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六条御息所は、あの車争いのあった日から、
心を痛め思い乱れる事がいつもより多くなりました。
源氏の大将を『つくづく薄情な方』と思い知り給うのですが、
そうかといって『もう、これまで』と振り切って、斎宮とともに伊勢にお下りになるには、
たいそう心細くもあろうし、都から逃げたようで人聞きも悪く、
笑い者にもなろう、とお思いになります。
さりとて都に留まる事をお考えになりますと、あの日のように世間から見下げられ、
侮られているのでは、心安いはずがありません。
御息所はお気持ちが定まらず、まるで「釣りする海士の浮き」のように、
寝ても覚めても思い患ったせいでしょうか、
御心地もふわふわとして病人のようになってしまわれました。
源氏の大将殿は、御息所の伊勢への下行には係わらず
「伊勢へ行くなど、もってのほか」など、強いてお留め申し上げる事もなさいません。
「私のような数ならぬ身を、見るのもお嫌とお捨てになるのも道理でしょうが、
今となっては不甲斐ない者であっても、一生連れ添うてくださいますのが、
浅からぬ情愛の縁というものでしょう」
と、絡むように申し上げます。
そこで御息所は決めかねる御心の慰めにもなろうかと
物見にお出掛になったのですが、御禊河の荒瀬に出会い、
ますます何事につけ辛いお気持ちに沈むようになったのでした。