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2019.02.18
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『すべて真夜中の恋人たち』川上未映子(講談社文庫)

 この筆者の小説は、わたくし、今まで2冊読みました。芥川賞受賞の『乳と卵』、その前のデビュー小説『わたくし率 イン 歯ー、または世界』。どちらもとても面白かったです。特に『乳と卵』は、その文体にかなり感心した覚えがありました。

 ところが、しばらくして次に読んだ『ヘヴン』は、読み始めてかなり早い段階でダウンしました。冒頭あたりに出てくる学校のいじめのシーンで、チョークを食べさせるというのが出てきて、私はなんだか生理的に堪えられなくて、読み続けることができなくなりました。
 でもこれは私の個人的な理由によるものであり、この小説もなんでしたかかなり大きな賞を受賞なさっていますね。(「この小説も」というのは、この方のいろんな作品は、たくさんの賞を受賞なさっているからですが。)とても評価の高い方です。

 そこでこの度、心機一転というか、起死回生というか、失地回復というか(なんかどの四字熟語もピントが外れている気がしますがー)、本作を読んでみました。

 本文が終わった次のページに、「初出『群像』2011年9月号」とあるのですが、一つ驚いたのは、この文庫本350ページもある作品が一挙掲載であるということ、そしてもう一つは、「群像」って、こんな作品が載るのか、ということでありました。

 今書いた上記の二つ目は、少し微妙な書き方になってしまいましたが、……んー、何と言いますかー、読み終えまして、この小説ってかなりツッコミどころ満載の小説じゃないのかと思ってしまったんですがねー、……うーん。

 しかし細かな私の「違和感」について羅列するのは、私の意図するところではありませんので、本書を読みながら少し考えていたことをちょっとまとめてみたいと思います。

 といっても、しょせん私はアバウトなつくりの頭しか持っていませんので、難しいことは端から考えられません。ただ、こんなことをぼちぼち考えていました。
 つまり、私にとって小説の魅力とは何だろう、ということです。

 まず、これは一般論ではないということです。「それはお前の勝手な好みだろう」と言われれば、全くその通りですと返事をし、しかしこれは、私にとって意味のないことではないということであります。

 最初に思ったのは、唐突ながら次のようなことです。
 音楽とは、結局のところ音ではないのか。一音一音の美しさがその一番の原点ではないのか。次に絵画にとっては、それは色の美しさだろう。現実的には様々な要素はもちろん複雑にあるだろうが、究極、絵画とは色であろう、と。

 とすれば、文学にとっての「音」「色」とは何なのか。
 やはりそれは文章でありましょう。さらに文章とは何かと考えると、私は文体の緊張感だと思います。
 少なくとも私が読んでいて快い小説とは、それがきびきびしているか、ねっとりしているかは問わず、適度な緊張感の許に描かれた文章であると思います。
 これが、まず小説を読む快さでありましょう、と。

 では次に、当然描かれているもの自体の魅力という話になりますね。単純に言えばストーリーです。
 ストーリーそのものについては、もちろん無限の如くに(本当は無限でもないのでしょうが)あるでしょう。もちろんはらはらドキドキ楽しいものであれば言うことはありませんが、そんなストーリーを通して私は何を求めているのか、何を知りたがっているのかを、少し考えてみました。
 そして、本書のこんな部分を見つけました。
 これは、高校の同窓会をきっかけに不倫を行っているという主婦の告白です。


 どうでしょうか。全体としては、少し「陳腐」な感情の描写と言っていいのかも知れません。しかし、この中にある「腐る」「鈍く」「硬く」などの言葉の選択に、実は私は、少しはっとさせられ、感心し、魅力を感じます。

 この感覚は何かと考えたのですが、辿りついたのはこういう事でした。
 私にとって小説を読む魅力とは、結局他人の話を通して知らない自分を教えてもらう(これがあまりにナルシスティックな言い方ならば、社会の層とか世界の秘密と言い換えてもいいのですが)ということではないか、と。
 それは普遍的な人間性といえばそうなのでしょうが、私としては、「普遍」とかの客観性みたいなものではなく、自分の中にある感覚を物語の中で言葉にしてもらえた時、それにしっかり納得できる名前を付けて示してくれた時に、とても心地よいものを感じるということかなと思います。
 これこそが、極私的小説の魅力ではないかなー、と。

 さて、本小説を私は、あちこちけっこう躓きながら、自分ひとりで勝手にツッコミながら読みました。少しいらいらしたところもあったようですが、しかし、読み終えてしばらくすると、読後感は決して悪くありませんでした。
 なるほど、これがプロの小説家の技量かなとも思いましたが、ひねくれた私はさらに、読後感が悪くないことは本当にいいことなのかと、「いけず」に少し考えてもいました。


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Last updated  2019.02.18 08:17:06
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