全613件 (613件中 1-50件目)
株式会社の社外役員で構成される調査委員会作成に係る調査報告書が民訴法220条4号ニの文書に該当しないとされた事例(大阪高裁令和元年7月3日決定) 「事案の概要」本件の基本事件は、Xにおいて、分譲マンション用地を購入するに際し、いわゆる地面師詐欺に遭った詐欺被害に関し、Xの株主Yが当時の取締役2名を被告としてXへの賠償を求める株主代表訴訟である。本件は、Yが、Xにおいて所持する本件詐欺被害に関する複数の文書につき、文書提出命令の申立をした事件であり、X社外役員で構成される調査委員会作成に係る調査報告書はその一部である。本件調査報告書について、Yが主張する文書提出義務の原因は、民訴法220条1号及び4号であったが、Xは、本件調査報告書は、同条4号ニ所定の自己利用文書に該当するなどと主張して文書提出義務を争った。 「判旨」本件調査報告書は、関係者の発言あるいは関係者による論争を赤裸々に記録した文書ではなく、会社の組織としての意思決定や行動のあり方の問題点を客観的に指摘するものであって、本件委員会の目的に適った内容となっている。本件調査報告書が上記のようなものである上、抗告人の代表取締役会長であったDが、平成30年3月6日、報道関係者に対し、A版用紙3枚にまとめた本件調査報告書の概要を公表した事実に照らせば、本件調査報告書が、外部の者に開示することがおよそ予定されていなかった文書であると断定することは困難である。また、本件調査報告書中の東京マンション事業部営業次長を非難する部分は同人に手厳しいものではあるが、これが開示されれば、個人のプライバシーが侵害されるとか、関係者個人の自由な意思形成や抗告人の団体としての自由な意思形成が阻害されるといった不利益が生ずるおそれがあるとは認められない。したがって、本件調査報告書は自己利用文書に該当するとは認められない。判例タイムズ1466号96頁
2021.03.19
相続の開始後認知によって相続人となった者が遺産の分割を請求しようとする場合において他の共同相続人が既に当該遺産の分割をしていたときの民法910条に基づき支払われるべき価額の算定の基礎となる遺産の価額(最高裁判所第三小法廷令和元年8月27日判決) 「事案の概要」民法910条は、相続の開始後認知によって相続人となった者が遺産の分割を請求しようとする場合において、他の共同相続人が既にその分割その他の処分をしたときは、価額のみによる支払いの請求権を有すると定めている。本件は、被相続人が死亡し、その法定相続人であった配偶者及び長男が被相続人の遺産について遺産分割協議を成立させた後、認知の訴えに係る判決の確定によって被相続人の子として認知された原告が、長男を被告として同条に基づく価額支払請求をした事案であり、同条に基づき支払われるべき価額の算定の基礎となる遺産の価額について、積極財産の価額から消極財産の価額を控除すべきか否かが争われた。 「判旨」相続の開始後認知によって相続人となった者が遺産の分割を請求しようとする場合において、他の共同相続人が既に当該遺産の分割をしていたときは、民法910条に基づき支払われるべき価額の算定の基礎となる遺産の価額は、当該分割の対象とされた積極財産の価額である。判例タイムズ1465号49頁
2019.12.30
抵当権の被担保債権が免責許可の決定の効力を受ける場合における当該抵当権自体の消滅時効(最高裁判所第二小法廷 平成30年2月23日判決) 「事案の概要」Xは、平成13年2月13日、その有する建物共有持分について、債務者をX、根抵当権者をY、債権の範囲を金銭消費貸借取引とする根抵当権を設定するとともに、Yとの間で金銭消費貸借契約を締結し、以後、金銭の借入と返済をしていたが、平成17年11月24日、破産手続開始決定(同時廃止)を受けた。Xが破産手続開始決定を受けたことにより、本件根抵当権の担保すべき元本が確定し、その被担保債権は、本件契約に基づくYのXに対する債権である。その後、Xは、免責許可の決定を受け、同決定は平成18年2月24日に確定した。本件は、Xが、本件貸金債権につき消滅時効が完成し、本件根抵当権は消滅したなどと主張して、Yに対し、本件根抵当権の抹消登記手続を求めた事案である。原審は、(1)本件貸金債権は、免責許可の決定の効力を受ける債権であるから、消滅時効の進行を観念することはできない、(2)民法396条により、抵当権は債務者及び抵当権設定者に対しては、その担保する債権と同時でなければ時効によって消滅しないから、Xの請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないとし、Xの請求を棄却すべきものとした。 「判旨」抵当権の被担保債権が免責許可の決定の効力を受ける場合には、民法396条は適用されず、債務者及び抵当権設定者に対する関係においても、当該抵当権自体が、民法167条2項所定の20年の消滅時効にかかる。判例タイムズ1450号 40頁
2019.05.10
株券が発行されていない株式(振替株式を除く)に対する強制執行の手続において配当表記載の債権者の配当額に相当する金銭が供託され、その供託金の支払委託がされるまでに債務者が破産手続開始の決定を受けた場合における破産法42条2項本文の適用の有無(最高裁判所第二小法廷 平成30年4月18日決定) 「事案の概要」債権者であるXは、平成27年12月、債務承認及び弁済契約公正証書の執行力のある正本に基づき、債務者であるAに対する貸金返還債務履行請求権等を請求債権とする株式差押命令の申立をし、株券未発行株式であるA保有の株式に対する差押命令を得た。なお、Xの他に3名の債権者もそれぞれ本件株式に対する差押命令を得ており、債権者B1に関しては、B1から請求債権を譲り受けたB2が債権者の地位を承継した。本件株式について売却命令による売却がなされ、平成28年11月、本件株式の売却代金について開かれた配当期日において、配当表に記載されたX及びB2の配当額につき、債権者Cから異議の申し出があり、所定の期間内にX及びB2に対する配当異議の訴えが提起された。そのため、執行裁判所は、配当異議の申出のない部分につき配当を実施した上、X及びB2の配当額に相当する部分については、執行裁判所の裁判所書記官が上記配当額に相当する金銭の供託をした。ところが、Aは、上記供託の事由が消滅する前の平成29年1月、破産手続開始の決定を受け、その破産管財人が執行裁判所に本件差押命令の取消しを求める上申書を提出した。原々審は、職権により本件差押命令を取り消す旨の決定をしたところ、Xが執行抗告をした。原審は、執行抗告を棄却した。これに対し、Xが許可抗告をした。 「判旨」株券が発行されていない株式(振替株式を除く)に対する強制執行の手続において、当該株式につき売却命令による売却がされた後、配当表記載の債権者の配当額について配当異議の訴えが提起されたために上記配当額に相当する金銭の供託がされた場合において、その供託の事由が消滅して供託金の支払委託がされるまでに債務者が破産手続開始の決定を受けたときは、当該強制執行の手続につき、破産法42条2項本文の適用がある。判例タイムズ1452号30頁
2018.12.28
受遺者が、遺留分権利者の占有する建物の明渡しを請求するにあたり、裁判所の定めた価額を弁償する意思を表明して、弁償すべき価額の支払を条件として建物の明渡しを求めた場合は、特段の事情のない限り、弁償すべき価額を定めた上、その価額の支払があったことを条件として建物の明渡し請求を認容することができるとした事例(東京高裁平成28年6月22日判決) 「事案の概要」X及びYは、被相続人Aの子である。Yは、Aが死亡するまでにAが所有する本件建物に居住し始め、A死亡後も単独で本件建物を占有していた。Xは、遺言によって本件建物を単独所有することとなった。そこで、Xは、Yに対し、本件建物の所有権に基づき、本件建物の明渡しを求めるとともに、賃料相当損害金の支払を求めて訴訟提起するに至った。Yは、訴訟提起前に遺留分減殺請求の意思表示をしたが、これに対して、Xは、Aが死亡時に債務超過に陥っていたことから、Yの遺留分を侵害していないと主張した。原審は、Aが債務を負っていたものの、債務超過ではなく、遺留分侵害が認められるとして、遺留分減殺請求権の行使により、Yが本件建物につき共有持分を有するとして、Xの請求を棄却した。これに対し、Xは、価額弁償を条件として本件建物を明け渡せとの予備的請求を追加して控訴し、控訴審第1回口頭弁論期日において、裁判所の定めた価額をもって弁償する旨の意思表示をした。 「判旨」控訴審は、本位的請求について、Yの遺留分侵害額を認定した上で、本件建物明渡請求は理由がないとするとともに、賃料相当損害金の請求は持分割合の限度で理由があるとし、予備的請求については、控訴審におけるXの価額弁償の意思表示について、当該訴訟手続内において、判決によって確定された価額を支払う意思を表明し、弁償すべき価額の支払を条件として遺留分権利者の占有する目的物の引渡し等を求めた場合は、受遺者等に価額を弁償する能力がないなどの特段の事情のない限り、弁償すべき価額を定めた上、支払があったことを条件として遺留分権利者の占有する目的物の引渡し等請求を認容することができると解し、権利関係の早期確定の必要性とXが弁償すべき価額の原資を準備する期間も考慮して、本判決確定後30日以内に支払を受けたことを条件として本建物の明渡しを認めた。判例時報2355号45頁
2018.04.20
破産債権者が破産手続開始後に物上保証人から債権の一部の弁済を受けた場合における、破産手続開始時の債権の額を基礎として計算された配当額のうち実体法上の残債権額を超過する部分の配当方法(最高裁判所第三小法廷 平成29年9月12日決定) 「事案の概要」本件は、破産手続開始後に物上保証人から債権の一部の弁済を受けた破産債権者であるXが、破産手続開始の時における債権の額として確定したものを基礎として計算された配当額のうち実体法上の残債権額を超過する部分を物上保証人(求償権者)に配当すべきものとした破産管財人Y作成の配当表に対する異議申立てをした事案である。 「判旨」破産債権者が破産手続開始後に物上保証人から債権の一部の弁済を受けた場合において、破産手続開始の時における債権の額として確定したものを基礎として計算された配当額が実体法上の残債権額を超過するときは、その超過する部分は当該債権について配当するべきである。判例タイムズ1442号52頁
2017.12.28
他人所有の自動車を運転中に物損事故に遭った者が、弁護士を代理人として損害賠償請求訴訟を提起した後、所有者から損害賠償請求権の債権譲渡を受けた場合について、この債権譲渡は訴訟信託に当たり無効であると判断した事例(福岡高裁 平成29年2月16日判決) 「事案の概要」Xは、①自らが運転する妻A所有の自動車とY1運転の自動車との交通事故、②自らが運転する知人B所有の自動車とY2運転の自動車との交通事故の2件の交通事故の損害賠償請求権(いずれも物損)について、A及びBから委託を受けたとして、自らが原告、弁護士を代理人として、Y1 及びY2に対する損害賠償請求訴訟を提起した。第1審において、Yら代理人がXの当事者適格を争ったため、Xは、A及びBからXに対する上記損害賠償請求権の債権譲渡を受けた。 「判旨」上告人は、本件訴訟提起時から弁護士である上告訴訟代理人に委任して訴訟行為を行わせているから、弁護士代理の原則(民事訴訟法54条1項)を潜脱するものではないものの、上記各所有者が原告とならず、上告人が原告となって訴訟を提起した理由は、上告人が加入する自動車保険の弁護士費用特約を使うためであったというのであり、上告人への債権譲渡は、上告人を原告にして訴訟を行わせることを目的として行われたものであるから、信託法10条により禁止されている訴訟信託にあたり無効といわざるをえず、上告人に本件第1事故及び本件第2事故についての損害賠償請求権が移転したとは認められない。判例タイムズ1437号105頁
2017.11.02
