私訳・源氏物語

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佐久耶此花4989

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March 14, 2018
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カテゴリ: 源氏物語
薄墨と申し上げるよりは、今少し濃いめの喪服をお召しになります。

世にあって幸運に恵まれ立派な人であっても、
なぜか世間からは嫉まれることもあり、
また高い身分を鼻にかけて迷惑をかける人もいるものですが、
紫の上は不思議なほど多くの人々から好意を持たれ、
ちょとしたことをなさっても世間から褒められ、奥ゆかしく、
時に応じて気が利いて行き届き、
世にも珍しいご性質の御方でいらっしゃいました。

ですからあまり深い関係でない人であっても、
風の音や虫の声につけて涙を落とさぬ者はありません。

ましてほのかにお姿を拝見なすった人は、哀しみを慰めるすべもありません。

長年睦まじくお世話し馴れた女房たちの中には残された命を恨み嘆いて尼になり、
この世のほかの山住みなどを思い立つ者もありました。

冷泉院の后の宮からも、しみじみとした御消息文が絶えずおありです。

「枯れ果つる 野辺をうしとや亡き人の 秋に心をとゞめざりけむ

(亡き御方は春がお好きでいらっしゃいましたが、
それは草木が枯れ果ててしまう野辺をお嫌いでいらしたからかもしれませんわ)

今になってそのお気持ちが分かるような気がいたします」

とありますので、呆然としたお気持ちのなかでも
何度も繰り返して読んでいらっしゃいます。

『打てば響く感受性があって、
風雅な方面の話し相手としてはこの宮だけがご存命でいらっしゃる』

とお思いになりますと、
少しは悲しみが紛れるような気がなさるにつけても涙でお袖の乾く暇もなく、
お返事がようおできになりません。

「のぼりにし 雲井ながらもかへりみよ 我秋はてぬ 常ならぬ世に

(中宮の御位にお上りになったあなたさまも雲井からご覧になって、
私の悲しみをお察しくださいませ。無常の世とはいえ、
私はすっかりこの世に飽き飽きしてしまいました)」

やっとお書きになりましても、上包みのままぼんやり眺めていらっしゃいます。

御気分がすぐれず、
我ながら魂が抜けてしまったようにお感じになることがたびたびですので、
気を紛らわしに女房たちのいるお部屋にお出でになります。

仏の御前にわずかの女房だけをお置きになり、心静かにお勤めをなさいます。

「千年までももろともに」とお約束なさいましたのに、
命に限りのある別れが、たいそう残念でなりません。

されど紫の上に先立たれた今は、
一つの蓮に生を託す極楽往生もこの世の雑念に惑わされぬように
ひたすら後世安楽を願っていらっしゃいます。

とはいえ、世間体のために出家を憚っていらっしゃるのは、
いかにもつまらないことでした。

追善供養のことなどもはかばかしくご指示なさいませんので、
大将の君が引き受けてご奉仕なさいます。

ご自身は『今日こそは』と、出家をお思い立ちになることが多いのですが、
わけもなく月日が積もっていきますのを夢心地でお過ごしになります。

明石中宮も束の間もお忘れになることがなく、思い慕っておいでになります。





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最終更新日  March 14, 2018 11:33:59 PM
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