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ss一覧 短編01 短編02 短編03――――― 10月20日。午後4時40分――。 困惑と驚愕に顔を歪ませて、目の前に立つ安藤がゆっくりと言葉を発した。「……信じられない……どういうことだ? ……何が起きている?」 安藤は唇を震わせて澤の顔を見つめた。次いで周囲を見まわし、それから背後を見まわし、そのあとでダメージを負いアスファルトに倒れた何人かの部下を見つめた。そして、ようやく自分たち《警備部隊》の数が減り、《D》の数が減っていないことを理解した。「おい……傭兵ども……それとも、非国民か? 売国奴か?」 引きつった顔で自分を見つめる安藤に澤は言った。「お前は……お前らみたいに血とカネしか興味のないようなゴミどもは……この街に不要なンだよ……まさか……自覚がないわけ、ないよな?」 安藤は血まみれになったジェラルミンの盾を見つめた。それから「……そうかもな」と声を震わせて頷いた。 安藤は澤と同じくらいの歳だろう。頭髪が白く短く、肌が浅黒く焼けていて筋肉の隆起が装備の上からでもわかる。その筋肉で覆われた肉体が未知の恐怖に脅えている。「ぐげぇっ!」 弾き倒した《D》にトドメをさそうとした警備隊員は一歩進んで盾を水平に持ち替えた。しかしそれ以上前に進めない……。隊員が足元を見つめた時、違和感の正体がわかった。脚の骨を折った《D》の若い女が隊員の脚にすがりついて離さない……。「このっ、クソアマッ!」 両手ですがりつく女の顔面を蹴りあげようとした瞬間――隊員の内臓に激痛が走った。今さっき倒したハズの《D》の男が蘇ったかのように立ち上がり、隊員の脇腹に前蹴りを食らわせた。蹴りは油断していた隊員の肝臓を一瞬にして破壊した。「ひっ」 隊員は地面に倒れ、胃液吐き散らし、涙を流して激しく悶えた。 激しい乱闘の末――。 ひとり……ひとり……またひとり……。 安藤は自分が指揮する隊の人間が次々と倒れ伏し、《D》の人間たちが誰ひとり欠けることなく動き続けている光景を――信じ難い驚きと、凄まじい恐怖に囚われて、見た……。口から赤い泡を吹いて悶絶する隊員を……奪われた盾で執拗に叩きのめされている隊員を……土下座して許しを乞う隊員を……焼けたフライパンに放り込まれたエビのようにのたうちまわり、苦しげに「安藤隊長……」と助けを呼ぶ隊員を――見た。見続けていた……。「……格付けは済ンだな」 澤は呆然と立ち尽くす安藤に向けて――まるで逆転の満塁ホームランを打った野球選手ように――勝ち誇って微笑んだ。「……永里……あの女のところへ行く。止めるなよ?」「それは……無理だ」 恐怖に震えながら安藤が応える。「無理?」「ああ……『行け』なんて言えるわけないだろ? 私も……ケジメをつけなきゃならん」 恐怖に震え続けながらも、安藤は微笑んだ。「……そうか、ケジメか……不器用な生き物だよ。『男』ってヤツは……」 低く笑い返すと、澤は視線を左右に動かした。「鮫島っ! 宮間っ!」 左右から同時に現れた男女が安藤の盾と腕を掴み、体を抑え込む。――刹那、澤は固く握った右の拳を思いっ切り――微笑む安藤の顔面に叩き込んだっ!「うぐぅ!」 安藤が悲鳴を上げた次の瞬間、左の拳を安藤の顔面に叩き込む。右……左……右……連続で……叩きのめす。「ぐぐぅ……うぐぐ……ぐぐっ……」 血ヘドを吐いて、安藤がくぐもった呻きを漏らす。そのまま膝から崩れ落ちるも――男の目は意識を失ってはいなかった。「……お前らは……何だ? なぜ……立ち上がれる?なぜ……立ち向かって来れる? あれだけ痛めつけてやったのにっ……なぜだ? ……その力は……何だ? 小銭を集めることしかできねえような……中小企業の、クズ共が……こんなことは、ありえない……ありえねぇんだよ……」「……知らん。まぁ……しいて言えば……アレだ……頼まれたからだよ」 澤はそう言って笑うと、血まみれの長い髪をかきあげる宮間有希と、ボロボロになったスーツのホコリを払う鮫島恭平の顔を見つめた……。「……そうね。結局はそう考えるのが妥当かも。それにしても、不思議ね。