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源氏物語〔36帖 横笛 19〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔36帖 横笛〕 の研鑽」を公開してます。もっとも、人は相手を遠くから思い描いているうちは理想ばかりが膨らみ、実際に近づけば思い描いていた姿との違いに失望することもある。恋だけでなく、どのようなことでも空想を重ねすぎれば、やがて幻滅が生まれるものだと考えた。そう思いながら、今度は自分と夫人との年月を振り返った。まだ何の飾り気も見栄も知らなかった少年少女の頃に結ばれ、そのまま長い歳月を共にしてきた。その年月の積み重ねがあるからこそ、夫人が今では遠慮なく振る舞い、ときに気位の高い態度を見せるようになったのも無理のないことなのだろうと、大将は静かに受け止めていた。やがて少しまどろんだ頃、不思議な夢を見た。病床で最後に会った時と同じ袿姿の柏木が、すぐそばに立ち、今夜持ち帰った横笛を静かに手に取っている。夢の中の大将は、柏木もなおこの笛に強い執着を残しているのだと感じた。柏木は笛を見つめながら歌を詠んだ。
2026.09.07
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源氏物語〔36帖 横笛 18〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔36帖 横笛〕 の研鑽」を公開してます。しかし夫人は不機嫌なままで、一言も返事をしなかった。屋敷のあちこちでは寝ぼけた子どもが何かをつぶやき、女房たちもそれぞれの部屋で眠っている。人の気配に満ちた賑やかな自邸の夜と、静寂だけが支配していた一条の宮の夜とでは、あまりにも趣が違っていた。その対照を思い比べながら、大将は御息所から贈られた笛を静かに吹いた。その音を響かせながら、大将の心は自然と一条の宮へ戻っていく。自分が帰った後、御息所と宮はどれほど寂しい思いで月明かりを眺めているだろうか。今夜弾いた琴も、宮が合わせた十三絃も、そのまま部屋に置かれた。二人が亡き柏木を偲びながら静かに触れているのではないか。御息所は和琴にも優れていたはずだから、今ごろ母娘で静かに奏で合っているのかもしれない。そんな情景が次々と心に浮かんだ。さらに大将は、どうして柏木はあれほど気高く美しい宮を、形式の上では大切に扱い、本当の意味で深く愛そうとはしなかった。
2026.09.06
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源氏物語〔36帖 横笛 17〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔36帖 横笛〕 の研鑽」を公開してます。歌を交わしてもなお立ち去ることができず、大将はしばらくその場に立ち尽くしていた。気づけば夜はすっかり更けていた。ようやく自邸へ戻ると、格子はすべて下ろされ、屋敷中が寝静まっていた。一条の宮へ心を寄せ、たびたび見舞いに通っていることを夫人へ告げ口する者がいた。そのため、夫人は近頃、大将が夜更けまで外で過ごすことを快く思っていなかった。夫が帰宅した気配には気づいていたが、あえて眠っているふりを続けていた。大将は美しい声で古歌を口ずさみながら部屋へ入り、どうしてこんなに早く戸を閉めてしまったのだろう。皆あまりに引っ込み思案だ。これほど美しい月夜を誰も眺めようとしないとは惜しいことだとため息をつき、自ら格子を上げさせ、御簾も巻き上げさせて縁近くへ出ると、そのまま横になった。そして夫人へ、こんなすばらしい夜に眠ってしまう人があるものだろうか。少しこちらへ出ておいで。月を眺めながら話でもしようと声をかけた。
2026.09.05
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源氏物語〔36帖 横笛 16〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔36帖 横笛〕 の研鑽」を公開してます。また柏木が、生涯で最も大切な女性へこの笛を譲りたいと語っていたことまで思い出され、先ほど形見の琴に触れた時以上に胸の奥からさまざまな感情が込み上げてきた。大将は試しに笛を口へ当て、盤渉調を半ばほど吹き奏でた。澄みきった音色は静かな夜気の中へ遠くまで流れていった。亡き柏木の面影まで呼び戻すように感じられた。しかし吹き終えると、「故人を偲んで琴を弾くことはまだよいとしても、この笛を吹くのは、あまりにも晴れがましく、私にはまぶしすぎる気がする」と言い、名残を惜しみながら帰ろうとした。その時、御息所は別れを惜しむように歌を詠んだ。露深い葎の宿にも、昔の秋と変わらぬ虫の声だけが聞こえている。亡き人だけがいなくなり、季節も虫の音も昔のままであるという寂しさを託した歌だった。大将もすぐに返歌した。横笛の調べだけは昔と少しも変わらない。その音を奏でていた人だけが空しく世を去り、その余韻だけが尽きることなく胸に残る。
2026.09.04
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源氏物語〔36帖 横笛 15〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔36帖 横笛〕 の研鑽」を公開してます。今宵の音楽の余韻をそのまま託したような品であった。大将はその心遣いの深さを受け止め、胸にさまざまな思いを抱きながら夜更けの邸を後にした。大将は御息所から差し出された笛を前にすると、その由緒を思い返した。この笛は古くから伝わる名器だと聞いていた。このような女だけの住まいに置いておくのも、名高い楽器には気の毒なことだ。持ち帰って吹いてもらえれば、外で供人たちの先払いの声に交じる笛の音を、こちらでも楽しみに聞くことができるだろうと御息所はそう言って、静かに笛を大将へ託した。大将は遠慮するように、「未熟な私がいただくには、あまりにもふさわしくない品でしょう」と答えながら笛を手に取った。その笛は柏木が生前いつも愛用していたものであり、大将自身も何度となくその音色を耳にしてきた。自分ではこの笛の真価を十分に引き出せるほど巧みに吹くことはできない。
2026.09.03
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源氏物語〔36帖 横笛 14〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔36帖 横笛〕 の研鑽」を公開してます。秋の夜にいつまでも長居していては、亡くなった人から咎められるような気もするので、今日はこれで帰ることにしよう。また日を改め、新しい気持ちで訪ねて来たい。この楽器はそのまま置いておいてもらえないだろうか。人生にはいつ何が起こるかわからない。不意の別れが訪れないとも限らないので、それが気がかりなのだと語った。それでも大将は真正面から恋心を打ち明けようとはせず、遠回しな言葉の中にだけ思いを忍ばせて別れを告げた。その気持ちは十分に伝わるほどでありながら、最後の一線だけは越えようとしなかった。大将を見送った御息所は、「今夜の風雅なひとときをとがめる人などおりますまい。昔のことを思い出させるようなお話も、ほんの少ししか聞かせてもらえなかったのが残念でならない」と伝え、贈り物に一本の笛を添えて大将のもとへ届けさせた。笛は単なる餞別ではなく、亡き柏木を思い起こさせる形見でもある。
2026.09.02
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源氏物語〔36帖 横笛 12〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔36帖 横笛〕 の研鑽」を公開してます。言葉に出さないことこそ、口にする以上によく気持ちを表すものだ。人目を恥じているその様子に、かえって心が現れているように見えると詠んだ。それに応えるように宮は、想夫恋の終わりの部分だけを静かに合わせて弾き、夜更けの哀しみだけはよく聞き分けられるが、それ以外に何を語ればよいのだろうと返した。宮の爪音は実に趣深く、琵琶という大まかな響きを持つ楽器でありながら、長年磨き上げられた技が加わることで、澄み切った気高い音色となって夜気の中へ溶け込んでいった。ほんのわずかな時間しか演奏しなかったにもかかわらず、その響きは深く心に残り、大将はもっと聞きたいという思いを抑えきれなかった。宮はそれ以上弾こうとはせず、静かに手を止めてしまったため、大将は物足りなさを覚えながらも、その慎み深さにますます心を奪われた。やがて大将は名残惜しそうに立ち上がり、今夜は風流に心を任せて、さまざまなことをお見せしてしまった。
