やっぱり読書  おいのこぶみ

やっぱり読書 おいのこぶみ

2005年04月16日
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カテゴリ: 読書感想
玉蘭 ( 著者: 桐野夏生 | 出版社: 朝日新聞社 )


桐野夏生さん、珍しい時空間移動物語風、ファンタジー風。でもリアリティはしっかりあるのである。

桐野さんの作品のヒロインには多い気質と思うのだが、硬質な精神をもてあまし、ぴりっとしていて、自立している意思、そのために傷つき易い心の持ち主。

そういうもろヒロイン有子が恋人を振り切って、会社も辞めて上海に語学留学している。くしくも彼女の大伯父も1920年代(かって日本がとてつもなく大陸に夢をはせた時代)に船乗りとして上海で暮らしたことがあるという。その大伯父との意識交流をとおして、恋人への思い、悩み、人間関係が交錯するなかでの変化、うごめく、堕ちる、を経験する物語。

「グロテスク」を読んだ時もとても気になったのだが、しっかりした女性の恋愛の崩壊による幻滅が、性の崩壊につながっていくことがあるというテーマ。

桐野さんも「文庫本のためのあとがき」で『女は性によって男に裏切られる。しかし、性で戦うこともできるのである。』とおっしゃっている。

つまり、男と同じ人間として社会で暮らすには、鎧を着て戦うごとく挑むのだが、矛盾だらけの世の中で受け入れられず、限界を感じるのだ。気まじめな女性ほど、『世の中と適当に対応することができない、複雑な性格を有する』と思われ、その『痛々しい姿は、現代に生きる若い女性の悩みの一側面を表している。』のだ。そして壊れていくかに見える。

(これによって「グロテスク」がわかりやすく理解できたのかもしれない。「グロテスク」と一対と言ってもよいのではないかしら。)

どこかに行けば、新しい自分に会える。遠くへ行きたい!離れたい!違う自分に会いたい!


答えは最終章。登美子という親分肌の女性(66歳)の存在。ああそうなんだと…。
キーワードは大伯父さんの質(ただし)の生き様。

大伯父の恋人浪子(なみこ)といい、この登美子(とみこ)といい、作家「林芙美子」を思い出さずにはいられない、と思ったら桐野さんの随筆に林芙美子さん、好きとあった。なるほどね。

なかなかよろしい作品。再読したくなる。





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最終更新日  2005年04月16日 21時21分03秒
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Re:「玉蘭」桐野夏生(朝日文庫)(04/16)  
パティP  さん
桐野夏生作品、私もときどき読みますが、ハードなことを書いているわりにはさくさく読めるんですよね。
ありがたいことに私にとっては頭の中でしか理解し得ない問題です。
リアルに、我がことのように感じてしまうひともいるのでしょうね・・・
そうなりたくないものだと(笑)
(2005年04月16日 23時14分28秒)

Re:「玉蘭」桐野夏生(朝日文庫)(04/16)  
きいぼ  さん
桐野さんの作品は、2作品読んだところでお休み中。リアリティがあって、哀しい結末を受け止めきれない私の方の問題なんですけどね。
これはファンタジー風? ちょっと違う作風なのかな、と思ってます。

ところで、お孫さんの園生活はいかがですか?
ふふふ、敬老の日、もちろん招待状がきますよ~(笑)。
うちの園で若いおばあちゃんがいて「えー?私がおばあちゃん?」と言ってました。曾祖母さんがお元気なのでそう思ったんでしょうね。
行事もいろいろあって、参加すると楽しさが増します。 (2005年04月17日 07時35分21秒)

パティPさんへ Re[1]:「玉蘭」桐野夏生(朝日文庫)(04/16)  
ばあチャル  さん
>桐野夏生作品、私もときどき読みますが、ハードなことを書いているわりにはさくさく読めるんですよね。

私は今、ちょっとはまってますね。傾向はちがいますが、高村薫さんの時のようです。ああ、田口ランディさんもそうでした。読みつくしてしまう勢い、なんででしょうねー?そして一時、離れるのです。

>ありがたいことに私にとっては頭の中でしか理解し得ない問題です。

そりゃそうですよ。実際、あちらでもこちらでもでは困ります!

人間、修羅場は避けるに越したことは無い。出来ればね…。
(2005年04月17日 08時33分06秒)

きいぼさんへ Re[1]:「玉蘭」桐野夏生(朝日文庫)(04/16)  
ばあチャル  さん
>これはファンタジー風? ちょっと違う作風なのかな、と思ってます。

この作品はちょっとほっとするところがあります。私は受け止めましたよ。

>ふふふ、敬老の日、もちろん招待状がきますよ~(笑)。

やはり!!
でも、ニカニカして行くんでしょうよ、きっと(笑)

(2005年04月17日 08時38分57秒)

Re:「玉蘭」桐野夏生(朝日文庫)(04/16)  
はるる!  さん
この「玉蘭」。

前に、メル友や、楽天の本好き仲間数人に、薦めたことがありました。
おとなの小説ですネエ。
セピア色のゆるやかな狂気が、作品全体をおおってる。

ひとがこわれていってしまう、ということを自覚しながらこわれてゆく。
しずかな渇いた恐怖が、うつくしく、じわりと迫りました。 (2005年04月17日 21時55分15秒)

Re:「玉蘭」桐野夏生(朝日文庫)(04/16)   
ケー16  さん
「グロテスク」最近読了しました。
ほんといつもこの人の本って、
途中で休めないんですよ。
最後まで、ぶっとおしで読み通してしまう。
途中鳥肌が立つことも何度か。
ラストが特に私は好きでした。

ばあチャルさん
>「グロテスク」と一対と言ってもよいのではないかしら。
そんなこと書かれるとますます読まなくては、
という気持になります(笑)。
でもいま積読本が山ほどあるし。あぁ。





(2005年04月17日 23時58分48秒)

はるる!さんへ Re[1]:「玉蘭」桐野夏生(朝日文庫)(04/16)  
ばあチャル  さん
書き込みありがとうございます。
はるる!さんのページをお訪ねしてわかりました。前にもいらしてくださったのですね。

>おとなの小説ですネエ。
>セピア色のゆるやかな狂気が、作品全体をおおってる。

そうですね、人間の行動はいつの時代も変らないからですね。


>ひとがこわれていってしまう、ということを自覚しながらこわれてゆく。
>しずかな渇いた恐怖が、うつくしく、じわりと迫りました。

桐野さんはその人間性の一面を鋭く解き明かし、ほぐしているように思われます。光をあてているようにではありませんね。

-----
(2005年04月18日 07時44分38秒)

ケー16さんへ Re[1]:「玉蘭」桐野夏生(朝日文庫)(04/16)  
ばあチャル  さん
>「グロテスク」最近読了しました。
>ほんといつもこの人の本って、
>途中で休めないんですよ。
>最後まで、ぶっとおしで読み通してしまう。
>途中鳥肌が立つことも何度か。
>ラストが特に私は好きでした。

私も、ミロシリーズも好きですが、「OUT」「柔らかな頬」「グロテスク」と続く作品が、すごい内容なのに入り込んでしまいますね。目が離せないのです。

ほんと、何がそうさせるのでしょうね。私はこの「玉蘭」でその謎の一端を知った気になりましたが…。

(2005年04月18日 07時58分14秒)

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