専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合と民法802条1号にいう「当事者間に縁組をする意思がないとき」(最高裁第三小法廷 平成29年1月31日判決) 「事案の概要」亡きAの長女であるX1及びAの二女であるX2が、Aの孫であるYに対して、AとYとの間の養子縁組は縁組をする意思を欠くものであると主張して、養子縁組の無効確認を求めた事案である。Yは、平成23年、Aの長男であるBとその妻であるCとの間の長男として出生した。Aは、平成24年3月に妻と死別した。Aは、平成24年4月、B、C及びYと共にAの自宅を訪れた税理士等から、YをAの養子とした場合に遺産に係る基礎控除額が増えることなどによる相続税の節税効果がある旨の説明を受けた。その後、養子となるYの親権者としてB及びCが、養親となる者としてAが、証人としてAの弟夫婦が、それぞれ署名押印して、養子縁組届に係る届書が作成され、平成24年5月、世田谷区長に提出された。原判決は、本件養子縁組は専ら相続税の節税のためにされたものであるとした上で、かかる場合は民法802条1号にいう「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとして、Xらの請求を認容した。 「判旨」養子縁組は、嫡出親子関係を創設するものであり、養子は養親の相続人となるところ、養子縁組をすることによる相続税の節税効果は、相続人の数が増加することに伴い、遺産に係る基礎控除額を相続人の数に応じて算出するものとするなどの相続税法の規定によって発生し得るものである。相続税の節税のために養子縁組をすることは、このような節税効果を発生させることを動機として養子縁組をするものにほかならず、相続税の節税の動機と縁組をする意思とは、併存し得るものである。したがって、専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても、直ちに当該養子縁組について民法802条にいう「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとすることはできない。判例タイムズ1435号95頁
2017.05.31
不正競争防止法の営業秘密における秘密管理性(東京地裁立川支部刑事第3部判決) 「事案の概要」被告人は、通信教育、模擬試験の実施等を業とする甲が乙に業務委託していた甲の情報システムの開発等に従事し、甲及び乙が秘密として管理している営業秘密である甲の顧客情報を、同情報が記録された甲のサーバコンピュータに業務用パソコンからアクセスするためのID及びパスワード等を付与されるなどして、甲等から示されていた。被告人は、顧客情報を名簿業者に売却して利益を得る目的で、その営業秘密の管理に係る任務に背いて、2回にわたり、業務用パソコンを操作して顧客情報等が記録されたサーバコンピュータにアクセスし、甲の営業秘密である顧客情報をダウンロードして、前記パソコンにUSBケーブルで接続した自己使用のスマートフォンの内蔵メモリ等に複製させる方法により、顧客情報合計約2989万件を領得し、そのうち1回については、1000万件余りの顧客情報を、インターネット上のファイル送信サービスを利用する方法により、名簿業者に顧客情報のデータをダウンロードさせて開示した。 「判旨」本件当時、本件顧客情報を保有していた株式会社等において、本件顧客情報を管理する方法が、アクセスできる者を制限するなど、情報の秘密保持のために必要な合理的管理方法であり、本件顧客情報にアクセスする者がその情報が管理されている秘密情報であると客観的に認識可能であったと認められることから、本件顧客情報について、秘密管理性の要件を充足しており、不正競争防止法における営業秘密に該当する。判例タイムズ1433号231頁
2017.05.09
共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権は遺産分割の対象となるか(最高裁大法廷 平成28年12月19日決定) 「事案の概要」Aの法定相続人はXとYのみであり、その法定相続分は各2分の1である。Aは、不動産(マンションの1室及びその敷地の共有持分。評価額合計約258万円)のほかに預貯金債権(合計4000万円以上)を有していた。原々審、原審とも、預貯金債権は預金者の死亡によって法定相続分に応じて当然に分割され、相続人全員の合意がない限り遺産分割の対象とすることはできないとした上で、Yに特別受益があり、その額は5500万円程度と認めるのが相当であるから、Yの具体的相続分は0であるとして、Xが上記不動産を取得すべきものとした。これに対し、Xが抗告許可の申立てをしたところ、原審はこれを許可した。本決定は、原決定を破棄し、本件を原審に差し戻した。 「判旨」共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権は、いずれも、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となる。判例タイムズ1433号44頁
2017.04.27
破産手続開始前に成立した第三者のためにする生命保険契約に基づき破産者である死亡保険金受取人が有する死亡保険金請求権と破産財団への帰属(最高裁第一小法廷 平成28年4月28日判決) 「事案の概要」夫婦であるY1及びAは、平成24年3月、東京地裁に破産手続開始の申立をし、同裁判所は、同月、破産手続開始決定をして、X1、X2をそれぞれの破産管財人に選任した。Y1及びAの長男であるBは、平成16年に全国労働者共済生活協同組合連合会との間で、被共済者をB、死亡共済金を400万円とする生命共済契約を締結した(死亡共済金の受取人はY1及びA)。また、Bは、生命保険会社との間で、被保険者をB、死亡保険金を2000万円とする生命保険契約を締結したが(死亡保険受取人はY1)、平成24年4月に死亡した。Y1は、平成24年5月、上記死亡共済金及び死亡生命保険の各請求手続をして、合計2400万円を受け取り、このうち1000万円を費消し、同年9月、残金1400万円をX1の預かり金口座に送金した。費消された本件金員のうち800万円は、同年6月からY1の代理人となった弁護士であるY2の助言に基づいて費消された。X1、X2は、Y1に対しては不当利得返還請求権に基づき、Y2に対しては不法行為による損害賠償請求権に基づき、X1において800万円及び遅延損害金等の連帯支払を、また、X2において200万円及び遅延損害金等の連帯支払を求めた。 「判旨」第三者のためにする生命保険契約の死亡保険金受取人は、当該契約の成立により、当該契約で定める期間内に被保険者が死亡することを停止条件とする死亡保険金請求権を取得するものと解されているところ、この請求権は、被保険者の死亡前であっても、上記死亡保険金受取人において処分したり、その一般債権者において差押をしたりすることが可能であると解され、一定の財産的価値を有することは否定できないものである。したがって、破産手続開始前に成立した第三者のためにする生命保険契約に基づき破産者である死亡保険受取人が有する死亡保険金請求権は、破産法34条2項にいう「破産手続開始前に生じた原因に基づいて行うことがある将来の請求権」に該当するものとして、上記死亡保険金受取人の破産財団に属すると解するのが相当である。判例タイムズ1426号32頁
2016.09.16
市街化調整区域内における開発行為に関する工事が完了し検査済証が交付された後における開発許可の取消しを求める訴えの利益(最高裁第一小法廷 平成27年12月14日判決)「事案の概要」本件は、処分行政庁である鎌倉市長が行った都市計画法29条1項による開発行為の許可について、本件開発許可に係る開発区域の周辺に居住するXらが、Y(鎌倉市)を相手に、その取消しを求めた事案である。本件においては、訴えの提起前に、本件開発許可に係る開発行為に関する工事が完了し、訴え提起の翌日には、当該工事が本件開発許可の内容に適合する旨の検査済証が交付されていたため、訴えの利益が存続するものか否かが争点となった。「判旨」市街化調整区域のうち、開発許可を受けた開発区域以外の区域においては、都市計画法43条1項により、原則として知事等の許可を受けない限り建築物の建築等が制限されるのに対し、開発許可を受けた開発区域においては、同法42条1項により、開発行為に関する工事が完了し、検査済証が交付されて工事完了公告がされた後は、当該開発許可に係る予定建築物等以外の建築物の建築等が原則として制限されるものの、予定建築物等の建築物についてはこれが可能となる。そうすると、市街化調整区域においては、開発許可がされ、その効力を前提とする検査済証が交付されて工事完了公告がされることにより、予定建築物等の建築が可能となるという法的効果が生ずるものということができる。したがって、市街化調整区域内にある土地を開発区域とする開発行為ひいては当該開発行為に係る予定建築物等の建築等が制限されるべきであるとして開発許可の取消しを求める者は、当該開発行為に関する工事が完了し、当該工事の検査済証が交付された後においても、当該開発許可の取消しによって、その効力を前提とする上記予定建築物等の建築等が可能となるという法的効果を排除することができる。以上によれば、市街化調整区域内にある土地を開発区域とする開発許可に関する工事が完了し、当該開発の検査済証が交付された後においても、当該開発許可の取消しを求める訴えの利益は失われないと解するのが相当である。判例タイムズ1422号61頁
2016.06.16
送達すべき場所が知れない場合に当たるとは認められず、原審における訴状等の公示送達による送達は無効であるとして、原審に差し戻した事例(札幌高裁 平成25年11月28日判決)「事案の概要」Xは、Yから買い受け、自宅に取り付けた錬鉄器具、玄関ドアなどに瑕疵があったなどと主張して、平成23年5月、不法行為などに基づいて、再工事費用の支払を求める本件訴訟を札幌地裁に提起した。原審担当書記官は、訴状記載のYの本店所在地に宛てて訴状などの特別送達を試みたが宛て所に尋ね当たらないことを理由に返送された。そのため、同年8月、Yの代表者の当時の住民票上の住所地(代表者前住所地)に宛てて特別送達を試みたが、受送達者不在で配達できず、保管期間が経過したことを理由に返送された。X訴訟代理人の調査結果では、Y代表者が「地方におり上京の際立ち寄る程度で常時居住しているわけではない」、「郵便受け内の郵便物については、帰宅の際、確認している様子がうかがえる」、「いつでも退去できるよう荷物はまとめてある」との状況であった。Xは、送達をなすべき場所が知れないとして、同年9月、原審裁判所に対し、Yに対する関係書類の送達を公示送達によるべきことを申し立てた。原審担当書記官は、同年10月、代表者前住所地に宛てて特別送達を試みたが、受送達者不在で配達できず、保管期間が経過したことを理由に返送された。原審担当書記官は、同年11月、Yに対して訴状を公示送達の方法により送達した。原審裁判所は、口頭弁論期日で、出頭したX訴訟代理人に訴状を陳述させ、書証の取調べを実施して弁論を終結し、同年12月、Xの請求を一部認容する判決を言い渡した。この判決に対し、Xが控訴した。「判旨」被控訴人代表者が代表者前住所に居住していた可能性が否定できない以上、原審担当書記官においては、控訴人に促して代表者前住所において執行官送達を試みたり、代表者前住所があるマンションの管理業者、被控訴人代表者が売却を依頼していた不動産仲介業者に対する調査嘱託を試みたり、普通郵便を送って返送の有無を確認するなど、同所に被控訴人代表者が居住しているかどうかを再度確認する措置を講じるべきであった。このような措置を講じなかった以上、相当な調査が尽くされたとは認められず、被控訴人の住所等が知れない場合に当たるとは認められない。したがって、原審における被控訴人に対する訴状副本、期日呼出状等の公示送達は、民訴法110条1項の要件を欠き、無効である。判例タイムズ1420号107頁
2016.04.22
労働者災害補償保険法による療養補償給付を受ける労働者につき、使用者が労働基準法81条所定の打切補償の支払をすることにより、解雇制限の除外事由を定める同法19条1項但書の適用を受けることの可否(最高裁第二小法廷 平成27年6月8日判決)「事案の概要」業務災害による休業中のXが、Yから打切補償として平均賃金の1200日分相当額の支払いを受けた上で解雇されたことにつき、この解雇は労働基準法19条本文に違反し無効である等と主張して、労働契約法上の地位の確認等を求めた事案である。本件の1審及び原審は、労災保険給付について何ら触れていない労働基準法81条の文言等からすれば労災保険給付を受けている労働者について打切補償を行うことができるとは解されず、Xに対する解雇は、同法19条1項に反し無効であるなどとして、Xの地位確認請求を認容すべきものとした。これに対して、Yが上告及び上告受理申立てをした。「判旨」労働者災害補償保険法12条の8第1項1号の療養補償給付を受ける労働者が、療養開始後3年を経過しても疾病等が治らない場合には、使用者は、当該労働者につき、労働基準法81条の規定による打切補償の支払いをすることにより、解雇制限の除外事由を定める同法19条1項但書の適用を受ける。判例タイムズ1416号56頁
2015.12.18
