PR
カレンダー
キーワードサーチ
「あの大納言には御娘がおいでだったとお聞きしておりますが。
いえ、これは好き好きしい気持からではなく、真面目に申し上げているのです」
源氏の君が当て推量におっしゃいますと、
「按察にはたった一人、娘がございましたが、その娘も亡くなりまして
もう十余年になったでしょうか。
故大納言は娘を内裏にたてまつろうと、えらく大切に養育しておりましたが、
その本意を遂げることもできずに亡くなりました。
それでこの尼君が一人で世話をしていたのでございますが、
どのような人の手引きがあったものやら、娘のもとへ兵部卿の宮が
忍んでお通いになったのでございます。
ところが宮のもとの北の方はご身分が高いなどで、娘にとっては辛い事が多く、
明け暮れ物思いをしたせいでしょうか、亡くなりましてございます。
『物思いは病の種』と申します事を、目の当たりにしたのでございます」
など、申し上げるのです。
源氏の君は『ならばあの少女は、その娘の子どもなのか』と、思い合わせるのでした。
『兵部卿の宮の血筋といえば、藤壺の宮の姪になるではないか。
それで似ているように思ったのか』
と、たいそう愛おしく、ぜひ逢ってみたいとお思いになるのです。
人柄も上品でうつくしく、へんにませたところがありませんので、
親しくなってご自分の思いのままに教え育ててみたならば、とお思いになるのでした。