教授のおすすめ!セレクトショップ

教授のおすすめ!セレクトショップ

PR

Profile

釈迦楽

釈迦楽

Keyword Search

▼キーワード検索

Shopping List

お買いものレビューがまだ書かれていません。
February 11, 2017
XML
カテゴリ: 教授の読書日記
 大川慎太郎氏の話題作『不屈の棋士』を読了しましたので、ちょいと心覚えを。

 昨年五月、一流棋士がコンピュータ・ソフト「ポナンザ」に二連敗を喫するという前代未聞の出来事は、「もはや人間の棋士はコンピュータ・ソフトに勝てないのではないか」との憶測を生んだわけですが、この将棋界をゆるがした事件をめぐって、当代の棋士たちが何をどう考えているのか。本書はこの件をめぐってのインタビュー集でございます。

 ま、私は特に将棋に詳しいというわけでもないのですが、「人間対機械」という、現代人が直面せざるを得ない事態に、トップ棋士たちがどう対処しているのか、ということについては非常に興味があって、読んでしまった次第。

 で、実際に読んでみると、まあ、コンピュータ・ソフトの急速な発展にそれぞれの棋士が困惑していること、そして、そうした事態に対し、賛否両論、様々な意見と態度があるんだ、ということが分かります。

 ただ、賛成・反対の比率からいうと、賛成というのは、ごく一部のようですな。大半は、反対派、あるいは、反対だけれども時代の流れだから仕方がない、という消極的賛成派。

 反対派の主張というのはほぼ一貫しております。一つは、ソフトを活用し、ソフトを使って練習をすると、自分の頭で考えなくなり、結果、棋力が衰える、というもの。

 例えば、ある局面で、どういう手を打てばいいか悩む時、ソフトを使えば「こうしたらいいんじゃないの」という手が1秒で提案される。で、確かにそれは妙手だったりするので、棋士側も「なるほど」とか言って採用するわけですけれども、こういう練習をやっていると、自分の頭で考えてないので、ちっとも実力が上らないというのですな。

 あと、もう一つの反対意見としては、「自分たちは機械と対戦するために将棋をやっているんじゃない」ということ。例えば、クルマやバイクを使えば、人間は100メートルを5秒ぐらいで走ることができる。だけど、やっぱり人間は自分の足で走って10秒切ることを目指すわけでしょ? バイクを使って、「わーい、ボルトに勝った!」っていう人はいない。だから、これからも将棋差しは、コンピュータ・ソフトがいかに人間の棋士を陵駕しようとも、人間のゲームとして将棋を続けるんだ、というわけ。

 なるほど。



 で、彼らに言わせると、人間の頭というのは習慣に慣れるので、一度定石を学ぶと、それ以外の手を生理的に受け付けなくなる。だからすごく狭い可能性の中で戦ってきた、というわけ。だけど、コンピュータ・ソフトにはそういう慣れがないので、これまで人間が採用しようと考えもしなかったような奇手を使って、それで勝利を納めたりしている。つまり、将棋の可能性というのは、これまで人間が考えていたものよりはるかに大きいのだ、ということをコンピュータが教えてくれたのだと。彼ら賛成派に言わせれば、コンピュータ・ソフトの発達に否定的なベテラン棋士たちは、単に勉強不足なんだろうというわけ。

 なるほど。

 読んでいくと、賛成派・反対派・中間派、それぞれの言い分に理があるわけですよ。

 ただ、困ったことに、この状況が、棋士の間にある種の不信感を生み出しているということがある。

 例えばコンピュータ・ソフトを使って勉強をしている棋士は、定石外れの手をバンバン、自信を持って打ってくる。それは、いかにも「ソフトの裏打ちがあるもんね」という感じらしいんですな。それに対して、定石通りに将棋を打てば、まんまと相手の術中にはまってしまうかもしれない。だから、「相手は、ソフトを使って練習しているんだろうか」という疑念が出てきて、反対派の王道の棋風まで崩れてしまうらしいんですな。

 あと、一世一代の妙手を打ったとしても、「あれはソフトの示唆だろう」と思われてしまい、人間の手柄にならない、ということもある。そして、その妙手も、たちどころにソフトで解析され、対抗手が編み出されるので、一つの定石がすぐに過去のものとなってしまうらしい。

 だから、反対派がどうあがこうとも、既に将棋の世界はソフトに汚染され、以前のような人間の智力を尽くした戦いではなくなってしまった、というところがある。

 しかし、機械の出現によって、ある人間の美しい習慣なり仕事なりが、失われていくというのは、歴史の必然であるわけで、たまたま将棋の世界にもついにそれが押し寄せたのだと考えれば、やはりこれも一つの「時代の流れ」として諦めざるを得ない。

 今、将棋の世界は、そういう「美しいものが、粉々に失われてつつある」という状況にあって、今を生きる棋士たちは、そういう状況の目撃者にならなければならないという、重い使命を担っているわけなんですな。

 うーむ、すごいね。

 誰が悪いというわけじゃないんだけれども、そういう巡りあわせになっている今の棋士たちって、ある意味、すごく不幸なんでしょうな。いや、もちろん、僥倖と考えている棋士だって中にはいるわけですが。



 ただ一つの救いは、多くの棋士たちが、「それでもまだコンピュータ・ソフトは、羽生さんには勝てないだろう」と思っていること。それほど、羽生さんの将棋というのは、モンスター的なところがあるらしいのですな。

 だけど、どうなんでしょうか。コンピュータ・ソフトの進化はあまりにも急速なので、羽生さんなら・・・という希望も、果たしていつまで持つのか。

 羽生さんがコンピュータ・ソフトに太刀打ちできなくなった時、将棋界はどうなるのか。ちょっと怖い感じがしますなあ・・・。


[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

不屈の棋士 (講談社現代新書)[本/雑誌] / 大川慎太郎/著
価格:907円(税込、送料別) (2017/2/11時点)







お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  February 11, 2017 06:25:05 PM
コメントを書く
[教授の読書日記] カテゴリの最新記事


■コメント

お名前
タイトル
メッセージ
画像認証
上の画像で表示されている数字を入力して下さい。


利用規約 に同意してコメントを
※コメントに関するよくある質問は、 こちら をご確認ください。


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

Calendar

Favorite Blog

奮闘中 New! AZURE702さん

YAMAKOのアサ… YAMAKO(NAOKO)さん
まるとるっちのマル… まるとるっちさん
Professor Rokku の… Rokkuさん
青藍(せいらん)な… Mike23さん

Comments

釈迦楽@ Re[3]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 丘の子さんへ  ああ、やっぱり。同世代…
丘の子@ Re[2]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 釈迦楽さんへ そのはしくれです。きれいな…
釈迦楽@ Re[1]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 丘の子さんへ  その見栄を張るところが…
丘の子@ Re:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 知らなくても、わからなくても、無理して…
釈迦楽 @ Re[1]:京都を満喫! でも京都は終わっていた・・・(09/07) ゆりんいたりあさんへ  え、白内障手術…

© Rakuten Group, Inc.
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: