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甲府の事務所、洗面所の横においてあるスチール製のスケルトンラックにキスをした。 もともと新宿の事務所に置いてあり、1月に甲府に持ってくるか、とても迷ったものだった。 置き場所が浮かばないから。 結局、甲府に持ってきたのだけど、どこにおくのかやっぱり持て余していた。 引越しのダンボールも数箱、片付かなくてそのままになっていた。 定年後、独立開業した行政書士の父に、有限会社の本店移転登記を依頼した。その仕事の納品に父は2008年2月、ハオロンプランニングの甲府事務所にやってきた。 片づけが大の苦手の僕を前にし、父はささっと残った数箱の段ボール箱の中身を収納場所に格納し、片付けた。 置き場所に困っていたスケルトンラックは洗面所に配置することにした。 しかしそこにはどうしてもタオル掛けのでっぱりがあり、うまくその場所に置く事ができない。 父と二人で考えた。僕: ”息子が遊びに来たときに、よじ登って倒れても危ないなぁ”そんなときにふと閃いた。そうだ、タオル掛け、一回取って、スケルトンラックをいれて、その後またタオル掛けをドライバーで止める。 そうしたら、転倒防止にもなるし、スッキリ収まるし、一石二鳥だね!! 僕と父は、スケルトンラックを成功裏にその場所に収めると、素晴らしいアイデアが沸いて解決し、共同で物事を達成できた喜びに酔った。 あっという間にずっと僕が片付けられなかった段ボール箱を片付けてしまった父に僕は”やれやれ、やっぱり、この人にはかなわいないなぁ。”なんて、ちょっと誇らしく、そして悔しく思ったのだった。 事務所から見える山梨の山々に、”こんな景色、ありえないね。 写真に取りたいぐらいだ。いい所だねー。”と 彼は言った。 僕は”ありがとう”と言った。山梨や静岡に住んでいる人は、山を見ても当たり前の光景でそんなに感動しないんだけど、見慣れない関東人にとっては見るたびに心を癒してくれる大自然の造形で、僕はドライブ中に見た山の美しさに運転しながら号泣したことがあったぐらいだ。 最初に山梨に来たとき、高台から山を見渡して思わずこんな言葉が出た。”こんなところで子育てできたら幸せだろうなぁ。” 言葉には力がある。 いろいろあって、その通りになってしまった(笑)。 僕が父と最後に交わしたやり取りは、移転手続きの手続きの不備を指摘して、それに父が対応し、その報告メールだった。 日を増すごとに、心から色が消えていく。僕は、自分自身が心の絵の具になればいいと、強がりを心に念じながら、ただただ、失ったものの大きさに心が崩壊していく過程を、静かに他人事のように見守っている。大好きだったあなたがこの世からいなくなって僕はさびしくてさびしくて仕方がない。 日増しに大きくなっていく喪失感に僕は身を任せている。 父と二人で協力してやった最後の作業。 その象徴のスケルトンラックが、いとおしくていとおしくてたまらなくなり、一度キスしたあと、またもう一度、冷たい鉄のスケルトンラックにキスをした。 甲府駅の近くから、汽車の汽笛が聞こえている。
2008年04月06日