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2020年04月07日
中野剛志さんに「MMTって可笑しく無いですか?」と聞いてみた 第四回
中野剛志さんに 「MMTって可笑しく無いですか?」と聞いてみた 第四回
日本の経済成長率が 「世界最低」である、バカバカしい程シンプルな理由
〜中野剛志 評論家 2020.4.3 3:25〜
評論家 中野剛志氏
〜世界最低の経済成長率・・・・これが、日本が置かれて居る厳しい現実だ。中野剛志氏は、1990年代後半に、第二次世界大戦後、世界で初めて日本はデフレに陥り、20年もの長きに渡って克服する事が出来無かった事が原因だと指摘する。
そして、デフレ下にある日本に於いて「財政赤字は多過ぎるのでは無く、少な過ぎるのだ」と言う。驚くべき主張だが、何故、そう断言出来るのか? 中野氏に聞いた〜
日本の財政赤字は少な過ぎる!?
・・・前回迄(第1回・第2回・第3回) 「自国通貨を発行出来る政府の国債はデフォルトしないので、原理的には、幾らでも好きなだけ財政支出をする事が出来る」と云うMMT理論に付いて教えて頂きました。
それは「理論」と云うよりも「事実」と云うべきでしょうね。
・・・そうかも知れません。だけど、だったら税金等要らないでは無いですか? 無税国家で好いじゃないですか?
そんな事は出来ません。前にも説明した様に、人々がお札と云う単なる「紙切れ」に通貨としての価値を見出すのは、その「紙切れ」で税金が払えるからです。だとすれば、国家が徴税権力を放棄したら、貨幣の価値も無く為ります。無税国家にしたらお札は文字通りに「紙切れ」に為るでしょう。
・・・ア、そうでしたね・・・
そこ迄極端で無くとも、政府が財政赤字を拡大し捲くったら大きな問題が生じます。例えば、政府が盛んに国債を発行して公共投資を遣り、投資減税や消費減税を遣ったら、需要が拡大して供給力を超えるので、インフレに為ります。それにも関わらず、公共事業を遣りまくり、序に無税にしたら、恐らくインフレが止まら無く為り、遂にはハイパーインフレに為るでしょう。
インフレとは物価が上がる事ですが、裏返せば貨幣の価値が下がる事です。詰り、ハイパーインフレに為れば、お札は只の「紙切れ」に為ってしまいます。幾ら政府に通貨発行権が有っても、その通貨が無価値に為ってしまうのですから、ハイパーインフレは流石に困ります。
だから、私は、このインタビューの冒頭(第1回)でこう言ったんです。「自国通貨発行権を持つ政府は、レストランに入って幾らでもランチを注文する事が出来る。カネの心配は無用。但し、レストランの供給能力を超えて注文する事は出来ませんけどね」と。
・・・と云う事は、矢張り、幾らでも好きなだけ国債を発行して、財政赤字を拡大して好い訳では無いのですね?
ええ。自国通貨発行権を持つ政府は、原理的には幾らでも国債を発行する事は出来ますが、財政赤字を拡大し過ぎるとハイパーインフレに為ってしまいます。だから、財政赤字は何処迄拡大して好いかと言えば「インフレが行き過ぎない迄」と云う事に為ります。従って、財政赤字の制約を決めるのはインフレ率(物価上昇率)だと云う事に為ります。
・・・矢張り財政規律は必要だと聞いて、一寸ホッとしました。
そうですでよね(笑)処で、此処で不思議な事に気付きませんか?
・・・ナンでしょうか?
財務省も〔主流派経済学者もマスコミ〕も「日本の財政赤字が大き過ぎる」と騒いで居ますよね?しかし、財政赤字が大き過ぎる為らば、インフレが行き過ぎて居る筈です。処が、日本はインフレ処か、20年以上もデフレから抜け出せずに困って居るんです。可笑しいと思いませんか?
・・・たしかに・・・
詰り、日本がデフレだと云う事は、財政赤字は多過ぎるのではありません少な過ぎるんです。
・・・財政赤字が少な過ぎる・・・驚くべきお話ですが、理屈としてはそう為りますよね。
もっと言えば、インフレ率が財政赤字の制約だと云う事は、デフレで有る限りは、財政赤字は幾らでも拡大しても好いと云う事です。デフレの時には、財政赤字に制約は無いのです。
・・・理屈では判るのですが「今の日本では財政規律は不要である」と聞くと、飛んでも無い非常識”話に聞こえてしまいます。
戦後、世界で唯一デフレに陥った国「日本」
それは、デフレが異常な現象だからです。第二次世界大戦後、世界中の経済政策担当者が最も恐れたのがデフレであり、戦後、何とかしてそれを回避し続けて来ました。処が日本は1991年頃にバブルが崩壊し、1997年の消費増税と緊縮財政を主因に、1998年に、遂に第二次大戦後、世界で初めてデフレに突入しました。しかも、このデフレは図1が示す様に、20年を超える異例の長期に渉って続いて居ます。
ちなみに、1997年と2014年に一時的に物価が上がって居ますが、これは主に消費増税の一時的な影響によるもので、日本経済は、1998年以降、基本的にズッとデフレだったと言って好いでしょう。こんな長期のデフレは、この世界のなかで日本だけです。実に不名誉な実績と云う他有りません。
・・・戦後、長期のデフレに陥ったのは日本だけなんですね・・・
そうですよ。そして、その間の経済成長率・名目GDPの成長率を示したのが図2です。
ご覧の通り、日本は最下位。しかも、日本だけがマイナス成長率を記録して居るんです。可笑しいと思いませんか?
・・・酷い有様ですね・・・この様な状況下で、コロナショックに見舞われると思うと暗澹たる思いがします。
全くです。知識人の中には「日本は成熟社会だから、もう経済成長は望め無い」と言う人も居ますが、それも可笑しい。確かに、成熟した先進国には高度成長は望め無いでしょうが、日本以上に成熟して居る欧米先進国はチャンと経済成長して居ますからね。
更に、図3を見てください。1990年代半ば迄は、或程度成長して居たのに、1990年代半ば辺りを境に、日本だけが、突然、ポキッと折れたかの様に、成長が止まって居ます。しかも、日本だけが長期のデフレに陥っている。
詰り、平成の日本経済は、世界的に見ても明らかに異常だったんです。これ程極端な現象が日本だけで起きて居ると云う事は、社会の成熟、産業構造の変化、少子高齢化と云った要因では到底説明出来ません。ヨッポド間違った経済政策を長期に渉って続け無い限り、コンな愚かな状況は起こり得ないんです。世界中を探し回っても、こんな状況に陥って居る先進国は無いんですからね。日本政府の「政策知性」とでも云うべきものが、世界最低レベルであると云う事なんですよ。
・・・随分厳しい言い方ですね・・・
「デフレ=資本主義の死」を放置する日本
そりゃそうですよ。デフレが如何に恐ろしいものかを知れば、ソレを放置し続けるのが如何に罪深い事かが判る筈です。
・・・デフレってそんなに恐ろしいんですか?
ちゃんと説明した方が好さそうですね・・・デフレとは、一般的には、一定期間に渉って、物価が持続的に下落する現象の事を言います。その反対に、物価が持続的に上昇する現象はインフレと呼ばれます。
では、デフレは、どうして起きるのか? それは、経済全体の需要(消費と投資)が、供給に比べて少ない状態が続くからです。需要が無いのだからモノが売れ無い状態ですね。この様に「需要不足/供給過剰」がデフレ(物価の下落)を引き起こす訳です。
そして、デフレとは物価が下落して行く事ですから、裏返して言えば、おカネの価値が上がって行くと云う事です。デフレとは、持って居るおカネの価値が上がって行く現象なんです。詰り、デフレに為ると、人々がモノよりもおカネを欲しがる様に為る訳です。消費者であれば、モノを買うのを我慢して貯金するでしょうし、企業であれば、投資をして事業を拡大するよりも、内部留保として現預金を溜め込もうとするでしょう。
その結果、需要(消費と投資)は更に縮小して、デフレが更に悪化して行く事に為ります。しかも、そんな状況を放置すれば、企業も労働者も将来への不安を更に強めますから、余計におカネを使わずに貯め込む様に為る。こうして、悪循環が無限に続くんです。
・・・デフレ・スパイラルですね?
