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男君は昔を悔いる気持ちを抑えがたいのですが、
今夜もやはり思いのままに振る舞う事がお出来にならないのでした。
恋愛関係での細やかに語り続けることが苦手でいらっしゃるのですが、
このまま帰るには来た甲斐がありません。
とはいえ女房たちの目も気になりますので、
「まだ宵の口と思っておりましたが明け方になってしまいました。
これでは見咎める人がいて、面倒なことになりかねません。
これもあなたさまの不名誉にならぬための思いやりなのですよ」
と、二条院をお立ち出でになるのでした。
『中君がひどく悩ましげにしていらしたのは、
ご懐妊ゆえのことだったのか。
あの腹帯を見てしまっては、可哀そうで手出しもできなかった。
我ながらいつも間抜けだな』
とは思うのですが、
『非情な行為は私の本意ではない。
感情に任せた後は一層いたたまれない気持ちになるであろうし、
そうかといって逢瀬を忍び歩くのは、
私にとっても中君にとっても気苦労なことだ』
と冷静になって考えるのですが、
情熱は抑えられず中君が恋しくてたまらないのでした。
逢わずにいられないほど狂おしいのも、
どこまでも煮え切らないご自身のお心のせいなのでしょう。
中君は以前より少し痩せておいででしたが、
優雅で可愛らしいご様子は昔のままで、
もう中君以外のことは考えられなくなってしまいました。
宇治に行きたいとの願いを叶えてあげたいものだと思うのですが、
『果たして宮はお許しになるであろうか。
とはいえ、勝手にお連れするのは良かろうはずがない。
体裁よくうまく果たせるには、どうしたらよかろう』
と、考えてぼんやりお庭を眺めて臥していらっしゃいます。