2026.09.01
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源氏物語〔36帖 横笛 13〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔36帖 横笛〕 の研鑽」を公開してます。言葉に出さないことこそ、口にする以上によく気持ちを表すものだ。人目を恥じているその様子に、かえって心が現れているように見えると詠んだ。それに応えるように宮は、想夫恋の終わりの部分だけを静かに合わせて弾き、夜更けの哀しみだけはよく聞き分けられるが、それ以外に何を語ればよいのだろうと返した。宮の爪音は実に趣深く、琵琶という大まかな響きを持つ楽器でありながら、長年磨き上げられた技が加わることで、澄み切った気高い音色となって夜気の中へ溶け込んでいった。ほんのわずかな時間しか演奏しなかったにもかかわらず、その響きは深く心に残り、大将はもっと聞きたいという思いを抑えきれなかった。宮はそれ以上弾こうとはせず、静かに手を止めてしまったため、大将は物足りなさを覚えながらも、その慎み深さにますます心を奪われた。やがて大将は名残惜しそうに立ち上がり、今夜は風流に心を任せて、さまざまなことをお見せしてしまった。
2026.09.01
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源氏物語〔36帖 横笛 11〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔36帖 横笛〕 の研鑽」を公開してます。月が昇り、秋の澄みきった夜空を雁の群れが鳴き交わしながら渡っていく。その姿を眺める宮は、自分には寄り添う者もなく、遠くへ連れ立って飛んで行ける雁たちのほうが、よほど孤独ではないのだろうと思った。冷たく澄んだ風が身に染みて吹き込んでくるのに心を動かされ、宮は十三絃の琴を静かに爪弾いた。その控えめでありながら深い響きは、夜の静けさとよく調和し、大将の心をいっそう強く引きつけた。もっとその音色を聞いていたいという思いに駆られた大将は、そばにあった琵琶を借り受け、「想夫恋」を弾き始めた。大将は少し照れたように笑いながら、自信があるように見えるのは気恥ずかしい。この曲だけは一緒に演奏してもらえるだけの理由がある」と言って、御簾の奥にいる宮へ合奏を勧めた。しかし宮は、この曲には人前で演奏することへの恥ずかしさがとりわけ強く感じられ、すぐには手を伸ばそうとはしなかった。ただ琵琶の響きに耳を傾け、その音色に心の奥まで染み入るような思いだけを味わっていた。
2026.08.31
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源氏物語〔36帖 横笛 10〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔36帖 横笛〕 の研鑽」を公開してます。院の御前で内親王様がた にいろいろの芸事のお稽古をおさせになりましたころには、音楽の才はおありになるというよ うな御批評をお受けあそばした宮様ですが、あれ以来はぼんやりとしておしまいになりまして、 毎日なさいますことはお物思いだけでございますから、音楽も結局寂しさを慰めるものではないという。そのような気がしますと御息所は言う。ごもっともなことですよ。恋しさの限りだにある世なりせば(つらきをしひて歎かざら まし)大将は歎息をして楽器を前へ押しやった。楽器に故人の音がついているかどうかが、私どもにわかりますほどお弾きになって見てくださいませ。みじめにめいっております。われわれの耳だけでも助けてくださいませ。私よりも御縁の深い方のあそばすものにこそ故人の芸術のうかがわれるものがあるでしょうから、ぜひ宮様のを承りたい御簾のそばに近く和琴を押し寄せて大将はこう言うのであるが、すぐに気軽く御承引あそば すものでないことを知っている大将は、強いても望みはしなかった。
2026.08.30
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源氏物語〔36帖 横笛 9〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔36帖 横笛〕 の研鑽」を公開してます。 植え込みの花草が虫の音に満ちた野のように乱れた夕明りのもと の夜を大将はながめていた。そこに出たままになっていた和琴を引き寄せてみると、それは律 の調子に合わされてあって、よく弾き馴らされて人間の香に染んだなつかしいものであった。 こんな趣味の美しい女住居に放縦な癖のついた男が来たなら、自制もできずに醜態を見せるこ とがあるのであろう、とこんなことも心に思いながら大将は和琴を弾いていた。これは柏木が 生前よく弾いていた楽器である。ある曲のおもしろい一節だけを弾いたあとで、大将は、ことに和琴は名手というべき人でしたがね。忘れがたいあの人の芸術の妙味は宮様へお伝 わりしているでしょうから、私はそれを承りたいのですがと言うと、あの不幸のございましてからは、全くこうしたことに無関心におなりあそばしまして、お小さいころのお稽古弾きと申し上げるほどのこともあそばしませんと言う。
2026.08.29
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源氏物語〔36帖 横笛 8〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔36帖 横笛〕 の研鑽」を公開してます。 きわめてよい機会を見つけて自分は真相も知っておきたいし、故人が煩悶していた話もお耳に入れることにしたいと常に思っていた。物哀れな気のする夕方に大将は一条の宮をお訪ねした。柔らかいしめやかな感じがまずして 宮は今まで琴などを弾いておいでになったものらしかった。来訪者を長く立たせておくことも できなくて、人々はいつもの南の中の座敷へ案内した。今までこの辺の座敷に出ていた人が奥 へいざってはいった気配が何となく覚えられて、衣擦れの音と衣の香が散り、艶な気分を味わ った。いつもの御息所が出て来て柏木の話などを双方でした。自身の所は人出入りも多く幾人 もの子供が始終家の中を騒がしくしているのに馴れている大将には御殿の中の静かさがことさ ら身にしむように思われた。以前よりもまた荒れてきたような気はするが、さすがに貴人の住 居らしい品は備わっていた。
2026.08.28
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源氏物語〔36帖 横笛 7〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔36帖 横笛〕 の研鑽」を公開してます。 若君は笑っているだけで何のことであるとも知らない。 そそくさと院のお膝をおりてほかへ這って行く。月日に添って顔のかわいくなっていくこの人 に院は愛をお感じになって、過去の不祥事など忘れておしまいになりそうである。この愛すべ き子を自分が得る因縁の過程として意外なことも起ったのであろう。すべて前生の約束事な のであろうと思召されることに少しの慰めが見いだされた。自分の宿命というものも必ずしも 完全なものではなかった。幾人かの妻妾の中でも最も尊貴で、好配偶者たるべき人はすでに尼 になっておいでになるではないかとお思いになると、今もなお誘惑にたやすく負けておしまい になった宮がお恨めしかった。 大将は柏木が命の終わりにとどめた一言を心一つに思い出して何事であったかいぶかしいと 院に申し上げて見たく思い、その時の御表情などでお心も読みたいと願っているが、淡くほの かに想像のつくこともあるために、かえって思いやりのないお尋ねを持ち出して不快なお気持 ちにおさせしてはならない。