姫様のお声を聞いたあたり、だっけ? 何だかあなたたちに対する怒りも憎しみも……今はあまり感じないわね……」「……ステゴロなんて久しぶりだからな。俺はそれだけでスッキリしたぜ?」「……これだから元プッシャー(麻薬売買人)は……頭、イカれてんじゃない?」「うるせえぞっ! 元ポン引き女(売春斡旋業者)が……中間マージンで食うメシはさぞウマいんだろうなぁっ!」 安藤は愉快そうに笑う3人を交互に見つめ、それから――自身と、自身の隊の敗北を認めたかのように……静かに……瞳から力を抜いた。「……『やっつけて』とアイツに頼まれた。皇女殿下にも応援を頂戴した。負けるワケにはいかねえ……それだけだ……それだけのことだ……」「……そうか……そう、なんだよな……」 安藤は力なくそう呟くと、震える腕を懸命に持ち上げて、《ユウリクリニック》の3階を指で示した。「……察しもついてると思うが……爆弾は院長室だ……さっさと避難しろ。5時になったら、ボンッだ……」 その瞬間―― 安藤を除く、《D》も《警備部隊》も関係ないすべての者が―― 驚愕と戦慄に身を震わせた。「岩渕の野郎……そこに居るのはわかってンだよ……畜生が……」 低く呻くように、澤は呟いた……。――――― 終わった。 駐車場での戦いが終わり、京子の手を振りほどく。彼女が俺の名を呼ぶ声を聞く……。そして、自分の価値と、未来のことを考える。頭を抱えてしゃがみ込み、ひたすら考える。 ユウリの言う通り、俺は不良品……なのだと思う。何の価値もない男だとも思う……。なぜ、そう思う? ……簡単だ。俺は廃棄されたのだ。父にとって、母にとって、家族にとって……俺という人間は何の価値も無いのだろう……そんな自分が、そんなゴミのような男が自分を捨てて、都合よく他人に成り替わろうとした。自分を捨ててしまうような――あっけなく全てを諦めてしまうような――……最低な人間。たとえ一度でもそんな決断をしたバカな男を――彼女はどう思うのだろうか? 彼女は、『そんなことはない』と言ってくれるのだろう……。けれど、その言葉を簡単に信じられるほど、俺は子供ではない……。 暴力・窃盗・恐喝……積み重ねた悪しき過去は、努力と贖罪によって晴らされると思うのは間違いだ。 早ければすぐ――そして、遅くともやはりすぐ――俺の素性は世間に発覚し、京子とは引き裂かれるのだろう……。 別にそれは構わない。殺されようが、死刑になろうが、そんなことはどうでもいい。分をわきまえず調子に乗って裁かれたヤツは、有史以来、腐るほどいる。……結局、出会ってしまったことが罪なのだ。……こんな結末が、俺にはふさわしい。 ただ、俺のせめてもの願いは、《D》に謝りたい、裏切るようなマネをして申し訳ないと、心から謝罪したいということだけだ。 たとえ皆に殴られ、蹴られ、裏切り者として解雇されたとしても――謝り続けたいということだけだ。 だが、たぶん……それも難しいだろう。 こんな男の話を誰が聞いてくれるのだろうか? 身勝手な自己愛だけが肥大しただけの、『愛』の意味すら理解できぬような不良品の謝罪を、誰が受け入れてくれるのだろうか?「……京子、教えてくれ。お前はどうして、俺や、みんなや、両親から愛された? ……いったいどこで、そんな方法を学んだんだ? ……教えてくれ……俺はどうすれば……どう生きれば……俺の望む生き方ができる? わかんねえんだ……どうしてもわからないんだよ……」 気がついた時、京子は震えながら泣いていた。「……大丈夫。心配しなくても、いいよ。……不安に思わなくても……いいよ……」 そう言って岩渕の前に膝を下ろし、ギュッと強く抱き締められる。互いの額が触れ、暖かい涙が岩渕の頬に流れ落ちた。「……心配しすぎなんだよ……考え過ぎなんだよ……だから、もう、泣かなくてもいいよ」 岩渕を抱き締めて京子が言った。「……ほら、外にいるみんなの声を聞いて……誰も、あなたのことを嫌ってなんかいないよ……」 彼女が言った、まさにその時――窓の外から自分を呼び、自分のために叫び、自分の抱える闇をすべて打ち砕くかのような――《D》の声が響いた。「悪かったよっ! 今回の件はすべて俺に責任があるっ! 許せっ! 