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源氏の君が思い巡らせてみますと、夢につけ現につけ様々に穏やかではありません。
神仏のお告げのような事々を、来し方行く末に思い合わせてみますと、
まことに神の御加護であろうと思われるのです。
『都の人の謗りを憚って神にそむくならば、
これ以上の物笑いとして憂き目を見ることにもなろう。
実際、人間の心にさえ背くのは胸が痛むものなのに、
ましてや神仏に背くのはもっと苦しかろう。
些細な事にも謙虚にふるまい、
私より年上もしくは位が高く世間の人望がひときわすぐれた人には素直に従って、
その人の意向を探るべきかもしれぬ。
昔の賢人も『退きて咎なし』と言っているではないか。
なるほど私は生死の境をさまよい、世にまたとない辛い体験の限りを尽したのだ。
死後に残る悪名を回避しようとしても、たいした事はできまい。
夢の中でも父・帝から『ここを去れ』との御教えがあったのだから、
いまさらここで入道の言葉を疑っても仕方あるまい』
とお思いになり、入道への御返事を仰せになります。
「不案内な地で世にも稀な辛い体験の限りを尽しましたが、
その私に都から見舞う人もありませぬ。
私はただ行く先のない空の月や太陽の光ばかりを
昔からの旧き友と眺めておりまする所へ、嬉しい迎えの舟を寄せてくださった。
明石の浦には、私が静かに隠棲できる人目に付かない場所があるでしょうか」