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そこへお勤めを終えられた僧都がおいでになりましたので、
『話してしまったからにはもう、待つより仕方がない』と、屏風をお閉めになりました。
明け方になりましたので、法華三昧堂から法華経を読誦する声が、
山から吹き下ろす風と共に聞こえてくるのもたいそう尊く、滝の音と響き合っています。
「吹きまよふ 深山おろしに夢さめて 涙もよほす 瀧の音かな
(吹き迷う深山下ろしの風の凄さに、すっかり夢がさめてしまいました。
それに瀧の音には、涙が誘われる心地がします)」
すると僧都が、
「さしくみに 袖ぬらしける山水に すめる心は騒ぎやはする
(あなたさまは山水に思わず涙して袖を濡らしたとおっしゃるが、
ここに長く住み、行い澄ましている心は、動くことなどないのです)
聞き慣れているせいでしょうか」
と申し上げるのです。