申し訳ないっ!」「コイツらから話は聞いたわっ! 煽った私にも責任があるっ! ごめんなさいっ!」「岩渕っ! 爆発するぞっ! 姫様連れてさっさとそこを出ろっ! 危険だっ!」「岩渕っ!」「岩渕先輩っ!」「マネージャーッ! 急いでくださーいっ!」「ケガ人とクソ野郎共はアトラスに乗せましたーっ! あとは岩渕さんたちだけですよーっ!」「永里のことは放っておけっ!今すぐ降りて来いっ!」「――ズラかるぞっ! さっさと来いっ! 《D》に……ウチに帰るンだっ!」 涙をぬぐい、京子の手を取る。迷いはない。何もない。あるわけがない。 ふたりで院長室の扉を抜け――階段を駆け下り――玄関を走り抜け――《D》の皆と一緒に走り抜ける――。 ふたりでフィアットに乗り込み――エンジンに火を入れ――アクセルを深く踏む。「悪いが……今日、俺が言ったこと、泣いたこと、全部忘れてくれ」 京子は少しだけ驚き……少しだけ笑い……少しだけ、いたずらっぽく微笑んだ。「それは……ムリか、な……」「コイツッ……今度、覚えてろよ……」 京子が笑い――そして、岩渕とふたり……ルームミラーの中で爆炎を上げる《ユウリクリニック》の残骸を見つめ続けた。運転席の窓を開き、ユウリの顔が印刷されたパンフレットを放り捨てる。 顔の皮膚が燃えるように熱かった……。――――― k-2 へ続きます。 休憩です。 最近お気に入りの楽曲ス。よろしければ、試聴後にk-2へ。ふぃ……。ごめんちょっち更新待ってて……今月末までには……。一話分の前編仕様、短い。ごめん。修正すらしてない。ごめん。また作り直す。また来てください……。
2018.01.30
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ss一覧 短編01 短編02 短編03――――― 10月20日。午後4時00分――。 ついに――澤社長が壊れてしまった。 ひび割れかけていた彼の精神が、その瞬間、ついに破壊された。「うおおおおおおおおおっ!」 愛しき者を失った男が、獣のようなうなり声を上げて目の前の中年の男に襲いかかった。「うおおおおっ、殺してやるっ!」 だが、獣が男に触れることはできなかった。男の持つジェラルミンの盾が社長の拳をはじき返したのだ。 男は姿勢の崩れた社長の胸に盾をあてがい、ラグビーのタックルを思わせる強烈な一撃を与え――社長を3メートル近く吹き飛ばした。社長の体がアスファルトに激突し、鈍い音が響いた。 だが、社長は次の瞬間には立ち上がっていた。そして、再び男に飛びかかった。もちろん、男はさっきと同じように、何の苦もなく社長の肉体を数メートル先のアスファルトに強烈に叩きつけた。 それでも社長は諦めなかった。「……クソがっ!」 アスファルトに叩きつけられるたびに立ち上がり、うなり声を上げて目の前の男のに飛びかかっていった。そして、そのたびに嫌というほど激しくぶちのめされた。 社長だけではない。 全員が似た黒いスーツ、見覚えのある男女、《D》の社員たちもまた――獣のように叫び、うなり、目の前の男たちに立ち向かっていった。そのたびに拳ははじき返され、腕を掴まれ、体当たりをかわされ――固いアスファルトの上に叩き落とされた。 盾で顔面を殴打される《D》、脚で踏みつけられる《D》、男も女も関係なく叩きつけられ、ぶちのめされる《D》、鼻や歯がへし折れ、皮膚がズタズタになり、流血し、血を吐き、壊される《D》。私の好きな人たち……私の愛する《D》、……私の幸福のすべて――。 あああっ……。 いやだっ……いやだっ……。 どうして? ……どうして? ……どうして、こんなこと……。 京子は見ていた。院長室の窓の前で、岩渕に腕を掴まれ、体を震わせて、大粒の涙を溢れさせ――ただ、見つめていた。子供のように泣き、呻き、喚き、ただ見つめていることしかできなかった。「……やめてっ! お願いっ! もうやめてっ!」 細い体を激しくよじって京子が壮絶に叫ぶ。「やめてっ! いやーっ!」「しっかりしろっ!」 腕を掴む岩渕が怒鳴った。「京子……俺の話を聞いてくれ。《D》のことは諦めろ。そして……俺と一緒に東京へ行こう。