2026.08.27
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源氏物語〔36帖 横笛 6〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔36帖 横笛〕 の研鑽」を公開してます。口の悪い女房たちが何を言うか分からないと冗談を言いながら若君を御自身の膝へ抱き取りになり 「この子の眉がすばらしい。小さい子を見ないせいか、これくらいの時はただ 赤ん坊らしい顔しかしていないものだと思っていたのだが、この子はすでに美しい貴公子の相 があるのは危険なこととも思われる。内親王もおられる家の中でこんな人が大きくなって いっては、どちらにも心の苦労をさせなければならぬ日が必ず来るだろう。しかし皆のその遠 い将来は私の見ることのできないものなのだ。『花の盛りはありなめど』(逢ひ見んことは命なりけり)だね」こうお言いになって若君の顔を見守っていた。縁起のよいことと女房たちは言っていた。若君は歯茎から出始めてむずがゆい気のする歯で物が噛みたいころで、竹の子をかかえ込んでよだれをたらしながらどこもかも噛み試みている。「変わった風流男だね」と院は冗談を言い、竹の子を離してしまい、憂きふしも忘れずながらくれ竹の子は捨てがたき物にぞありける
2026.08.26
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源氏物語〔36帖 横笛 5〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔36帖 横笛〕 の研鑽」を公開してます。若君は乳母のそばで眠っていたが、目を覚ますと這って来て六条院の袖にまとわりついた。その姿はたいへん愛らしかった。白い羅の下着に支那風の小模様がある紅梅色の上着を長く引きずり、小さな子供らしく着物だけが後ろへずれていた。肌は白く、姿はすらりとして柳の木を削って作ったように美しい。頭は露草の汁で染めたような青さだった。口元は整い、上品に長い眉には柏木の面影があった。しかし柏木もこれほどまでに美しい容姿ではなかった。女三の宮にもあまり似ておらず、すでに備わっている気高い風采だけを見ると、鏡に映る自分の子のようにも思われた。六条院はそんな若君を静かに見つめていた。若君はもう立って二、三歩ほど歩けるようになっていた。やがて竹の子を載せた広蓋のそばへ近づき、何も分からないまま手で掻き回し、その一本を口にくわえては放り出した。その様子を見た六条院は笑いながら、行儀が悪いね。あれはどこかへ隠したほうがいい。食べ物ばかり欲しがる子だと、冗談を言う。
2026.08.25
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源氏物語〔36帖 横笛 4〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔36帖 横笛〕 の研鑽」を公開してます。娘を託された自分が誠実でなければならないと気遣う思いも、年老いた今はいっそう強くなっているのだろうと考え、その心情を気の毒に思い女三の宮は慎ましく返事を書き、使者には青鈍色の綾一襲を贈った。書き損じた紙が几帳のそばに見えていたので六条院が手に取ると、力のない細い字で次のように書いた。「うき世にはあらぬところのゆかしくて背く山路に思ひこそ入れ」と書かれていた。「あなたを心配している父上に、こんな山奥へ入りたいなどと思わせることを書いてはいけません」と六条院は穏やかに言った。女三の宮は出家してから、同じ部屋にいても顔をなるべく見られないようにしていた。しかし美しい額の髪や整った顔立ちは幼い子供のようにあどけなく、いかにも可憐だった。その姿を見るたびに、なぜこのような境遇にしてしまったのかと後悔し、自分はまた罪を重ねているような思いにとらわれた。そのため几帳だけを間に立てて隔てながらも、よそよそしく見えないよう心を配っていた。
2026.08.24
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源氏物語〔36帖 横笛 3〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔36帖 横笛〕 の研鑽」を公開してます。その中であなたを思いながらこれを掘らせたので、ほんのわずかだが受け取ってほしいと記した。そして、「世を別れ入りなん道は後るとも同じところを君も尋ねよ」と詠み、自分が先に往生しても同じ浄土へ来られるよう、さらに仏道の修行に励まなければならないと諭した。女三の宮がその手紙を涙ぐみながら読んでいるところへ六条院が訪れた。宮がいつもより寂しそうに手紙を読み、そばに漆器の広蓋が置かれているのを見て不思議に思ったが、それは朱雀院から届けられた贈り物だった。六条院も手紙に目を通し、その内容に深く心を動かされた。老衰が進み、もう今日か明日にも命が尽きるかもしれないと思いながら、娘に会えないことを嘆く父の思いが率直に記されていた。同じ浄土へ来るようにという言葉は僧がよく口にするものではあったが、この手紙には朱雀院自身の切実な実感がそのまま表れていると六条院は感じた。朱雀院は本心からそう願っていた。
2026.08.23
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源氏物語〔36帖 横笛 2〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔36帖 横笛〕 の研鑽」を公開してます。また慰めとして未亡人となった一条の宮にも多くの品を贈ることを忘れなかった。兄弟以上の情けを故人に尽くす夕霧の姿を見て、大臣も夫人も、これほど深い志があったとは思わなかったと喜び、あらためて亡き子を惜しんだ。法要の華やかさにも柏木が生前に持っていた勢いが表れ、両親は栄えていた姿を思い返して悲しみを深めた。朱雀院は、女二の宮も不幸な境遇となり、出家した女三の宮も世俗の幸福とは縁のない暮らしを送っていることを父として残念に思っていたが、今さらこの世の出来事に執着しても仕方がないと自らに言い聞かせ、その思いを胸にしまっていた。仏道の勤めをするたびに、女三の宮も同じように修行を続けていると思い浮かべていた。女三の宮が出家してからは、それまで以上に折に触れて手紙を送り、父として変わらぬ気遣いを示して、朱雀院は寺の近くの林で採れた竹の子や、そのあたりの山で掘った自然薯に山里らしい新鮮な趣を感じ、女三の宮へ贈った。手紙にはさまざまなことを書き添えたあと、春の野山は霞に包まれている。
2026.08.22
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源氏物語〔36帖 横笛 1〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔36帖 横笛〕 の研鑽」を公開してます。「柏木」は衛門督の死、その後の人々の悲しみや秘密が中心でしたが、「横笛」ではその後の人間関係、とくに柏木の残したものをめぐる苦しみや、源氏・夕霧・女三の宮などの心の動きが続いていく。権大納言柏木の死を惜しむ者は多く、月日が過ぎてもなお恋しく思う人ばかりだった。六条院も同じだった。もともと関係の薄い人物であっても、何か一つでも優れたところを持つ者が亡くなれば深く悲しむ人だった。柏木は朝夕六条院へ出入りする身近な存在であり、多くの者の中でも特に愛すべき男として見ていたため、一つの問題は別としてたびたび心に思い浮かべていた。四十九日の法要では厚い志を示す読経料を寄進した。事情を知らない幼い若君の顔を見るたびに悲しみは深まり、そのほかにも法要のため黄金百両を贈った。事情を知らない柏木の父大臣は、その厚意に何度も感激して礼を述べた。夕霧も従兄であり、妻の兄であり、親友でもあった柏木の法要を盛大に営もうと心を尽くした。
2026.08.21
