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すると女は笑って、
『あなたさまが万事につけ見栄えせず身分の低かった頃から
、
私はずっとお世話してまいりました。
まあ、それはずっと先のことと思っていましたから、
不満にも思いませんでした。
それより、あなたさまの冷淡なお心を耐え忍び、
いつかは浮気心を入れ換える日が来るかと、
あてにならない期待で年月を重ねることのほうが、もっと苦痛でした。
これはお互いに、別れるべきいい機会ですわ』
と、悔しそうに言うものですから私も腹が立ちまして、
さんざん憎まれ口を言いつのってやりました。
女も自分の気持ちを納めることができない性格ですから、
私の指を一本引き寄せて噛みついたのです。
私は大袈裟に痛がって、
『官位が低いと侮辱された上に、指にはこのような傷まで付けられて、
ますます世間に顔向けできなくなったではないか。
もう出家するしか生きてはいけぬ』
など言い、脅してやりました。
『さらば、今日こそは最後だ』
と、痛そうにこの指を折り曲げて、女の家を出たのです。
『手を折りて あひ見しことを 数ふれば これひとつやは 君がうきふし
自業自得ですよ』
(二人の逢瀬を指折り数えてみたならば、あなたの欠点は会った数ほど多くあって、
指を噛んだ嫉妬だけではありませんね)