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May 20, 2017
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カテゴリ: 教授の読書日記
マーティン・セリグマンの書いた『オプティミストはなぜ成功するか』という本を読了しましたので、心覚えを付けておきましょう。

 セリグマンというのは、アメリカ心理学会の会長さんを務めたほどの人で、いわゆる「ポジティヴ心理学」の提唱者の一人。「ポジティヴ心理学」という言葉自体はアブラハム・マズローという心理学者が1950年代半ばには使い出していますし、ミハイ・チクセントミハイが1990年頃から「フロー」という概念(=人が何かに夢中になっている時の幸福感)を打ち出しているので、別に新しい考え方と言うわけではないのですけれども、1998年にセリグマンが心理学会の新会長となった際、今後の心理学の重要な方向性として「ポジティヴ心理学」ということを打ち出したのを機に、現代アメリカ心理学の一つの主流になったと、まあ、そんな感じみたいです。

 で、それ以前、認知心理学のセリグマンを一躍有名にしたのは「無力感」の研究でありまして、彼は動物実験の中で、「犬は無力感を学習する」という研究結果を打ち出したんですな。つまり、犬に不快な電気ショックを与える実験で、どういう行動をとってもそのショックが避けられないということを知ると、犬は無気力になってまったく動かなくなってしまうことを発見したわけ。これ、1970年代のことなんですけど。

 だけど、「犬が無力感を学習し、絶望する」というのは、当時としては異端の説と考えられたわけ。動物にそんな精神生活があるとは信じられていなかったので。それでセリグマンの説は当時主流だった行動心理学とかの人たちから散々バカにされたんですけど、別な実験によってそれが確認され、従来の行動主義心理学の理論(行動は褒賞によってのみ強化される、という説)を木端微塵にしてしまったと。

 で、セリグマンの次の研究テーマとして、犬が無力感を学習できるのなら、一旦学習した無力感を、更なる学習によって乗り越えることは出来るのか? ということが浮上してくるのは当然のことでありまして。

 で、そんな疑問を解くべく、無力感を覚えてしまった犬に再教育を施したら、犬はまた元気になりました。

 じゃあ、ひょっとしてこの理論は、人間にも通用するんじゃね? 人間は環境の中でネガティヴな思考に囚われ、その結果鬱にもなるけれども、学習によってその鬱を脱し、ポジティヴに、幸福に、生きられるようになるんじゃね?

 これが、セリグマンがポジティヴ心理学を打ち出す契機となるわけですな。心理学の研究が、不幸の研究(フロイトの研究がまさにそれ)から、幸福の研究に転じたわけですよ。

 でまた、時代もそういうものを欲していたんですな。



 ところがそれと同時に、鬱の時代がやってきた。共同体のバックアップがない時代、個人としての人間は、人生における各種挫折をぜーんぶ自分一人の責任で引き受けなければならなくなってきた。その結果「自分なんか何をやってもダメだ。自分なんか生きる価値はない」という悲観的な思いに囚われるようになってしまい、それが行きつくところまで行くと鬱になってしまう。だから、アメリカでは1960年代辺りから鬱に悩む人が急増しちゃったわけ。

 実際、セリグマンのお父さんもこの時代の被害者だったのだそうで、個人的野心に囚われた彼は、安定した公務員の生活を辞め、とある公職選挙に打って出たんですけど、それを契機として精神のバランスを崩してしまい、結果、鬱になってしまった。自分自身の親が、自由な職業選択の中で崩壊していくのを子供時代に目の当りにしたセリグマンが、アメリカが置かれたこの新しい状況への処方箋を探し出したのも無理のない話だったのかも知れません。

 で、長じたセリグマンが色々研究してみたら、鬱になる人の傾向がハッキリわかった。つまり、悲観主義者が鬱になるのだと。

 で、じゃあ、悲観主義者に共通する傾向ってのは何なのか調べてみたところ、「悲観的な説明のスタイル」というものがあることが分ってきた。

 人生色々ですから、楽観主義者にも悲観主義者にも、等しく試練は訪れるわけですよ。しかし、楽観主義者はこの試練を、自分で責任を取らない方向で「説明」する。

 たとえばプロ野球のピッチャーが散々打たれたとする。その時、楽観的なピッチャーは、「いやあ、今日の相手チームの選手の出来はすごかった。これじゃ、誰が投げたって打たれるよ」と自己説明する。つまり、自分が悪かったのではなく、相手がすごかったのだと。

 この説明スタイルを身に付けていると、何でも他人事であり、一時的です。「たまたま今回は相手の調子が良かったんだ」「前の試合では俺はこのチーム相手に完封し、自分の才能を完璧に証明したんだから、俺には本質的に何も問題はない」「負けたのは今回だけで、次は自分が勝つさ」と言った調子。

 一方、悲観主義者は同じ状況でまったく別な説明をします。曰く「俺が下手だから打たれたんだ」「俺は投手としての才能がないんだ」「次の試合でも、きっと自分のせいでチームはボロ負けするぞ」「俺はこの先もずっと負け犬なんだ」と。

