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「筝の琴は、高い調子だと中の細緒が切れやすくて厄介だね」
と、平調におし下げてお調えになります。
いつまでも拗ねたりせず、たいそううつくしく弾き給うのです。
まだお小さいので左手をさし延ばして弦を揺するお手つきがいかにもうつくしく、
『可愛らしい』とお思いになり、笛を吹き鳴らしながらお教えになります。
紫の姫
はたいそう聡明で、難しい調子もただ一度で習得なさいます。
何事においても巧みで機転が利きますので、
源氏の中将
は『思いが叶った』とお思いになります。
「保曾呂倶世利」というものは、名は憎いようですが、
源氏の中将がおもしろく吹きすましますと、姫は調子を違わず、
まだたどたどしくはあるのですが、その笛に合わせて巧者らしく演奏なさいます。
暗くなりますと灯火を灯して、お二人で絵などをご覧になります。
源氏の中将は出かけるように申しつけてありましたので、
供人たちが合図の咳払いをします。
「雨が降り出しそうでございます」
と催促しますので、姫君は心細くて気が滅入ってしまいます。
絵も途中のままでうつ伏していらっしゃいますので、たいそういじらしくお思いになります。
みごとな御髪が肩にこぼれかかるのを掻き撫でて、
「私がいない間は、恋しくお思いですか」
とおっしゃいますと、頷き給うのです。