たとえば「座りなさい」という言い方を、英語に直すとしましょう。日本語は動詞中心の言語なので、この文章の中心を成すのは、「座る」という動詞です。ですから、日本人は通常、この「座る」という日本語の動詞を、英語の動詞に変えようとします。つまり、「sit」ですよね。で、「座りなさい= Sit down.」ということになる。
ところがベーシックの世界には「sit」という動詞がありません。「座る」ということに関連して、ベーシックの世界に残っているのは、「seat(椅子)」という名詞しかない。そこでこの名詞に、ベーシックの世界にある16個の動詞のうち「have(ないし、take) 」を組み合わせ、「Have a seat. Take a seat.」という言い方をするわけ。ベーシックでは、大概、基本的な動詞と名詞を組み合わせて発話することになっていますのでね。
ちなみに、「Sit down.」という、まるで警察が犯人に向かって命令するような口調の英語と、「Have a seat. Take a seat.」という英語と、どちらが一般的な英語表現として優れているかは、言うまでもないでしょう。
Basic Englishを見直すのはすごくいいと思いますねえ。GDMの研究会って、ちょっと閉鎖的なんですけど、彼らの考え方に学ぶべきところはすごく多い。 それから、sitがなくて、have a seatがある、という話ですけど、たとえば、respectもない。だから、これはput A over Bなどと表現する。それから、コーパス言語学の成果によって、たとえば、こういう基本単語を組み合わせて英語を使うというのが、非英語圏の話者が思っているより多いということも指摘されていますが、これもBEの推奨する英語と合致するのです。 ただし、だからこそ、BEは普及しないということもあるんですね。つまり、sitでいいのに、have a seatと言わなくてはいけないし、基本動詞を使うというと簡単に見えても、けっきょく、それは句動詞を多用することにつなる。そして句動詞ほど日本人にとって厄介なものもないのですね。 BEは、チャペック『山椒魚戦争』にも出てきます。山椒魚の国では、公用語をBEにするかピジン英語にするかで大論争が起こります。BEは、思想的にもいろいろと面白いものを持っています。
(June 22, 2006 10:35:39 AM)