 もちろんこういう説明スタイルは、その人が小さい時から(多分に母親の影響を受けながら)培ったものなんですけど、これを続けて行くと、いずれ鬱になる。犬だって無力感を学習できるのですから、ましてや人間だったら、毎日毎日こんな風に自分の行動を悲観的に反芻していたら、鬱になりますわ。

 でも、こうした説明スタイルは、もちろん後天的に学習したものですから、変えようと思えば変えられる。悲観主義は克服できるんですな。本書の原題が『Learned Optimism』すなわち『学習された楽観主義』となっているのは、その意味です。つまり、楽観主義は学習によって後天的に身に付けられると。

 で、実際、鬱の人に悲観主義的な説明スタイルを止めさせ、楽観主義的な説明スタイルに変えさせると、明らかに鬱は治る。それは実際に治るらしいです。だったらもう、悲観主義なんかさっさと投げ捨てて、楽観主義に切り替えればいいんじゃないの? 



 例えば、飛行機を操縦するパイロットが楽観主義だったら? 「大丈夫、大丈夫。俺はいつもこの飛行機を上手に飛ばしているんだから、今日一回くらい点検をさぼったって大丈夫だよ」なんて人が操縦する飛行機に乗りたいと思う?

 だから、セリグマンもそこは慎重に、悲観主義が必要な場合もあると指摘しています。

 ただ、楽観主義で事を行なった結果、引き起こされる事態がさほど深刻なものでない限り、楽観主義でやった方が良いということは確実に言えると。

 たとえばアメリカの大統領選挙戦を見ると、確実にポジティヴな候補者が勝っている。だから、選挙戦中、候補者のスピーチを分析するだけで、どちらが勝つか、ほとんど間違うことなく予測ができるそうです。



 さらに病人もそうで、ポジティヴな患者は、キラー細胞の活性が高く、病気に打ち克つことが多いと。ま、キラー細胞にまで踏み込まなくても、悲観主義者というのは、何に関しても「自分が悪い、自分のせいだ、自分には生きる価値がない、いつも自分は不幸に襲われるので、その運命は変えられないんだ」と思い込みがちなので、病気になっても病院に行きたがらないし、治りたいという強い意志を持たない。それが、病気に勝てるか負けるかの差になってくるわけですな。

 またそういう特殊なケースでなくとも、一般人の生涯で考えても、ポジティヴな人の方がよい生涯を送り、長生きしていることが統計的に確かめられている。

 とにかく、共同体の崩壊と個人主義の台頭、このアメリカ現代社会の状況からして、鬱になる原因は山積しているのだから、それに対処するには個人主義的に、すなわち「自分で選んで楽観主義になる」ということを心掛けるしかないんでないの?

 とまあ、それがセリグマンがこの本を通じて言いたかったことでございます。

 ま、私としては納得、ですね。また納得するからこそ、セリグマンが提唱する「ポジティヴ心理学」は、要するに自己啓発だ、ということにもなるわけでありまして。自己啓発本の系譜の中に、すなわち、アブラハム・マズローからミハイ・チクセントミハイを通って流れる「心理学系自己啓発思想」の中に、セリグマンを位置付けられたかなと。その意味で、この本読んで個人的には大成功。


 ところで、この本には心理テストが随所にあって、それをやることで自分の楽観主義度/悲観主義度が測れるようになっているのよ。

 で、当然、私も自分でそれをやってみた。無論、私としては、自分が「針が振り切れるほどの楽観主義者」と認定されるものだとばかり思いつつ。

 ところが、そうじゃなかったんだなあ・・・。私の楽観主義度なんて「普通」か、「普通よりちょっとだけ楽観主義的」くらいなものだったの。中の中か、中の上くらい。上の下ですらないレベル。

 ええ゛っーーーー! って感じでしょ。自分でも驚いたわ。じゃあ、この世には私より楽観主義的な奴がゴマンと居るってことなの? ウソでしょ。

 先日、大学の研究室棟の廊下で、今鬱を患っている同僚とすれ違ったのですけど、その時、その同僚は私を見かけた途端、廊下にへなへなと座りこんじゃいましてね。どうもね、その同僚から見ると、私があまりにも楽観主義者なもので、後光が差していて目がくらむほど眩しいらしいんですわ。

 鬱の人を瞬時にへたらせるほど、光に包まれた楽観主義者のワタクシでさえ「普通」って・・・。

 じゃあ、「本物の楽観主義者」って、一体全体、どれほど眩しいんだよ!



オプティミストはなぜ成功するか新装版 [ マーティン・E.P.セリグマン ]





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Last updated  May 20, 2017 08:39:28 PM
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釈迦楽@ Re[3]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 丘の子さんへ  ああ、やっぱり。同世代…
丘の子@ Re[2]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 釈迦楽さんへ そのはしくれです。きれいな…
釈迦楽@ Re[1]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 丘の子さんへ  その見栄を張るところが…
丘の子@ Re:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 知らなくても、わからなくても、無理して…
釈迦楽 @ Re[1]:京都を満喫! でも京都は終わっていた・・・(09/07) ゆりんいたりあさんへ  え、白内障手術…

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