共有に属する株式について会社法106条本文の規定に基づく指定及び通知を欠いたまま権利が行使された場合における同条ただし書の株式会社の同意の効果共有に属する株式についての議決権の行使の決定方法(最高裁平成27年2月19日第一小法廷判決)「事案の概要」Y社の発行株式の総数3000株のうち2000株をAと2分の1ずつの持分割合で準共有しているXが、Y社の株主総会決議には、決議の方法等に法令違反があると主張して、Y社に対し、株主総会決議の取り消しを求めた。上記の2000株について、会社法106条本文の規定に基づく権利を行使する者の指定及びY社に対する通知はされていなかったが、Y社がAによる本件準共有株式全部についての議決権行使に同意したことから、同条ただし書により、本件議決権行使が適法なものとなるか否かが争われた。「判旨」共有に属する株式について会社法106条本文の規定に基づく指定及び通知を欠いたまま当該株式についての権利が行使された場合において、当該権利の行使が民法の共有に関する規定に従ったものでないときは、株式会社が同条ただし書の同意をしても、当該権利の行使は適法となるものではないと解するのが相当である。そして、共有に属する株式についての議決権の行使は、当該議決権の行使をもって直ちに株式を処分し、又は株式の内容を変更することになるなど特段の事情がない限り、株式の管理に関する行為として、民法252条本文により、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決せられるものと解するのが相当である。判例時報2257号106頁
2015.07.31
共同企業体を請負人とする請負契約における請負人「乙」に対する公正取引委員会の排除措置命令等が確定した場合「乙」は注文者「甲」に約定の賠償金を支払うとの約款の条項の解釈(平成26年12月19日最高裁判所第二小法廷判決)「事案の概要」Xは、同市の下水管きょ工事を一般競争入札の方法に付したところ、A・B共同企業体がこれを落札し、Xと本件共同企業体は請負契約を締結した。本件契約の契約書では、注文者であるXは「甲」、請負人である本件共同企業体は「乙」と表記されていた。そして、同契約書に添付されていた本件約款には、「乙が本件契約の当事者となる目的でした行為に関し、公正取引委員会が、乙に独禁法の規定に違反する行為があったとして排除措置命令又は課徴金納付命令を行い、これが確定した場合、乙は、甲に対し、不正行為に対する賠償金として、請負金額の10分の2相当額を甲の指定する期限までに支払わなければならない」とする旨の条項があった。本件契約の締結後、公正取引委員会は、A及びBを含む事業者らに対して排除措置命令及び課徴金納付命令を行った。このうちAに対する排除措置命令及び課徴金納付命令は確定したが、Bに対する排除措置命令及び課徴金納付命令については、Bから審判請求がされたため、確定しなかった。「判旨」A及びBを構成員とする共同企業体を請負人とする請負契約において、注文者を「甲」、請負人を「乙」とし、「乙」に対する公正取引委員会の排除措置命令及び課徴金納付命令が確定した場合「乙」は「甲」に約定の賠償金を支払うとの請負契約約款の条項がある場合に、上記条項において排除措置命令等が確定したことを要する「乙」の意味が当該共同企業体のほか「A又はB」か「A及びB」かは上記契約の文言上一義的に明らかではないのに、「乙」の後に例えば「(共同企業体にあっては、その構成員のいずれかの者をも含む。)」などの記載もないなど判示の事情の下では、「乙」とは当該共同企業体又は「A及びB」をいうものとする点で合意が成立していると解すべきである。判例タイムズ1410号60頁
2015.04.30
再生債務者が支払の停止の前に再生債権者から購入した投資信託受益権に係る再生債権者の再生債務者に対する解約金の支払債務の負担が、民事再生法93条2項2号にいう「前に生じた原因」に基づく場合に当たらず、上記支払債務に係る債権を受働債権とする相殺が許されないとされた事例(最高裁第一小法廷平成26年6月5日判決)「事案の概要」Xは、Y銀行との間で、投資信託受益権の管理等を委託する契約を締結した上で、平成19年3月までに、Y銀行から本件受益権を順次購入した。信託契約等によれば、Xが本件受益権について解約を申し込む場合、XがY銀行に対して信託契約の一部解約の実行の請求をすると、その旨の通知がY銀行から投資信託委託会社に対してされ、投資信託委託会社が信託契約の一部を解約すると、その解約金が信託会社からY銀行に振り込まれ、Y銀行はこれをXに支払うこととされていた。また、Y銀行は、平成19年1月以降、本件受益権を振替投資信託受益権として管理していたが、Xは、本件受益権につき、原則として自由に他の振替先口座への振替をすることができるものとされていた。Xは、平成20年12月、支払を停止し、Y銀行はその事実を知った。Y銀行は、平成21年3月、債権者代位権に基づいて、XがY銀行に対して行うものとされている本件受益権の解約実行請求を代位行使し、投資信託委託会社に対しその旨通知した。これにより、信託契約の一部が解約され、信託会社からY銀行に本件解約金が振り込まれた。Y銀行は、Xにつき再生手続開始の申し立てがされる前に、Xに対する保証債務履行請求権を自働債権、本件債務に係る債権を受働債権として、対当額で相殺する旨の意思表示をした。「判旨」Xが、その支払の停止の前に、投資信託委託会社と信託会社との信託契約に基づき設定された投信信託の受益権をその募集販売委託を受けたYから購入し、上記信託契約等に基づき、上記受益権に係る信託契約の解約実行請求がされたときにはYが上記信託会社から解約金の交付を受けることを条件としてXに対してその支払債務を負担することとされている場合において、次の(1)から(3)などの事情の下では、Yがした債権者代位権に基づく解約実行請求により、Yが、Xの支払の停止を知った後に上記解約金の交付を受け、これにより上記支払債務を負担したことは、民事再生法93条2項2号にいう「支払の停止があったことを再生債権者が知った時より前に生じた原因」に基づく場合に当たるとはいえず、Yが有する再生債権を自働債権とし上記支払債務に係る債権を受働債権とする相殺は許されない。(1)上記解約実行請求は、YがXの支払の停止を知った後にされた。(2)Xは、Yの振替口座簿に開設された口座で振替投資信託受益権として管理されていた上記受益権につき、原則として自由に他の振替先口座への振替をすることができた。(3)Yが、上記相殺をするためには、他の債権者と同様に、債権者代位権に基づき、Xに代位して上記解約実行請求を行うほかなかったことがうかがわれる。判例タイムズ1406号53頁
2015.02.20
再生債務者と別除権者との間で締結された別除権の行使等に関する協定における同協定の解除条件に関する合意が、再生債務者がその再生計画の履行完了前に再生手続廃止の決定を経ずに破産手続開始の決定を受けた時から同協定が効力を失う旨の内容をも含むものとされた事例(最高裁 平成26年6月5日第一小法廷判決)「事案の概要」本件は、再生手続終結の決定後に破産手続開始の決定を受けたAの破産管財人であるXが、Aの工場等の土地建物を目的とする担保不動産競売事件において作成された配当表の取り消しを求める配当異議訴訟である。Aは、上記再生手続において、別除権者であるYら側との間で別除権の行使等に関する協定を締結していた。Xは、本件各別除権協定により、別除権の目的である本件各不動産の受戻しの価格が定められ、各担保権の被担保債権の額がこれらの受戻価格に減額されたから、Yらは、これらの受戻価格から既払金を控除した額を超える部分につき、配当を受け得る地位にないと主張した。これに対し、Yらは、本件別除権協定は、破産手続開始の決定がなされたことにより失効したと主張した。本件各別除権協定に係る協定書には、協定の解除条件を定めた条項が含まれていた。その文言は、「本件各別除権協定は、再生計画認可の決定の効力が生じないことが確定すること、再生計画不認可の決定が確定すること又は再生手続廃止の決定がされることを解除条件とする」というものであった。「判旨」本件解除条件条項に係る合意は、契約当事者の意思を合理的に解釈すれば、甲野社がその再生計画の履行完了前に再生手続廃止の決定を経ずに破産手続開始の決定を受けた時から本件各別除権協定はその効力を失う旨の内容をも含むものと解するのが相当である。判例時報2230号26頁
2014.11.28
精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者に法定代理人がない場合と民法158条1項の類推適用(最高裁 平成26年3月14日第二小法廷判決)「事案の概要」Aは、その遺産の全てを長男であるYに相続させる旨の自筆証書遺言をしていたところ、平成20年10月、死亡した。Aの法定相続人は、妻であるXのほか、Yを含む5人の子であった。Xは、Aの死亡時において、Aの相続が開始したこと及び本件遺言の内容が減殺することのできるものであることを知っていた。Aの相続の開始から1年経過前の平成21年8月5日、静岡家庭裁判所沼津支部に対し、Xについて後見開始の審判が申し立てられた。Aの相続の開始から1年経過後の平成22年4月24日、Xについて後見を開始し、成年後見人を選任する旨の審判が確定した。Xの成年後見人は、平成22年4月29日、Yに対し、Xの遺留分について、遺留分減殺請求権を行使する旨の意思表示をした。1審、原審とも、時効の期間の満了前に後見開始の審判を受けていない者に民法158条1項は類推適用されないとして時効の停止の主張を排斥し、1年の遺留分減殺請求権の時効の期間の満了により同請求権の時効消滅を認め、Xの請求を棄却すべきものとした。これに対し、Xが上告受理申立てをした。「判旨」時効の期間の満了前6箇月以内の間に精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者に法定代理人がない場合において、少なくとも、時効の期間の満了前の申立てに基づき後見開始の審判がなされたときは、民法158条1項の類推適用により、法定代理人が就職した時から6箇月を経過するまでの間は、その者に対して、時効は完成しない。判例タイムズ1402号57頁
2014.10.28
免責許可の決定の効力が及ばない破産債権であることを理由として当該破産債権が記載された破産債権者表につき執行文付与の訴えを提起することの許否(最高裁平成26年4月24日第一小法廷判決)「事案の概要」本件は、被上告人Yにつき破産手続が終結し免責許可決定が確定した後、Yに対し確定した破産債権を有していた上告人Xが、当該破産債権が破産法253条1項2号の「破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」に該当すると主張して、Yに対し、当該破産債権が記載された破産債権者表について提起した執行文付与の訴えである。一審及び原審は、X主張の債権が破産法253条1項各号に掲げる非免責債権に該当するか否かは、執行文付与の訴えの審理の対象とはならないから、本件訴えは不適法である旨判断して、本件訴えを却下すべきものとした。Xは、上告受理申立をした。「判旨」民事執行法33条1項は、その規定の文言に照らすと、執行文付与の訴えにおける審理の対象を、請求が債権者の証明すべき事実の到来に係る場合におけるその事実の到来の有無又は債務名義に表示された当事者以外の者に対し、若しくはその者のために強制執行をすることの可否に限っており、破産債権者表に記載された確定した破産債権が非免責債権に該当するか否かを審理することを予定していないものと解される。このように解しても、破産事件の記録の存する裁判所の裁判所書記官は、破産債権者表に免責許可の決定が確定した旨の記載がされている場合であっても、破産債権者表に記載された確定した破産債権がその記載内容等から非免責債権に該当すると認められるときには、民事執行法26条の規定により執行文を付与することができるのであるから、上記破産債権を有する債権者には殊更支障が生ずることはないといえる。そうすると、免責許可の決定が確定した債務者に対し確定した破産債権を有する債権者が、当該破産債権が非免責債権に該当することを理由として、当該破産債権が記載された破産債権者表について執行文付与の訴えを提起することは許されないと解するのが相当である。判例時報2225号68頁
2014.09.11
