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風が流れる
風の視線の向こうに
君が 両手を合わせ 立っている
君のしなやかな髪が
風に 揺れ 蝶が舞う
旅立つ 君を祝福し
華麗に 舞っている
秋桜が可憐に 足元を 包んでいる
君との別れを 惜しんで・・・
君は青い空を見詰め
愛する人の姿を
瞳に宿し
寂しさと 不安を打ち消すように
腕を差し出した
そして・・・・・一粒の・・・なみだ
風は 優しく 見つめていた・・・・
車窓を走り去る風景が、次第に懐かしい風景に変わって来た。そして、私の心に突然様々な思いが蘇った。胸が圧し潰されそうな寂しさ、切なさ後悔が、激しく押し寄せて来た。
『故郷・・・』今迄禁句だったこの言葉を、思わず吐息と共に呟いた。愛しい面影が浮かび、目の奥に熱い痛みが走った。
20年前の終電車に駆け込んだ時、私には何も残されていなかった。希望も夢も愛も憎しみさえ空っぽで、ちっぽけな身体を抱きしめる様に丸くさいてすべてから遮断して、
何もかも捨て去り、逃げ去る様に夜汽車に飛び乗り都会へ行った。もう帰ることも無いと覚悟を決めたはずだった。
しかし故郷は、時が止まった様に、その風景は、私の記憶のまま少しも変わってなかった。故郷を捨てた私を、受け入れてくれるかのように。
無人駅のプラットホームに一人降り立つ。
眼に映えるのは、黒ずんだ壁。無人の改札口は無言で私を出迎えてくれる。人気のない小さな構内の長椅子が、埃で黒ずんでいる。
壁に何時貼ったのか分からないセピア色の公告。構内を抜けると、殺風景な光景が広がる。駅前には無論誰も居ない。向かいにあった小さな食堂は無人で、入り口の戸が風化して破損している。そして、閉店を告示するビラは半分破れ、剥がれかかって、風に揺れていた。
私は、駅前の小さな広場を通り抜けて、シャッターで寂れくすんだアーケードの商店街を歩き始めた。様々の思い出が詰まった通りに目をやりながら、今でも懐かしい声が耳元に聞こえてくる。今はさびれているが、私が学生の頃は、食堂も、書店も、小さなスーパーも銀行も、郵便局もあった。レコ―ド店では、若者が屯してアイドルのレコードのポスターの前で燥いでた。今も目の前に浮かんでくるようだ。