわれを弄ぶの意思なくして、満腔の誠を捧げてわが玩具となるを栄誉と思う。彼を愛するの資格をわれに求むることは露知らず、ただ愛せらるべき資格を、わが眼に、わが眉に、わが唇に、さてはわが才に認めてひたすらに渇仰する。藤尾の恋は小野さんでなくてはならぬ。





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最終更新日  2017.12.03 00:45:33
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