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2007年02月10日

バルザックの実験

テーマ：本のある暮らし(4327)

カテゴリ：本の話題

『ゴリオ爺さん』が私の文学嗜好を刺激したので、関連文献を漁る。といっても大がかりなものでなく、持っている文学全集などの月報や解説を読み直す程度。

昔の文学全集は立派な（真面目な）付録をつけてあるものだね。「従妹ベット」を収録している筑摩書房「世界文学大系」（1960年12月）の月報には３つの文章があった。

そのひとつ、原政夫さんという同志社大学教授（たぶんもう元）の文「バルザックの文体の魅力」にある、立体的な時間経過の中で登場人物を生かし効果をあげる「時間の芸術家である」という指摘に注目した。

現代では珍しくもない小説技法である。しかし、19世紀の文学ではプルーストと共に先駆的という。

有名な「人間喜劇」の90篇（41巻１万５千ページあるらしい）の小説は、バルザックの頭の中で膨大な登場人物をあらゆる場所と時間で動かし、怒涛のごとく事件、会話、思想、風俗が渦巻くように描いてあるのである。すごいではないか。

現代ではそんな小説はたくさんあり、魅力的なものは大ブームを巻き起こすのだけれど、きっとバルザックのように書きたいという遠因もあったであろうと思うが。

現代の文学がバルザックを超えているかどうかはわからない。『ゴリオ爺さん』を読んでみて、人間性についての深い洞察力はかなわない気がする。というより時代が変わってもその部分には普遍性があるのだろう、から。

また、「人間喜劇」の序文も読んだが、バルザックは歴史的風俗を描き残したいという思いもあったらしい。目に浮かぶような当時の社会風俗習慣描写で成功している。

現代文学もそういうようなすじが面白くてなおかつ、後に残る時代の描写を望みたいものだと私も思う。面白くても現代にしか通じない描写の文学では風俗は伝わらないし、一過性になる。

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