弁護士が交通事故に関する代理人業務を受任した場合における報酬に関する合意が暴利行為に当たり、無効とされた事例(東京地裁 平成25年9月11日判決)「事案の概要」Xらの息子であるAは、平成22年10月、広島市内の道路を歩行中、Bの運転する乗用車に衝突される事故に遭い死亡した。そこで、Xらは、弁護士であるYに対し、Aの死亡事故に関して代理人業務を依頼し、法律相談料として5万円、刑事告訴手続に関して着手金及び報酬として100万円、Bに対する不法行為に基づく損害賠償請求権を行使する代理人業務に関して着手金100万円、自賠責保険金の請求の報酬として255万円、以上合計460万円を支払った。しかし、Xらは、Yに対して支払った弁護士報酬等は、その業務内容に比して著しく高額であり暴利行為に該当し無効であるとし、Yに対して支払った弁護士報酬等の返還を求めた。「判旨」弁護士との間の委任契約に基づく報酬の支払行為は、その報酬額が客観的にみて高額であっても、依頼者と当該弁護士との間では、契約自由の原則に照らし、暴利行為に当たらない限りは有効というべきである。そこで、被告と原告らとの間の弁護士報酬の合意が、暴利行為に該当するといえるか否かについて、弁護士報酬に関する規定(すでに廃止されているものを含む)や本件の難易度、依頼者にもたらす経済的利益、弁護士の労力等諸般の事情を考慮して、検討する。旧報酬会規38条では、簡易な自賠責請求について、給付金額が150万円を超える場合は、給付金額の2%とし、損害賠償請求権の存否又はその額に争いがある場合には、弁護士は、依頼者との協議により適正妥当な範囲内で増減額することができると定めているところ、被告の主張や供述を前提としても、自賠責保険の請求に関する限り、本件が、通常の事案と比べて困難を伴ったとは認められず、旧報酬会規が、民事事件や示談交渉事件の弁護士報酬とは別に、簡易な自賠責請求について報酬の基準を定めていること、自賠責請求に関する委任状の作成を受けた段階で、報酬金に関し説明がなされた形跡は認められないこと、着手金額を決めるに対し、加害者側に対する訴訟提起に関する金額も含んでいたが、これは被告において、刑事事件記録を検討した段階で、訴訟提起をしない方がよいとの見解を持ち、実際には被告は訴訟提起に関与していないこと等の事情に照らせば、被告は、原告らから、損害賠償請求を一括して受任し、また、原告らと被告との紛争が生じたのは、被告が加害者らへの訴訟提起に消極的な姿勢を明確にした段階であり、報酬金を支払う段階では特に争いは生じていないことを考慮しても、通常の民事事件の基準に照らして報酬を定めるのは相当とはいえない。そうすると、報酬金に関する合意は、高額に過ぎるため、暴利行為に該当し無効といわざるを得ず、弁護士の報酬額につき当事者間に別段の定めがなかった場合において、裁判所がその額を認定するには、事件の難易、訴額及び労力の程度等により当事者の意思を推定して相当報酬額を定めるべきであることに照らせば、本件においては前記認定の事実を総合考慮し、100万円の範囲でこれを認めるのが相当である。判例時報2219号73頁
2014.07.31
土地収用法に基づく収用裁決の取消しを求める訴訟において、同裁決の違法事由として、同裁決に先立つ事業認定の違法性を主張することは許されないとされた事例(東京高裁 平成24年1月24日判決)「事案の概要」本件は、静岡空港整備事業の起業地内に権利を有する控訴人らが、処分行政庁たる県収用委員会が控訴人らに対してした土地収用法48条に基づく権利取得裁決及び同法49条に基づく明渡裁決の取消しを求めた事案である。控訴人らは、本件事業認定の違法性が本件収用裁決に承継されるとして、本件収用裁決が違法であると主張した。「判旨」事業認定と収用裁決とは、それぞれ独立した行政処分であり、事業認定が法20条各号のすべてに該当するときになされるものである一方、収用裁決において、収用委員会は、申請に係る事業が告示された事業と異なるとき及び申請にかかる事業が事業認定申請書に添付された事業計画書に記載された計画と著しく異なるときを除き、収用又は使用の裁決をしなければならないものであり(法47条、47条の2第1項)、事業認定の適法性について審理することが予定されているものではなく、各処分それぞれについて取消訴訟を提起することができるものである。本件事業認定手続において、起業地又は起業予定地内に権利を有する者に対し、法令に従った公告、縦覧、公聴会等の手続が実施され、現に控訴人らは、公聴会において意見を述べており、本件事業認定手続に際して、事業認定が行われることを争おうとする者に申請の内容、起業地又は起業予定地等を知る機会が保障されていたと認められる上、事業認定がなされた後も起業者の名称、事業の種類、起業地等が官報で公告され、起業地を表示する図面の縦覧がされたこと、これらの措置を踏まえて、本件事業認定については、本件空港建設予定地の土地の一部を共有する者等が原告となり、その取消訴訟を提起しており、同訴訟において、本件事業認定の違法性の有無に関する審理がされ、静岡地方裁判所において請求棄却の判決がされ、その控訴審である東京高等裁判所において控訴棄却の判決がされていること、控訴人らのうち26名が同訴訟の控訴人ともなっていることが認められる。したがって、本件事業認定については、控訴人らにおいて、その取消訴訟を提起する機会が保障されており、しかも、現に同事業認定の取消訴訟が提起され、同訴訟において本件事業認定の違法性について既に審理されているのであるから、事業認定とは独立した行政処分である収用裁決の取消しを求める本件訴訴訟において、本件収用裁決の違法事由として、本件事業認定の違法性を主張することは許されないというべきである。判例時報2214号3頁
2014.06.30
建物内の駐車場に放置された自動車にその購入代金の立替金債権の担保として所有権が留保されていた事案において、建物を賃借して駐車場を運営している者に対し、被担保債権である当該立替金債権を譲り受けることにより当該自動車の所有権を取得した者がその撤去義務及び不法行為責任を負い、当該自動車の登録名義人である旧所有者はその撤去義務及び不法行為責任を負わないとされた事例(東京地裁 平成24年11月28日判決)「事案の概要」本件は、大型ショッピングモールを運営する原告が、ショッピングモール建物内の来客用駐車場に放置されている自動車について、本件車両の購入代金を立替払いし、購入者との間の立替払契約において購入者に対する立替金債権の担保のために本件車両の所有権を留保する特約を締結していたAから本件立替金債権の譲渡を受けた被告に対し、本件車両の所有権者は被告であると主張して、建物の賃借権に基づいて又は建物所有者の所有権に基づく返還請求権の代位行使により、本件車両を撤去して駐車区画を明け渡すよう求めるとともに、賃借権侵害の不法行為による損害賠償として賃料相当額の支払いを請求し、吸収分割によりAからその権利義務を承継した参加人に対し、本件車両の所有権者は参加人であると主張して、上記と同様の請求をした事案である。留保所有権者であったAから被告に対して本件立替金債権が譲渡された際、本件車両の登録名義は変更されず、登録名義人はAのままとなっていた。「判旨」本件区画を占有し、本件建物の賃借権又は所有権を妨害しているのは、本件車両の留保所有権を有する者であるが、原告は、平成6年判決の射程が本件にも及ぶとして、本件車両の登録名義人である脱退被告の義務を承継した参加人は、原告に対して留保所有権の喪失を主張して本件車両の撤去義務を免れることはできない旨主張する。しかし、平成6年判決は、特定の土地を離れて存在しえない建物の登記名義人の土地所有者に対する建物収去土地明渡義務の存否についての事案に関するものであるところ、動産であって、特定の土地を離れて存在することが可能であり、それが常態でもある自動車について、その登録名義人の撤去義務の有無が争点となっている本件とは事案を異にするものである。平成6年判決は、建物の登記名義人が収去義務を負う理由の一つとして、建物は土地を離れては存立しえず、建物の所有は必然的に土地の占有を伴うものであることを前提として、土地所有者と建物譲渡人の関係は、あたかも建物についての物権変動における対抗関係にも似た関係というべきであることを挙げる。しかし、本件において撤去義務の有無が争点となっている自動車は、特定の土地を離れて存在することが予定され、それが常態である動産であり、たまたま一時期に自動車がある土地上に駐車されていたことをもって、当該土地所有者と自動車の譲渡人との関係が、当該自動車についての物権変動における対抗関係に似た関係にあるということはできないから、本件は、平成6年判決が建物の登記名義人が収去義務を負うとした理由の前提を欠くものである。したがって、本件について平成6年判決の射程が及ぶとして本件車両の登録名義人が車両の撤去義務を負うとする原告の主張は採用できない。また、本件車両の留保所有権を有しない参加人が、単に本件車両の登録名義人であることを理由として本件車両の撤去義務を負うということはできず、他に、参加人の本件車両の撤去義務を認めるに足りる証拠はない。判例タイムズ1399号120頁
2014.05.30
保証人が主たる債務を相続したことを知りながら保証債務の弁済をした場合における主たる債務の消滅時効の中断(最高裁 平成25年9月13日第二小法廷判決)「事案の概要」A銀行は、商人であるBに対し、平成9年から平成11年にかけて貸付等を行い、Xは、Bから委託を受けて、Aとの間で、Bの貸付等債務を保証する旨の契約をした。Yは、Xとの間で、BがXに対して負担すべき求償金債務について連帯保証する旨の契約をした。Bが貸付け等債務につき期限の利益を喪失するなどしたため、Xは、平成12年9月、Aに代位弁済した。Yは、平成13年6月に死亡したBを単独で相続したところ、この事実を知りつつ、平成15年12月から平成19年3月まで連帯保証債務の履行として弁済を継続した。Xは、平成22年1月、Yに対し、本件各連帯保証債務の履行を求める旨の支払督促を簡易裁判所に申し立てたところ、Yは、Xが代位弁済した平成12年9月から主債務の5年の消滅時効期間が経過し、主債務が時効消滅していると主張して、連帯保証人として援用するとともに、保証債務についても、平成16年6月より後は弁済もしていないので、時効消滅していると主張して、これを援用した。1審、原審とも、Yに対する催告書の表記やXにおける内部処理が保証人からの支払となっていることを指摘して、Yによる弁済を保証債務の弁済であると認定した上で、Yによる保証債務の弁済が主債務の承認としてその消滅時効を中断する効力を有するものではないとして時効中断の再抗弁を排斥して、主債務の時効消滅を認め、Xの請求を棄却した。「判旨」保証人が主たる債務を相続したことを知りながら保証債務の弁済をした場合、当該弁済は、特段の事情のない限り、主たる債務者による承認として当該主たる債務の消滅時効を中断する効力を有する。判例タイムズ1397号92頁
2014.03.31
土地収用法94条7項又は8項の規定による収用委員会の裁決の判断内容が損失の補償に関する事項に限られている場合にその名宛人が上記裁決の取消訴訟を提起することの可否(最高裁 平成25年10月25日第二小法廷判決)「事案の概要」被上告人である徳島県は、平成19年9月から平成20年3月までを工期として、県道の改良工事の附帯工事として、Xが所有する自宅敷地に接する里道を拡幅して阿南市の市道となる道路を新設する本件工事を実施した。阿南市は、本件工事により新設された本件道路を市道として管理している。Xは、平成20年12月、阿南市長に対し、本件工事により自宅敷地への出入りに支障が生じているとして、道路法70条1項に基づく通路の新設を請求したが、阿南市は、Xの請求には応じられない旨の回答をした。そこで、Xは、平成21年3月、徳島県収用委員会に対し、道路法70条4項に基づき、土地収用法94条の規定による裁決の申請をしたが、徳島県収用委員会は、本件道路からXの自宅敷地への出入りは可能であり、本件工事による損失は生じていないなどとして、Xの請求を却下する旨の裁決をした。Xが本件裁決の取消訴訟を提起したところ、一審及び原審は、いずれも、取消訴訟は不適法であるとして却下した。「判旨」土地収用法に基づく収用委員会の裁決は、行政事件訴訟法3条2項の「処分」に該当するものであるから、上記裁決の名宛人は、土地収用法133条1項又は行政事件訴訟法14条3項所定の出訴期間内に、収用委員会の所属する都道府県を被告として、収用委員会の裁決の取消訴訟を提起することができる。また、土地収用法133条2項及び3項は、収用委員会の裁決のうち損失の補償に関する訴えに係る出訴期間及び被告とすべき者を定めているところ、上記各項が収用委員会の裁決の取消訴訟とは別個に損失の補償に関する訴えを規定していることからすれば、同法において、収用委員会の裁決のうち損失の補償に関する事項については損失の補償に関する訴えによって争うべきものとされているのであって、上記裁決の取消訴訟において主張し得る違法事由は損失の補償に関する事項以外の違法事由に限られるものと解される。もっとも、これは収用委員会の裁決の取消訴訟において主張し得る違法事由の範囲が制限されるにとどまり、上記裁決の名宛人としては、裁決手続の違法を含む損失の補償に関する事項以外の違法事由を主張して上記裁決の取消しを求め得るのであるから、同法94条7項又は8項の規定による収用委員会の裁決の判断内容が損失の補償に関する事項に限られている場合であっても、上記裁決の取消訴訟を提起することが制限されるものではない。そうすると、土地収用法94条7項又は8項の規定による収用委員会の裁決の判断内容が損失の補償に関する事項に限られている場合であっても、その名宛人は、上記裁決の取消訴訟を提起することができるものというべきである。判例時報2208号6頁
2014.03.18