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源氏物語〔35帖 柏木49〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔35帖 柏木〕 の研鑽」を公開してます。柏木の面影をとどめるものは何もないと思って、その死を惜しんでいた。やがて秋になると、若君は這い回るようになった。その愛らしさは言葉に尽くせないほどで、六条院は人前だけでなく心の底からかわいがり、いつも自分の腕に抱いて大切に育てていた。こうして「柏木」の巻は終わる。栄華を誇った若き貴公子は、許されぬ恋の罪と悔恨を胸に抱えたまま短い生涯を閉じた。しかし死後も多くの人々に惜しまれ、その名は帝から友人、家族に至るまで人々の心の中に生き続けた。一方で、誰にも知られぬ秘密として残された若君だけが、柏木の血を受け継ぐ唯一の存在だった。だがその真実は表に出ることなく、やがて若君は源氏の子として成長していくことになる。次の「横笛」の巻では、柏木を失った人々の悲しみと、残された者たちの思いがさらに描かれていく。(完)明日より36帖 横笛(よこぶえ)を公開予定。
2026.08.20
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源氏物語〔35帖 柏木48〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔35帖 柏木〕 の研鑽」を公開してます。容姿の美醜などは問題ではなく、よほど人目に余るものでない限り、それだけで心が離れたり他の女性に移ったりすることは自分にはできないと左大将は考えていた。清楚な直衣姿の左大将は背が高く堂々としており、女房たちは、六条院は優雅で愛嬌のある美しさを持ち、男らしく華やかで、心を奪われると噂し合った。そして、できることなら女三の宮の新しい夫となり、いつも宮のそばにいてくれればよいのにとまで願う者もいた。左大将は「右将軍が墓に草はじめて青し」と口ずさみながら、友を失った詩人の気持ちを重ね合わせていた。世の人々もまた、数か月前に亡くなった柏木を惜しまぬ者はなく、帝でさえ追憶した。音楽の催しのたびに「ああ、衛門督がいてくれたなら」と思い、何かにつけて柏木の名を口にしない人はいなかった。まして六条院の悲しみは月日とともに深まるばかりであった。院は女三の宮の若君を、誰にも知られていないまま、ひそかに柏木の形見として愛していた。しかし周囲の人々は真実を知らない。
2026.08.19
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源氏物語〔35帖 柏木47〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔35帖 柏木〕 の研鑽」を公開してます。病床にあった御息所が姿を現し、左大将も姿勢を正し、改めて挨拶を交わした。御息所は悲しみのあまり体調を崩し、ぼんやりと日々を送っているが、左大将の度重なる見舞いに励まされて出て来たのだと語った。左大将も、故人を悲しむのは当然だが、あまり深く嘆き続けては体に障り、この世の出来事は前世からの因縁による。この世の出来事は前世からの因縁により、悲しみも永遠には続かないと慰めた。左大将は、噂に聞いていた以上に女三の宮が優美で気品ある女性であることを知った。そして若くして夫を失った悲しみに加え、人々から不幸な女性として憐れまれることまで苦しんでいるのだろうと思ううちに、同情は次第に恋心へと変わった。自分でも変化に気づきながら、御息所を通じて宮の様子を熱心に尋ねた。人の価値は性格によって決まり、尊ぶべき女性とそうでない女性は内面によって分かれるものだと思っていた。そして衛門督を親しく扱われたように、自分も他人と思わず接してほしいと、露骨ではないながらも、深い好意をにじませるようになっていた。
2026.08.18
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源氏物語〔35帖 柏木46〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔35帖 柏木〕 の研鑽」を公開してます。互いに枝を重ね合って頼り合う姿が実によい」と語った。そしてさらに簾の近くへ寄り、葉守の神のお許しがあるなら、御簾の隔てを取り払い、もっと近くでお目にかかりたいものだと歌に託して気持ちを伝えた。左大将は一段高くなった室の長押に外から寄りかかるようにしていた。その姿は柔らかく優雅だ。女房たちは、こうして気を許している時は、また格別に美しく見えると小声でささやき合った。先ほどまで左大将と話していた少将の君という女房が取り次ぎ役となり、長く姿を見せない女三の宮も、ようやく返事をすることに。悲しみに閉ざされた宮と左大将との間に、御簾越しながら静かな対話が始まろうとしていた。女三の宮は少将の君を通して、「柏木という葉を守る神がいらっしゃるとしても、人を親しくさせる宿の梢ではないでしょう」と歌を返した。突然そのようなことを言われるのは、かえって好意が疑われるからだという慎み深い返事であった。もっともな答えだと感じた左大将は、思わず微笑んだ。
2026.08.17
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源氏物語〔35帖 柏木45〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔35帖 柏木〕 の研鑽」を公開してます。枝を思うままに伸ばしていた。茂る草むらを見ていると、秋になれば虫の音が響くであろう様子まで想像され、左大将はしみじみとした哀愁に包まれた。喪中の邸では御簾の代わりに伊予簾が掛けられ、室内には鈍色の几帳が透けて見えていた。その落ち着いた色合いは夏の気配の中でかえって涼しげだった。女童たちの鈍色の汗袗の袖や、後ろ姿の髪がちらりと見えるのも上品であったが、やはり鈍色という色は、見る者に悲しみを思い起こさせる色で、今日は左大将は女三の宮の座敷の縁近くに席を取ろうとした。女房たちはいつものように御息所に応対を頼んだが、この頃は病がちで、今日も横になっていた。御息所が現れるまで、女房たちが応対している間、左大将は青々とした庭木を眺めていた。自然は人の悲しみとは関係なく生命に満ちている。しかしその美しさがかえって胸を痛めた。柏の木と楓が若葉を茂らせ、枝を交わし合って立っている姿を見て、左大将は女房に向かって「よほど深い縁のある木なのだろう。
2026.08.16
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源氏物語〔35帖 柏木44〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔35帖 柏木〕 の研鑽」を公開してます。さらに左大弁も、春を待つ前に花が散ってしまった恨みを歌に託した。皆の心に、柏木の早すぎる死への惜別が深く残っていた。大納言柏木の法事は盛大に営まれた。妹である左大将夫人が兄のために供養を尽くしたのはもちろん、左大将自身も真心を込めて供物を整え、読経のための寄進にも惜しみなく力を尽くした。その友情は生前と変わらず深く、柏木の死後も変わることはなかった。そして左大将は一条の宮へも絶えず見舞いの言葉を送り続け、残された女三の宮を気遣っていた。四月になり、初夏の空には爽やかな気配が満ちていた。木々は一斉に若葉を広げ、どこを見ても緑に包まれていたが、悲しみに閉ざされた。邸ではその鮮やかささえ寂しく感じられた。母君の御息所と女三の宮は、長く続く喪の日々の中で退屈と悲しさに沈んでいた。そんな折、左大将が再び訪ねて来た。庭の草は青く伸び、敷砂の隙間には蓬が力強く広がっていた。林泉を愛した柏木が丹精していた植え込みや花々も、今は手入れする者がない。
2026.08.15
