極上生徒街- declinare-

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矩継 琴葉

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2007.10.22
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カテゴリ: 小説
早く次の作品に行きたいと思い始めた今日この頃。



※一部過激な表現が含まれています。ご自身の判断でお読みください。


第1話 堕ちる闇 明ける未来
第2話 目覚め×サイン
第3話 接触
第4話 クロチェヴィーア
第5話 進展
第6話 救い
第7話 残滓
第8話 加速
第9話 意思
第10話 最後の夢
第11話 始まり



第12話 デモーニオ



 白昼夢のような悲劇。城山駅爆破テロで2000人が死傷した。史上最悪の事件は、幕開けにしか過ぎなかった。
 悪が悪に目覚め、血の粛清と死の舞踏が始まる。
 一人の男を中心にして、全てが動き出す……。




 県警は特殊部隊《SIT》を緊急配備させた。

 重要参考人として須藤が上げられたが、林が持ち帰った物証から須藤は一転して容疑者として全国へ指名手配にされた。
 だが、自体は奈落へと進展していく。
 SIT、自衛隊の配備の翌日、東部を走る国道で検問を行っていたSIT、自衛隊の部隊が爆発物のようなもので壊滅的被害を受ける。
 そのまた翌日には、北部に展開していたしていた自衛隊の部隊が襲撃を受け全滅。
 全て須藤の手の中で動いていた。



「分かっているか? もはや、捜査権は上のもだ。それを無視して行動している。これは、謀反と同じだぞ?」


 車内で川澄が呟いた。
 車は署を出て、南へ向かっていた。過ぎ行く道に人気はない。
 戒厳令の敷かれた中、出歩くものはいない。既に大半の人々が町を出た。今では警察関係者の方が良く見かけるようになった。



「……覚悟の上です。須藤が必ず関わっています。須藤を見逃していた自分に腹が立ちます。何としてでも、捕まえなければいけません。そのためには――」



「命は捨てるなよ」




 川澄の言葉に、林は言葉が詰まった。
 車内の空気がさらに重くなっていく。
 口が城門のように硬く閉じられてしまった。
 車は大通りを曲がり、一方通行の狭い道へと入る。
 知っているのかいないのか、猫一匹すらいなかった。



「ここだ」


「……何ですかここ? だいぶ古いアパートですが?」


「須藤のいや、佐々木信彦の実家だ」



 塀は崩れ、草は生い茂り、いたるところにコーションテープのあとが残っていた。柱もあちこちさび付き、今にも崩れそうな廃墟と貸し、まるで魔城のようなアパートが聳えていた。









「ひゃははははは! 最高だぜ、あんた! 今回も上手くいった! 祝杯だ!」


 頭が禿げ上がっている男が笑った。男はイフリート。もちろんあだ名である。彼らはそれぞれの本名の代わりに、あだ名で呼び合っている。
 イフリートは過去に、爆弾を製造し鉄道爆破未遂で服役。さらに、爆弾入り小包を厚生省に送りつけ再び服役。とどめは、中国大使館前で爆発事件を起こし三度服役。前科3犯である。爆発物に関して異常な知識を持っている。
 隆夫は缶ビールを一気に飲み干した。



「ホント、あなたについていくだけで、面白いように人の肉片が飛びちるのが見れます。こんな面白い《ゲーム》は初めてですよ」


 体格がよく、きりっとした顔の男は、マルコシアス。イフリートとネットで知り合った。防衛大学を主席で卒業したらしく、元自衛隊幹部である。爆弾製造の技術を持ち、サバイバル知識にも長けている。ただ、異常なまでに窮地を楽しむ癖があり、自衛隊所属時に問題児扱いされ、楽しめないならばと、仕事を辞め、裏の仕事をして生きてきた。逮捕歴は無い。



「こ、こんなの、ね、ネットじゃ、た、体験、で、できないもんな。す、全て、デ、デモーニオさんのおかげです」



 カツゼツの悪い太った男は、グレムリン。武器とネット関係の知識に長け、ありとあらゆる武器のコレクターである。しかし、集めていくうちに、「人を撃ちたい」という衝動に駆られ、改造ガスガンで車を一部損壊させる事件を4件。動物の虐待が6件。通り魔1件で、10年服役している。



「いやいや。皆さんの力があっての成功ですよ」


 そして須藤、いや、佐々木信彦は、デモーニオという名前を使いネットでこの3人と知り合い、メールアドレスを交換すると、暗号で直接やり取りをし、城山駅爆破テロ極秘に計画。そして実行したのである。
 それから、彼らは城山市の某所に身を隠し、自衛隊や警察を無差別に殺しては楽しんでいる。
 今、城山市は良質の狩場と化していた。
 ……クズ3人どもが。踊らされているとも知らずに。実に滑稽だ。









