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「無力な身とはいえ、帝を精一杯お世話申そうと考えてはおりまするが、
太政大臣がお隠れなさいましてから世の中が気忙しく思われますのに、あなたさまがまたこのようなご病状でいらっしゃいますれば、
心が乱れて私の命も残り少ないような心地がいたします」
と申し上げるうち、ともし火が消え入るように静かにお隠れあそばされました。
源氏の大臣は言いようのない悲しみに、お嘆きになります。
貴いご身分と申し上げる御方々の中には、権勢を笠に着て
人の迷惑になることもしがちなのですが、
藤壺の宮は世の人のためにあまねくご慈愛深くいらっしゃいましたので、
そのようなことはいささかもなく、人が奉仕することでも世の苦しみとなりそうなことは、
お差し止めになる御方でいらっしゃいました。
人の勧めのままに荘厳で立派な施物をなさる人は昔からいくらでもあったのですが、
そのような派手なことはなさらず、ただ以前からご所有でいらした宝物、
年ごとにお受けになる年官、年爵、御封の中から
まことに心の深い殊勝な供養をしていらしたので、
物の分別のつかぬ山伏などまでが死を惜しみ申し上げるのでした。
葬儀に際しても世の中には泣き声が響き渡り、悲しく思わぬ人はありません。殿上人はみな同じく黒一色の喪服に身をやつして、華やかさのない寂しい晩春なのです。