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2009年10月20日
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「あなたは……!」

 紫姫付きの古い女房は、翡翠を覚えていた。

「姫様、姫様、おいでになりましたよ!」

 あわてふためくように奥へ引っ込んでいく様子が物語る。やはり、紫姫は待っていたのだ。翡翠の訪れを。

「翡翠殿……!」

 待ちきれずに御簾をくぐり迎えに来た姿は、もはやあの頃の小さな姫君ではなく。
 いかにもろうたげに、しっとりと落ち着いたゆかしき姫君だった。

「紫……姫……?」

 駆け寄る柔らかな体を、翡翠は抱きとめた。抱きしめずには居られなかった。今一度。腕の中に戻ってきたこの優しい温みを、もう一度手放すなど思いも寄らなかった。余りにも今までの自分とかけ離れた心持ちに戸惑いながらも、翡翠は紫姫を思う様かき抱いていた。


「それにしては、あなたは文一つ寄越さなかった。」
「お出ししておりました。お手元に届かなかったのですか? 紫こそ、お返事一つ下さらないと恨んでおりましたが、きっと、翡翠殿には海のお仕事がお忙しいのだろうと、我慢をしておりましたのに。」

 翡翠は横の乳母をちらりと見遣った。乳母は落ちつかなげに目を泳がせた。おそらく、これは乳母の仕業。海賊風情に大事の姫君はやれないと、翡翠が去るのを幸いその仲を隔てにかかったが、姫があまりに一途なのと、多分、翡翠の出自を小耳に挟んだのだろう。翡翠の耳に紫姫の噂が届くように画策した。そうでなければ、こんな風に尼君の屋敷に易々と通れるはずもない。

「ああそうだ。迎えに来たよ。あなたに海を見せにね。来てくれるかい?」

 返事の代わりに懐深く潜り込む姫を、翡翠は軽々と抱き上げた。乳母が一瞬顔を強ばらせたが、翡翠の足の向かった先は外へ向かう階ではなく、昔、神子の居た、奥庭に面した部屋だった。

「今からではありませんの?」

 紫姫が不満げな声をあげた。翡翠は軽く笑って紫姫の顎を持ち上げ、口づけを落とした。

「すぐにと言いたいところだが、生憎と野暮用の最中でね……船の支度ができるまで、ここであなたと過ごしたい。だめかい?」

 神子が居た昔と同じに、廂の柱にもたれて月を眺める。気まぐれなこの月が今度こそ本当に約束を守るようにと、紫姫は翡翠の衣を握る手に力を込めた。





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最終更新日  2009年10月20日 20時39分57秒
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