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「男も女も、品性や教養のない者ほど
底の浅い知識をひけらかそうとして、みっともないですね。
とはいえ、女が三史五経の奥義を究めようとすることも、可愛げがないというものです。
もちろん女だからといって、世にある公事私事につけても全く分からず
理解できないということはありませんよ。
殊更漢学を勉強してはいなくても、才気のある女には
自然目にもとまり耳にも入る機会が多いことでしょう。
しかし見聞きしたままに漢字を走り書きし、
女文にまで漢字を使い、文を短くしてあるのは嫌なものですね。
どうしてもっとしとやかに書けないものかと思います。
書く方にしてみれば、そんなつもりはないのでしょうけれど、
読む時は自然にごつごつした声になって、わざとらしく聞こえるのですよ。
そんな文は、貴婦人の中にも案外多いのです。
ひとかどの歌詠みと自負している女が、歌にこだわるままに由緒ある古歌を取り込んで、
こちらが忙しい折々に詠みかけてくることほど、興ざめなことはありませんね。
返歌をしなければ失礼でしょうし、返事ができなければ、これまた体裁が悪い。
たとえば五月の節会などで、急いで参内しなくてはいけない朝に、
菖蒲の根に引っかけた歌を詠んで来たり、
あるいは重陽の宴に作る詩を考えて余裕のない折に、
菊の露に託した歌を寄せてくる身勝手な女がいますがね。
後日ゆっくり読んで見ると面白くも情趣もあるのですが、
そんな時は忙しさにまぎれて目には留まらないものです。
こちらの都合などお構いなしで歌を詠みかけてくる女などは、
なまじっか詠まぬよりも反って気が利かないように見えますね。