そこで……一緒に暮らそう」 一瞬、何を言われているかがわからず、京子は岩渕の顔を見つめ返した。「……どうやら何もわかっちゃいないようですねえ……しかたありません。クイズの答えをご教授させていただきましょう……お代はあなたの幸せ、ということで」 永里ユウリが背後から言い放ち、京子は歯を食いしばった。涙を強引に抑え込み、服の袖で目元を拭い、「……岩渕さんに、いったい、何をしたんですかっ?」と叫んだ。「うふふ、コレですよ。岩渕さんはぁ、コレが欲しくて欲しくてたまらないんですよぉ」 ユウリの嬉しくて、楽しくてしかたがないという声が聞こえた。彼女が白衣のポケットから取り出したソレは……。「……個人番号カード。通称――『マイナンバーカード』です。まぁ、コレは私個人のもので、岩渕さんのモノは別のところに隠してありますが……」 京子は呆然と岩渕を見つめた。とたんに、彼は京子からの視線を外し、卑屈そうに顔を歪めた。京子の瞳にまた涙が溢れ始めた。――――― 香川県の高松市に《松の里》という特別養護老人ホームがある。そこに5年前から入居している『岩渕』という名の夫妻がいる。 それだけなら別に、いい。別に、どうでもいいことだ。 夫妻は2人とも重度の認知症患者であり、家族・親類縁者はいなかった。ここだ。ここが重要なのだ。ここで、この2人の重要度は跳ね上がる。 岩渕夫妻の夫は元公務員であり、定年退職するまでに目立ったトラブルを起こした経歴はなし。 岩渕夫妻の妻は元公務員であり、結婚退職するまでに目立ったトラブルを起こした経歴はなし。 2人とも犯罪・事故歴なし。共に裕福な家庭に生まれ、共に高い学歴を持ち、共にやましい噂、社会での立ち居振る舞いなどの諸問題の一切ない夫婦。 2人とも生粋、かつ純粋な日本人家系に生まれ、DNA、病歴も問題なし。 そう。完璧だ。『岩渕夫妻』は完璧な道具になり得る素材だった。私は歓喜した。さらに喜ばしいこととして、彼ら夫妻には子供がいないことも幸いした。……躊躇う理由などない。 後は簡単だ。彼ら夫妻がかつて住んでいた地域の役場と、永里家が権利を所有する教育機関の関係者にカネをバラまき――作る。夫妻の子供として、健全な男子として、純粋な日本人として、作り……作った。完璧な血統、完璧な経歴を持つ者のマイナンバー……。その登録名は、当然、『岩渕誠』本人。 これは写真を模しただけだとか、他人のナンバーを上書きしたとか、そんなレベルの代物ではない。本物だ。本物なのだ。 だから……結婚もできる……相手がどんなに高貴な存在だとしても、だ。児童施設に放り込まれるような不良品では決して叶うことのない愛も、夢も、叶うことが可能なのだ。『……想像してみてください。あなたの生い立ちのせいで、姫様がマスコミに追いかけ回され、疲弊して痩せ衰える苦労を……。あなたの過去の犯罪歴、バレてないとでも思いましたか? 学生時代の暴力事件、万引き行為などの窃盗、《D》の客に対する恫喝、会社に対しての数々の横領……それと――無意識なのかもしれませんが、自殺未遂も繰り返してましたよね? ……本当、不良品ですね……あなた』 不良な人は更生できる。だが、不良品は違う。不良品は廃棄されるべき運命、不良品は良品に淘汰されるべき運命なのだ……。 だからこそ、私は彼に言い続けた。『駆け落ちでもしますか? その後に待っている人生に責任は取れますか?』『断言します。今のままでは……あなたは必ず破滅する。例え姫様と別れたとしても、です』『そこらへんのくだらない女と結婚して、グレーな企業に死ぬまで奉仕して……それでも、まぁ、そこそこ幸せな人生を送れるのかもしれない。ケドね……いいんですか? あなたがクソみたいな商売女を妻として抱いている間――姫様はどこかの良家に嫁ぎ、そこの男に死ぬまで利用され、抱かれ続けていてもいいんですか?』 私は彼を見つめ続け、言い続けた。だがやがて、彼の目から涙が溢れていき……両手で髪を激しきかきむしり……彼は、消え入るような声で呟いた。『……イヤだ。……そんなことは、絶対にイヤ……だ。京子は……俺のものだ……』 彼が私の計画に加わることを了承する……その瞬間、私は心の中で笑う。盛大に笑う。 ……だって、そうでしょ? ――不良品に未来なんて、あるわけないじゃん。壊れる時が遅いか早いか、それだけのことでしょう? 私が用意してあげられるのは、せいぜい、『夢の延長』だけ。その後のことなんて、どうでもいいし……ねえ? 姫様?――――― 目を逸らす岩渕の横顔を、京子はそっと撫でた。 ユウリの話を聞いて……彼の悩みや、彼の痛みを聞いて……彼のことが、彼の根本に何があるのかが……少しだけ、ほんの少しだけ、理解できたような気がした……。 岩渕さんは……自分自身のことが、本当に嫌いなんだ。生まれも育ちも劣悪だと思い込み……憎み、怒り、忌避して、隠して……ずっと、ずっとずっと苦しんでいた……。 彼は顔を歪ませたまま、ゆっくりと視線を私に向け、呟くように言った。「一生苦労はさせない。死ぬ気で働いて、死ぬまでカネを稼いで、必ずキミを幸せにする。だから……俺と一緒に、行こう。……後悔はさせない、頼む……」 その言葉は嬉しかった。死ぬほど嬉しかった。彼の申し出を喜んで受け、彼と一緒に生活する光景を想像……したかった。彼に抱かれ、彼に愛していると囁かれる光景を想像……したかった。でもそれが、どうしてもできなかった……。「……わからないの?」 京子は岩渕の顔を見つめて微笑んだ。その顔が、たちまち涙で見えなくなった。「……自分を嫌って、自分を捨てて、その先に得た幸せに……何の価値があるの? お願い……だよ……自分を見捨てないで……私があなたを好きなように……あなたも、あなた自身を好きでいて……お願い、だよ?」「……俺は……違う……そんなことは……」 岩渕が呻き、崩れるようにして床にうずくまった。そして、京子の腕から手を離した。 次の瞬間――ユウリから「ふーっ」と深い溜め息が漏れ聞こえ、「つまんないの」と舌を打つ音が響いた。「……大人しく不良品と結ばれて、いつか壊れる瞬間をこの目で見届けたいと思ってはいましたが……ダメですね。岩渕さんとの契約は無効です。使えないなぁ……何の価値もない、やっぱり……親に廃棄された不良品だから、ですかねえ……」 ユウリが呆れ果てたように岩渕を見下して、京子は奥歯を噛み締めた。「黙りなさいっ!」 京子が怒鳴り、ユウリがビクッとして後ずさった。「あなたはっ、自分の思い込みだけで動いているっ! それも自分の手を汚すことなく、ただ他人を利用するだけ利用して……そんな価値観が……そんな汚れた価値観を持つ者など……私は絶対に許さない!」 吐き捨てるかのように叫んだ後で、今度は京子が岩渕の手を握った。そして窓のガラスを思い切り開き――深く、大きく深呼吸をし――……声の限り叫んだ!「――社長っ! ――《D》の皆さんっ! ――負けるなっ! ――諦めるなっ!」 いなくなってしまった佳奈さんのために戦う彼らを、京子は必死に応援した。負けるわけにはいかなかった。諦めるわけにはいかなかった。……陛下のように、国民すべてに勇気と希望を与えられる力はないのかもしれない……けれど、少なくとも、少なくとも……目の前で戦う《D》の人々にだけは……与えたかった……負けない力と、諦めない心を……。「……わからない……意味が、わからない……」 応援を続ける京子の姿を、永里ユウリは意味もわからず、ただ呆然と見つめていた……。――――― ……なぜ、立ち上がれる? 男は思った。ついさっき、男は目の前の女の顔面に盾をぶち当て、さらに倒れた女の肩を踏み潰した。アスファルトに後頭部と背部を激しく叩きつけられ、全身の骨と間接に致命的なダメージを負わせた……ハズだった。しかし……女は立ち上がる。 凝視すると、女の左腕がブラブラと揺れている……骨折したか、脱臼したか、どちらにしろ想像を絶する苦痛のハズだが、女は平然と立ち上がり、なおもこちらに立ち向かってくる。 男は、上司にあらゆる発言を禁止されている。けれど、1度だけ、どうしても尋ねてみたかった。尋ねてみずにはいられなかった。 「……なぜ、立ち上がれる?」 歯を何本か失い、唇からダラダラと血を流す女は男の目をじっと見つめた。そして、呟くように言った。「……さぁ? よくわからないわ。……ただ――諦めて自分から倒れることだけはしたくないの。