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「ほんにその通りでございますよ。体裁を繕うような御仲ではございませんでしょう。
たいそうな御病後とはいえ、几帳越しに対面なさるものではございませんわ」
女房がそう言いながら、女君が臥していらっしゃるお傍へお席を寄せましたので
几帳の内へ入り、お話し申し上げます。
女君のお返事が時々聞こえ給うのですが、やはりたいそう弱々しげです。
それでも、『もはや亡き人』と思い諦めたあの御有様をお思い出しになりますと、
このようにして対面なさいますのは夢のような心地がなさって、
これまでの病状の重篤であった事などを女君にお話しなさいます。
何やらぶつぶつと御物の怪が仰せになった事などは、
お思い出しになると厭な気がしますので、
「さてさて、申し上げたい事はたくさんあるのですが、
まだだるそうに見えますのでこれまでにしておきましょう」とて、
女房たちは「このような事まで、いつ覚え給うたのでしょう」と、
お褒め申し上げるのでした。