『白い人』遠藤周作（河出書房新社）

2006年09月27日

カテゴリ：読書感想

自分というひとつの命はかけがえのないもので、失ったら同じものは出来ないと、大人になったら知るようになるよね。ひとりひとり姿かたちや性質の違いもあるけれど、考えや思いの見えない部分の違いが個性というものだ。

個性はかけがえのないもので大切なものと人間は思いたがる。それはどこからくるのだろうね。遺伝子が伝えるものもあるし、環境が作るともいう。

同種の虫けらなら固体の違いはわかりにくいし、思想があるとは思えない。人間という種だけに考えや思いの個性があるのだろうね。

しかし、そんな大事な個性なのに書物などに普遍性を求め、他の人はどう考えるか気にするし、他の人の思想に畏敬や同調を感じるのも事実。まるで同じになりたいみたいだ。

だから、虫けらのように遠くから見たら同じように見えたっていいじゃない、とは思わないのが人間。誰よりも誰よりも自分の個性が大切、見えても見えなくても。でも、皆が皆そう思っているなら人間というひと括りでいいのかもしれない。人間は弱く勝手なものである。

とこんなことを考えながら、

第2次世界大戦中のドイツ占領下のリヨンで、友人の神学生をナチの拷問にゆだねるサディスティックな青年に託して、西洋思想の原罪的宿命、善と悪の対立を追求した『白い人』

を読んだ。

芥川賞を受賞した遠藤周作の作品で、人間の弱さを描いた純文学。さすが人間の弱さを描かせて遠藤周作の右に出るものはいないと感心した。

私の手にした河出書房新社の「現代の文学」シリーズ「遠藤周作集」に『白い人』と一緒に収録されている他の短編『その前日』『札の辻』『四十歳の男』