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律(りち)の調べというものは、
女の手で物やわらかに掻き鳴らして、簾の内から聞こえてくるのも今風ですが、
清く澄んだ月や菊の花、紅葉などとうまく調和するものですね。
男は女の和琴の音をいたく褒め、簾の近くまで歩み寄り、
『あなたさまの庭の紅葉には、まだ人が踏みわけて来た足跡もありませんな』
など、女をからかうのですよ。菊を折って女にさし出し、
『琴の音も 月もえならぬ 宿ながら つれなき人を ひきやとめける
失礼でしたでしょうか』
(あなたさまの和琴の音も月の様子も、何とも言えぬ風情のある宿であるのに、
つれない人を引きとめてはいないようですね)
と言って、
『もう一曲所望したいですな。
あなたさまの和琴を聞いて褒めはやす人がいる時は、
曲の出し惜しみをなさいますな』
などと、女に戯れかかるのです。