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源氏の君は『この世が滅びるのではなかろうか』と、お思いにならずにはいられません。
翌日の夜明けから風がひどく強く吹き、高潮が押し寄せるその荒波の音は、
まるで巌も山も跡形もなく引き崩そうとするほどの凄まじさです。
雷の鳴り閃く様子はさらに激しく頭上に落ちかからんばかりで、
誰もだれもが正気を失っています。従者たちは、
「我らは前世にどのような罪を犯して、このような悲惨な目を見るのでしょう」
「父母にも逢えず、愛しい妻子の顔も見ずに死ぬ事になるのですね」
と嘆きます。
源氏の君は御心を鎮めて、
『たいした罪でもないのだから、ここで一生を終える事などあり得ぬ』
と、強くお思いになるのですが、周囲の者たちが騒ぎますので
住吉の神にさまざまな捧げものをお供えになり、
「住吉の神よ。このあたりを鎮め守り給う、この地に降臨し給うた神であるならば、
我々を助け給え」
と、多くの大願をお立てになります。
従者たちは自分の命はともかく、源氏の君のように高いご身分の方が
またとない悲運に沈んでしまわれる事の悲しさに、少しでも分別のある者は
心を奮い起こし声を揃えて「我が身に代えても、源氏の君だけは御救いたてまつらん」
と、大声で神仏を念じたてまつります。