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摂津の国守が源氏の君のもとへ挨拶に参上します。
おもてなしは、普段の大臣のご参詣よりも豪勢に鄭重に執り行うのでございましょう。
明石の女君はひどくみじめで、
『きらびやかな源氏の君の一行に立ち混じり、
数ならぬ私がいささかの奉納をしたからといって、
住吉の神がご照覧くださりお認めくださるはずもあるまい。
とはいえこのまま明石に帰るのも中途半端というもの。
今日は難波に舟を止めて、御祓いだけでもしましょう』
と、難波に舟を向けました。
源氏の君はそんな事など夢にもご存知ありませんでした。
一晩中音楽、舞楽、饗宴などの神事をおさせになります。
神がお喜びになりそうな事をすべてし尽くして、
今までのご祈願以上に珍しいほどまで願ほどきをなさって、
管弦のお遊びで賑わしく夜をお明かしになります。
惟光のように須磨や明石に御供した人は、
心の内で神のご加護をしみじみとありがたく思います。
奥からお出ましになった源氏の君に近寄って、こう申し上げます。
「住吉の 松こそものはかなしけれ 神世のことを かけて思へば
(住吉の松を見ますと、悲しい思いがいたします。
須磨や明石での苦労を思い出しますので)」
源氏の君は『ほんに』とお思いになって、
「荒かりし 浪のまよひに住吉の 神をばかけて わすれやはする
(須磨で海の嵐に遇った時も、住吉の神のお蔭で助けられた。
私はその霊験を決して忘れることはないであろう)」
と仰せになるご様子も、たいそうご立派なのです。