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4月に開催されたセミナーで、三菱総合研究所が、高速バス事業者の導入も想定した廉価なレベニューマネジメントシステム(RMS)を紹介して以来、同社の後押しを兼ね、レベニューマネジメント(RM)の話を全国のバス事業者にあらためて説明して回っている。私が最初にRMという概念をバス業界に紹介してから間もなく10年。その時は、当時の高速ツアーバス企画実施会社の連中でさえ、最初の反応は「それ、ホテルでは通用するけどバスではダメだよ」だったが、あっという間に定着し、彼らの収益性を大きく成長させることができた。多くの会社は、その収益を元に、それまで中古車両を一掃し、むしろ(別の要因も重なって)超豪華座席に象徴されるように事業体質を一変させた。さらに、その時点では「ウチは『乗合』だから運賃を変えるようなことはしない」と、論理にならないような反応を示していた「既存」各社でも、新高速乗合バス制度に幅運賃という概念が採用されたことで、今日では、乗車日によって運賃額が異なる「カレンダー運賃」が定着している。一方、あらためて痛感するのは、「移行組」「既存組」双方で、本来目指すべきRMは実現していないという点。正直、不満だ。まず先に理屈っぽい不満が2点。一つは、RMとは「市場を細分化し、各々のセグメントに対し適切な価格や販路で販売する」手法であるのに、「繁忙=高値。閑散=安値」と、単純な売り方になってしまっていること。仮に「早目に予約する観光客と対照的に、予約は直近だけど必ず当該時間帯に乗らざるをえない出張客」というセグメントがその路線に存在するならば、彼らのために高値で座席を取り置いておく、というのが典型的なRMである(なお、そういうセグメントが各々の路線に存在するかどうかはわからない。その検証からRMが始まると言っていい)。だが今は細分化は単純に乗車日単位だけで、予測需要の総量と客単価が同じカーブを描いているに過ぎない。二つ目は、精緻なデータ分析を行っておらず、担当者の経験値に頼る「緻密などんぶり勘定」でしかない点だ。これでは「なんちゃってRM」だ。だからこそ上述のような単純な単価コントロールしかできないのだ。既に、冒頭に上げた新RMS導入を決めてくれた事業者があり、運用開始に向けデータ整理を行っているところなので、その成果に期待している。さらに、リクツは別としても、現実への不満も大きい。まず「移行組」においては、彼らの象徴たる首都圏~京阪神において、1900円といった極端な値付けも見られる。失望だ。なお、こういった極端な安値に対し「それでは安全が担保できない」と非難する人がいるが、実はその論理は成り立たない。大競争状態のこの種の路線で、販売力が弱い(と自己認識している)事業者自身に取ってみれば「従来4000円で販売していた時は実乗わずか数人だった平日でも、1900円で売ると40席満席になる。その方がよほど儲かるし、安全の原資も確保できる」というのが当事者の率直な意見だろう。短期的には、それは正しい。問題は、どこかが1900円、さらに1800円を付ければ、競合先も同価格で対抗してくるという点だ。今は何とかマトモな価格で踏ん張っている、より販売力の大きい事業者が我慢できなくなって1900円に値下げした際、客単価は1900円で「実乗わずか数人」に戻ってしまうのだ。経営という観点で見て、短期的視野での極端な値下げが正しい戦略とは思えない。以前は、認可運賃制度により、東京~大阪は税別8200円に(かつ、車両タイプも事実上3列シートに)統一されていた。高速ツアーバス成長により、超豪華座席から4列シートまで車両タイプは多様化し、さらに繁閑に応じた価格変動で、閑散日の4列車は4000円前後まで下がった(逆に繁忙日の運賃は8650円を軽く上回った)。あの時点での4000円という「底値」が市場の爆発的拡大に寄与したことは間違いない。しかし今、それが半額以下に下がったことで、需要を2倍に増やすことができているか? 答えは明らかに否である。(価格を下げることでどれだけ売れ数が増えるか、を「価格弾力性」「価格弾性値」と呼ぶが、それが1.0を下回る状況)。