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2010年05月21日
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 目覚めると、藤姫が笑いたいのを必死に堪えている顔で座っていた。

「神子様、今朝は友雅殿がお迎えに来ていらっしゃいますわ。」

 麗らかな皐月の青空が広がる朝だった。意味ありげな藤姫の表情を不思議に思いながら身支度をすませて居間へ出ると、見慣れぬ正装の男が馴れた風で蝙蝠を使いながら座っていた。向こうを向いているから顔は見えないが、蝙蝠の風で漂う香りに覚えがあった。
 男は振り向きもせずにふっと笑った。あかねは確信した。

「やあ、神子殿。お目覚めかい?」
「友雅さん、どうしたんですか、その格好!」
「おかしいかい? 今日は早朝からのお召しでねえ。」

 窮屈だけれど、まだ脱ぐわけにはいかないから参ったねと困り顔で微笑んだ。

「どうして参っちゃうんですか?」


 友雅はぽんぽんと手を打って従者を呼んだ。準備はできておりますと言う声に大様にうなずいた。

「さあ神子殿、おいで。今日はいいところへ連れて行ってあげよう。」
「どこへですか?」
「ないしょ。もし一人では信用できないとおっしゃるなら、藤姫もご一緒にいかがですか?」

 そばで控えていた藤姫の顔がうれしさ半分困惑半分に輝いた。

「よろしいのですか?」
「ええ、いいですよ。その方が神子殿もご安心でしょうし。」

 ちらりとあかねの方を見るから、あかねは慌てて手を振った。

「そ、そんなこと、ないですよ。友雅さんと二人が怖いなんて、私、言わないです。」
「ほほう、私と二人は怖いって? それはまた嬉しいことを言ってくれる。」
「ど、どうしてですか!」


 手を取ってそっと唇を寄せるから、藤姫がきっと見とがめた。

「友雅殿!」

 友雅は笑ってあかねの手を離した。藤姫はあかねのそばにさっと寄って、ぎゅっとあかねの手を握った。

「冗談です、神子殿を攫ったりはしませんよ、藤姫。出かけるでしょう?」

 たまには息抜きも必要だと、友雅が腰を上げた。あかねと藤姫はしっかりと手を取り合って後に続いた。車宿りには友雅の牛車が待っていた。3人乗ると膝をつき合わせる狭さ。あかねは藤姫が一緒なのに心からほっとした。



 出会った頃はまるで興味がない風だったのに。優しい大人だ、ああ見えて頼りがいがあると甘えて油断していると、さっきのように妙な行動を取る。藤姫がいなかったならどうなっていたか。想像すると顔がかあっと火照ってくる。

「ふふ、何を考えているのかな、神子殿は。」
「な、何も考えてなんかいません!」

 つれないねと流し目をくれるから、あかねの顔は火照るばかりだった。隣の藤姫があかねの手を強く握り、友雅の顔をきっとにらんだ。友雅は苦笑して御簾の外に目を移した。新緑が眩しい。

 牛車は静かに動き出した。きいきいと車のきしむ音が響く。牛飼い童の牛を追う声、従者の先触れの声。ごとごとという揺れに体を取られてぐらり傾くと、友雅に寄りかかる形になってしまうから、あかねは必死で木枠に捕まっていた。

「遠慮せずに寄りかかったらいいのに。何もしないよ。」
「ダメです! そんなこと。」
「おやおや、よほど信用されていないのだねえ。まあ、それでもかまわないけれどね。」

 ふふと含んだ笑い方が怖いほど不気味で、あかねは身をすくませた。

(こんな友雅さんと、この先やっていけるのかしら……)

 なるべくお供をお願いしないようにしようと思ったときに、外から声がかかった。

「このあたりでようございますか。」
「ああそうだね。ゆらさないように気をつけて立てておくれ。」

 車の向きがぐるりと変えられた風だった。牛の大きな鼻息が車の横を通り過ぎて、前の御簾が半分ほど巻き上げられた。

「神子殿、おいで。ここならよく見えるだろう。」
「何がですか!?」
「そんなに人を警戒するものではないよ。もっともそれは私のせいなのだろうけれどね。ほら。」

 藤姫はもうどこへ来るのかわかっていたようだ。きらきらした目をして前の方へ出てきた。

「神子様、お祭りですわ。斎王様が賀茂のお社にご挨拶に行かれるのです。」
「それって、葵祭?」
「はい。友雅殿の挿頭でもしやとは思っていたのですが、本当に連れてきていただけるなんて!」

