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2010年01月22日
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カテゴリ: ~2004
「忘れられない記憶」


歌を仕事にして、ンー十年。

しかし、歌の本番前に
あれほどイヤな汗をかいたのは

かつてあっただろうか。


以前から、特別養護老人ホーム、
いわゆる特養ホームで

歌って欲しいと言われてた。
こちらも歌と健康、そして




興味があったのでようやく都合をあわせ
意気揚々と向かったはいいのだけれど。


係の人に案内され、初めて足を踏み入れた
その建物のロビーで目にしたのは、


今生きているのかどうかもわからない

車イスの上でぐったりした、老人たち。


この人たちに、歌を指導する?


歌えるの?
いや声を出せるの?

なにより、説明の話すらまともに
聞いてもらえないんじゃないの?



いや両手まで突っ込んでないです?



本番を控えた喫煙室で私は
なにをどうすればいいのか

必死で考えたけれど


なにより、これまで似た経験がないため



考えようがない。


どうする?どうすれば良いの?


オリでおびえた子うさぎのように...

いや、それはない。

ただ喫煙室で焦りまくっている、
太った中年のおっさんだが
それでも


頭の中は、まるで洗濯を終えたばかりのシーツが
庭先の物干で風に吹きさらされているかのように

真っ白で、ただ意味もなくゆらゆらしたまま。



スタッフの方の
「では先生お願いします」


不意をついたようなその声で、
とにかく出て行き

まずは挨拶を。

「こんにちはー、今日は皆さんと一緒に歌を
 歌いたくてやってきましたぁー!」


誰1人こちらを見ることもなく
車イスでうなだれている。

だよなぁ...



3.40人ほどだろうか、
目の前にいるお年寄りたちの姿は


まるで生気がなくただ車イスに乗っかっただけの
置物のよう。




思わず

「今、生きてます?」

と聞きたくなるほど。




どうしよう、どうすればいいんだろう。

滝のように額から汗が流れ、
頭のてっぺんからは

湯気が蒸気しているのが
自分でわかる。



その時、何かがパチンとはじけた。



かっんけーねーよ、聞いちゃいようがいまいが。

今から歌うから聞け!


そんな風に1人で大声でべらべらとしゃべり
そして、歌は呼吸は、こうすると
ラクですよ、気持ちいいですよ、

じゃぁ、歌うから聞いてみてっ!

そうして大きく声を張り上げて歌い出したら

何人かの人がこちらを見始めた。
そして、一緒に声を出し始めた。



私はその時、感動を持ってこう思った。


「あ、動いた」


この人たちは死んでなんかいない!
生きてるし、今歌いたがってる。


私の中でそれまで、この人たちには
何を言っても届くことなどないのかも、

どこかそんな風に思っていた
心の壁が崩れた瞬間。



そのあと1人また1人と声を出しはじめ

予定の45分が終わる頃には
会場全部の大合唱になっていた。




出し物が終わったあと、握手したいと
何人もの人が並んでくれて


「先生ありがとう」と涙流しながら
声をかけてくれたけど


わたしのほうこそ、一緒に歌ってくださって
本当にありがとう、それしか言えなかった。


----


リビドー、それは生(性)の欲求。

生きたいと、生きようとする欲求だと言われる。


しかし、歌が好きで歌いたい、歌いたいを
連呼する人の歌ほど命が感じられないのは

なぜだろう。


そこに死が無いからでは
ないだろうか。

デストルドー。

これは破壊、破滅を望む欲求。
今死に行こうとする方向のエネルギー。

そこには希望がない。
だからこそそこに

目的とか計画とか計算を越えた

純粋にただ生きたいと言う
リビドーが生まれることもあるのかも知れない。



命とは時間だ。
必ず締め切りが訪れる。


しかし、その変えようのない運命に
抗うことこそが、生であり

生きようとする根源的な歌の力、
なのではないだろうか。


ただ漫然と日々の予定に流され
波に飲まれ溺れ苦しむのが

人生だとしても


ホームに預けられ面会に来る家族もなく
ただ毎日を無為に過ごすだけだとしても

自分はこうしたいのだ!と
強く望み、そこに向かおうとすることが


生、生きることなのではないだろうか。



ある1人の男性の姿が忘れられない。

私の指導で皆が歌っている時、

ある男性がもっと大きく声を出そうとして
激しくむせてしまった。

スタッフが心配して

「無理しなくて良いのよ」と言われても


その男性は涙ながらに、

「歌いたい、歌いたいんだよ」と

叫んだその姿を。

この、ホームで歌を指導すると言う感動から
以来何度もボランティアをさせてもらっている。

そこには、歌の原点を感じさせるなにかが
あるように思えてならないから。


歌とは生きる力そのものでもあるかも知れない。


それはもちろん、ただやみくもに
歌えば良いわけではなく

生と死、命というものが歌と同時に存在した時
はじめてそこに

目に見えない何かが宿るような気がする。


「魂」とは、そういうものかも

知れないな。





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Last updated  2010年01月22日 22時29分12秒


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