そうですね。それで、デフレの何が悪いのかと云うと、第一に、人々は消費をし無く為るのでマーケットが小さく為る事です。マーケットが小さく為るのですから、企業の売上は下がり赤字に陥り、最悪の場合には倒産します。労働者は、給料が下がったり、仕事そのものが無く為って行きます。その結果、現在の世代がドンドン貧困化して行く訳です。
・・・実際に、日本では相対的貧困率が上がって居ますね。
ええ。第二に、企業が投資をし無く為る事です。マーケットがズッと縮小して行く訳ですから、事業を拡大する為に投資をする筈がありません。それに、デフレで将来も貨幣価値が上がって行くので、後で借金を返済する時に実質的な返済額が膨らんで大変な事に為りますから、銀行から融資を受ける様な大型投資には極めて慎重に為ります。
これが深刻で、何故なら、投資とは将来に利益を得る為に行うものだからです。投資をするから将来世代が豊かに為る訳です。処が、デフレ下では投資が減りますから、それだけ将来世代が貧困化する事に為ります。詰り、デフレは、現役世代も将来世代も貧困化する恐ろしい現象なんです。
・・・怖いですね・・・処で、銀行融資を受ける様な大型投資が減ると云う事は、信用創造が減少すると云う事ですね?
そうです。先程も言った様に「信用創造」と云う銀行制度が生まれたからコソ、資本主義経済は発展して来たのです。信用創造は資本主義経済の根幹であり、経済成長の最大のエンジンなんです。処が、デフレ下に於いては、その信用創造が無く為って行きます。それは言わば「資本主義の死」です。
だから、私はデフレは異常事態だと言ったんです。世界中の経済政策担当者が「デフレだけはお起しては為ら無い」と考えて、最大限の警戒をして居るのも当然の事です。
・・・にも関わらず、日本はデフレを起こしてしまい、もう20年も脱却出来ずに居る・・・そして、デフレと云う異常な状態に有る為に「今の日本では財政規律は不要である」と云う非常識な結論に為ると云う訳ですね?
そう云う事です。
・・・では、どうすればデフレから脱却出来るんですか?
「民間主導」でデフレ脱却が出来無いのは当たり前
答え自体は簡単です。経済全体の需要を増やせば好いんです。デフレとは「需要不足/供給過剰」の状態ですから、人々が消費や投資を増やして需要を増やせば好い。そうすれば、デフレから脱却して景気は好く為って、経済成長が始まります。
しかし、それが口で言うほど簡単ではありません。何故なら、デフレ下では人々が消費や投資を控えて、貯蓄に励むのが「経済合理的」だからです。当たり前ですよね? 給料が下がって居るのに、じゃんじゃんモノを買って居たら、その人は、明らかに可笑しいでしょう。モノが売れ無いのに、設備投資を拡大する企業があればその企業も可笑しい。
景気が悪いときには、支出を切り詰め無ければ、個人や企業は生き残る事が出来ません。不景気で苦しい時に、節約して貯蓄に励むのは美徳ですらあるのです。しかし、その結果、益々需要が縮小して、デフレは悪化する。節約と云う、人々が苦しさを乗り切ろうとして取った合理的な行動が、経済全体で見ると需要の縮小を招き、人々を更に苦しめると云う不条理な結果を招いて居るのです。
この様に、一人ひとりに取っては「経済合理的」な行動でも、それが積み重為った結果、全体として好ましく無い事態がもたされてしまう事を 「合成の誤謬」 と言います。そして、デフレは 「合成の誤謬」 の典型です。だから、民間の力だけでは、デフレから脱却する事は絶対に出来ません。
・・・では、どうすれば好いんですか?
「大バカ者」が居れば好いんですよ(笑)
・・・は?「大バカ者」・・・ですか?
ええ。デフレ下では、節約するのが経済合理的ですから誰も消費・投資をしないので、需要と供給の差(デフレ・ギャップ)は絶対に埋まりません。だから、デフレなのに、飛んでもない金額のおカネを使う「大バカ者」が登場して、デフレ・ギャップを埋めて挙げなければいけ無い。その「大バカ者」を「政府」と云うんです。
・・・為る程。民間主導ではデフレから脱却出来ないのだから、政府主導で遣るしか無いと?
そうです。要するに、政府が財政出動で需要を生み出して、デフレ・ギャップを埋める以外に、デフレから脱却する方法は無いのです。先程私は 「デフレの時には、財政赤字に制約は無い」 と言いましたが、デフレの時に財政赤字に制約を設けると、デフレから脱却する事が出来無いと言うべきなんです。
此処にも、ビジネス・センスでマクロ経済を論じる危険性があります。デフレ下に於いては、民間のビジネスでは節約が美徳で有っても、その美徳を政府に求めたらデフレから脱却出来無く為るからです。寧ろ、政府は民間とは逆の行動を執ら無ければ為ら無い。デフレの時には支出を増やし、インフレの時には支出を減らす事で、経済を調整するのが政府の役割なんです。
・・・しかし、これ迄も日本政府は財政出動を増やした事が有ったけれども、景気対策としての効果は無かったと聞いた事があります。
「財政政策は景気対策として有効では無い」は本当か?