 目を輝かせて前に出てきた藤姫に座を譲って、友雅は車の後部に下がった。「神子様」と呼ばれてあかねも藤姫の隣に座した。御簾が上がっているから、往来がよく見える。行列が通るという道の両側には同じような牛車がずらり立て並べられて、浮き立つ笑顔がそこかしこに溢れている。
 はしゃぐ藤姫と一緒に外を見ていると、どうやら行列が近づいたらしく、周囲がざわめき始めた。先触れの使者が通っていく。この日のために整えられたであろう鮮やかな装束。勅使の乗る牛車は薫り高い藤の花房や艶やかに咲き誇る山吹に彩られて実に優雅に美しい。

「気に入っていただけましたか、姫君たち。」

 背後からかかる声に、上機嫌の笑顔を返した。ふふと嬉しそうに笑う顔は、後部の御簾を引き上げてのぞいた顔にかき消された。
 なにやら指示を仰ぐらしい小声。普段見せないまじめな顔は少し眉をひそめて、少なからずやっかいな気配を感じさせる。蝙蝠で顔を隠してしばらく考え、短くいくつか指示したようだった。のぞいた従者の顔はぱっと明るくなり、いそいそと車を後にした。

(あれがお仕事してる友雅さん……)

 胸がどきんとした瞬間に、友雅と目があった。あかねはさっと目をそらした。何か言いたげな含み笑い。からかわれる前にあかねは体の向きを変えた。勅使が通り過ぎて、斎院の代理を務める使者の女行列が始まったところだった。

「美しいご衣装ですこと。」

 藤姫がほうっとため息をついた。とりどりに華やかな衣装を見て藤姫と一緒にはしゃぎながらも、あかねは背後を気にしていた。穏やかでも何か不思議な熱を感じる視線……友雅の。
 そわそわと落ち着かない気持ちに、あかねは戸惑った。何か話さないとこの場にいられない気分だった。そんなあかねを見透かすように、また友雅が笑った。あかねは更に落ち着きを失った。藤姫が不審に思うほどに。

「どうかなさったのですか? 神子様。お顔の色が赤いですわ。」
「な、なんでもないよ、藤姫。ほら、今日の藤姫の着物の色が映ってるんじゃない?」
「そうでしょうか。何だか汗ばまれて、お熱でもあるような。」
「熱なんかないって。暑いからだよ。ねえ、今日ってすごく暑いよねえ。藤姫、暑くない?」
「私はそれほど暑いとは思いませんが……扇いで差し上げましょうか?」
「う、うん、助かるよ、藤姫。へええ、檜扇って結構風来るんだねえ。」

 蝙蝠の影でくつくつと笑い転げる声に、聡い藤姫はぴんときた。

「友雅殿!」
「はいはい、ご機嫌を損ねてしまう前に御屋敷へお送りすることといたしましょう。」

 行列を見送って去る車の順番を待って、友雅の牛車も出発した。後片付けの指示が必要なようだからと、友雅は馬を連れてこさせて乗り換えた。牛車の供につく形で隣を歩かせているらしく、かつかつという蹄の音が遠く近く聞こえる。ひとりでに胸が熱くなるのをあかねは止められなかった。ぎゅっと胸を押さえているから、藤姫が心配そうに顔をのぞき込んだ。

「神子様、ご気分が悪いのですか?」
「え、あ、うん、大丈夫、心配しなくていいよ。」
「ならよろしゅうございますが……」

 心配顔の藤姫に笑顔を向けて、あかねはじっと外を見ていた。この胸に宿った想いはなんなのだろうと考えていた。





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最終更新日  2010年05月21日 21時35分56秒
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