建物所有を目的とする借地契約につき5000万円の立退料の提供による正当事由が認められ、賃貸人の更新拒絶が肯定された事例(東京地裁 平成25年3月14日判決)「事案の概要」Xは、東京都中野区所在の本件土地及び賃貸人たる地位を相続したものであるところ、平成22年12月、本件土地上の本件建物と賃借人の地位を相続したYに対し、平成23年3月、本件土地の賃貸借契約の更新を拒絶する旨通知した上、同年4月、賃貸借期間が満了したと主張し、Yに対して、本件土地の明渡しを求めるとともに、予備的に3150万円(又は裁判所が認定する相当額の金員)の立退料の支払と引き換えに本件土地の明渡しを求めた。これに対し、Yは、Xは、本件土地の隣地に自宅を保有し、そこに居住しているのであるから、本件土地使用の必要性はないし、本件土地にスーパー等を建設するという本件計画には具体性がない等と主張した。「判旨」Xは、本件土地の隣地に自宅を保有し、そこに居住しているのであるから、本件土地を自ら直接使用する必要性はないが、本件計画には具体性がある、Yは、これまで、本件土地上の本件建物に家族とともに居住しており本件土地を使用する高い必要性が認められるが、Yは、他に移転すること自体は十分可能である等と認定し、現状のままでは、Xによる更新拒絶が正当事由を充足するということはできないとしたが、Xの立退料の提供により、更新拒絶の正当事由が補完され、本件土地の明渡しを求めることができると解することが、当事者間の公平の見地から相当というべきであると判断し、本件土地の借地権価格等諸般の事情を考慮すれば、立退料の金額は5000万円と認めるのが相当であるとし、Yに対して、5000万円の支払と引き換えに本件土地の明渡しを求めるXの本訴請求を認容した。判例時報2204号47頁
2014.01.31
昭和56年建築に係るビルの一部の店舗用賃貸借契約の更新拒絶、解約申入れについて、耐震性能の欠如、建替えの必要性を理由とする正当事由が否定された事例(東京地裁 平成25年2月25日判決)「事案の概要」Aは、平成6年3月、昭和56年に新築された東京都豊島区所在の9階建のビルの地下一階部分52.92平方メートルの本件建物部分をYに対し店舗使用の目的で賃貸し、その後数次にわたり更新してきたが、平成18年1月、Xは、本件ビルを取得し、賃貸人たる地位を承継した。Xは、Yに対し、本件建物部分の明渡しを請求して本訴を提起し、更新拒絶の正当事由として、本件建物は老朽化して建替えが必要であることと補充的事由として立退料の提供を主張した。これに対して、Yは、本件建物部分を継続して使用する必要性は著しく高い、本件建物は新築後26年しか経過していなく、老朽化していない、Xの提供する立退料は少額で正当事由を補完するものではない、などと主張した。「判旨」本件建物の耐震性能は、新耐震基準に照らせば十分なものではないが、その不足の程度は、それ自体、建物の建替えの必要を直ちに肯定し得る域にまで達しているものではなく、Xは、本件建物を比較的低廉な価格で取得し、Yに対して立ち退きを迫るものである、Xの更新拒絶の通知については、その正当事由を基礎付ける事実がおよそ認められないのであるから、立退料の申し出によってもなお正当事由を認めることはできないと判断し、Xの本訴請求を棄却した。判例時報2201号73頁
2014.01.23
中古住宅と敷地の売買において、倒壊のおそれのある擁壁の存在、ブロック塀の所有権の帰属の不明、隣地への越境の可能性が隠れた瑕疵に該当するとし、売主の瑕疵担保責任が肯定され、不動産仲介業者の越境に関する説明義務違反による債務不履行責任が肯定された事例(東京地裁 平成25年1月31日判決)「事案の概要」Xらは、平成21年4月、東京都目黒区所在の本件土地と地上の本件建物をY1とY2から買い受けた。Xらは、Y1とY2に対し、本件土地の本件擁壁に耐震性に欠ける瑕疵があり、また囲障である本件ブロック塀が隣地に越境している瑕疵があるとして、瑕疵担保責任に基づく損害賠償を求め、本件売買契約を仲介したY3に対し、本件ブロック塀の越境について説明義務違反があったとして、債務不履行に基づく損害賠償を求めた。「判旨」本判決は、本件擁壁は、南側隣地に傾斜し、耐震補強がなされておらず、倒壊する危険性があるから瑕疵が認められる、本件ブロック塀の所有権の帰属が不明であり、かつ、隣地に越境しているから瑕疵が認められると判断して、Y1とY2の瑕疵担保責任を認めた。また、Y3は、売買の当時、Xらに測量図を交付したが、本件ブロック塀が北側隣地に越境している事実を認識していながら説明しなかったと判断して、Y3の債務不履行責任を認め、Xらの本訴請求を認容した。判例時報2200号86頁
2013.12.27
75歳の女性客がショッピングセンターのアイスクリーム売場で転倒受傷した事故につき、ショッピングセンター運営会社の不法行為に基づく損害賠償責任が認められた事例(岡山地裁 平成25年3月14日判決)「事案の概要」Xは、平成21年10月、Yの運営するショッピングセンターに赴き、1階アイスクリーム売場前を、買い物袋を載せたショッピングカートを押して歩行中、足を滑らせて転倒し、腰椎圧迫骨折等の傷害を負い、入通院治療を余儀なくされた。そこで、Xは、Yに対し、顧客に対する安全配慮義務に違反した過失があり、通路には滑りやすかった瑕疵があるなどと主張し、民法709条、717条に基づき2669万円余の損害賠償を請求した。これに対し、Yは、Xの主張は否認ないし争うと主張するとともに、仮に責任が認められるとしても、Xには、足元に対する注意を怠って歩行したという過失があるとし、9割の過失相殺がされるべきであるなどと主張した。「判旨」本件店舗のようなショッピングセンターは、年齢、性別等が異なる不特定多数の顧客に店側の用意した場所を提供し、その場所で顧客に商品を選択、購入させて利益を上げることを目的としているのであるから、不特定多数の者を呼び寄せて社会的接触に入った当事者間の信義則上の義務として、不特定多数の者の日常あり得べき履物、行動等、例えば、買い物袋を載せたショッピングカートを押しながら歩行するなどは当然の前提として、その安全を図る義務があるというべきである。原告が転倒したのは、アイスクリーム売場前の通路上に落ちていたアイスクリームに足を滑らせたことによるものであると推認することができる。被告としては、アイスクリーム売場付近の通路の床面にアイスクリームが落下した状況が生じないようにすべき義務を負っていたのに、この義務を尽くしていなかったとして、被告の不法行為責任を認めた。原告にも、足元への注意を払うべき義務を怠った過失があるとして2割の過失相殺をし、原告の本訴請求を一部認容した。判例時報2196号99頁
2013.12.04
酒気帯び運転等により逮捕され罰金刑に処せられたことを理由に懲戒解雇された郵便事業会社の従業員に対する退職金不支給につき、永年の勤続の功を抹消するほどの重大な背信行為とまではいえないとして、会社に退職金の約3割に当たる退職金の支払いが命じられた事例(東京高裁 平成25年7月18日判決)「事案の概要」本件は、酒気帯び運転等により逮捕され罰金刑に処せられたことを理由に懲戒解雇処分を受けた郵便事業会社の社員が、主位的に懲戒解雇の無効を主張して、地位確認と賃金支払いを求め、予備的に退職金の支払いを求めた事案である。「判旨」郵便事業会社における退職金は、賃金の後払的な意味合いが強いというべきであるから、懲戒解雇されたことのみを理由として直ちに退職金を支給しないといった措置を採ることは許されず、労働者の行った非違行為によってそれまでの永年の勤続の功が抹消されるといえるような場合には退職金を支給しないことができるものの、それまでの永年の勤続の功が抹消されるとまではいえない場合には、労働者の行った非違行為によってそれまでの永年の勤続の功が減殺される程度に応じて、退職金を減額することができるにすぎないというべきである。本件非違行為は、業務外のものであって、罰金刑で処理された物損事故であり、民事上の責任は解決していること、控訴人の業務に影響があったとしても、一時的なものであり、現実的な信用上及び営業上の損害が発生したとは認められないこと、被控訴人の勤務態度が不良であったとはいえないことを挙げ、本件非違行為が従業員のそれまでの勤続の功を抹消ないし減殺してしまう程の著しく信義に反する行為とはいえない。被控訴人は、自動車等による集配業務等を業とする控訴人の社員としての適格性を欠き、本件非違行為は永年の勤続の功を相当程度減殺するものであるとして、計算上の退職金の約3割に当たる400万円を相当額と認めた。判例時報2196号129頁
2013.11.22
不動産賃貸業者が使用している契約書に記載されている、更新料の支払いを定めた条項、契約終了後に明渡しが遅滞した場合の損害賠償額の予定を定めた条項が消費者契約法9条1号、10条に該当しないとされた事例(東京高裁 平成25年3月28日判決)「事案の概要」不動産賃貸業者であるYは、不特定かつ多数の消費者との間で建物賃貸借契約を締結、更新するに当たって、2年間更新されるに際しては更新料として賃料等の1か月分を支払うとの条項、契約終了後に明渡しが遅滞した場合には遅滞した期間について賃料等の2倍相当額の損害金を支払うとの条項、契約終了後に明渡しが遅滞した場合に賃料等の1か月分相当額を上回る損害が特別に生じたときには、損害金に加えて、特別損害の賠償をするとの条項が記載されている契約書を使用している。適格消費者団体であるXは、本件更新料条項、本件倍額賠償予定条項は、消費者契約法9条1号、10条に該当し無効であると主張して、Yに対し、消費者契約法12条3項に基づいて、その契約の申込み又は承諾の意思表示の停止、これらの条項が記載された契約書用紙の廃棄などを求める本件訴訟を提起した。「判旨」主として賃貸借契約を継続するための対価として支払われるという更新料の性質からすると、本件更新料支払条項は契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金の額を定める条項であると解することはできないから消費者契約法9条1号には該当しないし、この条項の定めは契約書に一義的、明確に記載されており、更新料の額が高額に過ぎるものと認めることはできないから同法10条後段にも該当しない。本件倍額賠償予定条項は、賃貸借契約が終了する場合一般に適用されるものであり、契約の解除に伴う損害に関する条項ではないから同法9条1号には該当しないし、賃料等を超える額を予定される損害賠償額とすることが、賃貸人に生じる損害の填補、明渡義務の履行の促進との観点に照らし、不相当に高額であるといった事情も認められないから同法10条後段にも該当しないと判断して、Xの控訴を棄却した。判例タイムズ1392号315頁
2013.10.31
ビル内の飲食店で飲食した者がビル内の下りエスカレーターの手すりに接触し、乗り上げ、転落して死亡した事故について、ビルの共有者・管理者の土地工作物責任、エスカレーターの製造業者の製造物責任が否定された事例(東京地裁 平成25年4月19日判決)「事案の概要」Y1が共有し管理するビルに、2階から1階に下る、Y3の製造に係るエスカレーターが設置されていた。Aは、平成21年4月8日夜、本件ビルの2階にある飲食店で、同僚らと会食した後、本件飲食店の出入り口のほぼ正面に位置する本件エスカレーターの乗り口付近にいたところ、右側の移動手すりの折り返し部分に接触し、これに乗り上げ、体勢を崩し、本件エスカレーターの外側の吹き抜けから一階床に転落し、翌日死亡した。Aの両親X1、X2は、Y1のほか、本件ビルの賃借人で、Y1に管理を委託するY2に対して土地工作物責任に基づき、Y3に対して製造物責任に基づき損害賠償を請求した。「判旨」本件エスカレーターは、その本来の用法を前提とする限り、通常有すべき安全性を欠くものということはできず、本件事故は、意図して、本件移動手すりに接近し、身体の背面側の中心線をその折り返し部分に接着させ、後ろ向きにこれに寄りかかるという、エスカレーターの本来の用法からかけ離れたAの異常な行動の結果として発生したものというべきである。したがって、本件エスカレーターには、本件事故発生当時、民法717条1項に規定する設置又は保存の瑕疵があったとはいえない。本件エスカレーターは、関係法令等に適合し、広く普及した仕様の一般的なエスカレーターであると認められ、利用者が身体の背面側の中心線を移動手すりの折り返し部分に接着させて後ろ向きにこれに寄りかかるというのは、通常予見されるエスカレーターの使用形態であるとはいえず、そのような使用形態によって本件事故が発生したとしても、本件エスカレーターが通常有すべき安全性を欠いているものということはできず、これに欠陥があるということはできない。判例時報2190号44頁
2013.10.09