こんな風に思えるなんて、たぶん、アタシの……クソッたれな人生ではじめてかもしんないし……マジで、何だかわからないケド、力が湧いてくるの……すごく暖かくて……痛みも、そんなに感じないわね……やべぇ……生まれ変わった気分だわ……」 男はそれ以上は聞かなかった。いや……聞けなかった。 男は突如、背後から《D》の男に忍び寄られ、首を絞められ――あっけなく盾を手放し――さらに別の角度から歩み寄られた中年の男に盾を拾われて――……「――野郎どもっ! 皇女殿下の声を聞けっ! 『我ら官軍』だっ! ぶっ倒れてる暇なンてねえぞっ!」と叫ぶ声を聞き――そこで、意識を失った……。 ――時刻は夕方の4時半を回ろうとしていた……。 決着の時は迫っていた……。――――― ……神武天皇、神々の御子による祝福? 恩恵? 転生と、転成を促す力? ……これが、まさか……お姫様の、力?「まるでオカルトですね……これは……」 様子を窺っていた若い男は、静かに呟き、困ったかのように微笑んだ。――――― 『激昂するD!』 k(最終話)に続きます。 本日のオススメ!!! Orangestar 様 Orangestar 氏↑ 主にIA氏を中心に動画にて楽曲提供されている有名P。無数にあるボカロ関係楽曲の中でもかなりレアな方(seesの知っているCDでも4枚くらい?)。しかしながら動画再生数は結構すごい……。 内容は歌詞3、メロディ7の抑揚重視派。ギターやドラムより、ベースやピアノを多用する傾向があり、どちらかというとしっとり。勉強や運転など、集中時には良いかもしれません。ただカラオケには不向き。感動はしてもヘビロテはしない。 seesは好きでよく聞きますが……本当、歌詞は意味不明。 ↑Alice in 冷凍庫 / feat.IA ピアノの旋律が美しい……。 ↑DAYBREAK FRONTLINE / feat.IA ……何度でも聞ける。 ↑空奏列車 / feat.IA×初音ミク ……素敵な曲だ、と思う。 Orangestar 氏のオリジナル楽曲含む必聴のアルバムたち……seesは全部持ってマスッ!! お疲れサマです。seesです。 皆様、正月はいかがお過ごしでしたでしょうか? seesは2日だけあった休日を動画閲覧だけで過ごし、酒飲んで寝ていただけ。残りは相変わらず仕事漬けの日々でございます。 そろそろ車買い替えようかな? とは思うケド……フィアット見に名古屋の外車屋行こうとは思うケド……敷居が高いっ! どうしよう……💦💦 誰か一緒に来てもらうか……。 楽天プロ終了に伴い、seesも休止していたツイを復活させようかと考えます。まぁ、日頃からツイのチェックぐらいはしていたが……これを機にいろいろ呟いてみようかと……。 ツイッターで『株式会社sees』と検索していただければすぐに見つかりますので、よろしければフォローお願いします。楽天プロでのフォロワーさんならノータイムでフォロー返します。別に変なこだわりとかもないんで……((´∀`)) さて、次回は最終話予定です。楽天プロ終了前には確実にアゲます。彼ら《D》の最後の秘密とは……? 岩渕と京子様、そして川澄と……永里は? どうなってしまうんでしょうかねえ??? そして更新の遅れ、いつもすいません。作りながら寝てしまうzzzダメだこりゃ🙅 でわでわ、ご意見ご感想、コメント、待ってま~す。ブログでのコメントは必ず返信いたし ます。何かご質問があれば、ぜひぜひ。ご拝読、ありがとうございました。 seesより、愛を込めて🎵 好評?のオマケショート 『謝罪……』 それは去年の忘年会でのことですじゃ……。 次長 「おい(酔い)、sees、そういやお前、山菜食えないんやったなぁ~」 sees 「……はい。いや~昔、それで腹壊して吐いちゃってですね……(>_<)」 次長 「これ、食えや」 次長が指をさしたものとは……何と、山菜のテンプラ盛り合わせだったのだっ! sees 「いやいやいや、無理すよ。吐いちゃいますって……😓」 次長 「ガタガタぬかすンやないでっ! さっさと食えやっ! (パワハラ、ハイパー化) sees 「う、うううぅぅ……(´~`)モグモグ」 次長 「ほら、食えるやないか。