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帰京なさってからも、六条の古いお邸をたいそうよく修理させましたので、御
息所は優雅に住んでいらっしゃいました。
御息所の洗練された風雅なお暮らしぶりは昔と変わりありません。
もの寂しさは感じられるものの、上品な女房が多くお仕えし、
風流な女主人のいらっしゃる六条邸には好き者たちが自然に集まりますので、
それを気晴らしに過ごしていらしたのです。
ところがにわかに重くお患いになられて、
たいそう心細くお思いになられたからでしょうか、
長年仏を遠ざけて伊勢にいらしたことをたいそう恐ろしくお思いになり、
出家なさったのでした。
源氏の大臣はそれをお聞きになり、心にかけるような色恋沙汰ではないのですが、
やはりそれなりのお話し相手と思っていらっしゃいましたので、
尼になってしまわれたことが残念で、驚きながらお邸においでになりました。
御息所には、飽くことなくしみじみとした御慰問を申し上げます。
ご病床に近い御枕上に御座所を設けます。
御息所は脇息に覆いかぶさり、
簾越しにもひどく衰弱していらっしゃるご様子が窺えます。
源氏の君は、『絶えることのない私の真心を、見届けていただけないのではあるまいか』
と残念で、ひどくお泣きになります。
御息所も、源氏の君がこうまでご自分のことを心にかけていてくださったことを、
しみじみと嬉しくお思いになって、斎宮のおん事をお話し申し上げます。
「私の死後、娘の斎宮がよるべのない身としてお残りになりましょう。
どうか折に触れて気にかけてやってくださいませ。
あなたさまの外にはお世話を頼む人もなく、
世にまたとなくお気の毒なおん身の上なのでございます。
甲斐なき身ながら、こうして私が生き長らえておりますのも、
斎宮がもう少し分別がおつきになるまで御世話をしたいと思うからなのでございます」
と仰せになり、息絶え絶えにお泣きになります。