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「事案の概要」
本件は、Aを分割会社とする新設分割により設立されたXが、Aとの間で定期預金・積立定期預金契約を締結していたYらに対し、XはAのYらに対する定期預金・積立定期預金債権を承継したと主張して、その払い戻しを求めた事案である。Xの預金払戻請求に対し、Yらは、Aに対する各貸付金債権を自働債権とする相殺の抗弁を主張したが、本件新設分割においては、本件各預金債権がAからXに承継される一方、AがYらに対して負担していた借入金債務等はXに承継されなかったため、Yらが上記相殺をもって本件各預金債権の承継人であるXに対抗することができるか否かが争点となった。
「判旨」
金銭債権が譲渡され、その債務者が譲渡通知を受けたにとどまる場合において、債務者が譲渡通知を受ける前に当該債権の譲渡人に対して金銭債権(反対債権)を取得していたときは、債務者は、かかる事実をもって民法468条2項所定の「通知を受けるまでに譲渡人に対して生じた事由」にあたるものとして、被譲渡債権を受働債権とし、自己が譲渡人に対して有する反対債権を自働債権としてする相殺をもって、被譲渡債権の譲受人に対抗することができる。
会社分割により分割会社の有する金銭債権が承継会社又は設立会社に承継された場合について検討するに、会社分割の効力発生前に分割会社に対して反対債権を取得していた当該金銭債権の債務者は、前記のとおり、相殺の制度により反対債権につき担保権を有するとの同様の地位を与えられているところ、当該反対債権に係る債務が承継会社又は設立会社に承継されなかったときには、当該会社分割に異議を述べることができず、会社分割無効の訴えの提訴権も認められないから、上記金銭債権の債務者が承継会社又は設立会社に承継された金銭債権を分割会社に対して有する金銭債権をもって相殺することが認められないとすると、相殺制度によって認められた当該債務者の地位が不当に害されることになる。したがって、前記金銭債権の債務者には、承継会社又は設立会社に対する相殺を認める必要がある。
また、債権譲渡と会社分割による債権の承継とは、前者が法律行為に基づくもの、後者が組織法上の行為に基づくものという違いはあるものの、いずれも、債務者の意思にかかわらず、債権が同一性を維持したまま第三者に移転するという点で差異はない。
よって、前記金銭債権の債務者は、民法468条2項の類推適用により、承継会社又は設立会社に対し、反対債権による相殺を主張し得ると解するのが相当である。
判例タイムズ1352号215頁
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