繰り返すが、個社単位では意義がある。だが業界全体では「囚人のジレンマ」に陥っているに過ぎない。RMは、決して「足元の空席を埋めるために安売りをしろ」とは言っていない。各社がRMの本質を理解した上で価格変動を行なうことが重要だ。RMの本質を十分に理解させないまま手法だけを導入してしまった私に責任がある。一方の「既存組」。彼らは、憎き?高速ツアーバス(と、LCC)が導入した手法としてRMと出会った。そのため、高速ツアーバスへの対抗としてRM(らしきもの)を導入したから、「カレンダー運賃」は、高速ツアーバスからの「移行組」や航空と競合する長距離夜行が中心だ。しかし、多くの「既存組」にとって、長距離夜行ましてや「移行組」が幅を利かす首都圏~京阪神、名古屋、仙台線など大きな存在ではない。一部、直撃を受けた事業者(東北急行バスなど)にははなはだ申し訳ないが、高速ツアーバスがどれほど成長しても「既存組」全体から見れば蚊に刺された程度の話。しかし、それは、「高速バス市場の本丸」たる、高頻度運行の短・中距離昼行路線において、RMに取り組まなくていい理由とはならない。もしも、である。昼行路線と競合する鉄道(あえて具体的に言えば、新幹線の一部区間や、特急「ひたち」「あずさ」さらに九州内の各特急などのこと)が先にRMを導入し、曜日や時間帯によって大きく運賃料金を変動させてきたらどうなるだろう?いや、既に一部のJR会社の幹部たちは、新聞のインタビュー等で、柔軟な運賃変動制導入について意思を明確に示している。それが実現した時になって、まるで夏休みの宿題をため込んだ小学生のように、慌ててRMに取り組むのだろうか?ましてや、この種の高頻度昼行路線は、電話予約や当日の乗車便変更、さらに車内運賃収受など、本格的なRMを導入するにはオペレーション上の障害が極めて大きい。今のうちに、3年後、5年後といったゴールを見据え、基幹システムの改修やオペレーション変更など一歩ずつ前進していく必要があるのだ。ホラを吹いて無用な危機感を煽っているつもりはない。10年前、「既存組」の中のいったい誰が、「新高速乗合バス」制度を想像していただろうか?時間は、実は我々が想像しているより少し早い速度で流れているのだ。
2016.06.17
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今回もメディア露出のご報告から。まず、5月27日(金)発売の『バスマガジン』第67号には、いつもの連載「成定竜一の高速バス業界“一刀両断”」に加え、4月に提供を開始した「FIT対策メニュー」の内容、およびその告知を兼ね4月5日(火)に開催した「FIT対策セミナー」の様子も、写真入りでご紹介いただけた。余談だが、5月21日(土)に、監修している求人サイト『バスドライバーnavi(どらなび)』が主催する就職博「どらなびEXPO」で会場の運営と特別講座の講師役を担当したが、多くの参加者の皆様から「いつも読んでます」と声をかけていただき大変光栄だ。6月11日(土)には大阪会場で「EXPO」を、その後にも関西でさらに話題性のあるイベントも計画中なので、関西地区の乗務員志望の皆様はぜひご参加いただきたい。続いて5月30日(月)付の『日経MJ』。フロント面(第一面)の特集記事「バスタが動かす新宿」の中でコメントを採用いただいた。内容は、いつも申し上げているように、<これまで高速バスは、山梨、福島、長野など地方在住者の都心までの「足」として成長してきたが、これからは「都心から2~3時間の旅需要が増える」>というもの。コメント一つだけの掲載だが、影響力の大きい媒体で日頃の主張が紹介いただけることは大変誇らしい。本音を言えば、先日の『女性セブン』の記事のように「富士急ハイランド、御殿場プレミアム・アウトレット、東京ディズニーリゾート」という風にデスティネーションを具体的にご紹介いただけたなら実際の需要喚起につながったのだが、フロント面の特集ともなると、あらゆる方面に取材を重ねネタは山ほどあるので、そこまで書ける余裕もなさそう。この記事この露出は、多くの関係者のご協力で実現したもの。