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原点は、新聞読者ファーストにあり
大学 2 年生になる直前、私は無返済の大学独自の奨学金制度に挑戦しました。説明会には 2,000 人近い学生が参加し、最終的な書類提出者は 700 人を超えていたと記憶しています。もう 45 年も前の話なので細かな記憶はあいまいですが、不合格通知を受け取った時の、胸の底が抜けるような感覚だけは今もはっきり覚えています。
その頃、父はがんを患っており、余命は 3
年もないと宣告されていました。
家計は厳しく、授業料の支払いにも不安がありました。
私は大学入学時から続けていた新聞配達の勤労奨学金制度を、このまま延長して続けるかどうかを真剣に考えていました
。毎朝 3
時 30
分起床。まだ真っ暗な道を、自転車で走りながら新聞を一軒一軒届けていく日々。学業との両立は決して楽ではありませんでしたが、目の前の一日一日を必死に生きていました。
そんなある日、学生課から突然呼び出されました。「君の熱心さには、負けたよ」「これからは、しっかり勉強するだよ」 ――
学生課の職員さんがそう声をかけてくださったのです。
結果は、補欠合格。 30
人枠のうち一人が辞退したことで、
私が繰り上がって採用されたとのことでした。
どうやら、新聞配達勤労学生のことが、
再評価されたかもしれません。
本当に、本当に、成績は、悪かったです。
そこから 3
年間、大学から毎月 2
万円の無返済奨学金をいただくことができました。
大学1年生の1年間は、新聞配達の経験は、単なるアルバイトではありませんでした。
勤労学生という立場で、朝刊、夕刊、集金、新規開拓などなど。
雨の日も風の日も、性格に新聞を届ける。
その行動の一つ一つが、「読者様ファースト」の姿勢を自然と育ててくれました。
相手の生活に寄り添い、信頼を積み重ねていく。そんな働き方の意味を、肌で感じていたのです。
その視点は、今の私の仕事の柱である「伎芸(ぎげい)型おもてなし商売道」にも通じています。
単なるサービスや接客ではなく、お客様の気持ちに寄り添い、
心を動かすパフォーマンスを追求する ――
その原点は、
新聞配達の早朝の空気の中にあったのかもしれません。
補欠合格がくれた機会、そして読者の暮らしに寄り添った新聞配達の日々。
それらすべてが、私の商いの精神を育んでくれたのです。
今日も、働くでぇ~。