通行地役権者が承役地の担保不動産競売による買受人に対し地役権設定登記がなくとも通行地役権を主張することができる場合(最高裁 平成25年2月26日 第三小法廷判決)「事案の概要」本件は、XらがYに対し、Xらがそれぞれ所有する土地を要役地とし、Yが所有する土地を承役地とする通行地役権の確認等を求める事案である。A及びその代表取締役は、数筆の土地(以下「Y所有地」という)を所有していたところ、Y所有地の一部は、国道に通ずる道路となっていた。本件道路は、昭和55年頃までに、Xの内の1名及びAにより開設されたものであった。Y所有地のうち一筆については、昭和56年11月、B信用金庫を根抵当権者とする根抵当権が設定され、また、Y所有地の全部につき、平成10年9月、商工中金を根抵当権者とする根抵当権が設定された。一方、Aやその代表取締役は、平成19年1月頃までに、Xらとの間で、Xらがそれぞれ所有する土地を要役地とし、本件通路を承役地とする通行地役権を設定する旨などを合意していた。その後、Y所有地については、担保不動産競売の開始決定がされ、平成20年4月、買受人であるYが代金を納付して、Y所有地を取得した。「判旨」通行地役権の承役地が担保不動産競売により売却された場合において、最先順位の抵当権の設定時に、既に設定されている通行地役権に係る承役地が要役地の所有者によって継続的に通路として使用されていることがその位置、形状、構造等の物理的状況から客観的に明らかであり、かつ、上記抵当権の抵当権者がそのことを認識していたか又は認識することが可能であったときは、特段の事情がない限り、登記がなくとも、通行地役権は上記の売却によっては消滅せず、通行地役権者は、買受人に対し、当該通行地役権を主張することができると解するのが相当である。判例時報2192号27頁
2013.09.27
土地区画整理事業の施行地区内の土地を購入した買主が売買後に土地区画整理組合から賦課金を課された場合において、上記売買の当時、買主が賦課金を課される可能性が存在していたことをもって、上記土地に民法570条にいう瑕疵があるとはいえないとされた事例(最高裁 平成25年3月22日第二小法廷判決)「事案の概要」本件各土地は、H土地区画整理組合の施行する土地区画整理事業の施行地区内に存しており、仮換地の指定を受けていた。Xらは、平成9年4月から平成10年9月にかけて、Yらから、その所有する本件各土地をそれぞれ売買により取得し、その頃、代金の支払、引渡し、登記の移転のいずれも完了した。ところが、その後、H組合が開始した保留地の販売状況が芳しくなかったため、H組合は、平成13年11月から平成14年1月にかけて、総代会において、組合員に賦課金を課する旨を順次決議し、Xらに賦課金を請求するに至った。そこで、Xらが、賦課金が発生する可能性のあった本件各土地には、民法570条にいう隠れた瑕疵があったと主張して、Yらに対し、瑕疵担保責任に基づく損害賠償を求めたのが本件である。「判旨」土地区画整理事業の施行地区内の土地を購入した買主が売買後に土地区画整理組合から賦課金を課された場合において、土地区画整理組合が組合員に賦課金を課する旨を総代会において決議するに至ったのは、上記売買後に開始された保留地の分譲が芳しくなかったためであり、上記売買の当時、土地区画整理組合において組合員に賦課金を課することが具体的に予定されていたことは全くうかがわれないこと、上記決議が上記売買から数年も経過した後にされたことなど判示の事情の下においては、上記売買の当時、買主が賦課金を課される可能性が存在していたことをもって、上記土地に民法570条にいう瑕疵があるとはいえない。判例タイムズ1389号91頁
2013.08.30
交通事故と医療過誤が競合した場合において、被害者の代理人である弁護士が、訴訟上の和解により加害者から損害賠償金の支払いを受けるにあたり、医療過誤による解決金受領の事実を説明すべき義務を怠ったとして、加害者の保険会社から被害者の代理人であった弁護士に対する不法行為による損害賠償請求が認容された事例(東京地裁平成24年7月9日)「事案の概要」本件は、交通事故で死亡した被害者の相続人らの代理人である弁護士が、医療過誤に基づく解決金6600万円を病院から受領したことを秘したまま加害者に対し損害賠償請求訴訟を提起し、訴訟上の和解に基づき損害賠償金9000万円の支払いを受けたことが、損害の二重請求をした不法行為に当たるとして、賠償責任保険金として賠償金を支払った加害者の保険会社が、被害者の代理人であった弁護士に対し、7260万円の損害賠償を求めた事案である。「判旨」交通事故と医療過誤が競合して被害者の死亡の原因となった本件の場合、被害者の死亡による損害については、原則として、民法719条1項の共同不法行為ないしこれに準ずる法律関係として、交通事故の加害者の損害賠償債務と医療過誤による損害賠償債務とが連帯債務となり、交通事故の加害者は、被害者の死亡による損害の賠償が医療過誤に基づきされたときは、その部分について債務を免れることになる。そして、多数発生している交通事故の事例において、加害者においても医療過誤の可能性を疑うことがあり得るとしても、現実に医療過誤が認められ医療機関による損害賠償あるいは交通事故の加害者から医療機関への求償請求がされることは、社会的には稀な事例である。交通事故の加害者やその訴訟代理人の立場において、被害者側から何ら説明がないときでも、医療過誤による損害賠償がされていることを予測して賠償の有無を積極的に問い合わせたり調査したりすることを期待することは、極めて困難であるといわなければならない。まして、本件の場合には、裁判所も、医療過誤による損害賠償の可能性を全く考慮に入れないまま和解案を提示しているのであり、法律専門家である弁護士の被告は、そのことを和解案の内容から当然に知ることができた。共同不法行為の連帯債務関係に関する法律を熟知している弁護士である被告としては、訴訟上の和解により和解契約を締結するに際し、民法及び民事訴訟法に定める信義則上の義務として、医療過誤による連帯債務の弁済の事実を知らないことが訴訟経過から明らかな契約の相手方である加害者ないしは裁判所に対し、病院からの解決金の支払の事実を説明し、その情報を提供すべき義務があるというべきである。したがって、この義務を怠って訴訟上の和解を成立させ、和解に基づく損害賠償金の支払いを受けたときは、その行為は不法行為としての違法性を有する。判例タイムズ1389号235頁
2013.08.27
会社保有の他社の株式を、取締役が著しく廉価で自己の関係者に売却したことにより会社に損害を被らせたとして、取締役の会社に対する任務懈怠による損害賠償が認められた事例(大阪地裁 平成25年1月25日)「事案の概要」本件は、Xの代表取締役Y1及び取締役Y2、Y3が、Xが保有するAの株式68万株を著しく廉価な1株当たり100円でYらの関係者に売却したことが、YらのXに対する任務懈怠にあたるとして、XがYらに対し損害賠償を求めた事案である。Xは、不動産の賃貸等を業とする資本金1000万円の会社であり、AはY1の父Bが創業した水道管用特殊継手の製造販売等を業とする資本金9800万円、発行済株式総数191万5000株の会社である。「判旨」本件譲渡有効株式の評価に当たり、配当還元法を無視することはできない。上記の事情のほか、本件に現れた一切の事情を考慮するならば、DCF法を基本とするものの、配当還元法を15パーセント考慮した加重平均割合によって算定するのが相当である。本件譲渡有効株式の適正譲渡価格は、DCF法による算定価格が1株2980円、配当還元法による算定価格が1株158円であるから、これを85対15の割合で加重平均して、1株2556円と認めるのが相当である。本件株式譲渡は、原告の収益の源泉である乙山社に対する支配権を被告らに移すという個人的利益を図る背任の意図をもって、1株2556円の乙山社株式を1株100円で譲渡した廉価売却であり、被告らは、原告に対し、乙山社に対する支配権を失わせるという重大な損失を与えたのであるから、本件株式譲渡当時、別表2株式譲渡一覧表番号1及び2の甲野商店への譲渡による利益及び節税効果による利益が生じていたとしても、その判断過程にも判断内容にも著しい不合理が認められることは明らかである。したがって、被告らは、取締役としての任務懈怠の責任を免れない。判例時報2186号93頁
2013.07.24
株式売買価格決定申立事件において、売買価格が収益還元法を80パーセント、配当還元法を20パーセントの割合で加重平均した価格とされた事例(大阪地裁平成25年1月31日決定)「事案の概要」本件は、申立人が、定款において株式の譲渡制限の定めがある会社に対し、申立人が保有する同社の株式について譲渡承認及び譲渡承認をしない場合の買取を請求したところ、会社が譲渡承認をしない旨及び自ら買い取るとともに、買取人を指定したため、申立人が、会社及び指定買取人らに対し、会社法144条2項に基づく売買価格の決定を申し立てた事案である。対象となる会社は、不動産賃貸を主たる業とし、大阪市内の繁華街に土地を3件、東京都内のオフィス街に土地及び建物を所有して賃料収入を得ている会社であり、指定買取人の株式を遅くとも平成21年11月頃に合計20億円で引き受けている。本件の審理に当たっては、対象会社の保有する4件の不動産について裁判所鑑定が行われ、さらに、対象会社の株価についても裁判所鑑定が行われた。「判旨」本決定は裁判所鑑定による価格を採用しているが、裁判所鑑定は、対象会社が不動産賃貸業のみを行う資産管理会社であるという特徴を考慮し、DCF法と不動産評価における収益還元法との間には流入してくる資金をもって価値を評価するという共通点があることから、原則として収益還元法によって算定された4件の不動産の価格の合計額から不動産事業全体にかかる本社コスト等を控除して対象会社の事業の収益を算定するという収益還元法を採用した。そして、収益還元法で算定された価格に非流動性ディスカウントを15パーセントとして算定された価格を80パーセント、配当還元法によって算定された価格を20パーセントの割合で加重平均して1株2460円とした。判例時報2185号142頁
2013.07.18
破産申立を受任した弁護士につき財産散逸防止義務違反が肯定された事例(東京地裁 平成25年2月6日判決)「事案の概要」A社代表取締役Bは、Aが多額の負債を抱えたことから、Aの整理につき弁護士に依頼しようと思い、弁護士Yに相談した。Bは、平成23年8月25日、Yに資産、負債の事情を説明したところ、Yは破産申立を勧め、Bは、その申立を依頼したが(委任状の作成日は同月30日である)、自身の負債は自分で処理すると伝え、破産の申し立てを依頼しなかった。その後、同年11月18日、Yは、Aの破産申立をし、同年12月7日、破産手続開始決定がされ、Xが破産管財人に選任された。その間、同年11月、Yは、Bから個人の破産申立を受任し、破産申立を行った。Bは、前記面談日の前後に取引先から営業保証金を回収してAの預金口座に振り込まれた後、同日後間もなくBが自己の役員報酬等として受領し、費消した。Xは、破産管財人の財産が破産管財人に引き継がれるまでの間に散逸することのないよう措置する義務違反を主張し、Yに対して損害賠償を請求したものである。「判旨」債務者との間で破産申立に関する委任契約を締結した弁護士は、破産制度の趣旨に照らし、債務者の財産が破産管財人に引き継がれるまでの間、その財産が散逸することのないよう、必要な措置を採るべき法的義務(財産散逸防止義務)を負う。また、正式な委任契約締結前であっても、依頼者と弁護士の関係は特殊な信頼関係に立つものであるから、委任契約締結後に弁護士としての職責を全うし、正当な職務遂行をなすため、依頼者の相談内容等に応じた善管注意義務を負う。本件では、平成23年8月25日にBが行った説明によって破産会社には一定の資産が存在する事実が確認できたのであるから、被告としては、上記善管注意義務として、委任契約後の破産会社の資産管理は原則として被告が行うこと等の説明を行い、また、委任契約後には財産散逸防止義務として、上記説明に加え、破産会社の預金通帳等を被告において預かること、あるいは、被告の開設にかかる破産会社の財産管理用の預かり金口座に預貯金、現金等の入金を行うこと等の具体的な指示説明を行う必要があった。また、被告は、同日、破産会社の代表取締役であるBから、同人の給与の受領の可否について問われているところ、役員報酬権は一般の破産債権であって原則として役員報酬の受領が認められないこととなるのであるから、上記善管注意義務としてその旨の説明を行い、また、委任契約後には財産散逸防止義務として、上記説明に加え、破産会社の破産申立までの間にBが行った具体的労務の内容を把握し、労働債権性を有する部分の判定、労働債権性を有する部分の支払の可否等の判断を適切に行い、必要かつ妥当な範囲での支払いを行う等の対応をとる必要があった。しかし、被告は、Bに対して上記のような説明を行っておらず、かつ、破産会社の財産を適切に管理するための方策もとっていない。したがって、被告には、財産散逸防止義務違反が認められる。判例時報2177号72頁
2013.06.28