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源氏物語〔35帖 柏木43〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔35帖 柏木〕 の研鑽」を公開してます。大臣は、自分の母を失った時以上の悲しみはないと思っていたが、今度の苦しみはそれとは比べものにならないと語った。柏木は朝廷の恩を受けて地位を得るにつれ、多くの人が頼る存在となっていたため、その死を惜しむ者も多かった。しかし自分にとっては官位や勢力を失ったことが悲しいのではない。何の肩書も持たない一人の息子としての柏木が恋しくてならないのだと言った。この悲しみを慰めるものなどあるはずもないと嘆き、空を見上げて深くため息をついた。夕暮れになると雲は鈍色にかすみ、花の散った桜の梢が寂しく浮かび上がり、大臣はその姿にようやく気づいたほど、息子を失った悲しみに心を奪われていた。左大将が帰った後、御息所は歌を書いて返した。亡き人を失った悲しみの中で、春の霞さえ喪服をまとったように見えるという心を詠んだものであった。これに対して左大将も、柏木自身もまさか自分が先に逝き、残された人々が夕霞のような喪の衣を着ることになるとは思わなかっただろうと返した。
2026.08.14
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源氏物語〔35帖 柏木42〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔35帖 柏木〕 の研鑽」を公開してます。左大将は柏木の晩年を振り返り、若いころの柏木は冷静で理知的な人だったが、亡くなる数年前からは心細そうな顔を見せることが多くなった。人生について深く考えた末に達した澄み切った境地なのかもしれないが、それでは以前の生き生きとした魅力まで失われると心配になり、時には忠告めいたことも言った。柏木は逆に自分を憐れむような優しい眼差しを向けるばかりで、左大将は、何よりも女三の宮が深い悲しみの中にいることを聞き、気の毒でならないと語った。その口調には亡き友への情愛と、残された宮を思いやる真心があふれて、しばらく懐かしい昔話を交わした後、左大将はなお名残惜しく静かに邸を後にした。衛門督は大将より五、六歳年上だったが、若々しく女性的な柔らかさを持つ人物で、一方の大将は重厚で端正な姿をしており、顔立ちの美しさは際立っていた。若い女房たちは悲しみを忘れるほどその姿に見入り、帰ろうとする大将を見送った。庭の桜を眺めながら大将は歌を口にしたが、尼姿を連想させる表現は避けた。
2026.08.13
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源氏物語〔35帖 柏木41〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔35帖 柏木〕 の研鑽」を公開してます。再び逢うことのできる命の尊さを詠んだ。さらに散った枝を残した桜の歌を自然に口ずさむと、一条の御息所からも返歌が届けられ、御息所は才気あふれるほどではなかったが、以前から才女と評判だった更衣らしい気の利いた歌を返してきたので、大将は評判に違わぬ人物だと感じた。その後、大将は太政大臣家を訪れた。子息たちに案内されながら離れ座敷へ向かったが、舅のもとへ無遠慮に入ることをためらった。そこで目にした大臣の姿は変わり果てていた。かつて端麗だった顔はやせ衰え、髭も伸びたままで、親を失った時より子を失った後の衰えの方が深いという世間の言葉そのままだった。大将は顔を見るなり涙があふれた。一条の宮を訪ねてきた話でも、涙もろくなっていた大臣は涙を流し、亡き柏木の思い出を語り、大将が一条の御息所から託された歌を見せると、大臣は涙でかすむ目を押し懸命に読み取った。老いと悲しみで誇りに満ちていた面影は失われていたが、「玉は貫く」という言葉だけは胸に深く突き刺さり、再び涙がこぼれた。
2026.08.12
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源氏物語〔35帖 柏木39〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔35帖 柏木〕 の研鑽」を公開してます。大臣夫妻の悲しみも深いと聞いているが、柏木が最も心配していたのは妻である女三の宮のことだと思うと、宮の悲嘆がどれほどのものか胸が痛むと語り、その途中にも何度も涙をぬぐった。気高く美しい姿に深い情愛がにじみ、御息所も思わず声を詰まらせた。御息所は、この世の悲しみは避けられないと話す。自らをも励ましているが、まだ若い女三の宮は悲しみに沈み切り、このまま後を追ってしまうのではないかと心配になるほど嘆き続けていると話した。そして、自分だけが年老いて生き残り、大納言を失い、さらに娘を若くして未亡人にしてしまう運命を見届けねばならないことが、何よりもつらいと涙ながらに語った。長い人生を生きてきた母でさえ耐え難い悲しみなのだから、若い宮の心の傷がどれほど深いものか、左大将には痛いほど理解できた。御息所はさらに胸の内を語った。女三の宮の結婚話が持ち上がった当初、自分は賛成ではなかったという。しかし柏木の父である大臣が熱心に進め、法皇も許す様子だった。
2026.08.11
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源氏物語〔35帖 柏木40〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔35帖 柏木〕 の研鑽」を公開してます。自分の考えが古すぎるのだろうと思い直して結婚を受け入れた。だが今となっては、もっと強く反対していれば、このような不幸な結果を避けられたのではないかと悔やんでいた。もともと宮という高貴な人は、よほど深い縁でもない限り結婚などせず、神聖な存在として大切に守られるべきだと昔気質の考えを抱いていた。中途半端な形で若くして未亡人となった宮を見るにつけ、いっそ悲しみのまま命を終えたほうが幸せなのではないかとさえ思う。しかし実際にはそんなふうに諦め切れるものではなく、悲しみの中で日々を送っているのだった。その中で唯一の慰めとなっていたのが、左大将からたびたび届く心のこもった見舞いの手紙だった。これほど親切にしてくれるのも、柏木が最期に宮のことを頼み残したからと思うと、柏木は決して愛情深い夫には見えなかったものの、最後には誰に対しても宮を気遣う遺言を残していたことがわかり、悲しみの中にもかすかな慰めがあることを知ったと語った。そして御息所は言葉の途中で涙にくれ、大将も涙を流した。
2026.08.11
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源氏物語〔35帖 柏木38〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔35帖 柏木〕 の研鑽」を公開してます。柏木が亡くなってからの邸は、女房たちまで喪服をまとい、何もかもが沈んだ空気に包まれていた。ある日、高い前駆の声とともに車が門前に止まると、女房の中には、亡くなった殿がお帰りになったのかと思ったと泣き出す者までいた。最初はいつものように左大弁や参議あたりの来訪かと思われていた。姿を現した左大将は気品と美しさを兼ね備え、立ち居振る舞いまで見事で、人々の目を引いた。客は南向きの座敷に通され、女房だけに応対させるのは失礼だとして、宮の母である御息所が自ら姿を見せた。左大将は、柏木への悲しみは遺族にも劣らないが、立場上それを十分に表すことができなかったと語った。そして柏木が最期に女三の宮のことを託していった以上、自分もできる限り力になりたいと思っていると打ち明けた。本当ならもっと早く見舞いたかったが、宮中の神事や穢れを避けるしきたりもあり、さらに庭先から形式的に挨拶するだけでは自分の気持ちが済まなかったため、訪問が遅れてしまったのだという。
2026.08.10
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源氏物語〔35帖 柏木37〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔35帖 柏木〕 の研鑽」を公開してます。大臣夫妻は思い出せば悲しみが募るばかりで、かえって成仏の妨げになると言うだけで、生きながら魂を失った人のようになっていた。未亡人となった落葉の宮の悲しみはさらに深かった。最期の病床にも立ち会えないまま夫を失ってしまったからだ。広い邸は日を追うごとに寂れ、仕える人々も少しずつ去っていった。柏木に恩を受けた人は宮を訪れ、敬意を示した。柏木が愛用していた鷹や馬を預かっていた家臣たちも、主人を失って力を落としながら出仕していたが、その姿を見るだけで宮の心は痛んだ。柏木が日常使っていた品々がそのまま残されており、いつも手にしていた琵琶や和琴は今では弦も張られず静かに置かれている。それらを見るたびに在りし日の姿が思い出され、悲しみはいっそう深くなった。庭では季節が巡り、木々は霞み、花は時を違えず咲こうとしていた。しかし自然だけが変わらず美しく移りゆく様子は、宮に人の世のはかなさを感じさせたが春が訪れようとしていることが、何よりも寂しく悲しく思われたのである。
