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「おんぶ」 丸山政也八十代の女性Nさんの話である。七十年ほど前のこと、Nさんがお使いに出た時の帰りに町の目抜き通りを歩いていると近所の小さな男の子が泣きながら蹲っていた。どうしたのかと思ってわけを尋ねると、お腹が痛くて歩けないという。心配なのでNさんは腰をかがめて男の子をおんぶした。その子の両親の元へ送り届けてあげようと思ったのである。二百メートルほど歩いた頃、話しかけても返答がないので、気になって首を後ろに向けてみると、どうしたことか、おんぶしている感覚はあるのに男の子の姿がない。いったいどうなっているのか、あの子はどこへ行ってしまったのか、必死に周囲を探すが見当たらない。不思議なのは、背負っているぬくもりがまだはっきりと背中に残っていることだった。その足で男の子の家に行ってみると、子どもの母親が出てきて『息子が今日、腸チフスで死にました』 泣きはらした顔でそういった。驚きのあまり家を訪れた事情も話せず、Nさんは帰宅したそうである。その日以降、絶えず男の子をおんぶしている感覚があったが、結婚して子どもを授かるとそれもなくなったという。
2022.01.30
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「ドライバー」 牛抱せん夏トラック運転手の男性の体験談である。ある夏の夜、荷物を積み込んで東北の目的地に向かった。途中、空気の入れ替えをしようと窓を開ける。ふとサイドミラーに目をやると、荷台のシートが風にあおられパタパタとなびいているのが見えた。それが・・・・・・何か変だ。シートは青色なのだが、ミラーに映るものは黒い。不思議に思い目をこらすと、それはシートではなく黒髪だった。車体の横に全身真っ黒な女が張り付き、運転席のすぐそばまできていた。思わず悲鳴をあげたと同時に、開けた窓からのぞき込む女に手首をつかまれた。急ブレーキをかけて振り払う。幸い後続車はなかった。車を道の端に寄せ、荷台や周辺を探したが、黒い女の姿はどこにもなかった。届け先に到着して右手首を確認すると、爪の痕がくっきりと残っていた。
2022.01.23
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「鶏妖」今から五十年くらい前の話。鳥取県の安来市に住む、ある男性が自宅裏の用水路で鶏をさばいていた。彼は楽しそうに、また、鬱憤を晴らすかのように、鶏に鉈を叩きつける。と、鶏の首が切断したときの勢いで、用水路脇の壁に張り付いた。鶏の首は目を見開いていた。鶏と男性の目が合った。男性に怒りが湧いてきた。それは怖れの裏返しだったかもしれない。『何見とんじゃ! 祟れるもんなら祟ってみィ!』それからしばらくして、その男性の娘に子供が生まれた。生まれたその孫は、尾てい骨に鶏の尻尾のような羽が生えていた。あのときの言葉を男は思い出していた。『祟れるものなら祟って・・・・』男性は孫の尾に生えたその羽を抜いた。しかし、抜いても抜いても生えてきたという。
2022.01.21
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「おりん」 真白圭都内在住の野中さんが、友人から御嶽山への山登りに誘われた時の話だ。元々、彼の実家は長野にあり、両親が他界した後は弟夫婦が住み暮らしている。前日に弟夫婦の世話になった野中さんは、翌朝七時に出発の準備を始めた。御嶽山ロープウエイの乗り場まで自家用車で行き、そこで友人ふたりと落ち合う約束をしていた。弟夫婦は既に出かけており、家を出る前に戸締りをするよう頼まれていた。玄関で登山靴を履き、上がり框から立ち上がると・・・・『チリーン』 仏壇のおりんの響である。だが、家の中には誰もいないはずだ。泥棒か? と思い仏間を覗いたが、やはり誰もいない。不安になり、家中を見て回ったが、誰かが立ち入った気配は感じなかった。実家のことが気がかりではあったが、とにかく御嶽山へ向かおうと車に乗り込んだ。が・・・・なぜか、何度キーを回しても一向にエンジンがかからない。『でも、変だと思ったんだよ。