未成年者(当時14歳)が自転車を運転中歩行者(当時85歳)と衝突し、転倒・負傷させた交通事故につき、当該未成年者の不法行為責任が認められた事例上記事例で未成年者の両親につき、指導監督義務に基づく不法行為責任が否定された事例(大阪高裁 平成23年8月26日判決)「事案の概要」Xは、自宅周辺の路上で佇立していたところ、Y1の運転する自転車と衝突して転倒した。Xは、本件事故による胸椎及び腰椎の圧迫骨折等の傷害により自賠法施行令所定の後遺障害等級併合11級の後遺障害を負ったとして、Y1につき自転車運転上の過失、その両親であるY2及びY3につきY1に対する安全運転に関する指導監督義務違反の過失をそれぞれ根拠に、いずれも民法709条に基づき損害賠償を請求した。「判旨」本件事故当時、Y1は、中学2年生(14歳)であり、XはY1の体が大きいので、Y1を大学生と間違えた程であるところ、Y1は、その1年数ヶ月後に高等学校に進学しており、心身ともに平均以上の成長を見せていたものであることが認められる。したがって、Y1の責任能力が優に認められる。本件事故は、Y1の重大な過失によるものではあるが、所詮は、Y1が、本件事故当時、非常に危険で無謀な自転車の運転方法をしていたというに留まる。そして、Y2及びY3から見て、本件事故当時、Y1が、(1)社会通念上許されない程度の危険行為を行っていることを知り、又は容易に知ることができたことや、(2)他人に損害を負わせる違法行為を行ったことを知り、そのような行為を繰り返すおそれが予想可能であることについて、Xは、具体的な主張、立証をしていない。したがって、Y2及びY3について、Y1の自転車運転に関する危険防止のための具体的な指導監督義務を認めることができないから、本件事故の発生について、Y2及びY3の責任は認められない。判例タイムズ1387号257頁
2013.05.31
面談強要等禁止仮処分命令申立事件の執行力ある決定正本につき執行文の付与が肯定された事例(東京地裁 平成24年10月12日判決)「事案の概要」Yは、Xが理事長を務めるAがYを不当解雇したと主張してその撤回を求めて争っていたが、Xの住居前で情宣活動を行ったことに関し、Xを債権者、Yを債務者とする面談強要等禁止仮処分命令を受けた。更に、同仮処分命令の執行力ある決定正本に基づくXの申立により、東京地方裁判所は、(1)Yまたはその支援団体の会員等の第三者をして、Xの自宅に赴いてXに対して面談を要求するなどしてXの住居の平穏を害する行為をし、若しくはさせてはならないこと及び(2)Yが(1)の義務に違反する行為を行ったときは、Xに対し、違反行為をした日一日につき金30万円の割合による金員を支払うことを内容とする間接強制条項を含む決定をした。本件は、Yが本件決定の(1)の義務に違反する行為をしたとして、Xが本件決定につき執行文付与の訴えを提起した事案である。「判旨」本件決定がYに送達された日以降の時期である4日について、Yまたはその支援団体の会員等がXの自宅周辺においてプラカードを掲示したこと、ビラを配布したこと等の行為があったことを認定し、これらは本件決定の(1)の義務に違反していると認められる。また、これらのプラカードを掲示する行為やビラを配布する行為そのものがXの住居の平穏を害しており、また、Yと支援団体の会員らは約7名から13名もの人数で、Xの住居前で約1時間半もの間情宣活動を行っており、たとえ大声を上げておらず、Xやその家族に直接働きかけていないとしても、Xやその家族に相当の心理的圧迫を与えていることは容易に推認でき、この点からもXの住居の平穏を害している。本判決は、以上に基づき、Xの請求を認容し、東京地方裁判所書記官が執行金額合計120万円についてXに執行文を付与することを命じた。判例時報2179号81頁
2013.05.17
債務名義を有していても、権利保護の必要性があるとして、仮差押命令の申立を許容した事例(東京高裁 平成24年11月29日決定)「事案の概要」AはYに対し金銭債権を有しており、これについて公正証書を作成し、執行力を有する債務名義を有していた。Aは破産し、Xが破産管財人に選任された。Xは、YがBに対し債権を有しているとの情報をつかみ、上記執行力を有する債務名義に基づき、YのBに対する債権の仮差押えの申立をした。原審裁判所は、Xは執行力ある債務名義を有しており、仮差押申立は、権利保護の必要性を欠くとして申立を却下した。これを不服とするXが抗告した。「判旨」債権者が被保全債権について確定判決等の債務名義を有している場合には、債権者は、遅滞なくこの債務名義をもって強制執行の手続をとれば、特別の事情がない限り、速やかに強制執行に着手できるのが通常であるから、原則として、民事保全制度を利用する権利保護の必要性は認められないというべきである。他方、債権者が被保全債権について債務名義を有している場合であっても、債権者が強制執行を行うことを望んだとしても速やかにこれを行うことができないような特別の事情があり、債務者が強制執行が行われるまでの間に財産を隠匿又は処分するなどして強制執行が不能又は困難となるおそれがあるときには、権利保護の必要性を認め、仮差押えを許すのが相当である。抗告人は、Aの破産管財人であり、破産者の有する執行力のある債務名義(公正証書)により本件仮差押債権に対し債権執行を行うには、抗告人への承継執行文を得て、かつ、これを公証役場から相手方に送達し、その送達証明書を添付して債権執行の申立を行わなければならない。そうすると、承継執行文付きの公正証書が相手方に送達されることにより、相手方は、抗告人が強制執行の準備をしていることを予想することが可能となり、相手方において、本件仮差押債権を譲渡したり、また、本件仮差押債権の弁済期限が平成24年12月10日であることから、第三債務者から弁済を受けるまで送達を受領しない等するおそれがあるというべきであるから、債権者において、債権執行を速やかに行うことができず、これが不能又は困難となるおそれがあり、上記特別な事情がある場合に当たると認めるのが相当である。判例タイムズ1386号349頁
2013.05.02
別除権者がいわゆる「不足額」について債権届出をしたが,その後に不足額確定報告書を提出するなどして不足額を証明するには至らなかった場合と,当該別除権者に不足額がないものとして配当を実施した破産管財人の善管注義務違反を理由とする当該別除権者に対する損害賠償責任の有無(札幌高裁 平成24年2月17日判決)「事案の概要」別除権者であるXが,Zの破産管財人であるYの実施した配当手続において,いわゆる「不足額」について配当を受けることができなかったという配当の過誤を主張して,Yに対し,善管注意義務違反を理由とする損害賠償を求める事案である。破産手続におけるXの届出債権1(別除権付債権)は,元利金合計3億2003万4541円,予定不足額7583万2531円。届出債権2(一般破産債権)は,元利金合計719万8234円である。Xの別除権の対象となる不動産については,任意売却が行われ,売却代金の一部がXに支払われるなどして,Xの別除権は消滅した。Xは,別除権不足額の変更について,不足額確定報告書を提出しなかった。Yは,破産裁判所の許可を受けて最後配当を実施したが,Xの届出債権1については,不足額確定報告書が提出されなかったため,配当表に記載せず,届出債権2に対して,114万4207円を配当するにとどまった。原審が請求を一部認容したため,Yが控訴し,Xが附帯控訴した。「判決要旨」控訴人は,自ら関与して対象不動産の任意売却及び受戻しを行い,被控訴人の別除権が消滅し又はこれによって担保される額が0円となったことを認識していたのであるから,充当計算により別除権不足額を認定することができ,そのように認定すべきであったとして,別除権不足額を反映しない配当表を作成するなどした控訴人の善管注意義務違反を認めるなどして(被控訴人の過失割合を4割とする過失相殺を行った),附帯控訴に基づき,原判決を変更し増額認定を行った。金融・商事判例1395号28頁
2013.03.27
破産手続開始決定前に成立した保険契約について、同決定後に保険事故が発生した場合における、保険金請求権の破産財団への帰属(東京高裁 平成24年9月12日決定)「事案の概要」破産者であるYは、破産手続開始決定前から長男Aを契約名義人及び被保険者とする生命保険契約及びこれと同種の共済契約を締結していたが、破産手続開始決定後にAが死亡したため、死亡保険金及び死亡共済金の払い戻しを受けた上、これを現金化して保管している。破産管財人であるXは、Yに対し、右保管金を引き渡すよう申し入れたが、拒否されたため、破産裁判所(原審)に引渡命令の申立(破産法156条1項)をしたところ、原審はこれを認容した。Yは、本件保険金請求権はYの自由財産であり、「破産財団に属する財産」には該当しない旨主張して、即時抗告をした。「判旨」一般に、保険金請求権は、保険契約の成立とともに保険事故の発生等の保険金請求権が具体化する事由を停止条件とする債権であって、抽象的保険金請求権のまま処分することが可能であるのみならず、法律で禁止されていない限り差押えを行うことも可能であるところ、破産手続開始決定が、破産者から財産管理処分権を剥奪してこれを破産管財人に帰属させるとともに破産債権者の個別的権利行使を禁止するもので、破産者の財産に対する包括的差押えの性質を有することに鑑みると、その効果が抽象的保険金請求権に及ばないと解すべき理由はない。したがって、破産手続開始決定前に成立した保険契約に基づく抽象的保険金請求権は、「破産手続開始決定前に生じた原因に基づいて行うことがある将来の請求権」(破産法34条2項)として、破産手続開始決定により「破産財団に属する財産」になるというべきである。そして、本件保険契約は抗告人を死亡保険金受取人として、本件共済契約は抗告人を最優先順位の死亡共済金受取人として、それぞれ本件開始決定前に成立しているから、本件保険金請求権は抗告人の破産財団に帰属するものと認められる。 判例時報2172号44頁
2013.03.11
債務者の代理人である弁護士が債権者一般に対して債務整理開始通知を送付した行為が破産法162条1項1号イ及び3項にいう「支払の停止」に当たるとされた事例(最高裁第2小法廷 平成24年10月19日判決) 「事案の概要」本件は、破産者Aの代理人である弁護士がYを含む債権者一般に対して債務整理開始通知(受任通知)を送付した行為が、破産法162条1項1号イ及び3項にいう「支払の停止」に当たるか否かが問題となった事案である。本件の原判決は、支払の停止に当たらないとしたが、本件通知と同じ法律事務所の同じ書式の債務整理開始通知について、別件である東京高判平成22年12月20日は、支払の停止に当たるとしており、判断が分かれている状況にあった。「判旨」破産法162条1項1号イ及び3項にいう「支払の停止」とは、債務者が、支払能力を欠くために一般的かつ継続的に債務の支払いをすることができないと考えて、その旨を明示的又は黙示的に外部に表示する行為をいうものと解される。これを本件についてみると、本件通知には、債務者である甲野が、自らの債務の支払いの猶予又は減免等についての事務である債務整理を、法律事務の専門家である弁護士らに委任した旨の記載がされており、また、甲野の代理人である当該弁護士らが、債権者一般に宛てて債務者等への連絡及び取り立て行為の中止を求めるなど甲野の債務につき統一的かつ公平な弁済を図ろうとしている旨をうかがわせる記載がされていたというのである。そして、甲野が単なる給与所得者であり広く事業を営む者ではないという本件の事情を考慮すると、上記各記載のある本件通知には、甲野が自己破産を予定している旨が明示されていなくても、甲野が支払能力を欠くために一般的かつ継続的に債務の支払いをすることができないことが、少なくとも黙示的に外部に表示されているとみるのが相当である。そうすると、甲野の代理人である本件弁護士らが債権者一般に対して本件通知を送付した行為は、破産法162条1項1号イ及び3項にいう「支払の停止」に当たるというべきである。判例時報2169号9頁
2013.02.07
ワインの寄託を受けた受寄者に定温・定湿義務の違反があったとして、損害賠償責任が認められた事例(札幌地裁 平成24年6月7日判決) 「事案の概要」Xは、平成11年4月、ワインセラーを所有するYとの間で、収集しているワインを、寄託料月額2000円、ワインセラー内を温度14度前後、湿度を75パーセント前後に保ち、光量はワイン保管に適したものに設定し、不要な振動・臭いの防止をも図ることを保管方法として、Yに寄託する契約を締結した。しかし、Xは、Yは、ワインを定温・定湿性能を保持して保管することが義務づけられているのに、この義務を怠ったとし、Yに対し、債務不履行又は不法行為に基づき、損害賠償を請求した。 「判旨」本件ワインセラー内の湿度については、低くなければ、カビは生えるものの、コルク栓がされた瓶の中のワイン自体にはそれほど影響を与えるとは考え難いものの、それでも、保管している段ボールが水気を含んで変形している状況は、湿度75パーセント前後での湿度管理を表明していることと整合するとはいえず、また、湿度については、高すぎても低すぎてもワインの熟成に影響を与え、味わいは風味が変化する可能性があると考えられることからすると、10度位まで下がった可能性がある本件では、14度前後で管理すると表明していることと整合しないのであって、上記のような本件ワインセラー内の温度や湿度、その状況が被告から原告に明示されていたとすれば、原告は、わざわざ料金を支払って本件ワインセラーの利用をすることはないといえるから、原告が本件寄託契約を途中解約等した可能性は否定できず、被告には、定温・定湿義務違反があったというべきである。花子は、年数回本件ワインセラーを訪れていると認められるところ、平成18年6月に異常を感じた時点では、温度や湿度に異常があったと認められるところ、それ以前には、花子も異常を感じていないこと、段ボール箱の状況やカビの発生状況を総合すると、少なくとも平成18年1月以降は、本件ワインセラー内の温湿度の管理が、きちんと行われていなかったというべきである。原告は、平成18年1月から9月までの間、本件寄託契約の保管料として平成18年6月までに20万円、同年7月から9月まで、毎月3万1500円ずつの合計30万2400円を支払ったと認められるところ、被告の上記義務違反を知っていれば、本件寄託契約を解約するなどして、原告は保管料を支払う必要はなかったと認められるから、上記額は損害と認められる。 判例タイムズ1382号200頁