2026.08.09
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源氏物語〔35帖 柏木36〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔35帖 柏木〕 の研鑽」を公開してます。時折、抑え切れない恋の苦しみをのぞかせることもあった。人柄も才能も優れていたが、恋愛に関しては感情に流されやすく、最後には許されない恋に身を投じて自らを滅ぼしてしまった。相手の女性にとっても不幸なことであり、自分の命まで失ったのは決して賢明な生き方ではなかった。前世からの因縁だ。因縁と言えばそれまでだが、やはり軽率な行動だったと夕霧は考えていた。しかしその思いは胸の内にしまい、妻にも語らなかった。また柏木が死の直前に打ち明けた言葉についても、夕霧はまだ院へ伝えていなかった。その話を切り出せば、隠されている秘密の全体像が見えてくると考えていたためだ。一方、柏木の父である大臣夫妻は深い悲しみの中にあり、日々の感覚さえ失っていた。法事の準備や供養のための経巻や仏像の手配は息子たちや婿たちが引き受け、特に次男の左大弁が中心となって進めていた。七日ごとの法要の日が来るたびに子供たちが知らせても、大臣は、あの子の話は聞かせないでくれと言うだけ。
2026.08.08
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源氏物語〔35帖 柏木35〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔35帖 柏木〕 の研鑽」を公開してます。一方で夕霧は、柏木が死の間際に自分へ秘密めいた話を打ち明けた意味を考え続けていた。もし柏木がもう少し元気な時期であったなら、さらに核心に近い話を聞き出せたかもしれないのにと悔やまれた。夕霧は兄弟たち以上に柏木を懐かしみ、その死を惜しんでいた。また女三の宮が突然出家した。出家したことも深い事情があると感じ、病気がそれほど重くない宮を、院が何の反対もせず尼にしてしまったのは不自然であり、その背後にはまだ知られていない事情が隠されているのではないかと疑っていた。柏木の死と女三の宮の出家について、夕霧はますます両者が深く結び付いていると考えるようになった。かつて二条院の夫人が重病となった時には、どれほど懇願されても出家を許さなかった院が、今回はほとんど異議を唱えず女三の宮を尼にしてしまった。その違いには必ず理由があるはずで、夕霧は昔から柏木が女三の宮へ特別な思いを抱いていたことを知っていた。柏木は感情を表に出さず冷静を装う人物だった。
2026.08.07
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源氏物語〔35帖 柏木34〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔35帖 柏木〕 の研鑽」を公開してます。思えば思うほど、宮が気の毒でならなかった。そのため院はすべてを知りながらも知らぬふりを貫き続けた。薫が無邪気に声を上げて喜ぶ姿を見るたび、院にはその目元や口元が柏木にそっくりに見えた。他人には分からなくとも、自分には疑いようがなかったのである。柏木の両親は息子を失った悲しみに沈んでいた。秘密の中にただ一人残された薫を思うと、かつては柏木の罪を憎み無礼な男だと怒っていた気持ちも薄れ、むしろ哀れさが込み上げて涙を流した。やがて女房たちが部屋を去った後、院は宮のそばへ寄り、こんなにかわいい子を残して、この世を去ってしまうとは冷たい人だったと不意に語りかけた。そして、人から誰の種を蒔いた子かと問われたなら、岩根に生える松は何と答えるだろうかと歌を口にした。それは薫の出生を暗に示す歌で、宮は顔を赤らめ、何も答えず伏して、院もそれ以上は言葉を重ねなかったが、純真な宮といえども平然としていられるはずはないと思うと、その胸の内を想像して気の毒に感じた。
2026.08.06
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源氏物語〔35帖 柏木33〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔35帖 柏木〕 の研鑽」を公開してます。今日は慶事の日で、人前で涙を見せられない。源氏は涙を隠しながら、五十八歳の老翁にもなお後継ぎがある。喜ぶべきことではあるが、また嘆くべきことでもあるという意味の漢詩の一句を口ずさんだ。そこには、晩年にようやく得た子を喜ぶ気持ちと、その子が実は柏木の忘れ形見であることを知る苦しみとが重なっていた。若君の成長は喜ばしい。しかしその存在そのものが、自らの過ちと柏木の悲劇を思い出させる。春の華やかな祝いの席にあっても、源氏の心だけは晴れることなく、喜びと悲しみが入り混じった複雑な感情に包まれていた。五十八歳となった院は、自分もすでに人生の晩年に差しかかったように感じていた。白楽天の詩にある「お前の父のような愚かな老人になるな」という句さえ思い浮かぶほどで、薫の出生の秘密を知る女房たちが宮の周囲にはいるはずであり、その者たちが自分を愚かな人間として見ているのではないかと思うと不快だが、自分が笑われることよりも、宮がどのような目で見られているのかを考えた。
2026.08.05
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源氏物語〔35帖 柏木32〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔35帖 柏木〕 の研鑽」を公開してます。ふっくらとよく育ち、肌は白く美しく、源氏は夕霧の幼いころを思い浮かべて比べてみたが、まるで似ていない。源氏の子女たちは多くが母方の帝に似て、気品と威厳を備えていたが、この若君にはそれとは異なる魅力があり、生まれながらの上品さに加え、人を惹きつける愛嬌があり、目元は美しくよく笑う。その姿を見ていると自然に愛情が湧いてくる。しかし源氏の胸には、誰にも言えない思いがあった。気のせいかもしれないが、若君は亡き柏木によく似ているように見えた。まだ幼児でありながら、どこか高貴な若君らしい眼差しを持ち、その面差しには柏木を思わせる艶やかな雰囲気さえ感じられた。もちろん女三の宮にはそのことがはっきりわからない。周囲の人々も全く気づいていなく、ただ一人、真実を知る源氏だけが、その面影を見出していたのである。若君の姿を見るたびに柏木との因縁が思い起こされ、亡き人への追憶と人生の無常が胸に迫った。祝いの日であるにもかかわらず、源氏の目には涙が浮かんだ。
2026.08.04
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源氏物語〔35帖 柏木31〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔35帖 柏木〕 の研鑽」を公開してます。女三の宮は病のためではなく私を嫌ってそうされたようにも思えてしまう。どうか今でも私を愛していてくださいと切実な思いを打ち明けた。しかし女三の宮は静かに、出家した者は人を愛する心から離れるものだと聞いており、まして私はもともと人を愛するということがよくわからなかったのです。何と答え申し上げればよいのかと答えた。その返事には冷淡さというより、宮らしい無垢さと世事への疎さが表れていた。源氏は困った方ですね。少しはおわかりになることもあるでしょうにと言いかけたが、それ以上は続けなかった。宮を責めることもできず、言葉を飲み込んで若君へ目を向けたのである。若君には身分の高い家柄の女性たちが乳母として選ばれ、何人も仕えていた。源氏は彼女たちを呼び寄せ、若君の養育について細かな注意を与えた。そして若君を抱き上げながら、かわいそうに、年老いた父を持ち、これからゆっくり成長していくのだねと語りかけた。若君は抱かれるとにこやかに笑った。