 生い茂った草を踏み分けて、林と川澄は1階の奥の部屋へと向かった。
 103号室の前に立つと、アパートがどれだけ放置されていたのか詳しく見て取れた。郵便受けには、事件当時のものと見られる色あせたチラシがまだ入っていた。チャイムはボタンが破壊され、押すことすら出来なくなっている。扉の下には、枯葉が溜まり鼻を突く臭いを放っていた。


「鍵を預かってきた。中に入ってから話をしよう」


 川澄は鍵を開け、扉を開けた。部屋は割と綺麗に清掃されていた。
 玄関があり、短い廊下があり、奥は十畳一間の畳部屋となっていた。
 だが、事件の残滓が畳の上に夥しく残っていた……。



「ここが……佐々木の住んでいた部屋ですか?」


「そうだ。ここが現場だ」


「しかし、ここに来て一体何を?」林が問う。


「これを渡しておこう」と、川澄はスーツのポケットから一枚の紙を取り出した。
 紙は上の一部捜査員だけに配られた佐々木に関する書類の一部だった。



「ど、どうしてこれを?」


「くすねるのは簡単だ。それより、目を通してみてくれ。お前は、よく知らないだろうからな。そこに、佐々木の両親が殺された事件について書いてある。話は、それからしよう」


 林は書類に目を落としゆっくりと流し始めた。。










 10年前―


「バイバ~イ! 《ノブ君》また明日ね!」



「うん。バイバイ! また明日」



 僕は、佐々木信彦10歳。
 この日もアパートの近くの公園で、幼馴染の恵理子ちゃんと遊んで家に帰るところ。恵理子ちゃんというのは、アパートの200m右隣のマンションに住む、同い年の女の子。よくママゴトをして遊んでいる。



「ただいま!」と、アパートの部屋の扉を開けると母さんが台所にいた。


「お帰り。もう直ぐご飯にするから」と、母さんは笑って答えた。


 ……また、痣だ。今度は右頬と左腕が青くなっていた。あいつの仕業だ。


 あいつは、今日はいないようだった。最近、あいつは夜遅くに帰ってきて、僕が学校に行ったあとに出かけているようだ。
 でも今はいない。母さんと二人だけだ。よかった。





 ご飯を食べていると、扉が急に激しく開いた。
 あいつが、もう帰ってきた。左手にお酒を持っていて、お酒臭かった。
 靴を適当に脱ぐと、ふらふらと入ってきて、いきなり母さんを叩き始めた。



「てめぇ、俺をおいて、先に飯食ってんじゃねぇよ! あ゛ぁ!? 分かってんのか?」


 グーで殴った。
 足でおもいっきり蹴り上げた。
 母さんは泣いていた。


「や、やめて、信彦が見ているわ」



「うるせぇよ! このクソ女! さげマン!」


 繰り返し、繰り返し母さんを殴るあいつを見て、僕は思わず飛びついた。


「やめてよ! 母さんが怪我しちゃうよ!」


 僕も泣いていた。
 でもあいつは、僕なんか目に入っていなかった。
 母さんを何度も何度も殴った。
 止まらないあいつを止めたくて、部屋を飛び出し、隣の部屋に向かった。
 そして必死に扉を叩いた。



「お願い! 明けて! 助けて!」


 誰も出てこなかった。
 玄関脇の窓から光が漏れているのに。
 誰も出てこなかった。


 今度は、さらにとなりの101号室の扉を叩いた。
 誰も出てこなかった。
 転びそうになりながら、階段を上り、201号室、202号室、203号室と同じことを繰り返した。
 誰も出てこなかった。
 誰も助けてくれなかった。
 誰も……。誰も……。
 それでも僕は、母さんが殴られるたびに、助けを求めた。
 だけど、たった一枚の扉が開くことは無かった……。



「どうして、誰も助けてくれないの! どうして、どうして……」


 悔しくて悲しくて、余計に涙があふれた。
 いつからか、母さんが殴られるたび、僕は耳を押さえて部屋の隅で縮こまった。
 僕はそうすることしか、もう出来なかったんだ。
 そんな時、声が聞こえた。


(どうした? 信彦?)


 暗くて落ち着いた深い声だった。


「え? 誰?」


(お前の正義の味方さ)


「正義の味方……?」



(そう。正義の味方。お前の力になってやるよ)



「君、名前はなんていうの?」



(名前か? そうだな……僕は、デモーニオ。正義の味方、デモーニオ様だ。お前を助けてやるよ)




<第13話へ続く>





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最終更新日  2007.10.23 01:40:01


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