なにも有名な新聞やテレビに名前が出ること自体がゴールだとは考えていないけれど、「コイツのことを記事で紹介してやろう(あるいは、してもらおう)」と思ってくださる方々がいることには本当に感謝。そして、6月4日(土)付けから始まったのが『観光経済新聞』での連載「岐路-バスと観光 新たな関係」である。同紙は、旅館やホテル、そして旅行会社など観光産業の皆さんが購読している媒体である。貸切バス事業者の中にも、購読者は多い。そう、バス業界でも貸切バス事業にかかわる人たちは、自分の立ち位置を「観光産業の一員」と捉えているのに対し、高速を含む乗合バス事業だと、どちらかというと気持ちは地元住民の方を向いていて観光とは少し距離がある場合が多い。いつも申しているように、特に高速バス事業については、次なる成長分野は(FIT化が進むインバウンドも含めた)個人旅行客である。「自画像」を少し描きかえる必要があるのだ。ただし、変わる必要があるのは何も高速バスだけではない。むしろ、旅館やホテル、旅行会社、また土産物店などからなる観光産業は、私たち高速バス業界以上に大きな変革を求められている。職域(社員)旅行や町内会の旅行など「ご一行」で旅行を楽しむ時代が終わったことは今さら言うまでもないし、旅行会社が企画するパッケージされた旅行も、もちろんゼロにはならないが漸減傾向であることは間違いない。消える寸前にろうそくの炎が一瞬大きくなるように、貸切バスの単価下落や無店舗販売(会報誌や新聞広告をベースとした電話予約)等によって驚くような価格を実現し、ちょうど定年を迎えた団塊世代を大きく取り込んだ格安バスツアーも、貸切バスの新運賃制度導入によって退潮が進んでいる。ところで、観光系の方々の集まりに参加して、「バスのコンサルをやってます」と名刺を出すと、人によって対照的な反応がある。コンサバな(ありていに言えば、未だに既存の旅行会社に頼ったビジネスを続けている)人は、バスと聞くとパッと目を輝かせて「ぜひ、ウチの宿(施設)に来る商品を企画してください!」と営業モードになる。一方、もう「団体」目当てでは食っていけないことを明確に意識している人たちは、「ウチは、バスのお客さんはもう受け入れないんですよ」という態度を取る。「バスに頼る商売は卒業したんだ」と。つまり、観光産業が直面する環境変化に気が付いていない人たちはもちろん、それに敏感な後者の人たちでも、「バス」と聞くと、貸切バスや、それを使ったバスツアーしか思い描けないらしい。高速バスという存在は意識の中にはないのだ。近年、観光庁の後押しもあり各地で日本版DMO(Destination Management Organization)設立などデスティネーションの魅力の再定義が盛んだが、(もちろん、既存の旅行会社に頼った旧来型の観光地ではもう集客が困難だという危機感自体は大いに共感するものの)デスティネーションだけがブラッシュアップされても、既存の旅行会社の存在感が漸減する中、デスティネーションに到着するまでの足の手配がむしろ置いて行かれてしまうのであれば、クルマで旅行する層にだけ旅行の魅力が増し、クルマ以外の旅行をむしろ退潮させてしまうリスクがあると感じている。やはり、既存の旅行会社に代わる新しい旅行流通の仕組みを構築することが重要だ。本連載では、まず当面は喫緊の課題である貸切バスの安全性に焦点を当て、同紙の主要な読者層の一つである旅行会社にとって貸切バスを発注するに際し知っておいていただきたい情報をご紹介するが、やがては、バス、あるいは公共交通という視点から見た、我が国の観光産業のあり方についても提言を行っていきたいと考えている。もっとも、変革を求められるのは、バス業界や観光産業だけではない。経済成長の終焉、人口減少が始まった社会…この国が大きな節目を迎える中で、大きなうねりに対応できなければ産業として生き残れない。その中で、自分の持ち場たる両業界に、変革するよう背中を押し続けることだけしか、私にできることはないのだ。
2016.06.06
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