2026.08.03
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源氏物語〔35帖 柏木30〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔35帖 柏木〕 の研鑽」を公開してます。髪が長めのため、一見するとまだ普通の女性のようにも見えた。そこには、出家して俗世を離れたはずでありながら、なお若く美しい女三の宮の姿があり、源氏の胸には複雑な感慨が去来していた。女三の宮は、濃淡の異なる鈍色の衣を幾枚も重ね、その下には黄みを帯びた淡い色の単衣を着ていた。出家したとはいえ、まだ完全に尼僧らしい姿にはなりきっておらず、どこか幼く美しい少女のようにも見えた。源氏の目には、その姿がかえって宮に最もふさわしく映り、はかなくも艶やかな美しさを感じさせた。源氏は墨染めの衣を見ながら、この色はつらいもので、どうしても悲しみを思い出させる。こうして出家した後も共に暮らせるのだと思って自らを慰めているが、それでも涙だけは止まらない。あなたに見捨てられたことも、自分の罪の報いであるように思われて苦しい。何とか元へ戻せるものではないでのかと嘆いた。そして更に、もし本当に俗世への執着を断ち切り、完全に尼の心になってしまった。
2026.08.02
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源氏物語〔35帖 柏木29〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔35帖 柏木〕 の研鑽」を公開してます。南向きの座敷には若君のための小さな席が設けられ、祝い膳が整えられた。新しい乳母たちは華やかな装いで集まり、女房たちに配られる料理の器に至るまで美しく飾られ、式場全体が春の祝いにふさわしい明るさに満ちていたが、源氏の心は晴れなかった。世間の人々は若君を源氏の実子と信じていた。そのため数え切れないほどの祝品が届けられていた。その光景を見るたびに、真実を知る自分だけが抱える苦しさが胸に迫る。事実を明かすこともできず、誤解を正すこともできないまま、人々の善意を受けなければならず、そのことが源氏にはひどく後ろめたく感じられ、女三の宮もこの日は起き出していた。出家によって短く切りそろえられた髪は、まだ柔らかく厚みをもって広がり、本人には痛ましく思われた。額の髪をなでつけて整えているところへ、源氏は几帳を脇へ寄せて近くに座った。女三の宮は恥じらい顔を背けたが、その姿は以前にも増して小柄なのか弱く見えた。もっとも髪は受戒の日に僧が惜しんで長めに残した。
2026.08.01
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源氏物語〔35帖 柏木28〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔35帖 柏木〕 の研鑽」を公開してます。六条院では若君の五十日の祝いの日を迎えた。若君は肌が白く愛らしく育ち、すでに笑い声を立てるほどになっていた。源氏は女三の宮を訪れ、気分は良くなりましたか。回復されたとしても、喜びを分かち合うべき人はもういません。以前のあなたのままで、この子の成長を見られたならどれほど嬉しかったことでしょう。あなたは私を残して行ってしまいましたねと、亡き柏木への思いを重ねるように涙ぐんだ。柏木の死後、光源氏は以前にも増して女三の宮を気遣うようになり、ほとんど毎日のように訪れるようになっていた。皮肉にも、女三の宮が出家してしまった後になって、もっとも手厚い心遣いが注がれることになった。五十日の祝いには、母である女三の宮が尼の姿で列席することを心配する声もあった。出家した母の姿が若君の将来の祝福にふさわしくないのではないかと考える女房たちもいたのである。しかし源氏はその意見を退け、少しも差し支えない。もし若君が姫君なら母の運命を案じることもあろうがと語り、祝いを執り行わせた。
2026.07.31
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源氏物語〔35帖 柏木27〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔35帖 柏木〕 の研鑽」を公開してます。御息所も、娘が早くから未亡人となった不幸を嘆き続けていた。柏木の父である大臣と母もまた深い悲嘆に沈み、自分たちこそ先に死ぬべき年齢であるのに、若い息子が先立つという道理に外れた運命を受け入れられず、ただ悲しみに暮れるばかりだ。だが、その嘆きによって失われた命が戻るわけでもない。周囲の人々はただその姿を見守るしかなかった。一方、女三の宮は生前の柏木から寄せられた恋情を重荷に感じ、そのため彼に対して複雑な思いしか持てなかった。しかし実際に死の知らせを聞くと、さすがに胸を打たれ、しみじみとした悲しみに包まれた。さらに若君の存在を見るにつけ、柏木がわが子同然に愛していた。そのことが思い出された。柏木の死によってかえって父子の不思議な縁を強く意識するようになり、柏木が心の奥で信じ続けていたことは本当であったのかもしれないと思われたのである。その思いは女三の宮自身の運命の悲しさと結びつき、涙を流さずにはいられない。季節は三月となり、春の日差しは穏やかだった。
2026.07.30
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源氏物語〔35帖 柏木26〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔35帖 柏木〕 の研鑽」を公開してます。その死はまるで水の泡が静かに消えるようであり、長い闘病の末のあっけない最期だった。柏木は女三の宮への愛によって大きな罪を犯した人物ではあったが、夫としての表向きの務めは最後まで怠らなかった。宮を正妻として敬い、その身分にふさわしい待遇を与え続けた。優しく思いやりのある夫でもあった。女三の宮は柏木に対して特別な恨みを抱くことはなく、この場面は柏木の最期を描く章の締めくくりで、密通の罪に苦しみ続けた一人の青年貴族が、後悔と未練を抱えながら静かに世を去る姿がしみじみと描かれ、彼の死によって事件そのものは終わるが、その結果として生まれた薫の存在や、残された女三の宮の運命。柏木の死は、多くの人々に深い悲しみを残した。光源氏は、柏木が若くして世を去ったことで、かつて何事にも心を寄せぬような寂しい様子を見せていたのも、もともと短い命を予感していたからではなかったかと思い返し、そのことがいっそう哀れに感じられた。落葉の宮の母である御息所も、娘が早くから未亡人となった。
2026.07.29
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源氏物語〔35帖 柏木25〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔35帖 柏木〕 の研鑽」を公開してます。衛門督は、一条に住む女三の宮のことも頼み、自分の死後、宮に対して折に触れて親切を尽くしてほしいこと、法皇が余計な心配をしないよう、宮の生活にも気を配るよう願った。本当はまだ伝えたいことが数多くあったに違いない。しかし病苦はすでに限界に達し、衛門督は言葉を続けることができなくなった。衛門督は手を振って帰るよう合図したが、そこへ加持祈祷を行う僧たちが集まり、母夫人や父の大臣も現れて病室は慌ただしくなった。左大将は涙をこらえながら別れを告げて立ち去った。衛門督の死を悲しんだ者は多かった。妹である院の女御や大将夫人はもちろんのこと、周囲の人々も皆その死を惜しんだ。衛門督は誰に対しても思いやり深く、よき兄であろうと努める人物であった。玉鬘もまた強く心を痛めていた。これまで何かと親しく接してきた衛門督のために、自ら祈祷の手配までした。しかしどれほど祈っても、その願いは死を退ける力にはならない。衛門督は、女三の宮と最後の対面を果たせず、この世を去った。