2013.01.23
破産者が財産を隠匿等したことにつき免責不許可事由が認められた事例(東京地裁 平成24年8月8日決定) 「事案の概要」Xは、平成20年9月、Xが代表者を務めていたA社とともに破産手続の申立をして破産手続開始決定を受け、その後、平成24年7月に開催された債権者集会で廃止決定がなされた。<1>Xは、B農協の支店に預金等を有していたが、破産手続開始申立書の資産目録に記載せず、破産管財人が差押通知を受けてBに連絡をとった時点で、Xはその資産を解約・払戻手続中であった。<2>Xは、その所有するアパートは資産目録に記載していたものの、振込先の預金口座は記載しておらず、また、破産手続開始決定後、前記口座の名義を管理会社名義とすることを要請した。<3>Xは、駐車場土地、資材置き場については資産目録に記載していたものの、いずれも使用料収入があることを破産管財人に告げておらず、後者については、破産手続開始決定後、前記口座の名義を管理会社名義とすることを要請した。<4>Xは、破産手続開始申立の前日に、所有土地について売買を原因とする所有権移転登記手続を行っていたが、その旨を申立書に記載していなかった。<5>Xは自宅から退去するように破産管財人から要請され、引渡命令まで受けながら、任意の明渡を拒否したほか、敷地内の未登記建物について破産手続開始決定後に保存登記をした上、第三者に移転登記し、当該建物に転居するなどした。 「判旨」<1>から<4>の事実は、破産者が債権者を害する目的でした破産財団に属し又は属すべき財産の隠匿等破産財団の価値を不当に減少させる行為であることは明らかであり、破産者には、破産法252条1項1号の免責不許可事由がある。<5>の事実が、不正の手段により破産管財人の職務を妨害する行為であることも明らかであり、破産者には、破産王252条1項9号の免責不許可事由がある。裁量免責の可否について検討するに、破産管財人の意見は免責不相当というものである。そして、<1>破産者の前記隠匿等及び妨害行為に対して、破産管財人が訴訟や引渡命令等の法的手段に訴えることを余儀なくされ、そのことも原因となって、破産手続開始から廃止決定まで4年弱もの期間を要するに至っていること、<2>届け出破産債権総額は10億7482万8288円と巨額であり、にもかかわらず、破産債権者への配当はなされていないことなどからしても、免責不許可事由の態様は極めて悪質である。破産者の隠匿行為や妨害行為があったにもかかわらず、破産管財人の尽力により、相当額の財団形成が図られているが、破産者は発覚後も財団回復に協力するどころかこれを妨害までしているのであって、結果的な財団形成の事実により破産者の隠匿や妨害行為の悪質性が減ぜられることとはならない。判例時報2164号112頁
2013.01.15
友人4名の海外旅行資金等の積立を主たる目的とし、そのうちの1名を代表者とする銀行預金が、団体の預金ではなく代表者の預金であるとされた上、信託財産であるとされた事例(東京地裁 平成24年6月15日判決) 「事案の概要」X5とX2ないしX4は、親しい友人同士であり、定期的に旅行に出かけていたが、平成12年頃、その費用を積み立てるために、X5がY2銀行との間で、口座名義を「A会 代表者X5」とする普通預金口座を開設し、その通帳及びカードはX5が保管し、Xら4名は、毎月5000円から1万円を本件口座に積み立てていた。Y1は、平成21年8月、公正証書の執行力ある正本に基づき、X5に対する債権を請求債権、X5のY2銀行に対する普通預金債権等を差押債権とする債権差押命令を得て、本件預金債権を差し押さえ、本件口座から全額に当たる241万7648円を取り立てた。そこで、X1(A会)が、X1は民法上の組合であって、本件預金債権はX1に帰属するとして、Y1に対して不当利得返還を求め(第1事件)、Y2銀行に対し、預金の支払いを求め(第3事件)、X2ないしX4が、本件預金債権はXら4名に4分の1ずつ帰属するなどとして、Y1に対し、それぞれ上記取立相当額の4分の1の返還を求め(第2事件)、X5が、本件預金債権はのうち4分の3はX2ないしX4を委託者兼受益者、X5を受託者であるとする信託財産であるとして、Y1に対し、右取立相当額の4分の3の不当利得返還を求めた(第4事件) 「判旨」X1は、権利能力なき社団には該当せず、民事訴訟法29条に基づき当事者能力を有するものとは認められないし、また、民法上の組合にも該当しないから、X1の請求はいずれも不適法なものとして却下を免れない。本件預金債権の預金者はX5と解すべきであるから、X2ないしX4の返還請求は理由がない。X2ないしX4は、X5との間で、それぞれ前記3名を委託者兼受益者、X5を受託者とする信託契約を締結したものであり、本件預金債権の内181万3236円は信託財産と認めることができるから、X5の債務名義に基づいてこれを差し押さえることは許されず、Y1は、法律上の原因に基づかずに利得したものとしてX5に返還すべきこととなる。 判例時報2166号73頁
2012.12.28
非上場会社における自己株式の処分について、著しく不公正な価額によって行われたものではないとして、取締役らの損害賠償責任等が否定された事例 非上場会社における第三者割当による新株発行について、旧商法280条の2第2項所定の有利発行に関する株主総会の特別決議を経ないで行われた法令違反があるとして、取締役らに公正な価額と発行価額との差額を賠償する責任があるとされた事例(東京地裁 平成24年3月15日判決) 「事案の概要」補助参加人の株主である原告が、<1>補助参加人が平成15年11月に被告Aに対して自己株式を1株1500円で譲渡したこと(本件自己株式処分)及び<2>補助参加人が平成16年3月に被告らを割当先に含む第三者割当の方法により1株1500円の発行価額で新株発行を行ったこと(本件新株発行)に関して、著しく不公正な価額により行われたものであり、取締役である被告らには「特に有利な価額」による発行に必要な手続を経ていない法令違反等があると主張して、被告らに対し、旧商法280条の11に基づく通謀引受人の責任ないし同法266条1項5号に基づく損害賠償として、公正な価額であると主張する金額(1株3万2254円)から上記金額(1株1500円)を控除して算出した22億5171万5618円等を支払うよう求めた株主代表訴訟である。 「判旨」本件自己株式処分について補助参加人の株式は、役員や社員持株等の関係者の間で、1株当たり1500円で取引されていたものである上、本件自己株式処分は、実質的には、補助参加人が同族会社認定を受けることを回避するために被告Aから取得した株式の買い戻しにすぎず、取得から処分まで僅か1年程度しか経過していないこと等に照らすと、本件自己株式処分における公正な価額としては、過去の類似取引における取引価格ともいい得る、補助参加人の取得時における取得価額と同額の1株当たり1500円とするのが相当であり、本件自己株式処分が著しく不公正な価額によって行われたものであるということはできない。本件新株発行について本件新株発行に当たっては、専門家による株式価値の算定は行われていないが、補助参加人は、補助参加人は、平成12年5月、監査法人が類似業種比準方式、純資産方式、配当還元方式を基礎に算定した株式価値の算定結果基づき、行使価格を1万円とする新株引受権付社債を発行し、平成18年3月には、時価純資産額を基礎として、発行価額及び行使価格を1株当たり900円(株式分割前の9000円相当)とする新株及び新株予約権を発行したことからすると、補助参加人の株式は、少なくとも、平成12年5月時点では1株当たり1万円程度、平成18年3月時点では1株当たり9000円程度の株式価値を有していたというべきである。補助参加人の財務状況は、平成12年度以降悪化し、平成13年度を底として平成14年度にはやや上向き、平成15年度以降、順調に改善していくという経過をたどったものであり、本件新株発行が行われた平成16年3月当時の株式価値は平成12年5月当時の株式価値を大きく下回ることはないとみるのが相当である。補助参加人から提出されたDCF法による平成14年度の実績値を基礎とする株価算定結果について、本来加算すべき遊休資産の価値を加算し、平成14年度の有利子負債ではなく、平成15年度の有利子負債を控除するという修正を施すと、平成16年3月時点の株式価値は7987円と算定されること等を考慮すると、本件新株発行における公正な価格は、少なくとも1株当たり7000円を下らないというべきであり、本件新株発行は、著しく不公正な発行価額であるというべきである。判例タイムズ1380号170頁
2012.12.27
契約の一方当事者が契約の締結に先立ち信義則上の説明義務に違反して契約の締結に関する判断に影響を及ぼすべき情報を相手方に提供しなかった場合の債務不履行責任の有無最判平成23年4月22日判決 「事案の概要」Y信用協同組合が自らの経営破たんの危険を説明せずに出資を勧誘し,これに応じた出資者Xが,その後の同信用協同組合の経営破たんにより出資金の払戻しを受けられなくなったことから,出資勧誘時の説明義務違反を理由としてY協同組合に対し損害賠償を請求した。 本件のほかにも同種の損害賠償請求事件が最高裁に係属していたが,いずれも原審までの段階では,不法行為による損害賠償請求については訴え提起に先立ち3年の消滅時効が完成したのではないかが問題となり,債務不履行による損害賠償請求については,出資契約の成立に先立つ交渉段階の説明義務違反につき,契約責任としての債務不履行責任を問うことができるのかが問題となっていた。「判旨」契約の一方当事者が,当該契約の締結に先立ち,信義則上の説明義務に違反して,当該契約を締結するか否かに関する判断に影響を及ぼすべき情報を相手方に提供しなかった場合には,上記一方当事者は,相手方が当該契約を締結したことにより被った損害につき,不法行為よる賠償責任を負うことがあるのは格別,当該契約上の債務の不履行による賠償責任を負うことはない。 本判決は,説明義務違反があったため,相手方において,契約を締結するか否かに関する判断を誤って契約の締結に至り,それにより損害を被ったという場合に限定して,このような場合には,契約を締結したことは説明義務違反により生じた結果なのであって,この説明義務をもって契約に基づいて生じた義務であるということは一種の背理であるとして,契約責任を否定したものである。 本判決は,その射程は限定されており,契約締結上の過失といわれているもの一般についての責任の法的性質につき最高裁の判断が示されたものではないが,契約準備段階の説明義務違反の法的性質について,その一場面ながらも最高裁が初めて正面から判断を示したものとして,実務上も理論上も重要な意義を有する。金融法務事情1928号106頁,1953号75頁
2012.12.04
預金規定上の届出義務が履行される前に生じた損害について金融機関が責任を負わない旨の条項に基づく免責の主張が認められた事例東京高裁平成22年12月8日判決 「事案の概要」Y金融機関と預金取引を行っていたXが,家庭裁判所において保佐開始の審判を受けた後,Xの保佐人であるAの同意を得ずに預金の払い戻しを行ってこれを浪費したとして,Yに対してこれらの各払い戻しを取り消した上で,改めて同額の預金等の支払を求めた。本件口座に適用される預金規定には,補助,保佐,後見が開始された場合には成年後見人等の氏名その他必要事項を書面で届け出ること,及び届出前に生じた損害についてYは責任を負わないことが規定されている。 「判旨」家庭裁判所の審判により補助,保佐,後見が開始された場合には直ちに成年後見人等の氏名その他必要な事項を書面によって届け出るよう求め,この届出前に生じた損害について金融機関は責任を負わない旨の預金規定の条項は,被保佐人等の保護と取引の安全の調和を図るための合理的な定めとして有効であり,被保佐人はこの届出をしない間に行った預金の払い戻しを取り消すことができない。 金融法務事情1949号 115頁
2012.11.22
全613件 (613件中 1-50件目)