アア、その様な認識が日本には根強く有りますね。バブル崩壊後の1990年代に巨額の公共事業が景気対策として行われたけれど、不況から脱する事が出来無かったので、財政政策は有効では無いと云う訳です。だけど、それも事実誤認です。先ず、日本の公共投資が増加したのは、1990年代前半だけで、1990年代後半以降は減少に転じ、2000年代に入ると公共投資は更に減らされました。
そして、日本経済がデフレに突入したのは、マサに公共投資が減少し消費税が5%へと増税された直後の1998年からです。公共投資が減らされる前の1990年代前半は、少なくともデフレは回避出来て居たのです。しかも、公共投資が増加したとされる1990年代前半ですら、1990年度から1996年度に掛けて、一般政府(中央政府と地方政府)による投資額は、約13兆円増加しただけでした。中央政府による投資額に限れば、1兆5000億円程度しか増えて居ないんです。だから、1990年代の日本の経験は、公共投資が多過ぎたとか、意味が無かったと云う事を示すものではありません。寧ろ、その逆で、1990年代の公共投資は多過ぎたのでは無く少な過ぎたのです。
実際、国際通貨基金・IMFも、2014年10月の「世界経済見通し」に於いて、日本の1990年代前半の財政政策を検証して、当時の公共投資の規模は不十分で有ったものの、効果が無かったと云うのは間違いであると結論しています。
・・・緊縮財政を各国で実施して来た、あのIMFがですか?
そうです。アノIMFですら、日本の1990年代の財政出動は無駄では無く、寧ろもっと積極的に遣るべきだったと言って居るんです。そもそもバブルの崩壊とは、資産価値が行き成り半減した程の大きなショックだった訳です。その大ショックに対応して、デフレへの転落を防ぐ為には、中途半端な景気対策ではダメだったんです。モッと巨額の公共投資をモッと長く続けるべきでした。そうして居れば、デフレには為らず、日本経済はモッと成長して居たに違いありません。
・・・そうなんですね・・・でも、日本はグローバル化が進んだ為に、公共投資による景気効果は弱く為って居ると聞いた事があります。
アア、それは〔主流派経済学〕の大物であるローレンス・サマーズが 「MMTは閉鎖経済を前提として居て、開放経済では通用しない」 とMMT批判をする時のロジックと同じですね。〔主流派経済学〕は財政政策には意味が無いと教えて居ますが、それはこう云うロジックなんです。
・・・開放経済下では、財政赤字を拡大する事に依って確かに内需が増えるが、そうすると民間資金が枯渇して金利が上昇するから通貨高に為る。通貨が高く為ると外需が減るから、折角増やした内需を相殺する。だから、開放経済下では財政政策は無意味だ・・・ と云う訳です。「通貨高」と云うものを計算に入れて居るんですね。これが〔主流派経済学の標準的な考え方〕だから、サマーズは 「MMTは、キッと閉鎖経済を前提にして居るに違い無い」 と思い込んで、的外れな批判をして居るんです。
・・・的外れ?
全くの的外れ論外ですよ。前に説明した国債発行のオペレーションを思い出してください。国債を発行して民間資金を吸い上げて居るのでは無く、逆に、国債を発行して財政出動を行う事で、民間資金は増えるんです。そして、金利には全く影響が無い・・・これが事実でしたよね?
だから、主流派の経済学者が主張する様に「民間資金が枯渇して金利が上昇するから通貨高に為る」等と云う現象が起きる筈が無いんです。依って、この議論は「以上、終わり」と云う事です。念の為に付け加えて置くと、MMTは開放経済を前提にして居り、変動相場制の方が望ましいと論じて居ます。
・・・為る程・・・
主流派経済学の何が痛いかと云うと「貸出が預金を生む」と云う事実を知ら無い事なんです。集めた預金を貸し出して居ると思い込んで居るから、資金が逼迫すると勘違いして居る。信用創造と云う資本主義の基本中の基本を理解して居れば、こんな理解には為ら無いんです。
序に言って置くと「デフレ脱却の為」と云う触れ込みで〔主流派経済学者〕が主張して実行された、所謂 「リフレ政策」(インフレ目標と量的緩和) が殆ど効果が無いのも当たり前の事なんです。
・・・そうなんですか?
中野剛志氏
次回に続く・・・何れつぎにつづく
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