2026.07.28
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源氏物語〔35帖 柏木24〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔35帖 柏木〕 の研鑽」を公開してます。六条院へ弁明してほしいと頼んだ。もし誤解が解けるなら、死後であっても感謝するとまで言う。話している最中も衛門督は苦痛に耐えている様子であり、左大将はその姿を見て深く悲しんだ。だが六条院との件については、左大将にも多少思い当たることがあったものの、確信を持って判断できるものではなかった。左大将は、衛門督自身の思い込みではないかと慰めた。自分には六条院がそのような感情を抱いているようには見えない。もしそれほど悩んでいたのなら、なぜもっと早く相談してくれなかったのかと悔やんだ。自分が間に立って誤解を解くこともできたかもしれないのに、今となってはもう遅いと残念がった。衛門督も、病が少し軽い時期もあったのだから、その頃に相談すればよかったと言う。しかし自分でも病状の進み方がわからず、まさかこれほど早く人生が終わるとは思いもよらず、この話は誰にも漏らすなと念を押した。左大将に打ち明けた、いつか適当な機会に自分に好意的な弁解をしてほしいからであった。
2026.07.27
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源氏物語〔35帖 柏木23〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔35帖 柏木〕 の研鑽」を公開してます。憂鬱な日々を送り続け、そしてその精神的な衝撃があまりにも大きかったため、自ら衰弱を早め、回復できないほどの病へと追い込んでしまったと語るった。この場面では、柏木(衛門督)が病そのものよりも、女三の宮との密通という誰にも明かせない罪の意識に苦しみ続けていたことが明らかになる。肉体の病ではなく、六条院に対する負い目と良心の呵責が、柏木の命を蝕んでいた。衛門督は、自分が才能に乏しい人間であることは承知していたが、それでも少年の頃から六条院を深く敬愛し、誠心誠意仕えようと努めてきたと語った。それだけに、なぜ自分が六条院の不興を買うことになったのか理解できなかった。誰かが中傷したのかもしれないとも考えたが、真相はわからないままだった。死を目前にしてもなお、この問題が心から離れないことを衛門督は苦しんでいた。本来ならそのような執着は往生の妨げになるはずだと自覚していたが、それでも気がかりでならず、左大将に対し自分の死後であっても六条院へ事情を説明を頼む。
2026.07.26
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源氏物語〔35帖 柏木22〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔35帖 柏木〕 の研鑽」を公開してます。今では意識もぼんやりし、祈祷や願掛けによって命が引き留められ苦痛に感じる。早く終わりが来てほしいと願うことすらあると静かに語った。もちろん思い残すことがないわけではなかった。両親への孝行も十分に果たせず、自分自身についても悔いはある。しかし、それら以上に心を苦しめている問題があるという。その秘密は今まで誰にも話せなかった。身内にさえ打ち明ける勇気がなかった。だが死を目前にした今、ひとりで抱え続けることにも耐えられなくなっていた。そこで衛門督は、最も信頼する左大将だけに真実を語ろうと決意した。衛門督は、自分が六条院の源氏の感情を害するようなことをしてしまったらしいと話し始めた。そのことを深く悔い、心の中で詫び続けながら暮らしていたという。そして法皇の賀宴の試楽の日、久しぶりに六条院と対面した際、その表情からなお許されていないことを悟った。その瞬間から、衛門督は生きていることが後ろめたさを感じるようにななり、源氏の怒りを受けているという思いが心を離れなかった。
2026.07.25
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源氏物語〔35帖 柏木21〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔35帖 柏木〕 の研鑽」を公開してます。起き上がろうとしたが思うように身体が動かなない。白い柔らかな衣を何枚も重ね、その上に夜着を掛けて横たわっていた。病室は整然として清潔であり、重病の中にあっても衛門督の几帳面な性格がそのまま表れていた。普通なら長い病によって髪は乱れ、見る影もなくなるものだが、衛門督は痩せ細っていた。枕から少し顔を上げて話すたびに息が絶えそうに見え、その姿は見る者の胸を強く打った。左大将は、長い病のわりにはそれほど病人らしい顔には見えず、むしろ以前より美しく見えると励ました。しかし実際には涙を隠すことができなかった。若い頃には同じ日に死のうと冗談交じりに語り合ったこともあった。今やその言葉が現実味を帯びて迫っているのである。左大将は、病名も原因も誰からも聞かされず、自分のような親友ですら何の病なのかわからないことがもどかしいと打ち明けた。それに対し衛門督は、自分自身にも病の正体はわからないと語った。特に痛む場所もなく、気づかぬうちに衰弱が進み、重態になった。
2026.07.24
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源氏物語〔35帖 柏木20〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔35帖 柏木〕 の研鑽」を公開してます。高い官位にある左大将を病室へ招くことを遠慮していたが、親友に会えないことがかえって心残りとなっていた。そこで今回は特別に病室へ通してほしいと伝えた。病床のそばに控えていた僧たちをしばらく外へ下がらせ、左大将を迎え入れたのである。二人は少年時代から分け隔てなく付き合ってきた親友であった。そのため迫りつつある死別は、左大将にとって兄弟を失うのにも劣らない悲しみであった。左大将は昇進の知らせによって衛門督の気分も少しは明るくなっているだろうと考えていた。しかし実際に対面してみると、その期待は無残に裏切られた。病はさらに深く進み、衛門督の姿には回復の兆しなどほとんど見られなかった。左大将は病床の衛門督を見るなり、なぜこれほど病状が悪化したのかと驚いた。今日は昇進というめでたい知らせもあり、気分が晴れているだろうと訪ねてきた。几帳の端を上げて中を見ると、そこには以前の面影が薄れるほど痩せ衰えた衛門督の姿があった。衛門督は苦笑しながら自分でもすっかり変わってしまったと言う。
2026.07.23
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源氏物語〔35帖 柏木19〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔35帖 柏木〕 の研鑽」を公開してます。特に年少の弟たちは親のように頼りにしていたため、その兄が死を覚悟して遺言を語る姿に接し、不安と悲しみを抱かない者はいなかった。家に仕える者たちまで皆が深く心を痛めていた。朝廷でも衛門督の病状は憂慮されていた。危篤状態にあることが帝の耳に届くと、帝は急いで彼を権大納言へ昇進させた。この栄誉によって気力を取り戻し、もう一度参内してくれるのではないかという期待を帝は抱いていた。だが病勢はそれを許さなかった。衛門督は病床で任命への謝意を記した表文を書き送ることしかできなかった。大臣は帝からの厚い恩遇を見るほどに、失われようとしている息子の存在が一層惜しまれ、途方に暮れる。左大将もまた衛門督の親しい友人として、その病を絶えず案じていた。見舞いの手紙を送り続け、昇進の知らせを聞くと誰よりも早く大臣家を訪れ、衛門督の住む周囲には車や馬が集まり、人々が忙しく出入りしていた。重病人の家らしい緊張した空気が漂って、今年に入って衛門督は、起き上がることさえ難しかった。
2026.07.22
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