コイツ、またホラ吹きよったでぇ~(*‘∀‘)ゲラゲラ」 しかし、次の瞬間――悲劇が起きた。 sees 「――!!! ヴッ!! オゲェッ!」 時が止まった。 時が止まった世界でseesは見た。seesだけは見た。 咀嚼した緑のドロドロが次長の飲んでいたビールのコップや、隣に座る総務の 女の子(ブス)の唇や、大皿に盛られたカンパチの刺身の上に――盛大にぶち まかれる映像を――見た。 時は動きだす。(`・ω・´)キリ! 社員一同 「……っ! ギャアァァァァァァァッ!」 総務の女 「えっ、sees、さん……? (*ノωノ)」 次長 「…………」 sees 「あのーー……次長?」 殺される、そう思いかけた時、次長から、思いもかけぬ言葉が飛び出した! 次長 「……そうか。すまんかったな。みんなの皿と酒は新しいものを注文しよう。 ワシが悪かった。……sees、悪ノリが過ぎたな。申し訳ない(*_ _)ペコリ。 えっ? まさか、謝罪? あの鬼と悪魔のハーフであるこのケダモノが? ヘヘっ、しょーがねーなあー次長さんよお(*‘∀‘)ヒヒヒ。 (真実――実はその時食べていた鳥の手羽先が喉にひっかかり、不意に 吐き散らしてしまっただけなのだっ!) しかし、seesが悦に入っている時間など、ほんの数秒であった……。 社員一同 「(´∀`*)ポッ」 (大人の男に憧れる空気感が漂う…次長、潔く非を認めてカッコイイ的な) ………… ………… …………ワシは認めねえぞ。ワシは……ワシは……何だ? この敗北感は? 😢了😿こちらは今話がオモロければ…ぽちっと、気軽に、頼みますっ!!……できれば感想も……。人気ブログランキング
2018.01.12
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あけまして、おめでとうございます! seesです。 今回は雑記です。何もないです。 現在は1日の夜、そろそろ酔いも醒めてきたので、挨拶でもしたためようとした次第です。 昨年は皆さま方の大変な応援、コメント、ナイス、誠にありがとうございました。これを励みにまた、少しでも楽しいお話を作っていこうかと、拙に思うseesです。 楽天ブログの方々へ。 ご訪問、なかなか行けなくてすみません。何卒、多忙なseesでございます。どうか、ご理解とご容赦を……。本当にいつもすみません。 楽天ブログ外の皆様へ。 つまらない駄文ではありますが、時間つぶし程度のお話をいくつか作っております。お時間ございましたら、ぜひ、ご拝読賜りたく存じます。ss一覧 短編01 短編02 短編03 現在進行中の『激昂するD』の更新はも少し先です。(なかなか休みがとれなくて💦) ……… ……… ……… ここで終わってもイイんだが……まぁ、せっかくだから、seesのコレクションの一部でもお見せしましょーかね……(#^^#)何もないんじゃサビしーすかからね……。 言うまでもないすけど、他人に見せるためのものではありません。いろんなものがガチャガチャしているだけのものです。単にホコリから守るだけのものですね……。 中身は自分で買ったもの、ゲーセンなどのサプライ品、友人たちからのお土産、などです。思い出なんか何もないけれど、捨てられない。ホコリかぶせるのもアレなんで…。ちなみに、買ったのはコレ……(正確には違うけど、同じ会社、似た型番のものです)【新商品特別割引】【送料無料】/コレクションケース カルトーネ NKE-0010 【コレクションケース】・【キュリオケース 鍵付き】 【飾り棚】【 コレクションボックス】 陳列棚 ・ ショーケース【smtb-k】【kb】】【YDKG-K】【ky】 皆様も、お気に入れのコレクションはケースに入れてはみては、いかがでしょうか? seesでした。今年もよろしくですっ!こちらは今話がオモロければ…ぽちっと、気軽に、頼みますっ!!……できれば感想も……。人気ブログランキング
2018.01.01
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