PR
カレンダー
キーワードサーチ
御息所は『もう、何も見ずに帰ってしまおう』とお思いになるのですが、
どうにも身動きがとれません。
そうこうするうち、「行列が来たぞ」と言う声が聞こえます。
御息所はつれない源氏の大将を恨めしくお思いになるのですが、
やはりお通りを待たずにいられないのも、分別のなさというものでしょうか。
源氏の大将が馬も止めず、素知らぬ顔で過ぎ給うを見るにつけても、
御息所には反って物思いの種となるばかりです。
ほんにその通り、この日の女車どもはいつもより趣向を凝らして調えてあり、
その下簾垂れの隙間からは、
女房たちがこぼれそうなほど、我も我もと乗り込んでいるのが見えます。
源氏の大将は知らぬ顔をしていらっしゃるのですが、
それと分かる女車にはにっこりなさりながら、流し目でご覧になることもあります。
左大臣家の御車ははっきり分かりますので、御前は真面目なお顔でお通りになります。
お供の人々も、殊更かしこまって通ります。
御息所は、左大臣家の勢いに気圧されるありさまを、
ひどく口惜しくお思いになるのでした
。