車は新車で購入して、まだ一年も経っていない。大体、東京から長野まで何の問題もなく運転できていた訳だから』他に打つ手もなく、JAFを呼んで整備工場までレッカーしてもらうことにした。だが、整備士に調べて貰ってもエンジンが動かない理由は判明しなかった。『そんなことをしているうちに、いつの間にか正午を過ぎていてね。さすがにその時間じゃ山登りは無理だからさ。友人に電話して、謝っておこうと思ったんだよ』だが、何度掛けても友人の携帯電話が不通だったという。平成二十六年九月二十七日 午前十一時五十二分 御嶽山は大噴火した。後の調査で、火口付近にいた登山者ら五十八名の命を奪う、戦後最悪の火山被害となった。野中さんの友人ふたりも、噴火の犠牲者名簿に名を連ねることとなった。『付き合いの長い奴らだったから辛くてね。もしも、おりんが鳴ったあのときに、アイツらを止めていればって・・・・そう思うと、悔しいんだよ』
2022.01.14
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「無銭飲食」そのショットバーに行くのは初めてだった。大学時代の友人に誘われて神戸で飲み、その流れで訪れた店だった。その時に 『あること』 が気になってしまい、つい怪訝な顔になっていたかもしれない。気付いたマスターが 『どうかしましたか?』 と声を掛けてくれたのでストレートに疑問をぶつけた。『あの・・・・さっきから何人ものお客さんがお勘定しないで、黙って店を出ていくけど、いいんですか?あれって無銭飲食なんじゃ・・・・それともただの常連?』すると、マスターは少し笑いながら、こう言った。『ああ、お客さんは見える人・・・・なんですね?お金は一度も貰ったことがありませんから、確かに無銭飲食なのかもしれませんね。でも、あの人たちは純粋にお酒が飲みたくて此処に来てくれているんですよ。死んだ後もお酒が飲みたくなって、幾多の店の中からこの店を選んでくれた。私にはそれだけで十分なんですよ。生前は色々と大変な人生を送られた方もいるんでしょう。ですけど、死んだ後はそういう重荷を全て降ろしてしてね、純粋にお酒を楽しんでもらえたらなって思うんです。 それにあの人たちが来てくれるから、この店の独特の雰囲気も保たれている・・・・・。ほんと、持ちつ持たれつなんですよ。そんな人たちからお代なんて頂戴できません』微笑むマスターに、常連客らしい男性がこう付け加えた。『そうそう、大切な飲み仲間なんだよな!だから、もしもお代が必要なら俺たちがちゃんと払うさ』男性はそう言って、グラスのウイスキーを一気に飲み干した。こんな素敵な店なら、是非また来たい!! そう思った夜だった。
2022.01.10
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「フラッシュバック」中秋らしく爽やかな風が心地よい、祝日の早朝であった。石田さんは日課であるジョギングをしながら、いつもの大通りの交差点を北に向かう。歩行者信号が青になるまで、その場で足踏みし続ける。もうじき信号が変わりそうなタイミングで、急に頭の中が真っ白になってしまった。何が起きたのか全然分からずに足踏みをやめた途端、妙に鮮明な画像が脳裏に浮かんで来た。まるで写真のような静止画が、次から次へと繰り出される。その中で、自分はなぜか車のハンドルを握っている。目の前で怯えた表情をしている小さな男の子の視線が、確実にこちらを見つめている。自分の運転している車が、その男の子に向かって接近して行く。男の子は逃げようと身体を斜めに捩るが、どう考えても間に合わない。そして、車を通して感じる、衝突の際に生じた強烈な振動。どうやら他のジョギング仲間でも、同様の目に遭ってしまってコースを変えた人が数人いたらしい。『それで気になったんで、皆で近くの交番に行ったんですよ』あそこで事故か何かあったんじゃないかと、お巡りさんに訊ねた。『ああ、あそこですか? 最近、そういう質問多いんですよ』結局、実際に事故があったかどうかは今でもわからない。
2022.01.09
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