2008年03月08日
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カテゴリ: シリーズ幕末史


お龍と2人で九州・霧島を旅しました。
慶応2年(1866年)3月のこと。

龍馬は、西欧にハネムーンという習慣があることを知っていたようですが、
これが、日本で最初の新婚旅行であったと云われています。

この霧島の旅は、忙殺される日々を送っていた龍馬にとって、
つかの間の楽しいひとときであったと思われます。
姉の乙女にあてて送った手紙の中で、この新婚旅行の様子が、
スケッチした絵もまじえて、いきいきと伝えられています。

龍馬とお龍の新婚旅行。
その様子を、乙女にあてた手紙(慶応2年12月4日付け)をもとに、
振り返ってみたいと思います。

 『おとめさんにさし上げる。』

という書き出しで始まるこの手紙は、
まず、お龍とお龍の家族の素性・境遇などを書き連ね、
お龍は私の妻であると、小松帯刀・西郷隆盛にも知らせたということが記されています。
そのあとが、お龍と霧島に旅行に行った顛末について。

3月3日、蒸気船で大阪を出発し、3月10日鹿児島に到着。
この時、同行していた薩摩の吉井幸輔から、船中で温泉行きを勧められました。
乙女への手紙では

 『吉井幸輔もどうどうにて、船中ものがたりもありしより、
  又温泉にともにあそばんとて、吉井がさそいにて
  又ふたりづれにて霧島山の方へ行道にて日当山の温泉に泊まり、
  又しおひたしと云う温泉に行。』

とあり、霧島山、その途中にある日当山(ひなたやま)温泉、
塩浸(しおひたし)温泉にも行ったことが記されています。

日当山温泉~塩浸温泉には、10日ほど滞在していたようで、

 『谷川の流にてうおおつり、短筒をもちて鳥をうちなど、
  まことにおもしろかりし 』

アウトドアライフでリフレッシュしていた様子がうかがえます。

このあと、龍馬は、天の逆鉾が見たいと言って、
お龍といっしょに霧島山(高千穂峰)をめざしました。
よじ登っていかないといけないような、きつい山道で、

 『どふも道ひどく、女の足にはむつかしかりけれど、(中略)
  ひとやすみして、又はるばるとのぼり、ついにいただきにのぼり 』

お龍を助けながらも、困難な山道を上りきったようです。
そこで、天の逆鉾が突き刺さっているのを見つけます。

 『此サカホコハ少しうごかしてみたれバ、あまりにも両方へはなが高く候まま
  両人が両方よりはなおさえて、エイヤと引ぬき候時ハわずか、四五尺のものにて候間
  又々本の通りおさめたり 』

龍馬とお龍、ふたりして、天の逆鉾を引き抜いてしまったようです。
天の逆鉾には、おかしな顔つきの天狗の面が両側に取り付けてあって、
引き抜くのに、その鼻が持ち手にちょうど良かったのでしょう。
龍馬は、この手紙の中で、この鉾の形を絵で書き残しています。

 『かよふなるおもいもよらぬ天狗の面があり、大に二人が笑たり。 』

この天狗の面の顔が、とても面白かったようで、二人はこれを見て大笑いしています。

天の逆鉾とは、ニニギノミコトが国家平定に使った後は、国家の安定を願い、
この矛が二度と振るわれることのないようにと高千穂峰に突き立てたという伝承があり、
日本神話に登場する神格的なもの。
しかし、龍馬はこれを見て、からかね也(人間が作ったものではないか)と分析しています。
このあたりからも、龍馬が固定観念にとらわれない近代人であったということが
うかがわれるのではないでしょうか。

ふたりは、この後、一面に咲き誇る霧島ツツジを見ながら、山を下って行きました。
龍馬は、霧島山の見取り図も、解説つきでこの手紙に書きつけています。
この楽しかった思い出を、ぜひ、姉の乙女に聞いて欲しかったのでしょう。

乙女への手紙は、霧島旅行から帰ってのちの近況を知らせ、その後、締めくくられています。

 『まだ、色々申上たき事ばかりなれど、
  いくらかいてもとてもつき申さず、
  まあ、ちょっとした事さへ、此よふ長くなりますわ。
  かしこかしこ。

  極月四日夜認               龍馬
  乙 様                      』

新婚旅行第一号の絵入り紀行文。
あけっぴろげに、お龍との新婚旅行を報じたこの手紙は、
当時としては、全く異色のものでした。

この自在な文章は、龍馬があの時代にあって、いかに自由な精神を持ちえていたか、
それを、示しているものであると、つくづくと感じます。





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最終更新日  2008年03月08日 18時20分49秒
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