てにをは

2006.09.06
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カテゴリ: カテゴリ未分類


からだ全体に震えるような興奮があった。
レビはすでに見晴らし台を駆け降り、キャンプに走っていた。
ぼくはどうしていいかわからなかった。
クジラがウミアックに曳かれて戻ってくるだろう。写真を撮らなければ。
ぼくはキャンプに向かって走っていた。
伝令がキャンプ全体に広がっていった。
カメラを用意したぼくは、一目散に氷の見晴らし台に向かって走った。
近づくにつれ、だれかの歌声が聞こえてきた。

見ると、だれもいない氷の上で、老母がひとり海に向かって踊っている。
ゆっくりとした動きで、何かに語りかけているように見える。
マイラだ。
きっと昔から伝わるクジラに感謝する踊りなのだろう。
近づくと、マイラは泣いていた。
踊りの原点を見ているんだろうなと思った。
写真を撮る気にはなれなかった。
目頭が熱くなり、どうしようもない。
マイラは、ぼくの存在などありはしないかのように踊りつづけていた。

                     星野道夫「アラスカ 光と風」





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Last updated  2006.09.06 09:18:15
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