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雷が落ちるのではないかと恐ろしく、命からがら住いに辿りつきました。
「このような目には、いまだかつて遇ったことがありませぬ」
「風は吹いても、いきなり雨になるとは」
「いやはや、こんな事はめったにありませんよ」
と、供人らはうろたえます。雷はまだ鳴りやまず、
雨脚は強くてまるで屋根を突き抜けるほどぱらぱらと音を立てています。
『こうして世は滅びてしまうのであろうか』と、皆心細く途方に暮れる時、
源氏の君は穏やかに経を誦じていらっしゃいます。
日が暮れると雷は少し止んだのですが、風は夜にも吹き荒れました。
「多く立てた願の力なのでしょう」
「もう少しこの風雨が続いたら、我らも荒波に引かれて海の藻屑となったかもしれぬ」
「あっという間にさらわれる『高潮』というものがあるとは聞いていたけれども」
「こんな恐ろしいことは未だかつて経験したことがない」
などと言い合うのでした。
夜が明けるころになって、やっと皆が眠りました。
源氏の君もうとうとなさいますと、誰ともはっきりしない人が来て、
「宮よりお召しがあるというのに、どうして参内なさらぬのか」
と言いながら捜し歩く夢を見たのです。源氏の君は驚いて、
『さてはうつくしい物好きな海の中の竜王が、私に執念をかけたのだな』
とお思いになるとひどく気味が悪く、
この海辺での暮らしを耐え難くお思いになるのでした。