2010年03月13日
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カテゴリ: 幕末維新


箕作(みつくり)氏という一族です。

箕作家は、その一族ばかりでなく、姻戚にも著名な学者が並び、
一時は、まさに学者一族といえるほどに壮観な家系となりました。

とは言っても、そういう血統なのかというと、実はそういうわけでもなく、
優秀な弟子を婿養子にとったり、娘が有能な学者に嫁いでいったりということから、
一族に学者が集まってきたという経緯があったためでもありました。

今回は、そうした学者一族・箕作家の歴代小伝のようなお話です。

ところで、箕作家。
そもそも箕作というのも、かなり変った苗字ですが、
そのルーツはというと、近江の佐々木源氏であったといい、
また、近江の守護大名・六角氏の流れを汲むのだそうです。
近江には、六角氏が築いた箕作城という城がありますが、
箕作は、元々近江の地名であったものと思われます。

そして、その後、箕作家は現在の岡山県へと移ってきました。


さて、学者としての箕作家の祖となったのが箕作阮甫(げんぽ)という人です。

たまたま、仕事で岡山県津山市に行った時、
JR津山駅前に箕作阮甫の像があるのを見つけたので、写真を撮ってきました。

箕作阮甫


阮甫の父は、津山藩の藩医をしていて、この父が阮甫の幼いときに亡くなったため、
阮甫は、若くして、その跡を継ぎました。

最初は儒学を学びましたが、やがて、江戸に出て蘭学の修行に打ち込み、
その後、めきめきと頭角を現して、一流の蘭学者として認められるようになったようです。

そうした中、やがて時代は、幕末期を迎え、
黒船が来航し、ペリーが日本に対し開国を迫りました。

ペリーは、この時、アメリカ大統領の国書を持ってきていましたが、
この大統領国書の翻訳を命じられたのが、箕作阮甫でありました。

この頃、阮甫は、幕府の天文方翻訳員という役を務めていて、
様々な翻訳にあたっていたのです。
阮甫は、さらに、その後、来日したロシア使節との交渉団員にも任じられています。

この時期の対外折衝において、阮甫の語学・翻訳の才は、おおいに貴重だったのですね。

次いで、幕府は、本格的に洋学の研究を行う必要から、
蕃書調所という洋学研究の専門機関を設立しますが、阮甫はここの首席教授にも任じられます。


阮甫は、その生涯の中で、100部近くの翻訳書を残したといわれ、
その分野は医学・語学のみならず、兵学・宗教学など広範囲にわたったそうです。

安政元年に、家督を譲って隠居し、
文久3年、65才で死去。
日本の開国草創期に、その学才と語学力をおおいに発揮した生涯でありました。


ところで、阮甫には娘は4人いたものの、
男の子には恵まれませんでした。

そのため、三女と四女に養子を迎えて、それぞれに箕作家を継がせることになります。

三女の婿養子となったのが、阮甫の弟子で緒方洪庵の適塾にも学んだという秀才、
菊池秋坪でありました。

秋坪は、阮甫が隠居したのちに、その跡を継いで、箕作秋坪と名乗ります。
蕃書調所の教授などをつとめ、ロシア交渉でも活躍。
維新後は、東京に三叉学舎という学校を開き、文明開化を推進しました。

四女も婿養子をもらいましたが、この夫は夭折します。
残された一人息子は、阮甫の手元で育てられることとなり、
阮甫は隠居した時に、この子を連れて箕作家を分家しました。
こちらの家系を継いだのが箕作麟祥です。

麟祥は、長くフランスに留学し、主に法律学を研究しました。
特にナポレオン法典の翻訳に力を注ぎ、これを全訳。
これは、明治の民法編纂にも大きな影響を与えたといいます。
又、官界でも活躍し、元老院議官・貴族院議員等を歴任しました。

こうして、2人の婿養子、秋坪・麟祥が阮甫の跡を継いでいきました。
そして、この2人の家系に、当時の第一線の学者たちが集まってくることになるのです。

その中で、著名な人はというと・・・。

菊池大麓   世界に日本の和算を紹介した数学者で、日本に幾何学を導入。
東大の総長・文部大臣も務めました。
秋坪の次男です。

坪井正五郎  日本における人類学の開拓者で、東大教授。
秋坪の長女の夫です。

菊池正士   電子線の実験に成功して世界的に認められた物理学者。
大麓の三男、秋坪の孫です。

美濃部達吉  天皇機関説を唱え、軍閥に傾斜する政府と対峙したことで知られる憲法学者。
大麓の長女の夫です。 

石川千代松  動物学者で、日本における進化論の先駆者。
麟祥の長女の夫です。

長岡半太郎  世界的にも有名な原子物理学者。第一回の文化勲章を受章。
麟祥の三女の夫です。


この頃の箕作家は、一族の大半を学者が占めるという
とても、特徴的な家系となっていました。

でも、その要因はというと、
結婚をするのに、似たような家柄のところに、ということもあったでしょうが、
その一方では、箕作家自体の家庭環境ということもあったように思います。

箕作秋坪は、常々
「子供を教育するのは、その親の本分である。」ということを言っていたといい、
箕作家では、親や祖父が熱心に子供を教育していたといいます。

そう考えると、学者一族・箕作家を築き上げたその要因というのは、
決して単なる成り行きなのではなく、
しっかりとした家庭での教育の積み重ねが、その基盤にあったからなのではないかと。
箕作家の歴史を見ていると、家庭での教育の重要性を改めて感じます。






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最終更新日  2010年03月14日 00時37分02秒
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