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「御手などは、心をこめてお書きになっていらっしゃいますわ。
いつもより風情があって、お返事せずにはいられないほどでございます」
と、女房たちも申し上げますし、朝顔の姫宮ご自身もそうお思いになって、
「喪に服していらっしゃるあなたさまをお偲び申し上げてはおりましたが、
こちらから御文を差し上げる事もできず......」として、
「秋霧に たちおくれぬと聞きしより 時雨る空も いかゞとぞ思ふ
(秋霧の立つころ、北の方さまに先立たれた事を耳にいたしましてから、
あなたさまのお胸も時雨れるこの空のようではないかと案じております)」
とだけ、ほのかな墨つきで書いてあるのも、姫宮がお書きになったと思うせいでしょうか
奥ゆかしく感じられるのです。
何事につけても見勝りする女君などめったにいない世の中ではありますが、
つれない人こそ反って心惹かれご執着なさるのが源氏の大将のご性分なのです。
『薄情なようでいながら、しかるべき折々の風情を見過ごし給わず
御文を交わすような間柄こそ、互いに最後まで情愛を見届けることができよう。
しかしもったいぶった風情も度が過ぎれば、それが人目に付くばかりで、
余計な難点も出て来るものだ。
西の対の姫君は、そんなふうには育てまい』とお思いになります。
『そういえば、姫はさぞかし退屈して私を恋しく思っていることだろう』
対の姫君をお忘れになる事はないのですが、
ただ母親のない子を放置しているような心地がなさるだけで、
逢わぬ間は気掛かりでも『嫉妬心』を心配しなくてよいだけ気楽なのでした。
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